身近によく見かけるヘビイチゴ。「あの赤い実、食べられるのかな?」「もしかして毒がある?」そう思ったことはありませんか?この記事では、ヘビイチゴの基本的な情報から、気になる毒性の有無、実際の味、さらに開花・結実時期、名前の由来、類似植物との見分け方、意外な薬用としての利用、グランドカバーとしての活用法まで、ヘビイチゴのすべてを徹底的に解説します。この記事を読めば、ヘビイチゴに対する理解が深まり、その魅力を再発見できるでしょう。
ヘビイチゴの基本情報:特徴、分類、生態を詳しく解説
ヘビイチゴは、日本を含む東アジアに広く分布するバラ科の多年草です。主に森林のふち、公園、空き地、道端など、やや湿った場所に自生しています。丈は低く、地面を這うように生長していくため、群生している姿をよく見かけます。
ヘビイチゴとは?生育環境と概要
ヘビイチゴは、自然豊かな場所はもちろん、都市部の公園や住宅街のすぐそばなど、私たちの生活圏と非常に近い場所で生育しているため、なじみ深い植物と言えるでしょう。生命力が強く、特に湿気の多い環境を好むため、水辺や日陰に多く見られます。一度根付くと、ランナーと呼ばれる匍匐茎を伸ばして広がり、一面を覆うように群生することがあります。
葉と茎の特徴:かわいらしい葉と匍匐茎の戦略
ヘビイチゴの葉は、明るい緑色で、3枚の小さな葉が集まった3出複葉が特徴です。それぞれの小葉の縁にはギザギザとした鋸歯があり、食用イチゴの葉を小さくしたようなかわいらしい見た目をしています。
茎は短く、通常は葉が根元から直接生える形をしていますが、最も特徴的なのは、地面を這うように伸びる匍匐茎(ランナー)です。このランナーが地面に触れると、そこから新しい根を出し、さらに新しい葉や株が生長することで繁殖していきます。この効率的な繁殖方法によって、ヘビイチゴは広い範囲に群生し、地面を覆い尽くすほどの広がりを見せることがあります。
分類上の位置づけ:キジムシロ属への再編
かつてヘビイチゴは、独立したヘビイチゴ属(Duchesnea)に分類され、学名もDuchesnea chrysanthaとして広く知られていました。しかし、植物分類学は常に進歩しており、近年の遺伝子解析技術の発展に伴い、分類の見直しが進められています。2003年に発表された研究結果、特にDNA分析に基づく遺伝的証拠から、ヘビイチゴ属はキジムシロ属(Potentilla)に統合されるべきだという結論に至りました。
この変更により、ヘビイチゴの現在の学名はPotentilla hebiichigo Yonek. et となっています。これは、ヘビイチゴがキジムシロ属の植物と遺伝的に極めて近い関係にあることが判明したことによるもので、現代の植物分類学の知見を反映した結果と言えるでしょう。
ヘビイチゴの一生:開花と結実のサイクル
ヘビイチゴは、春から初夏にかけて愛らしい花を咲かせ、その後に目を引く鮮やかな赤い実をつけます。このサイクルは、身近な自然の中で繰り返される、小さな命のドラマです。
鮮やかな黄色の花:開花時期と特徴
ヘビイチゴの開花時期は、一般的に4月から6月にかけての春から初夏です。桜の花が散り始める頃、地面を覆う緑の葉の間から、明るい黄色の小さな花が顔をのぞかせます。この花は5枚の花びらで構成され、直径は約1cmから1.5cmと控えめな大きさです。花びらがすべて上向きに咲くのが特徴で、その鮮やかな黄色は、新緑の季節に彩りを添えます。葉の陰に隠れるように咲く姿は、見つけた人を優しく癒してくれるでしょう。萼片と副萼片もそれぞれ5枚ずつ持ち、花をしっかりと支えています。
赤い実の秘密:結実時期と構造
花が終わると、すぐに実の形成が始まります。花びらが散った後、いったん閉じた萼片が再び開き、その内側の花床と呼ばれる部分が徐々に膨らみ始めます。この花床が成熟することで、鮮やかな赤い果実として現れます。実の時期も花と同様に4月から6月であり、短い期間で花から実へと姿を変える様子を観察できます。
種子(痩果)の位置と果肉の様子
