ジャガイモ品種図鑑:個性豊かな特徴と由来を徹底解説
食卓でおなじみのジャガイモ。実は、世界中で数多くの品種が存在し、それぞれが個性的な特徴を持っていることをご存知でしょうか?この記事では、定番品種から珍しい品種まで、ジャガイモの魅力を徹底解説します。色、形、味、食感の違いはもちろん、それぞれの品種が持つストーリーや最適な調理法まで深掘り。あなたの知らないジャガイモの世界へ、ご案内します。

ジャガイモの基本:定義、特徴、栄養価、注意点

ジャガイモ(学名:Solanum tuberosum、英語名:potato)は、ナス科ナス属に分類される植物です。原産地は南米アンデス山地であり、その地域では古くから塊茎に豊富に蓄えられたデンプンが食料として利用されてきました。その後、野生種は北アメリカにも分布を広げ、食用とされるようになり、アンデスで生まれた栽培種は世界中に広がり、米、小麦、トウモロコシと並ぶ世界的な主要食糧の一つとして広く消費されています。調理法は多岐にわたり、揚げる、蒸す、茹でる、煮るなどの他、フライドポテトやポテトチップスなどの加工食品にも利用され、デンプンの原料としての需要もあります。保存性に優れた作物であると同時に、飢饉対策にもなり得る重要な食料であり、ビタミンCやカリウムなど、様々な栄養素を豊富に含んでいるのが特徴です。ただし、ジャガイモから発芽した芽や、日光に当たって緑色に変色した皮の部分には、有毒物質であるソラニンが含まれているため、摂取には注意が必要です。日本においては、江戸時代に本草学者の貝原益軒によって著された『大和本草』(1709年)の中で、植物の一つとして紹介されています。

ジャガイモの多様な名称と語源

ジャガイモの名称は、行政機関、地域、時代によって異なっています。日本においては、17世紀初頭にインドネシアのジャガトラ(現在のジャカルタの旧称)から船によって伝えられ、「ジャガタライモ」と呼ばれていたものが変化して「ジャガイモ」になったと言われています。ジャガイモ(爪哇芋)の語源はジャワ・ガタラ/ジャガタラという地名に由来します。また、ジャガイモの植物名である「馬鈴薯」(ばれいしょ)という名称もよく用いられ、日本の行政では馬鈴薯と呼ぶことが一般的です。中国語ではマーリンシュー(mǎlíngshǔ)と発音します。日本での「馬鈴薯」という名称は、18世紀に本草学者の小野蘭山が『耋筵小牘』(1807年)の中で命名したとされています。一説には、ジャガイモの形状が馬につける鈴(馬鈴)に似ていることが、名前の由来であるとも言われています。なお、中国では他に「土豆」(トゥードウ)、「洋芋」「陽芋」(ヤンユー)、「薯仔」(シューザイ)などの呼び名もあります。
英語名のポテト (potato) は、カリブ海のタイノ族の言語でタピオカを意味するbatataが、スペイン語のpatataに変化したことに由来します。ジャガイモの原産地で古くから使用されている言語の一つであるケチュア語ではpapaという名称があり、この名称は中南米のスペイン語でもそのまま使われています。スペイン語でbatataがpatataに変化したのは、このpapaの影響であると考えられています。また、Papaが「教皇」を意味する単語と同じであったため、この名称を避けてPatataに変遷したという説もあります。日本国内においては、明治時代以降、稲作に適さない山間部や寒冷地での栽培が普及したため、北海道や東北地方など、多くの地域で独自の呼び名が存在します。

