甘酸っぱい香りとジューシーな果肉で、私たちを魅了するパイナップル。食後のデザートやトロピカルジュースとして、その人気は世界中で揺るぎません。しかし、私たちが普段何気なく口にしているこの果物が、一体どこから来たのかご存知でしょうか?実は、パイナップルの原産地は意外と知られていないのです。今回は、パイナップルの知られざるルーツを辿り、その起源と歴史を紐解いていきましょう。驚きと発見に満ちたパイナップルの旅へ、ご案内します。
パイナップルとは?概要と名称の由来
パイナップル(英語名: Pineapple、学名: Ananas comosus)は、熱帯アメリカが原産の多年生植物、またはその大きく育った果実を指します。「パイン」と省略されることもあります。漢字では菠蘿(はら、ポーロ)や鳳梨(ほうり、オンライ、フォンリー)と書き、特に台湾では鳳梨、中国では菠蘿が一般的です。植物としてはアナナスと呼ばれ、果実のみをパイナップルと区別する場合もあります。学名の「Ananas」は、見た目が亀の甲羅に似ていることに由来します。「パイナップル」(pineapple) という名前は、元々「松 (pine) の果実 (apple)」である松ぼっくりを指していました。18世紀頃に、松ぼっくりに似たこの果実に使われるようになり、現在に至ります。世界の生産量は増加傾向にあり、コスタリカ、フィリピン、ブラジルなどが主な産地です。
パイナップルの形態と植物学的特徴
パイナップルの葉は根元から密生し、剣のような形をしていて硬いのが特徴です。品種によっては、葉の縁にトゲがあるものとないものがあります。増殖には、葉の付け根から出る吸芽が使われます。苗を植えてから1年~1年半ほどで、株の中心から花を咲かせる穂が出てきます。この花穂から、長さ60cmから1mにもなる花軸が伸び、その先端に円筒形の花序が形成され、約150個もの花が密集して咲きます。らせん状に並ぶ個々の花は、外花被と内花被がそれぞれ3枚ずつあり、これは単子葉植物の特徴です。花びらは肉厚で、白をベースに先端が薄紫色をしています。開花後、受粉の有無に関わらず半年ほどで実がなります。
実がなると、子房由来の果実と花の基部、花序の軸が融合し、全体が肥大化してパイナップルと呼ばれる集合果になります。表面にらせん状に並んでいる固い部分が本来の果実で、皮のように剥くと、果肉との間にゴマ粒くらいの茶色い種が見られることがあります。花序の先端は、開花後も成長を続け、葉をつけた冠芽となります。冠芽を挿し木しても繁殖できますが、吸芽に比べて開花までの時間がかかるため、栽培ではあまり使われません。近年、一部の農産物業者では、環境に配慮して葉を現地でカットした「エコパイン」を導入しています。これは収穫時に切り取った冠芽をパイン苗として再利用し、栽培に役立てる取り組みです。食用部分は、複数の小さな果実が集まってできた集合果です。パイナップルの受粉はハチが行いますが、コウモリなどの動物も関わることがあります。また、乾燥地帯に適応したCAM植物であり、夜間に二酸化炭素を取り込んで有機酸として蓄える特殊な光合成を行います。
パイナップルの栽培方法と生育環境
パイナップルは多年生植物で、一度収穫した後も根から芽を出し、成長して再び実をつけます。しかし、収穫を繰り返すたびに実が小さくなるため、通常は3年以上同じ株を使うことはありません。食用とする部分は、花序の軸の周りに並んだ小果実の付け根が、軸と一体化して肥大化したものです。本当の果実は、表面に螺旋状に並んだ硬い部分から果肉の表層までを指します。市販品を生産する農園では、遺伝的に同じクローンである同一品種のみを栽培するため、自家受粉が起こりにくく、果実の中に種ができることは稀です。しかし、他の農地の花粉がハチなどによって運ばれて受精することもあり、その場合は皮を剥いた部分と果肉の間に、茶色いゴマ粒のような小さな種が見られることがあります。これらの種を土に蒔けば発芽しますが、開花して実をつけるまでには長い年月がかかります。
パイナップルの環境適応力