ヘビイチゴの果実は、直径がおおよそ1cmから1.5cmの丸みを帯びた形をしています。表面には小さな粒状の突起が多数存在しますが、これこそがヘビイチゴの種子(厳密には「痩果(そうか)」と呼ばれる種類の果実)です。一般的に食べられているオランダイチゴと同様に、ヘビイチゴも果実の内側ではなく、外側に種子がついている点が大きな特徴と言えます。
果肉は薄いピンク色をしており、内部は白色で、触った感触はふっくらとしています。鮮やかに赤く熟した果実は、見た目にはみずみずしく、まるで宝石のように目を引きますが、実際には水分が非常に少ないのが特徴です。
集合果(偽果)としての特徴
植物学的に見ると、ヘビイチゴの「実」として私たちが認識している部分は、厳密には「果実」そのものではありません。この部分は、多数の小さな果実(痩果)が集まってできた「集合果(しゅうごうか)」の一種であり、特に花托が膨らんで果実のように見えるため、「偽果(ぎか)」とも呼ばれます。本当の果実は、表面に点在する小さな種子(痩果)それぞれに相当します。この独特な構造が、ヘビイチゴの美しい外観を作り出していると言えるでしょう。
「ヘビイチゴ」の名前の意味と通説
ヘビイチゴという名前を聞くと、多くの人がその由来や、名前に含まれる「ヘビ」という言葉から様々な想像をするでしょう。しかし、その名前の背景には、意外な真相と広く信じられている通説が存在します。
名前「ヘビイチゴ」の由来に関する様々な説
ヘビイチゴの名前の由来には、いくつかの説が存在し、どれもがその植物の生育環境や人間との関わりを示唆しています。
- ヘビがいそうな場所に生えているから: この説は最もよく知られています。ヘビイチゴは、森林の端、草むら、道端など、ヘビが隠れやすい日陰や湿った場所に自生することが多いため、ヘビが出没するような場所に生えるイチゴ、という意味で名付けられたと言われています。
- ヘビが食べるから: 人間が食用にしないイチゴなので、代わりにヘビが食べるもの、という考え方から生まれた説です。しかし、実際にヘビがヘビイチゴを食べるという科学的な根拠や観察記録はありません。
- 人間が食べるイチゴではないから: 上記の説と関連して、人間が食用としない(または適さない)イチゴであるため、見下した意味や区別するために「ヘビイチゴ」と名付けられたという説もあります。
これらの説はどれも憶測の域を出ませんが、共通しているのは、ヘビイチゴが人間の食用には適さない、あるいはヘビを連想させるような場所に生える植物である、という認識があることです。しかし、実際にはどの説においても、ヘビが好んでヘビイチゴを食べるという事実は確認されていません。
「ドクイチゴ」という誤解の背景と真実
ヘビイチゴは、鮮やかな赤色やその名前に含まれる「ヘビ」のイメージから、「ドクイチゴ」という別名で呼ばれることがあります。この通称が広まった結果、「ヘビイチゴには毒がある」という誤解が、古くから多くの人々に浸透してきました。特に幼少期に「ヘビイチゴは毒だから触らない、食べないように」と教えられた経験を持つ方も少なくないはずです。
しかしながら、この「ドクイチゴ」という通称と、それに伴う毒性への認識は、全く根拠のない俗説であり、科学的な裏付けはありません。ヘビイチゴには人体に有害な毒性成分は一切含まれていません。むしろ、後述するように薬草として利用されるケースも存在します。この誤解は、おそらく外見と名前から連想されたイメージによって生まれたものと考えられます。したがって、ヘビイチゴを見かけても、毒があることを心配する必要は全くありません。
【重要な疑問】ヘビイチゴは本当に食用に適さない?毒性の有無
「ヘビイチゴは食べられるのか?」「本当に毒はないのか?」これは、ヘビイチゴを目にした多くの人が抱く最も大きな疑問点でしょう。鮮やかな赤い果実の魅力的な外観から、思わず口にしてみたくなるかもしれませんが、実際のところはどうなのでしょうか。
食用の可能性:食べられるけれど美味しくない理由
結論から申し上げますと、ヘビイチゴの果実は「食べられない」わけではありません。人が口にしても、健康を害するような有毒な成分は含まれていませんので、食べること自体は可能です。ただし、「人が積極的に食べるものではない」というのが実情です。その一番の理由は、端的に言って「美味しくない」からです。