ジャガイモの歴史:起源から世界への広がり

ジャガイモは南米アンデス山脈から北はメキシコにかけての標高3,000~4,000m級の高地が原産であり、紀元前8000年頃にはすでに利用されていた痕跡が発見されており、紀元前3000年頃には栽培が開始されたと推測されています。アンデス高原にはインカ文明へと繋がるいくつかの文明が存在していましたが、それらの文明の食生活を支えたのが、同じく南米原産のトウモロコシとジャガイモでした。特にアンデス中南部、チチカカ湖周辺がジャガイモの利用史の発祥地とされ、そこから多様な品種が生まれ、世界へと広がっていきました。当時のジャガイモは野生種に近く、アク抜きをして粉末状にしたり、乾燥させたものを水で戻して食用としていたようです。最も初期に栽培化されたジャガイモは、24本の染色体を持つSolanum stenotomumという種であり、その後、四倍体であるSolanum tuberosumが栽培化され、現在世界中で広く栽培されるようになりました。インカ帝国にジャガイモが伝わったのは15世紀から16世紀頃とされており、当初はインカの主要な食料はトウモロコシであると考えられていましたが、1615年にスペインの征服者が残した記録や、インカの段々畑の史跡研究、気象地理条件、食生活の分析など、様々な角度からの検証の結果、主要な食料がジャガイモであったことが示され、その見直しが進められています。アンデス山脈の現地住民による長年の育種と品種改良が繰り返され、現在のような大型の芋をつける品種が開発され、世界中の地域で広く栽培されるようになりました。
ジャガイモがヨーロッパに伝わった時期や人物については、明確な記録は残っていませんが、16世紀半ば頃にスペインのコンキスタドールたちがジャガイモを本国に持ち帰ったと考えられており、新大陸からの「土産」として船乗りや兵士たちによって伝えられたものと推測されています。16世紀末にスペイン人がインカ遠征の際にヨーロッパに持ち帰ったジャガイモは、当初は食料としてではなく、観賞用の花としてフランスの宮殿で栽培されていたという話は有名です。16世紀に南米からヨーロッパにもたらされた当初のジャガイモは、現在のような大きさではなく、見た目が悪かったため、なかなか受け入れられませんでした。また、ジャガイモは聖書に記載されておらず、種芋で増えることから「悪魔の作物」として嫌われることもありました。しかし、1600年頃になるとスペインからヨーロッパ諸国に伝播しましたが、その伝播経路については諸説あり、詳細は明らかになっていません。16世紀末から17世紀にかけては、主に植物学者による菜園での栽培が中心であり、ヨーロッパの一般家庭に食料としてジャガイモが普及するには、さらに時間を要しました。その後、冷涼な気候でも生育しやすく、「土の中に実る」ことからヨーロッパ全土に広がり、オランダなどの海外進出とともに世界各国に伝播しました。そして18世紀後半には、麦類、イネ、大豆などと並ぶ主要な作物となりました。
ジャガイモが本格的に普及した背景には、三十年戦争などによる荒廃や飢饉の頻発がありました。ヨーロッパで栽培されていた従来の主要な作物よりも、寒冷な気候に強く、痩せた土地でも育ち、作付面積あたりの収量も多いジャガイモの作付けが、国王の命令によって強制・奨励されたことが大きな要因となりました。麦などの作物は踏み荒らされると収穫量が大幅に減少するのに対し、地中に実るジャガイモは踏み荒らしの影響を受けにくいという利点があり、農民に受け入れられました。また、領主たちは農民がジャガイモを食べることで、自分たちの麦の取り分を増やそうと考えました。特に冷涼な気候で農業に不向きとされていたアイルランドや北ドイツでは、ジャガイモが食文化を変えるほど普及しました。プロイセン王国(ドイツ)でのジャガイモの普及による国力の増強を知ったフランスでも、当時の王妃マリー・アントワネットがジャガイモの花を帽子に飾って夜会に出席したという逸話が残っています。食用作物として本格的に栽培が始まったのは17世紀のドイツであり、さらにジャガイモは1621年にスペイン人の手によってアイルランドに渡り、イギリスの兵士たちの食料源として重要な役割を果たしました。保存性が高く、当時の船乗りたちの長期航海の食料としても重宝されました。
アイルランドでは、16世紀にスペインから持ち込まれたジャガイモが、冷涼な気候に適していたこともあり、南米以外で初めて農作物として本格的に栽培される地域となりました。元々、アイルランドの農家は主に麦を栽培していましたが、イギリスの植民地支配下では、麦が地代としてイギリスに収奪されるため、地代として奪われることのない生産性の高いジャガイモを自分たちの小さな庭地で栽培するようになりました。この普及は、栽培の容易さや収量だけでなく、支配者であるイングランド貴族が奨励したことも要因の一つでした。イングランド貴族は、ジャガイモの栽培を増やして農民がそれを食べるように仕向ければ、自分たちが収奪する麦の量を増やすことができると考えていたのです。これにより、ジャガイモは貧しい農民にとって唯一の食料としてアイルランド人の主食となり、1650年頃から1840年頃まで非常に重要な食料源となりました。1840年代直前には、アイルランドの人口の3割がジャガイモに食料を依存する状態になっていました。「アイリッシュ・ランパー」(Irish Lumper)と呼ばれるアイルランドのジャガイモ種は寒冷地でも良く育ち、アイルランドの人口増加を支えましたが、1845年から1849年の4年間にわたってヨーロッパでジャガイモ疫病が蔓延し、アイルランドのジャガイモ畑は壊滅的な被害を受けました。ジャガイモを主食としていた被支配層のアイルランド人の間では、この大飢饉によって100万人以上とも言われる多数の餓死者が出ました。また、イギリス、北アメリカ、オーストラリアへ、合計200万人以上が移住したと言われています。北アメリカに渡ったアイルランド系移民は、アメリカ社会で大きなグループを形成し、経済界や特に政治の世界で大きな影響力を持つようになりました。この時代のアメリカ合衆国への移民の中には、後に第35代大統領となるジョン・F・ケネディの曽祖父パトリックも含まれていました(ケネディはパトリックの次男の孫にあたります)。アイルランドでのジャガイモ飢饉という悲劇はありましたが、ジャガイモは寒冷地にも強く、年に複数回の栽培が可能で、地中に作られるため、戦争の影響を受けにくいという特性により、庶民の食料として爆発的に普及し、瞬く間に米、小麦、トウモロコシに並ぶ「世界四大作物」としての地位を確立しました。アダム・スミスは『国富論』においてジャガイモを「米の三倍の生産量がある」と評価しています。
日本へのジャガイモの伝来には諸説ありますが、1598年に豊臣秀吉によって持ち込まれたという説が有力です。また、約400年前の慶長年間(1600年前後)にインドネシアのジャカルタを拠点としていたオランダ人が長崎に持ち込んだとも言われています。フィリピンのマニラを経由して長崎に伝来したため、当初は「ジャガタライモ」と呼ばれていましたが、それが短縮されて「ジャガイモ」という名前になったとされています。日本では、飢饉の際の救荒作物として広まりましたが、サツマイモが温暖な地域に広まったのとは対照的に、ジャガイモは寒冷な地域に普及していきました。江戸時代後期の18世紀末には、ロシア人の影響で東北地方や北海道に移入され、飢饉対策として栽培が奨励されました。北海道での栽培は1706年に砂川市で松兵衛という人物が開墾して馬鈴薯を栽培したという記録があり、仙台藩はジャガイモの栽培を奨励しています。また、江戸時代後期には、甲斐の代官であった中井清太夫がジャガイモ栽培を奨励したとされ、寛政13年(1801年)には本草学者の岩崎常正が甲斐国黒平村(現在の山梨県甲府市)においてジャガイモの栽培を記録しています(『甲駿豆相採薬記』)。また、江戸時代後期には、北海道のアイヌ民族もジャガイモを栽培していました。
ジャガイモが本格的に導入されたのは明治維新後であり、北海道の開拓に利用され、外国品種の導入や新品種の育成なども始まり、生産性も向上して全国的に栽培されるようになりました。アメリカ合衆国で農業技術を学び、後に「いも」と呼ばれた札幌農学校の初代教頭であるウィリアム・スミス・クラーク博士によって普及しました。この時期に最も早く海外から導入されたのが男爵薯です。特に、函館ドックの専務理事であった川田龍吉という人物がアメリカ生まれの品種をイギリスから導入したのがアイリッシュ・コブラーという品種であり、彼が爵位を持っていたために「男爵いも」と呼ばれるようになりました。この品種は食味と貯蔵性に優れ、栽培しやすいことから全国的に広がり、今日に至るまでメークインと並んで日本の主要品種の一つとなっています。明治時代の当初はデンプンの原料としての需要が主でしたが、食生活の洋風化の普及とともに、徐々にカレーや肉じゃがなど、日本の家庭料理にも取り入れられるようになりました。しかし、1968年時点で北海道副知事が「半分以上はでんぷんのみとって、残りは飼料」と語るなど、当初は食用としての消費拡大は緩やかであったことが伺えます。
このように、ジャガイモが飢餓から救った人々の数は計り知れないと言われています。その歴史的、文化的価値が再認識され、2005年にはジャガイモの原産地の一つであるペルーが国連食糧農業機関(FAO)に提案した「国際ジャガイモ年」(IYP; International Year of Potato)が認められ、2008年をジャガイモ栽培8000年を記念する「国際イモ年」としてFAOなどがジャガイモの一層の普及と啓発を各国に働きかけることになりました。

