懐かしい甘さと独特の食感で、昭和世代には馴染み深いマクワウリ。実は、私たちが普段口にする甘いメロンよりもずっと古くから日本で親しまれてきた、まさに「元祖メロン」とも呼べる存在です。弥生時代の遺跡からも種子が発見されており、その歴史は3世紀以前に遡ります。この記事では、マクワウリのルーツや特徴、そして現代における魅力を紐解きます。
マクワウリの基本情報と歴史
マクワウリ(学名:Cucumis melo var. makuwa、英名:Oriental melon)は、ウリ科キュウリ属に属し、メロンの一種として知られています。原産地は南アジアであり、日本においては西洋メロンが普及する以前から広く栽培されてきた、親しみやすいメロンでした。その特徴は、穏やかな甘さとシャキシャキとした食感にあります。かつては「ウリ」と呼ばれることもあり、日本におけるメロンのルーツとも言えるでしょう。現代のメロンに比べると糖度は控えめですが、その分、爽やかな甘さが際立っています。日本への伝来は非常に古く、弥生時代の遺跡から種子が発見されていることからも、その歴史の深さが伺えます。栽培が容易であったため、かつては日常的な果物として安価で取引され、昭和中期頃までは多くの日本人に愛されていました。しかし、その後、プリンスメロンをはじめとする、より甘く香りの良いネット系メロンの栽培技術が発展し、手頃な価格で手に入るようになったこと、さらに農業従事者の減少などが影響し、マクワウリの生産量は大幅に減少しました。現在でも、旬の時期には一部のスーパーマーケットなどで見かけることがあります。メロン(Cucumis melo)全体の起源は、北アフリカや中近東地域と考えられており、紀元前2000年頃から栽培が始まったとされています。このメロンが東西に伝播する過程で、西方へ広まったものが「メロン」として、東方へ広まったものが「瓜(ウリ)」として発展しました。マクワウリは、東方に伝わった瓜の一種であり、南アジアを原産とします。日本で古くから栽培されているマクワウリは、「オリエンタルメロン」と呼ばれる小型メロンの一種です。日本での栽培の歴史は、20世紀初頭に導入された西洋メロンよりもはるかに長く、室町時代には大和国真桑村(現在の岐阜県本巣市真桑)が良質なマクワウリの産地として知られていました。マクワウリという名前も、この名産地である「真桑村」に由来すると言われています。室町時代末期に書かれた書物にも登場し、歌に詠まれるなど、当時から日本の食文化に深く根付いていたことがわかります。昔は「うり」といえばマクワウリを指すほど一般的であり、現在のような甘い「メロン」が普及する昭和中期までは、マクワウリが「メロン」として親しまれていました。地域によっては、アジウリ、ボンテンウリ、ミヤコウリ、アマウリ、カンロ、テンカ、カラウリ、ナシウリなど、様々な名前で呼ばれており、その地域に根ざした歴史を物語っています。
マクワウリの特徴
マクワウリは、その独特な外観、色合い、そして味わいで容易に識別できます。果実の形状は、一般的に俵型をしていますが、果皮の色には、黄色、緑色、白色の系統が存在します。多くの場合、果皮に模様はありませんが、品種によってはスイカのような縦縞模様が見られるものもあります。代表的な品種としては、黄色の果皮に白い果肉を持つものがよく知られています。果肉は、やや硬めでしっかりとした食感を持ち、メロン特有の芳醇な香りと、さっぱりとした甘さが特徴です。西洋メロンと比較すると、糖度は低い傾向にありますが、その分、自然な甘さが際立ち、食後のデザートや口直しとして最適です。
マクワウリと西洋メロンの違い
ネット系の西洋メロンが本格的に日本の市場に出回るようになったのは、昭和14年(1939年)にマスクメロンの温室栽培が成功してからのことです。しかし、当初は非常に高価であり、一般家庭にはなかなか手が届かない存在でした。そのため、庶民は安価なマクワウリを主に食していました。その後、プリンスメロンやハネデューメロンといったノーネットメロンが登場し、網目模様を作る手間が省けるため大量生産が可能となり、比較的安価に流通するようになりました。これらのメロンも、庶民の食卓で日常的に楽しまれていました。マクワウリは、西洋メロンに比べて糖度は低いものの、さっぱりとした自然な甘さが特徴であり、果肉もやや硬めの食感を持つことから、その独特な風味と食感が楽しまれる果物として、西洋メロンとは一線を画しています。
美味しいマクワウリの選び方と食べ方
マクワウリをより美味しく味わうためには、適切な選び方と食べ方を知っておくことが大切です。マクワウリが最も美味しい旬の時期は、初夏から夏にかけての7月から9月頃とされており、この時期に市場に出回るものが良品とされています。
旬の時期とおいしいサイン
マクワウリが最もおいしくなるのは、7月から9月にかけてです。 熟したマクワウリは、メロンのような甘い香りを放ちます。これが食べ頃のサインです。 さらに、ヘタの周囲に細かなひび割れが見られる場合、それは完熟している証拠です。 このような状態のマクワウリは、冷蔵庫で冷やして食べるのが最高です。