一般的に食べられているイチゴのような甘みや酸味、豊かな香りといった要素が、ヘビイチゴにはほとんどありません。そのため、生のまま食べても満足感や喜びを感じることは難しく、多くの人が「もう一度食べたいとは思わない」と感じるでしょう。食用としての魅力に欠けるため、自然界に豊富に自生していても、人が食用として栽培したり採取したりすることはありません。
ヘビイチゴの味に関する具体的な評価
ヘビイチゴを実際に食べたことがある人の感想は、おおむね共通しています。その味は「水分が少なく、スカスカとしたスポンジのような食感」であり、「甘みも酸味も香りもほとんどなく、ぼやけた薄い味」だと表現されます。みずみずしい見た目とは裏腹に、口に入れると水分不足を感じることが多く、パサパサとした舌触りも、食用としての評価を下げています。
子供の頃に好奇心から口にした経験のある多くの人が、期待はずれの味にがっかりした記憶を持っていることでしょう。イチゴという名前がついていますが、食用イチゴとは全く異なる味と食感であるため、食用としての価値はほとんどないと結論付けられます。
毒性の有無:無毒であるという明確な根拠
長い間「ドクイチゴ」という通称で誤解されてきたヘビイチゴですが、科学的な見地からは、毒性は認められていません。人体に悪影響を及ぼすような有害な成分は含まれていないため、誤って口にしても健康上の心配はいりません。
それどころか、ヘビイチゴは伝統的な民間療法や生薬として活用されてきた歴史があります。特に中国においては、ヘビイチゴの全草や果実が「蛇莓(ジャバイ)」という生薬として用いられ、薬用酒の原料としても利用されています。この事実は、ヘビイチゴが無毒であるだけでなく、薬効が期待できる成分を含んでいることの裏付けとなります。「ヘビイチゴには毒がある」という考え方は、根拠のない迷信であると言えるでしょう。
似ている植物との識別:間違えやすい種類とその特徴
ヘビイチゴは比較的身近な植物ですが、自然界には外見が非常によく似た植物がいくつか存在します。特に、同じバラ科の植物であるヤブヘビイチゴやオヘビイチゴ、さらには食用可能なシロバナノヘビイチゴなどとの区別は、植物を識別する上で重要なポイントとなります。それぞれの植物の特徴を把握することで、正確な識別が可能になります。
ヤブヘビイチゴとの違い:実の光沢で容易に区別可能
ヤブヘビイチゴ(学名:Potentilla indica、旧学名:Duchesnea indica)は、ヘビイチゴと最も混同されやすい植物の一つです。その名前が示すように、藪や日当たりの悪い場所に多く自生しています。花や葉の形状はヘビイチゴとよく似ており、一見しただけでは区別が難しいかもしれません。
しかし、両者を区別する最も確実で簡単な方法は、**果実の表面の光沢の有無**です。ヤブヘビイチゴの果実(花托)は、成熟すると強い光沢を帯びてつややかな質感になるのに対し、ヘビイチゴの果実は光沢がなく、ややマットな質感です。この光沢の差は肉眼でも容易に識別できるため、両者が混在している場所でも迷うことなく識別できます。また、ヤブヘビイチゴの花はヘビイチゴよりもやや大きめである傾向があります。
オヘビイチゴとの違い:葉の数と実の色
オヘビイチゴ(学名:Potentilla centigrana)もまた、ヘビイチゴに類似した多年草ですが、いくつか明確な相違点があります。オヘビイチゴは、ヘビイチゴよりも湿潤な環境を好む傾向があり、水辺や湿った草地でよく見られます。
見分ける際のポイントは、**葉の数と果実の色**です。ヘビイチゴの葉が3枚の小葉から構成される3出複葉であるのに対し、オヘビイチゴの葉は一般的に5枚の小葉からなる掌状複葉です。この葉の構成の違いは比較的容易に識別できます。さらに、オヘビイチゴの果実は、ヘビイチゴのような鮮やかな赤色ではなく、熟しても赤みが薄く、茶色がかった色をしているため、果実の色によっても見分けることができます。
シロバナノヘビイチゴ:純白の花と食用の可能性