植物としてのジャガイモ:形態と生態

ジャガイモは、ナス科ナス属の多年生草本植物ですが、栽培上は一年生作物として扱われます。直立する茎は50cmから1m程度の高さにまで成長し、葉は互い違いに生えます。葉の付け根からは地下茎が長く伸び、先端に多数の塊茎をつけます。花は星形で、黄色い雄しべと5枚の花弁を持ち、色は品種によって白から紫まで様々です。花の構造は同じナス科のトマトやナスの花とよく似ています。受粉能力は低いですが、品種や栽培条件によっては受粉してトマトに似た小型の果実をつけます。果実は熟すにつれて緑色から黄色、さらに赤色へと変化しますが、自然に落下しやすく、完熟するものは稀です。果実の中には種子(真正種子と呼ばれる)があり、これを発芽させて成長させることも可能です。ジャガイモの育種および基礎研究はこの種子を利用して行われますが、種芋から育つものとは異なり、成長しても全体的に小柄です。親株と同様の大きさ程度にまで育てるには3年(3世代)程度かかるため、短日性植物としては交配に時間がかかる植物と言えます。また、ジャガイモの品種改良には、種子を採取して播種する方法もありますが、種子1粒ごとに遺伝的な性質が異なり、品質を揃えることが難しいため、一般的には芋を植えて性質が同じ品種を増やす方法がとられます。晩春に花が咲き始める頃、土の中では新しい芋ができ始めます。芋は根のように土中の水分や養分を吸収する機能はなく、地下にある茎が肥大したもので、塊茎とも呼ばれ、日中に葉で光合成された養分が、夜になって地下の茎に蓄えられてできたものです。塊茎は、地中に埋められた種芋の上から伸びた茎の第6 - 8節から発生した匍匐(ほふく)分枝した茎(ストロン)の先端が、次第に肥大して芋になります。昼夜の気温差が大きいほど、養分の移行がスムーズになり、芋のデンプン量が多くなります。塊茎の肥大には、昼温約20℃、夜温10 - 14℃が適温であり、20℃を超えると塊茎は形成されにくくなる性質があります。