CAM光合成を行う植物と同様に、パイナップルは土壌を選びません。熱帯のやせた酸性土壌や乾燥した環境でも育ち、雨水を葉の付け根に集めて吸収できます。そのため、葉面散布肥料が効果的です。病気に関する記述はありませんが、栽培においては病害対策も重要です。
パイナップルの歴史:世界への伝播と産業の発展
パイナップルの故郷は、南米大陸のパラグアイとブラジルにまたがるパラナ川・パラグアイ川の流域地帯です。この地域で、原住民たちが食用作物として栽培を始めました。15世紀の終わりにヨーロッパ人が新大陸に到達した頃には、すでにパイナップルは新世界の様々な場所に広がり、栽培されていました。
世界への広がり
1493年11月4日、クリストファー・コロンブスが率いる2回目の探検隊が、西インド諸島のグアドループ島でパイナップルを発見しました。この発見以来、パイナップルは驚くほどの速さで他の大陸へと伝播していきました。1513年には早くもアジアに到達し中国へともたらされ、その後、新しく開拓されたインド航路を通じて、すぐにマレー半島へと広がりました。当時、海外での布教活動に尽力していたポルトガルの修道士たちは、この珍しい果物を当時のインドの皇帝に献上したと伝えられています。その後、1558年にはアフリカへ、1599年にはスペインへと伝わり、広く普及しました。1605年にはイギリスに伝わり、オランダを経由して、1650年頃にはヨーロッパ各地へと導入されることとなりました。
日本での展開
日本へは1830年、東京の小石川植物園に初めて植えられたという記録が残っています。また、1845年にはアメリカの船が小笠原諸島にパイナップルを持ち込んだという記録も存在します。沖縄では1868年に、沖合で座礁したオランダ船から苗を手に入れたとされています。1895年に台湾が日本の統治下に入ると、日本から台湾に渡った岡村がパイナップルの缶詰製造の研究を始め、1901年に商品化に成功しました。翌1902年には岡村鳳梨製造所が設立され、これをきっかけにパイナップルの缶詰産業が台湾で日本人によって開始されました。
その後、需要が拡大するにつれて台湾産のパイナップルの生産量は飛躍的に増加し、その約9割が日本本土に輸出されるまでになりました。台湾での大規模な栽培のため、ハワイやシンガポールから苗が輸入され、ブラジルやマレーシアなど苗の供給国にも大きな経済的利益をもたらしました。大正2年(1913年)頃には、日本の夜店でパイナップルが1個1〜5銭という安価で販売されていたという記録も残っています。近年では、2021年に台湾産パイナップルの中国大陸への輸入禁止措置に対し、日本などで支援の動きが広がり、国際的な注目を集める出来事もありました。
世界のパイナップル生産状況
パイナップルの栽培に適した場所は、年間平均気温が20度以上で、年間降水量が1300mm前後の熱帯地域の平地から海抜約800mまでの、水はけが良く肥沃な砂質土壌が理想的とされています。パイナップルは熱帯性の植物であるため、日本では静岡県が栽培の北限とされており、それよりも北の地域では温室栽培を除き、屋外での栽培は難しいとされています。
栽培と収穫の調整
パイナップルの収穫時期は、通常、植え付けから15ヶ月~18ヶ月後です。自然な状態では、沖縄の場合、7月から9月と11月から翌年2月が主な収穫期となります。しかし、年間を通して安定した供給を維持し、労働力を効率的に活用し、缶詰工場の稼働を均一化するために、植物成長調整剤が用いられます。具体的には、カーバイド(アセチレンガスを発生させる)、エスレル(2-クロロエチルホスホン酸)、オーキシンなどが使用され、これらによって計画的に花芽の形成を促し、収穫時期を調整することが可能になっています。
栽培適地と世界生産量の推移
パイナップルの商業的な栽培が本格化したのは、缶詰産業が発展した19世紀末から20世紀初頭にかけてです。国際連合食糧農業機関(FAO)の2002年の統計によると、世界のパイナップル生産量は1485万トンに達し、1985年の923万トンから60%以上の増加を示しました。2021年のFAOSTATのデータでは、パイナップルの生産量でインドネシアが約320万トンでトップ、次いでフィリピン、コスタリカが主要な生産国として挙げられます。日本は56位で、そのほとんどが沖縄県で栽培されています。