シロバナノヘビイチゴ(学術名:Potentilla egedii var. groenlandica)は、名前が示すように、際立った特徴として**清楚な白い花を咲かせ**、ヘビイチゴ属の中でも特別な存在感を放ちます。一般的なヘビイチゴが鮮やかな黄色の花を咲かせるのに対し、この明確な色彩の差異により、容易に区別できます。
また、シロバナノヘビイチゴの果実は、わずかに光沢を帯び、小ぶりで愛らしいイチゴのような外観をしています。さらに重要なことに、シロバナノヘビイチゴは、他のヘビイチゴとは異なり、**ほのかな甘みがあり食用に適している**という特性があります。野イチゴの一種として、美味しく味わえる種類も存在するため、もし可憐な白い花を咲かせているイチゴのような果実を見つけたら、それはシロバナノヘビイチゴである可能性が高いと考えられます。ただし、正確に識別する自信がない場合は、安易に野生の果実を口にすることは避けるべきです。
ヘビイチゴの多面的な魅力:薬効と観賞価値
ヘビイチゴは「食用には向かない」という先入観があるかもしれませんが、実際にはその活用方法は非常に多岐にわたります。古くから薬草としての利用の歴史がある一方で、近年ではその丈夫さと可愛らしい姿から、庭を美しく飾るグランドカバーや鉢植えとしても注目を集めています。ここでは、ヘビイチゴの知られざる活用法について詳しく見ていきましょう。
生薬「蛇莓(ジャバイ)」としての有用性
ヘビイチゴは、決して有毒ではなく、むしろ昔から薬用植物として大切にされてきました。特に中国では、ヘビイチゴの全草(根、茎、葉、花、果実のすべて)または果実を乾燥させたものが、「蛇莓(ジャバイ)」という名称の生薬として利用されています。この生薬は、解熱作用、炎症抑制作用、止血作用などがあるとされ、様々な漢方薬に配合されてきました。
薬酒・外用薬の作り方と期待できる効果
自宅でも、ヘビイチゴの薬効を活かした外用薬を製造することが可能です。鮮やかな赤色に熟したヘビイチゴの果実を丁寧に採取し、清潔な容器に入れます。次に、アルコール度数の高い焼酎(例えばホワイトリカーなど)を注ぎ、約1ヶ月程度、日の当たらない涼しい場所で保管します。その後、布製の袋などを用いて果実を軽く潰しながら、液体のみを丁寧に濾し取ります。これがヘビイチゴの薬酒、または外用薬の原液となります。
この自家製外用薬は、民間療法として、痛み、かゆみ、虫刺され、腫れ物、軽度の火傷、湿疹、化膿性皮膚炎など、様々な皮膚トラブルに対して塗布されてきました。ヘビイチゴに含まれる有効成分が、これらの症状の緩和に寄与すると考えられています。ただし、これはあくまでも民間療法であり、重篤な症状やアレルギー体質の方は、必ず専門医の診断を受けるようにしてください。
グランドカバーとしての魅力と栽培のポイント
ヘビイチゴの際立った特徴である、地面を這うように広がる生育スタイルは、ガーデニングにおいてグランドカバーとして非常に重宝されています。お庭の地表を緑で覆い、メンテナンスの手間を軽減したい方にとって、ヘビイチゴは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。
丈夫さと美しい景観:庭の有効活用アイデア
ヘビイチゴがグランドカバーとして優れている点は、その**驚くほどの強健さ**にあります。日陰のような、他の植物が育ちにくい場所でも力強く成長し、少々踏まれたくらいではへこたれないほどの強い生命力を持っています。そのため、お庭の普段使わないスペースや、アプローチの脇など、手が回りにくい場所でも、自然で美しい緑の絨毯を手軽に作り出すことができます。
春から秋にかけては、鮮やかな緑色の可愛らしい3枚の小葉が地面を生き生きと覆います。さらに、その間から顔を出す愛らしい黄色の花、そして時期が来ればルビーのように真っ赤な果実が点在する様子は、見る人の心を癒し、お庭に豊かな表情をもたらします。冬になると地上部分は枯れて越冬しますが、比較的温暖な地域や環境が適していれば、冬の間もわずかに葉が残ることがあります。
鉢植えでの楽しみ方:手軽な育成方法と成長の魅力
ヘビイチゴは庭に地植えしてグランドカバーとして利用するだけでなく、鉢植えでも気軽に楽しむことができる植物です。特別な栽培スキルは必要なく、ガーデニング初心者でも容易に育てられます。