毒性

ジャガイモは、ソラニンやα-チャコニンといったポテトグリコアルカロイド(PGA)と総称される有毒なアルカロイドを含有しています。これらの物質はジャガイモ全体に分布していますが、その含有量は品種やサイズによって異なり、特に日光にさらされて緑色になった皮の部分や発芽した芽、そして果実に多く含まれます。葉や茎は毒性が強いため食用には適しません。果実も、塊茎と比較してPGA含有量が高いため、食用には推奨されません。例外として、通常の塊茎にはPGAはほとんど含まれていませんが、ジャガイモの原種や特定の品種では塊茎にもPGAが含まれることがあり、これらは食用には適しません。食用にする際は、芽や緑色の皮を完全に取り除き、特に長期間保存されたジャガイモは、皮を厚く剥いて調理することが推奨されます。PGAは加熱による分解が少ないため、調理方法によっては毒性が残存する可能性があります。PGAを過剰に摂取した場合、腹痛、下痢、吐き気、めまい、頭痛などの消化器系や神経系の症状が現れることがあります。毒性は比較的低いものの、子供は感受性が高く、少量でも症状が出やすいため注意が必要です。未熟なジャガイモや自家栽培で発育不良の小芋はPGA含有量が高く、中毒例が多く報告されています。過去には、芽を大量に摂取したことによる死亡例も存在します。中毒を防ぐためには、ジャガイモを日光の当たらない冷暗所で保存し、芽や緑色の部分を完全に取り除くことが重要です。PGAは水溶性であるため、皮を剥いて茹でたり水にさらすことで、ある程度除去できますが、フライドポテトによる中毒例があるように、完全に除去できない場合もあるため、調理前の適切な処理が不可欠です。

栽培

ジャガイモは比較的容易に栽培できる野菜であり、春に種芋を植えて夏に収穫する春作と、夏に植えて秋に収穫する秋作があります。春作は3月から7月にかけて行われ、栽培しやすいとされています。プランターでも栽培可能で、家庭菜園でも人気があります。生育期間は約3〜4ヶ月と他の芋類に比べて短く、収量も多いことから、デンプン質作物として生産効率が高く、食料安全保障の面でも重要な作物です。ジャガイモは高冷地が原産で乾燥した気候を好み、栽培適温は15〜22℃と比較的低温です。連作を避けるため、ナス科の野菜を3〜4年栽培していない畑を選び、堆肥と元肥を施して耕してから植え付けます。土壌酸度はpH7.0の中性が理想的ですが、pH5.5程度の酸性土壌でも比較的よく育ちます。

地域による栽培特性と適応性

日本は南北に長く、山岳地帯が多いため、気候条件は緯度や標高によって大きく異なります。ジャガイモは冷涼な気候を好み、生育適温は15〜21℃であるため、高緯度の北海道や東北、標高の高い本州中部では年1回の春作が、低緯度の西南暖地では年2回の春作と秋作が行われています。西南暖地では休眠期間の短い品種が栽培され、年1回の栽培地域では春の雪解け後に植え付けられるため、100日以上の休眠期間を持つ品種が多く見られます。世界的に見ても、ジャガイモは比較的低温の高緯度地域で主に生産されていますが、生育期間が短く、地域への適応性が高いため、亜熱帯地域にも広く分布しています。アジアやアフリカの熱帯地域でも、標高の高い地域では比較的涼しい気候を利用して、ジャガイモの栽培が増加傾向にあります。

種芋の準備と植え付け

一般的な栽培では、ジャガイモは種芋を植え付けて育てます。種芋には、ウイルスに感染していない専用のものが使用されます。種芋を増やすために、適度な温度と光を当てて発芽させ、芽を中心に適切な大きさ(半分〜数個程度)に切り分けます。切断面の腐敗を防ぐため、数日間乾燥させるか、草木灰などを塗布し、切断面を下にして地面に置いて土を被せて植え付けます。秋作では種芋が腐敗しやすいため、小さく切らずに一片だけ切り取って刺激を与えた状態、または丸ごと植え付ける方法が採用されます。切り口を下向きにするのは、雨水が地表から地中に浸透する際に、切り口を下向きにした方が腐敗を防げるためです。植え付ける畑には堆肥と元肥を入れて耕し、高畝を作り、株間が30cm程度になるように植え付けます。

芽かき・土寄せから収穫まで

種芋を植え付けた後、一本の種芋から複数の芽が出てきます。より良質なジャガイモを収穫するためには、太い芽を2本(秋植えの場合は1本)程度残して、不要な芽を間引く芽かき作業が重要です。芽の数を3本以上に増やすと、収穫量は増えると言われますが、個々のジャガイモが小さくなる傾向があります。ジャガイモとして成長する地下茎は、種芋よりも上の地表に近い場所に形成されます。そのため、新しいジャガイモが日光にさらされて緑化するのを防ぎ、また、土を高く盛ることでイモの生育スペースを確保し、収量を向上させるために、株元に土を盛り上げる土寄せ(培土とも呼ばれます)を行います。土寄せは、芽が5 - 10 cm程度伸びた時と、30 cm程度に成長した時の2回行い、最終的に畝の高さが30 cmほどのカマボコ型になるようにします。開花時期が近づくと、ジャガイモは養分を活発に吸収し始めるため、追肥を行います。種芋の植え付けから約4か月後、葉が黄色くなり、新しいジャガイモが十分に大きくなっていれば収穫時期です。株の周りを掘り起こし、株全体を引き抜いて収穫します。収穫したジャガイモは半日ほど天日干しにし、傷のあるものを取り除いてから、風通しの良い冷暗所で保存します。葉がまだ緑色の状態で収穫したジャガイモ(新じゃがいも)は、長期保存には適さないため、早めに食べる必要があります。一方で、地上部の茎葉が黄色く枯れるまで土中に置いておいたジャガイモは、長期保存が可能です。大規模な農地では、機械を使って収穫が行われ、土ごとジャガイモを掘り起こし、選別機で大きさごとに選別します。収穫後、ジャガイモの水分蒸散を防ぎ、病原菌の侵入を抑制するための表面処理を施し、低温貯蔵庫で一時的に保管してから出荷されます。