主要生産国の詳細
2002年時点での主要な生産国としては、タイ(13.3%)、フィリピン(11.0%)、ブラジル(9.9%)、中国(8.6%)、インド(7.4%)などが挙げられ、その他にナイジェリア、コスタリカ、インドネシア、メキシコ、ベトナムなども生産国として知られています。1985年から2002年までの各国のシェアの変化を見ると、特に米国のシェアが6%から2%へと減少しており、2002年には上位10カ国に含まれていない点が注目されます。最新の2021年のデータでは、インドネシアが世界最大の生産国であり、フィリピン、コスタリカがそれに続いています。世界のパイナップル生産量の約半分はアジア地域で生産され、残りの半分はアフリカ、北アメリカ、南アメリカの各地域でほぼ均等に分けられています。
沖縄県産パイナップルの特徴と「ゴールドバレル」
日本国内においては、沖縄県北部、石垣島、西表島が主なパイナップルの産地であり、2002年時点での生産量は約1万トンでした。近年では、沖縄県で1989年から開発が進められ、2009年に品種登録された「ゴールドバレル」をはじめとする新品種の開発も盛んに行われています。沖縄県産のパイナップルは、国内のパイナップル生産量の大部分を占めています。
フィリピン産パイナップルの特徴と輸入事情
日本で消費されるパイナップルのほぼ全てがフィリピンからの輸入品です。フィリピンは世界でも有数のパイナップル生産量を誇り、日本のマーケットにおける需要を大きく満たしています。それゆえ、フィリピン産のパイナップルの品質や供給の安定性は、日本の消費者に直接的な影響を及ぼします。
まとめ
パイナップルは、熱帯アメリカが原産の珍しい複合果です。その名前は松かさに似ていることに由来します。葉、花、そして果実が一体化して成長するという特異な形態を持ち、主に株分けや冠芽によって増殖します。熱帯地域の痩せた土地や乾燥した環境にも適応できるCAM植物であり、植物ホルモンを使用した計画的な栽培が行われています。パイナップルは、その甘酸っぱい風味に加え、その歴史、栽培技術、そして多様な用途において、世界中で愛される特別な果物と言えるでしょう。
質問:パイナップルの名前のルーツは何ですか?
回答:「パイナップル」(pineapple)という名称は、元々は「松 (pine) の実 (apple)」を意味する「松ぼっくり」を指していました。18世紀頃に、松ぼっくりに似た外観を持つ現在の果実にその名が使われるようになり、今に至ります。学名である「Ananas」は、見た目が亀の甲羅に似ていることに由来しています。
質問:パイナップルを食べると舌がチクチクするのはどうしてですか?
回答:生のパイナップルを食べた時に舌がチクチクしたり、口の中が荒れたりするのは、果汁に含まれる「ブロメライン」というタンパク質分解酵素の作用によるものです。この酵素が口の中の粘膜のタンパク質を一時的に分解することで、刺激や不快感が生じます。熟していない果実には、さらにシュウ酸カルシウムの針状結晶も含まれているため、より強い刺激を感じることがあります。
質問:パイナップルは、お肉を柔らかくするのに役立ちますか?
回答:はい、パイナップルに含まれるブロメラインという酵素が、タンパク質を分解する作用を持つため、お肉をある程度柔らかくする効果が期待できます。お肉をパイナップルに漬け込むことで効果を発揮しますが、ブロメラインは60℃以上の熱を加えると効果が失われるため、高温で加熱調理する際には、この効果は期待できません。また、完熟したパイナップルよりも、未熟な青いパイナップルやその果汁の方が、より高い効果を発揮すると言われています。
質問:パイナップルは、収穫した後も熟成が進みますか?
回答:いいえ、パイナップルは収穫後に常温で保存しても、ほとんど追熟しません。収穫される時点でほぼ完熟しているため、購入後はできるだけ早く食べることで、最も新鮮で美味しい状態を堪能できます。丸ごと保存する場合は、甘みが均一になるように逆さまにして置くと良いでしょう。