育成方法はとても簡単です。市販の園芸用土を使って鉢に植え付けるだけで十分です。日々の管理としては、土の表面が乾いたことを確認してから水を与えるようにしましょう。水の与えすぎは根腐れの原因となるため注意が必要です。このように手間がかからないにもかかわらず、ヘビイチゴは毎年きちんと花を咲かせ、可愛らしい実をつけてくれます。
ヘビイチゴは横方向にランナーを伸ばして成長する性質があります。鉢植えで育てると、このランナーが鉢のふちから溢れるように垂れ下がり、地植えとは違った、より風情のある愛らしい姿を見せてくれます。ベランダや玄関先に置いて、その小さな生命力を日々観察するのも素敵な体験となるでしょう。
ジャムやジュース加工の現実:味への期待
ヘビイチゴの鮮やかな赤い実を見ると、ジャムやジュースに加工できないかと思う人もいるかもしれません。理論上は、ジャムは果物に糖分を加えて煮詰めた保存食であり、ジュースは果物を絞って作る飲み物なので、ヘビイチゴでもそれらを作ることは不可能ではありません。
しかし、先に述べたようにヘビイチゴの実は甘味も酸味も香りもほとんどありません。そのため、ジャムにしたとしても、一般的な果物ジャムのような風味豊かなものは期待できません。大量の砂糖やレモン汁などを加えればそれなりにはなるかもしれませんが、ヘビイチゴ本来の風味を味わうというよりは、加工技術によって味を補うことになるでしょう。
ジュースについても同様です。実際に子供の頃に試した経験談によると、果実を潰して砂糖水を加えても、ヘビイチゴの味がほとんどせず「ただの砂糖水」という結果になったそうです。また、果肉が白いため、水に溶かしてもほとんど色が出ず、鮮やかな赤い色水になることも期待できません。これらのことから、ヘビイチゴは食用としての利用価値は低いと言えるでしょう。
ヘビイチゴの分類学的考察と種間交雑
ヘビイチゴは、その特徴的な外観や用途に加え、植物分類学の視点からも興味深い性質を備えています。特に、近年行われた遺伝子研究に基づく分類の変遷や、よく似たヤブヘビイチゴとの間で発生する雑種については、より深い理解が求められます。
キジムシロ属への分類変更の経緯
植物の分類は、従来、主に形態的な特徴に基づいて行われてきましたが、21世紀に入り、DNAシーケンシング技術などの進歩により、遺伝子レベルでの分析が主流となりました。ヘビイチゴもまた、この新たな知見によって分類が見直された植物の一例です。
かつては独立した属である「ヘビイチゴ属(Duchesnea)」に分類されていたヘビイチゴですが、2003年に発表された遺伝的データが、その分類に疑問を呈しました。この研究の結果、ヘビイチゴ属の植物が、同じバラ科に属する「キジムシロ属(Potentilla)」の植物と遺伝的に極めて近縁であり、キジムシロ属に包含されるべきであるという意見が有力となりました。
その結果、ヘビイチゴの学名はDuchesnea chrysanthaからPotentilla hebiichigo Yonek. et へと変更され、現在ではキジムシロ属の一種として扱われています。この分類の変更は、植物の進化的な関係をより正確に反映しようとする分類学の取り組みを示す好例と言えるでしょう。
アイノコヘビイチゴ:ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの自然交雑種
ヘビイチゴの分類学的な興味深さは、近縁種との種間交雑にも認められます。ヘビイチゴと、外見が非常によく似ているヤブヘビイチゴ(Potentilla indica)の間では、自然環境下において種間雑種が生成されることがあります。この雑種は「アイノコヘビイチゴ(Potentilla × harakurosawae(Naruh. & M. Sugim.)H. Ohashi)」という名称で知られています。
アイノコヘビイチゴは、親種であるヘビイチゴとヤブヘビイチゴの中間的な性質を示すことが特徴です。例えば、果実の光沢が両親種の中間程度であったり、葉の形状や鋸歯の入り方がわずかに異なっていたりすることが観察されています。自然界における種間交雑は、種の多様性や進化の過程を理解する上で非常に重要な現象です。