病虫害

ジャガイモは、比較的冷涼な気候や痩せた土地でも育ちやすいですが、病害虫の被害を受けやすく、連作障害も起こりやすい作物です。そのため、ジャガイモ、トマト、ナス、ピーマンなど、ナス科の野菜との連作を避け、できるだけ離れた場所で栽培するように注意が必要です。ジャガイモの地下茎は水分と栄養分が豊富であるため、病原菌が繁殖しやすく、保存状態の悪い種芋や、収穫されずに土中に残ったジャガイモは病気の原因となることがあります。日本では、種苗法に基づき、ウイルスフリーなどの品質が保証された種芋の売買が規制されています。
疫病は、生育後半に発生しやすく、急速に広がり、ジャガイモの肥大や貯蔵性に悪影響を及ぼします。トマトにも発生する病気で、特に葉に湿った黒褐色の斑点が出る疫病は大きな脅威となります。発見した場合は、速やかに殺菌剤を散布して防除することが重要です。ジャガイモの代表的な病気として、そうか病があります。そうか病は、土壌のpHが高いほど活発になる性質があるため、注意が必要です。モザイク病が発生した場合は、速やかに株を抜き取ることを推奨します。
害虫としては、アブラムシ、ヨトウムシ、コナガ、テントウムシダマシ(ニジュウヤホシテントウやヘリグロテントウノミハムシなど)が発生しやすいです。特にテントウムシダマシは葉を激しく食害し、収量に大きな影響を与えることがあります。これらの害虫は、成虫で落ち葉の下などで越冬し、春になるとナス科、特にジャガイモに集まって害を与え、葉の裏に卵を産み付けます。孵化した幼虫も大きな被害をもたらすため、早めに駆除することが大切です。食害の痕跡を見つけたら、10日おきを目安に数回殺虫剤を散布して防除します。
日本は、国外からの病害虫の侵入を防ぐため、生食用ジャガイモの輸入を禁止していますが、アメリカ合衆国は2020年3月31日に輸入解禁を要請しました。

連作障害

ジャガイモをナス科野菜と同じ畑で栽培すると、そうか病や疫病、青枯病などの連作障害が発生しやすくなります。連作を行うと土壌のバランスが崩れ、生育が悪くなるだけでなく、特定の病害や寄生虫が発生しやすくなります。ジャガイモに限らず、多くのナス科植物が同様の性質を持っており、例えばジャガイモの後にナスを植えた場合も連作障害が起こる可能性があります。
特にジャガイモに大きな被害を与える原因として、ジャガイモシストセンチュウによる生育阻害があります。このセンチュウは地中で増殖し、高密度になるとジャガイモの生育を著しく妨げます。例えば、乾いた土1グラム中に100個の卵が存在する状態(高密度)では、収穫量が60%程度減少すると報告されています。センチュウは、宿主となる植物(ジャガイモなど)がない状態でも、卵の状態(シスト)で10年以上も生存し続けることがあり、シストの状態は薬剤にも強いため、根絶が難しいという特徴があります。このため、卵を含む可能性のある土を移動させない、付着の恐れのある農具や運搬具を洗浄するなどの拡散防止策が講じられています。
また、長期の休閑や非宿主作物の作付けなども対策として行われていますが、センチュウ密度の低減効果は低く、最も効果的な密度低減対策は、抵抗性品種を作付けすることとされています。ただし、このセンチュウはジャガイモには被害を与えますが、トウモロコシには無害であるという特徴もあります。このセンチュウは、種苗に付着した土や動物の糞から伝染します。そのため日本では、アイルランド経由以外の、検疫を受けていない塊茎類の直接持ち込みは禁止されています。ジャガイモは農林水産省の指定種苗であり、種芋の販売は規制され、検査が義務付けられています。
ジャガイモの原産地であるアンデス中央高地では、古くから連作障害が認識されており、長期の休閑と輪作が行われてきました。ジャガイモの後に別の作物を植えるだけでなく、3〜4サイクルで一つの区画を利用した後、長期の休閑をとるという伝統的な農法が実践されています。休閑の期間は、人口密度や畑の規模によって異なります。
日本国内においては、明治時代(1872年)に行われた地租改正により、共有地が崩壊し耕作地が私有地化され、個人が所有する土地区画が狭くなったため、長期の休閑が行えなくなり、シストセンチュウが再び問題となっています。
アンデスのいくつかの地域では、マシュア(イサーニョとも呼ばれ、学名:Tropaeolum tuberosum)と呼ばれるキンレンカ属の塊茎類を間作することで、シストセンチュウの発生を抑制する対策が行われています。マシュアは、その根からシストセンチュウを避けるための分泌物を出すことが科学的に確認されています。また、インカ時代には、このマシュアが男性の性欲を抑制する働きがあることが知られており、長期間にわたる兵士の出征や労働賦役に際して、性衝動をコントロールする目的で利用されていたことが、スペインの記録文書に残されています。