上手な選び方のコツ
市場やお店で良質なマクワウリを選ぶには、いくつかのポイントをチェックしましょう。 まず、形が左右対称で、大きすぎず小さすぎないものを選びましょう。 手に取ったときに、ずっしりとした重さを感じるものは、果肉がしっかりと詰まっていて、水分が豊富でおすすめです。 表面に傷や変色があるものは、避けた方が良いでしょう。 熟したマクワウリは甘い香りがするので、香りも確認して選ぶと間違いありません。
おすすめの食べ方とアレンジ
マクワウリは、くし形にカットして種を取り、スプーンで食べるのが一般的ですが、丸かじりもおすすめです。 強い甘さはないものの、さっぱりとした上品な甘さを楽しめます。 生で食べるだけでなく、マクワウリはその風味を活かして様々な料理にも使えます。 特に奈良漬けの材料として古くから親しまれてきました。 漬物以外にも、ジャムやコンポート、冷たいシャーベットなどのデザートにもぴったりです。
マクワウリ、注目の栄養成分
マクワウリは、カリウムが豊富に含まれていることで知られています。 カリウムは、体内の水分バランスを調整するのに不可欠なミネラルで、高血圧の予防やむくみ対策に効果があると言われています。 暑い夏には、水分とカリウムを同時に補給することで、熱中症予防にも役立ちます。 さらに、抗酸化作用のあるビタミンCや、体内でビタミンAに変わるβ-カロテンも含まれており、美容と健康をサポートする効果も期待できます。
マクワウリの栽培方法
マクワウリの栽培は、難易度としては「普通」程度で、家庭菜園でも比較的取り組みやすい野菜です。栽培期間は5月~8月で、苗の植え付けは春の終わり頃、5月中旬に行い、収穫は夏の6月下旬から8月上旬にかけてとなります。マクワウリは暑さに強い植物で、適した栽培温度は25℃~30℃です。丈夫に育てるためには、連作障害を避けるため、過去2~3年の間にウリ科の作物を育てていない畑を選ぶことが大切です。一般的な家庭菜園向けの解説では、メロンに似た栽培方法が推奨されています。畑の準備として、植え付け前に肥料をしっかりと施し、深く耕しておきます。その後、高さ5~10cm、幅100cmほどの畝を作り、気温が十分に上がった春の終わりに苗を植え付けます。苗の間隔は100cm程度空けましょう。マクワウリは根が浅く張る性質があるため、深植えしないように注意が必要です。初夏から夏にかけては、つるが勢いよく伸びる成長期に入ります。親づるが本葉を5~6枚つけたところで摘芯(先端を摘む作業)を行い、そこから伸びる子づるを3本に絞って伸ばします。さらに子づるが伸びて本葉が15~20枚になったら再度摘芯し、その先から伸びる孫づるに実をつけさせます。実がつき始めたら、品質の良い実を育てるために、早めに摘果を行い、1株あたり6~8個の実を残すように調整しましょう。追肥は2週間に1回のペースで定期的に行い、実の成長を促します。夏に実が十分に大きくなったら収穫の時期です。開花後40~50日ほどで実が熟すとされています。
マクワウリの主な品種と交配品種
マクワウリには多種多様な品種が存在し、実の色や形も様々です。果皮の色は、黄色系、緑色系、白色系の3つの系統に分けられ、代表的なものとしては、果皮が黄色系で果肉が白色のものが挙げられます。近年では品種改良が進み、以前よりも糖度が高いマクワウリも市場に出回るようになりました。また、マクワウリは他のウリ科植物との交配も行われており、その結果生まれたプリンスメロンなどもよく知られています。このことから、マクワウリの遺伝的な特徴が現代のメロンの品種にも影響を与えていることが分かります。
マクワウリの保存方法
マクワウリは、熟している度合いによって最適な保存方法が変わってきます。購入したマクワウリの状態を確認し、適切な方法で保存することで、おいしさを長く保つことができます。
熟していないマクワウリの追熟
お店で購入したマクワウリの中には、まだ実が硬く、メロンのような良い香りが十分にしないものがあります。これはまだ熟していない状態なので、しっかりと熟させることで、本来の甘みと香りを引き出すことができます。追熟させるには、風通しの良い涼しい場所に置くことが大切です。まだ熟していないマクワウリを冷蔵庫に入れてしまうと、低温によって熟成が止まってしまうため、注意が必要です。目安として、購入してから数日~1週間ほどで熟成が進むことが多いですが、実の状態や環境によって変わってくるため、香りをこまめに確認するようにしましょう。
完熟したマクワウリの保存
マクワウリが熟すと、メロンに似た甘い香りが強くなり、お尻の部分に細かいひび割れが見られることがあります。これらは美味しく食べられるサインです。十分に熟したマクワウリは、冷蔵庫で冷やすとより一層美味しくなります。まるごと冷蔵庫に入れると場所を取るので、食べやすい大きさに切ってから保存すると便利です。冷蔵保存の目安は2~3日ですが、風味を損なわないうちに早めに食べるのがおすすめです。