まとめ
ヘビイチゴは、私たちの身近な場所で見かける可愛らしいバラ科の多年草です。鮮やかな赤い実をつけることから、「食べられるのか、それとも毒があるのか」と疑問に思う人もいるでしょう。結論としては、ヘビイチゴ自体に毒はなく、口にしても問題ありません。ただし、水分が少なく、味も甘味、酸味、香りともに薄いため、食用には適していません。
名前の由来はいくつか説がありますが、「ドクイチゴ」という通称は誤った情報によるもので、実際には毒性はありません。むしろ、中国では「蛇莓(ジャバイ)」という生薬として使われており、外用薬として痛み、かゆみ、火傷などに利用されてきました。また、地面を這うように広がる性質と丈夫さから、グランドカバーや鉢植えとしても利用され、小さな黄色の花と鮮やかな赤い実は、庭やベランダのアクセントになります。
ヤブヘビイチゴやオヘビイチゴといった似た植物も存在しますが、実の光沢、葉の数、花の色などで区別することができます。特にシロバナノヘビイチゴは白い花を咲かせ、食用にできる種類もあるため、識別は大切です。分類学上はキジムシロ属に分類されたこともあり、染色体数の異なるヤブヘビイチゴとの間に不稔性の雑種ができるなど、科学的にも興味深い特徴を持つ植物です。
ヘビイチゴは、単なる雑草として捉えるのではなく、その生態、利用方法、植物学的な特徴を知ることで、より深く自然を理解するきっかけになるでしょう。もし次にヘビイチゴを見つけたら、この記事で学んだ知識を思い出してみてください。
ヘビイチゴは本当に毒があるのでしょうか?
いいえ、ヘビイチゴに毒はありません。「ドクイチゴ」という呼び名も存在しますが、それは誤解から生まれた通称であり、人体に害を及ぼすような成分は含まれていません。誤って口に入れても、健康上の心配はないので安心してください。
ヘビイチゴの実は食べられますか?どんな味がするのですか?
ヘビイチゴの実は食べること自体は可能ですが、美味しいとは言えません。毒性はありませんが、水分が少なく、食感はスカスカしており、甘味、酸味、香りもほとんど感じられず、味がぼやけています。積極的に食べるほどの味ではないでしょう。
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴ、どうやって見分けたら良いですか?
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴを見分ける簡単なポイントは、実の表面の光沢です。ヤブヘビイチゴの実は熟すと光沢が出てツヤツヤしていますが、ヘビイチゴの実は光沢がありません。また、オヘビイチゴは葉が5枚で実が茶色っぽく、シロバナノヘビイチゴは白い花を咲かせるのが特徴です。
ヘビイチゴの花や果実は、いつ頃に見るチャンスがありますか?
ヘビイチゴの花と実が楽しめるのは、春から初夏にかけての時期、具体的には4月~6月頃が目安です。かわいらしい黄色の花が咲いた後、間もなく鮮やかな赤い実が現れます。
ヘビイチゴは薬草としても利用できると聞きましたが、どんな効能が期待できますか?
その通りです。ヘビイチゴは、中国では「蛇莓(ジャバイ)」という名前の生薬として使われています。植物全体や果実を乾燥させて用い、伝統的な民間療法では、痛み、かゆみ、虫刺され、腫れ、軽度のやけど、湿疹、化膿性皮膚炎などの症状に対し、外用薬として塗布することがあります。
庭に自生しているヘビイチゴは、取り除いた方が良いのでしょうか?
ヘビイチゴに毒性はありません。むしろ、グランドカバーとして活用できる植物です。日陰にも強く、丈夫で育てやすいのが特徴で、春から秋にかけて緑の葉、愛らしい花と実で庭を飾ります。雑草対策にもなるため、空いている場所に生えてきた場合は、無理に抜かずに育ててみるのも良いかもしれません。
ヘビイチゴを使ってジャムやジュースを作ることは可能ですか?
作ること自体は可能ですが、あまりおすすめできません。ヘビイチゴの実は、甘み、酸味、香りが少ないため、ジャムにしても風味が物足りなく、ジュースにしても、ほとんど砂糖水の味になってしまうことが多いからです。