生産

国連食糧農業機関(FAO)の統計資料(FAOSTAT)によると、2014年の全世界におけるジャガイモの生産量は3億8168万トンであり、主食となるイモ類の中で最大の生産量を誇ります。生産地域は、大陸別ではアジアとヨーロッパがそれぞれ4割を占めており、北アフリカを除く地域では、中緯度から高緯度北部に分布しています。上位5カ国で全生産量の57%を占めています。日本の生産量は245万トン(世界シェア0.64%)です。
ジャガイモは長期保存に適していないため、生産量に比べて貿易量は多くありません。貿易の多くは、ヨーロッパ域内など地理的に近い地域間で行われています。

利用法

ジャガイモのイモは、そのクセのなさから、主食としても副食としても幅広く利用されます。主成分がデンプンであるため、米、小麦、トウモロコシと同様に、国によっては主食とされています。また、ビタミンCも豊富で、酒造の原料としても用いられます。旬は一般的に秋から冬(10月~2月)で、新ジャガイモは初夏(5月~6月)に出回ります。良質なジャガイモは、表面の凹凸が少なく滑らかで、芽がなく、緑色に変色していないものが良いとされています。芽や茎、葉、花、緑色のイモには、ソラニンという有害な成分が含まれているため、食用は避けるべきです。ジャガイモは、生食、加工、原料の3つの形態で利用され、通常は廃棄される皮の利用も研究が進められています。

栄養価

ジャガイモには、デンプン、タンパク質に加え、ビタミンC、カリウムなどのミネラル類、食物繊維が豊富に含まれています。デンプン質が多い割には低カロリーで、エネルギー量は炊いたご飯の約半分です。約80%が水分で、残りのほとんどが炭水化物であり、その9割がデンプン質です。少量ですがブドウ糖や果糖も含まれており、独特の風味を形成しています。
特にビタミンCが豊富で、フランスでは「大地のリンゴ」と呼ばれています。ビタミンCは熱に弱い性質を持ちますが、ジャガイモの場合はデンプン質に守られているため、加熱調理による損失が少ないのが特徴です。また、長期保存によるビタミンCの減少も少ないとされています。ジャガイモは動物性脂肪を減らす効果があり、コレステロール値の上昇を抑制する効果も期待できます。
可食部100グラムあたり1.3グラムの食物繊維が含まれており、便秘の解消や予防に役立ちます。
様々な栄養素を含むジャガイモですが、フライドポテトやポテトチップスとしての消費は、必ずしも健康的とは言えません。煮る、蒸す、焼くなど、素材本来の味を活かした調理法であれば、健康的な食品として楽しむことができます。

料理

ジャガイモは、世界中で様々な料理に用いられています。形状、加熱方法、水分量によって食感が変化し、様々な調味料や油脂、香辛料との相性が良いのが特徴です。
日本では、肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダといった家庭料理のほか、カレー、シチュー、おでん、筑前煮、味噌汁など、様々な料理の具材として用いられます。フライドポテトも人気があります。
欧米では、マッシュポテト、ベイクドポテト、ポテトチップス、フライドポテト、ジャーマンポテト、グラタンなど、ジャガイモを主体とした料理が多く、そのまま蒸かして主食とする食べ方もあります。ポトフも代表的なジャガイモ料理の一つです。
中国では、細切りにしたジャガイモの炒め物が一般的です。また、日本以外では、ウォッカ(ロシア、ポーランドなど)や焼酎(韓国)の原料としても用いられます。

酒造

ジャガイモは、その豊富なでんぷん質を活かし、ウォッカ、焼酎、アクアビット、ピンカ、そして韓国の焼酎であるチュプカなど、様々な蒸留酒の原料として用いられています。
近年、日本国内でも、特に北海道において、特産のジャガイモを使用したジャガイモ焼酎(焼酎乙類)の製造が盛んに行われるようになりました。また、長崎県にも、特産品としてジャガイモ焼酎を手掛ける酒蔵が存在します。1979年4月には、北海道の清里町焼酎醸造事業所が、日本初のジャガイモ焼酎「清里焼酎」を製造・販売開始しました。これを機に、北海道の多くの焼酎メーカーがジャガイモ焼酎の製造に参入しています。ジャガイモ焼酎は、サツマイモを原料とする焼酎と比較して、クセが少なく飲みやすい点が特徴です。

薬用

薬用としてジャガイモを使用する際には、主に塊茎(イモ)が利用され、「洋芋(ようう)」と呼ばれることもあります。使用する際は、必ず皮を丁寧に剥き、芽を完全に取り除いてから用いる必要があります。比較的、体質を選ばない生薬としても知られています。ジャガイモには、体内のナトリウムを排出する作用があるカリウムが豊富に含まれており、高血圧の予防に役立つと考えられています。
打ち身による腫れ、熱感、痛み、捻挫、筋肉痛などの症状に対しては、生のジャガイモをすりおろし、小麦粉と酢を混ぜてガーゼなどに塗り、患部に冷湿布として使用することで、痛みを和らげ、早期の回復を促す効果が期待できます。痛風の症状緩和には、日々の食事にジャガイモを取り入れるとともに、上記の冷湿布を併用するとより効果的であるとされています。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対しては、ジャガイモをすりおろし、土鍋で水分を飛ばして黒く焦がしたものを、1日に1回2グラム程度服用する方法が古くから伝えられています。

