ゆべしと聞いて、どんなお菓子を思い浮かべますか?甘じょっぱい醤油味?それとも柚子の香りが爽やかなお餅?実はゆべしは、地域によって姿形も味わいも大きく異なる、個性豊かな伝統菓子なのです。その名前の由来は古く、発祥には諸説あります。この記事では、ゆべしの名前のルーツを辿りながら特徴についてご紹介します。
ゆべしのルーツと発展:源平時代から現代に至る和菓子の歴史
このように伝承では、古くは源平時代(12世紀頃)から柚餅⼦があったとされています。当時、平氏と源氏という二つの武士団が勢力を争い、戦が絶えない時代であり、武器だけでなく食料の確保が非常に重要でした。特に、手軽に食べられる携帯食は、移動や戦闘が多い武士にとってなくてはならないものでした。ゆべしは「柚餅子」と書き、この時代にはすでに存在していたと考えられています。
当時のゆべしは、たくさん収穫できた柚子を無駄にしないように、中身をくり抜いて容器として利用していました。その中に米粉と味噌、木の実などを混ぜたものを詰め、蒸してから乾燥させるという方法で作られていました。こうして作られたゆべしは、保存がきき、持ち運びにも便利だったため、武士たちの兵糧、つまり保存食や携帯食として重宝されました。しかし、正確な発祥の地については様々な説があり、現在では特定することが難しいとされています。
江戸時代に入ると、茶道や食文化が発展した影響を受け、ゆべしは携帯食としての役割から、趣のある和菓子へと変化していきました。蒸し菓子や餅菓子など、材料や製法の種類が増え、多様性が広がりました。こうしてゆべしは、戦場から遠ざかり、自由で豊かな和菓子文化の中で発展し、今日に至る独自の進化を遂げたのです。
「ゆべし」という名前の由来とその多様性
ゆべしは「柚餅子」と表記されるように、柚子を主な材料とした餅菓子であることを示しています。これは、特に西日本で見られる、柚子の皮や果汁を餅米や味噌、砂糖と混ぜて作ったり、柚子そのものを容器として利用する製法のゆべしに直接関係していると考えられます。
一方、「ゆべし」という名前には、別の説も存在します。それは、米農家が収穫時に壊れた米を集め、米粉として活用していた習慣に由来するというものです。この米粉に醤油や砂糖を混ぜて丸めて蒸し、子供のおやつにした際、母親が指で押して飾りをつけたことから、「指で押して作る」という意味で「ゆべし」と呼ばれるようになったという説です。この説は、母親の愛情や家庭の温かい情景を思い起こさせます。このように、ゆべしの名前の由来には、材料である柚子に由来する漢字表記と、庶民の生活から生まれた製法に由来する発音の二つの側面があり、その多様な成り立ちを示唆しています。
ゆべしの多彩な特徴:地域に根ざした多様な味と材料
ゆべしは、全国各地に広がる柚子を使った、香りと食感が特徴の和菓子ですが、その種類は非常に豊富です。基本的な作り方としては、柚子をベースに米粉、餅飴、味噌、砂糖、醤油など、地域や作り手によって様々な材料を混ぜ合わせ、練ったり、蒸したり、煮詰めたりといった多様な製法で作られます。この製法と材料の組み合わせが、ゆべしの多様な魅力を生み出しているのです。
ゆべしは、福島県をはじめ、仙台、山形、鹿児島、岡山など、全国各地で作られています。しかし、「ゆべし」という名前は同じでも、地域によって材料が異なり、それが味や見た目、食感の違いにつながります。そのため、ゆべしは大きく「柚子系」と「餅系(くるみ系)」の二つに分類できます。一般的に、柚子系のゆべしは西日本で多く、くるみ系のゆべしは東北地方や関東地方で主流となっています。