主要品種

ジャガイモの品種改良は、耐病性や収量といった栽培特性、加工への適性、流通・保存のしやすさ、そして食味など、多岐にわたる観点から継続的に行われています。例えば、カルビー株式会社は、ポテトチップスに最適な品種、栽培方法、貯蔵技術を研究するために馬鈴薯研究所を設立し、「ぽろしり」や「ゆきふたば」といった独自の品種を開発しています。
ジャガイモは、品種によって皮の色、肉の色、粉質か粘質かといった性質に差異があり、花の色も白色から紫色まで様々です。粉質の品種は、加熱するとホクホクとした食感が特徴で、コロッケや粉ふきいもに適しています。一方、粘質の品種は、肉質が緻密で煮崩れしにくい性質を持ち、煮込み料理やサラダに最適です。日本では、「男爵薯」と「メークイン」が二大品種として広く栽培されており、作付面積の半分以上を占めています。その他、「農林1号」、「デジマ」、「ワセシロ」など、合計99品種が品種登録されています。近年では、公的機関や民間企業だけでなく、農家による突然変異を利用した新品種の育成も行われています。ジャガイモの原産地であるアンデス地域では、皮や肉質に色素を持つ多様な品種が古くから栽培されてきましたが、日本国内においても、近年、皮色や肉色に特徴的な色素を持つ品種が生産されるようになっています。なお、以下の説明における「生食用」という表記は、家庭や飲食店での調理を前提としたものであり、非加熱の状態でそのまま食べることを意味するものではありません。

ジャガイモの適切な保存方法

ジャガイモは低温環境に弱いという特性があります。具体的には、4℃以下の環境に置かれると、ジャガイモに含まれるデンプンが糖分へと変化し、結果として風味や食感が損なわれる可能性があります。したがって、冷蔵庫での保存は避け、紙で包むか、あるいは紙袋に入れるなどして、直射日光を避け、風通しの良い場所で保管することが推奨されます。

品種による貯蔵性の違い

ジャガイモは、その品種によって貯蔵できる期間に差があります。そのため、食品加工業者は、使用する時期に合わせて複数の品種を使い分けることがあります。たとえば、「スノーデン」という品種は長期保存に適しており、ポテトチップスの原料として4月から6月頃に使用されることがあります。

調理後の保存と冷凍

茹でたジャガイモは、冷蔵庫で保管すれば4〜5日程度は保存可能です。しかし、茹でたジャガイモをそのまま冷凍すると、解凍した際に水分が分離し、食感が損なわれるため、冷凍保存は推奨されません。一方で、マッシュポテトや水分量の少ないフライドポテトなどは、冷凍しても食感の変化が少ないため、問題なく保存することができます。

貯蔵における発芽抑制策

収穫されたジャガイモは、2~3ヶ月の休眠期間を経て初めて発芽能力を持ち始めます。適切な温度と湿度条件下では、この休眠期間中は発芽しません。しかし、休眠期間を過ぎると、塊茎は自然な繁殖活動として発芽を開始します。発芽が進むと、生食用としての市場価値は低下し、加工用やデンプン原料用としては、重量の減少や品質劣化を引き起こします。そのため、貯蔵中の発芽を抑制するために、様々な対策が講じられています。

低温保管

一般的に、3~10℃の低温環境で保管することで発芽を抑制します。最適な保管温度は品種によって異なりますが、低温で保存すると、ジャガイモに含まれる可溶性糖の量が増加する傾向が見られます。

ガス管理貯蔵 (CA貯蔵)

ガス管理貯蔵(CA貯蔵)とは、貯蔵庫内の気体組成、湿度、温度を精密に管理し、鮮度を維持する技術です。リンゴなどの長期保存によく用いられる手法で、ジャガイモにおいても実用化されており、8~10ヶ月間の長期保存を可能にします。

発芽抑制剤の利用

アメリカなどの国々では、収穫後のジャガイモにクロルプロファム(CIPC)を散布し、発芽を抑える方法が採用されています。日本では、この薬剤は農薬として登録されていますが、ジャガイモの発芽防止を目的とした使用は許可されていません。しかし、アメリカやその他の主要なジャガイモ生産国では、フライドポテトやポテトチップスなどの加工用ジャガイモに散布される一般的な農薬であるため、これらの国から輸入されるジャガイモ加工品から検出される可能性があります。

放射線照射による発芽抑制

ジャガイモの発芽を抑制する手段として、放射線照射という技術も存在します。これは、収穫後のジャガイモに、ごくわずかな放射線を照射することで、長期保存しても芽が出ないようにするものです。コバルト60などから放出されるガンマ線を利用し、芽の組織における細胞分裂を抑制することで発芽を防ぎます。
ジャガイモへの放射線照射は、1972年に当時の農林水産大臣によって認可されました。しかし、日本国内では1974年1月以降、日本原子力研究開発機構のみが実施しています。放射線を照射されたジャガイモが放射能を帯びることはなく、また、それを食べた人に悪影響を与えることもありません。日本において、放射線による殺菌・殺虫、そして発芽抑制が認められている食品は、今のところジャガイモのみです。
ジャガイモの発芽防止を目的とした放射線照射の認知度は、わずか28%と低いのが現状です。安全性や必要性など、食品への放射線照射に関する基本的な情報が十分に提供されていないことが課題として指摘されています。

エチレンガス噴入の有効性と注意点

以前は、ジャガイモを暗く涼しい場所にリンゴと一緒に保存すると発芽しにくいと言われていましたが、この方法には異論も多く、効果がないという報告も少なくありませんでした。しかし、近年、欧米の研究によって、リンゴなどから発生するエチレンガスがジャガイモの芽の成長を抑制する効果があることが科学的に証明されました。その結果、工業的に生産されたエチレンを用いて、濃度を適切に管理することで発芽を抑制する技術が確立されました。ただし、リンゴとの共存によってエチレンガスの濃度をコントロールすることは非常に難しく、エチレンガスの濃度や保存期間が不十分な場合、逆に芽の成長を促進してしまう可能性も指摘されています。ジャガイモは通常、5℃以下の冷暗所で保存すると芽が伸びるのを防ぐことができます。そのような場所で保存することが最も重要です。ただし、一度高温にさらされて芽が伸び始めたジャガイモは、長期間の保存には適さないため、最初から芽が出ていないものを選ぶことがポイントです。リンゴと一緒に保存する方法は、濃度や時間、温度のコントロールが難しく、失敗するリスクが高いため、専門家の間では推奨されていません。

まとめ

ジャガイモは南米アンデス山脈の高地が原産であり、その多様な名称と歴史を通じて、世界中の食文化と社会に深い影響を与えてきた作物です。当初は見た目の悪さや栽培方法から「悪魔の作物」として避けられることもありましたが、寒冷な気候や痩せた土地にも適応し、高い収穫量をもたらす特性が飢饉対策として評価され、ヨーロッパ、そしてアジアへと普及しました。アイルランドにおける大飢饉とその後の移民の歴史、各国での独自の調理法や保存技術の発展は、ジャガイモが単なる食材以上の役割を果たしてきたことを示しています。豊富な栄養価と多様な利用方法を持つ一方で、ソラニンといった有毒物質への注意や、連作障害といった栽培上の課題も存在します。しかし、品種改良や適切な保存技術の進歩により、ジャガイモは今後も私たちの食生活に欠かせない存在として、その多面的な魅力を発揮し続けるでしょう。

ジャガイモの芽や緑色の部分を食べてしまったらどうなりますか?

ジャガイモの芽や、日光に当たって緑色になった皮の部分には、ソラニンやα-チャコニンといったポテトグリコアルカロイド(PGA)という有毒な物質が含まれています。これらの物質を摂取すると、腹痛、下痢、吐き気、めまい、頭痛などの消化器系や神経系の症状が現れることがあります。特に子供の場合、毒性に対する感受性が高く、成人の10分の1程度の量でも症状が出ることがあるため、注意が必要です。摂取量が多い場合には、重篤な健康被害につながる可能性もあるため、これらの部分は必ず完全に取り除いてから調理するようにしてください。

ジャガイモを長持ちさせる秘訣:最適な保存方法

ジャガイモは、冷蔵庫のような低温環境に置くと、でんぷんが糖分に変化し、風味や品質が低下する可能性があります。そのため、冷蔵保存は避けることが賢明です。理想的な保存方法は、ジャガイモを紙袋に入れるか、新聞紙で丁寧に包み、直射日光を避け、風通しの良い涼しい場所で保管することです。リンゴと一緒に保存すると発芽を抑制するという説もありますが、エチレンガスの濃度管理が難しく、逆に発芽を促す可能性も否定できません。家庭環境では、リンゴとの保存は控えた方が良いでしょう。

なぜジャガイモは世界中で愛されるようになったのか?

ジャガイモが世界中に広まった背景には、その優れた栽培特性があります。特に注目すべきは、寒冷な気候や栄養の乏しい土地でも生育できる適応力の高さ、限られた面積でも多くの収穫を得られる生産性の高さ、そして地中で育つため、戦乱などで地上の畑が荒らされても収穫が見込めるという点です。これらの特性が、17世紀のヨーロッパで頻発した飢饉の際に、食糧不足を解消する救世主として認識され、国の奨励や農民への普及が進みました。さらに、長期保存が可能な点も、船乗りたちの長期航海における重要な食料源として重宝された理由の一つです。

食卓を彩る!日本で人気のジャガイモ品種

日本で広く栽培されているジャガイモの代表的な品種は、「男爵薯(だんしゃくいも)」と「メークイン」です。この二つの品種が、国内のジャガイモ作付面積の過半数を占めています。男爵薯は、加熱するとホクホクとした食感が際立ち、コロッケや粉ふきいもに最適です。一方、メークインは、きめ細かい肉質で粘り気があり、煮崩れしにくい特性を持つため、煮込み料理やサラダに頻繁に利用されます。その他にも、農林1号、デジマ、ワセシロなど、さまざまな用途や地域に適した品種が栽培されています。
じゃがいも