地域ごとの特徴を見てみましょう。熊本県の人吉・球磨地域では、柚子の中身をくり抜いて容器として使い、そこに味噌、ピーナツ、ごま、しょうが、唐辛子などを詰めます。これを蒸した後、約2週間天日に干すことで、風味豊かで保存性の高い柚餅子が完成します。一方、菊池市では、米粉にすりおろした柚子の皮、味噌、砂糖を混ぜ、竹の皮に包んで蒸すのが特徴です。くるみ系のゆべしで有名なのは、福島県や山形県などの東北地方です。この地域では、もともとあった餅菓子に、柚子の代わりにくるみを練り込んだ「くるみゆべし」が、地元を代表する和菓子として親しまれています。このように、柚子の爽やかな香りやくるみの食感に加え、地域ごとに異なる材料が使われ、個性的な味わいが生まれています。
ゆべしに使われる材料は様々で、米粉(餅米粉、うるち米粉)、砂糖、水飴、醤油、味噌、くるみ、柚子の皮、ごま、ピーナツ、しょうが、唐辛子などがあります。これらの組み合わせや配合によって、地域ごとに独特の味と食感が生まれます。例えば、餅米でも、蒸した餅米を搗く方法や、餅粉を練り固める方法があり、これが食感の違いにつながります。また、醤油や味噌を使うことで、甘さの中に塩味や旨味が加わり、単なる甘味だけでなく、おかずとしても楽しめる深い味わいになります。ゆべしは「柚子」というテーマを持ちながらも、柚子にこだわらず、自由で変化に富んだ和菓子文化を表現しているのです。
ゆべしは、古くから親しまれてきた日本の伝統的なお菓子ですが、その楽しみ方はおやつだけに留まりません。様々な種類と風味があるため、日本酒などのアルコール飲料の肴として、また、地域によっては食卓を彩るおかずとしても親しまれています。このように幅広い用途に対応できるため、購入する際には、商品の特性に応じて利用シーンを想定したり、特定の用途に最適な商品を選んだりすることが可能です。販売時期は、ゆべしの種類によって異なりますが、基本的に一年を通して気軽に味わえる点も魅力です。
まとめ
ゆべしは、地域ごとに多様な材料と製法が用いられ、驚くほど多様な風味と食感を生み出している日本の伝統的な和菓子です。西日本の柚子を活かしたタイプから、東北・関東のくるみを練り込んだタイプまで種類は豊富で、おやつとしてだけでなく、お酒のおつまみやご飯のお供としても楽しめます。その歴史的な背景と地域に根ざした多様な発展は、まさに「和菓子の奥深さ」を体現しています。
ゆべしの「柚餅子」という漢字の読み方は?
「柚餅子」は一般的に「ゆべし」と読みます。これは、柑橘類である柚子を主な材料として使用した餅菓子であることを意味しています。
ゆべしはいつ頃から食べられていたのでしょうか?
ゆべしのルーツは、平安時代末期から鎌倉幕府成立までの「源平時代」、具体的には11世紀末から12世紀頃にはすでに存在していたと考えられています。当時の武士たちの間で、手軽に食べられる携帯食(保存食、兵糧)として利用されていました。
ゆべしはなぜ地域によって味が違うのですか?
ゆべしの風味は、その土地の気候条件、利用可能な食材、そして受け継がれてきた食文化や製造方法に深く根ざしているため、地域ごとに大きく異なります。例えば、柚子が豊富に採れる地域では柚子を最大限に活かしたゆべしが作られ、そうでない地域ではくるみや醤油などを加えて独自の進化を遂げてきました。福島県、宮城県仙台市、山形県、鹿児島県、岡山県、備中地域など、各地で個性豊かなゆべしが製造されています。
「柚子系ゆべし」と「くるみ系ゆべし」の違いは何ですか?
「柚子系ゆべし」は、主に西日本で見られ、柚子の皮や果汁を餅米や味噌と組み合わせた、柚子の香りが際立つ点が特徴です。熊本県の人吉・球磨地方や菊池市、京都府の柚子餅などが代表例です。対照的に、「くるみ系ゆべし」は福島県や山形県などの東北・関東地方で一般的で、餅米にくるみ、醤油、砂糖などを混ぜて作られ、甘じょっぱい風味ともっちりとした食感が楽しめます。形状も四角いものが多い傾向にあります。