カットしたマクワウリの保存方法
熟したマクワウリをカットして保存する方法は以下の通りです。
マクワウリを半分に切ります。
スプーンなどで、種とワタを丁寧に除去します。
食べやすい大きさにカットします。
カットしたマクワウリを密閉できる容器に入れるか、ラップでしっかりと覆います。
冷蔵庫の野菜室で保存します。
また、カットしたマクワウリは冷凍保存も可能です。冷凍する場合は、カットしたマクワウリを冷凍保存用の密閉袋に入れ、空気を抜いて冷凍庫で保存します。冷蔵保存の場合は2~3日、冷凍保存の場合は約1ヶ月を目安に食べきるようにしましょう。冷凍したマクワウリは、シャーベットやスムージーに最適です。
マクワウリを使ったおすすめレシピ
マクワウリは、その爽やかな甘さと独特の風味を活かして、様々な料理やデザートに活用できます。ここでは、特におすすめのレシピを3つご紹介します。
マクワウリのマリネ
マクワウリを爽やかなマリネ液でいただくレシピです。マリネ液の酸味が、マクワウリの自然な甘さを引き立てます。食卓のもう一品として、または食後のデザートとしてぴったりです。手軽に作れるので、ぜひ試してみてください。
マクワウリコンポート
マクワウリをじっくり煮詰めて作るコンポートは、果肉だけでなく、甘みが凝縮された種とワタも活用することで、奥深い味わいに仕上がります。レモンの爽やかな酸味をアクセントに加えることで、後味はさっぱり。朝食のパンケーキやヨーグルトのトッピングとして、いつもと違う風味をお楽しみください。
まくわうりのシャーベット
火照った体をクールダウンしてくれる、マクワウリのシャーベットは、夏にぴったりのデザートです。口に入れた瞬間に広がる、シャリシャリとした食感とマクワウリ本来の優しい甘さが、暑さを忘れさせてくれます。作り方は簡単。マクワウリをミキサーにかけて凍らせるだけなので、気軽に作れるのが魅力です。ぜひ、お試しください。
まとめ
マクワウリは、そのルーツを南アジアに持ち、弥生時代に日本へ伝わったとされる、いわば「メロンの祖先」とも言えるウリ科の植物です。西洋メロンが広く普及する以前は、庶民にとって身近な甘味として親しまれていました。名前の由来は、岐阜県真桑村という地名から来ています。特徴は、すっきりとした自然な甘さと、少し硬めのしっかりとした食感。果皮の色は、黄色、緑色、白色など様々ですが、代表的なのは黄色の果皮に白い果肉を持つ品種です。旬は7月から9月。香りの強さや、ヘタの部分にできるヒビの状態で食べ頃を見極めます。手に取った時に、形が整っていてずっしりと重みを感じるものが良品です。カリウムを豊富に含み、ビタミンCやβ-カロテンも摂取できるため、健康維持にも役立ちます。比較的育てやすく、家庭菜園にも向いています。まだ熟していない場合は、常温で追熟させ、完熟したら冷蔵庫で保存するのが基本です。カットしたものは冷凍保存も可能です。生で食べるのはもちろん、マリネやコンポート、シャーベットなど、様々なアレンジでその美味しさを堪能できます。日本の食文化に深く根付いた伝統的な果実、マクワウリをぜひ旬の時期にお召し上がりください。
マクワウリの「マクワ」って何ですか?
マクワウリという名前は、かつて高品質なマクワウリの産地として知られていた、ある日本の地名に由来しています。室町時代から、大和国真桑村(現在の岐阜県本巣市真桑)がマクワウリの名産地として知られるようになり、この地名「真桑(まくわ)」が、そのまま名前として使われるようになったのです。
マクワウリは、なぜ「元祖メロン」と称されるのでしょうか?
マクワウリは、西洋からメロンが渡来するよりずっと以前、弥生時代に日本へ伝わり、栽培されていました。メロンの栽培の歴史よりも古く、長い間「ウリ」といえばマクワウリを指すほど、日本人の生活に根付いていたため、「元祖メロン」と呼ばれるようになったのです。
マクワウリと、一般的なメロンは全くの別物なのでしょうか?
マクワウリはメロン(Cucumis melo)の亜種として分類されるため、完全に異なるものではありません。どちらもウリ科キュウリ属に属しています。しかし、通常「メロン」として知られる網目状のメロンとは異なり、糖度、食感、そして香りに際立った違いがあります。マクワウリは、より爽やかな甘さと、いくらか歯ごたえのある食感が特徴です。
まだ熟していないマクワウリを、美味しく食べるにはどうすれば良いでしょうか?
果実がまだ硬く、香りが弱い、熟しきっていないマクワウリは、常温で追熟させることで甘みと香りが引き立ちます。風通しの良い場所に数日間置き、メロンのような甘い香りがしてきたら食べ頃です。冷蔵庫に入れると追熟がストップしてしまうので気をつけましょう。
マクワウリは、生のまましか食べられないのでしょうか?
いいえ、マクワウリは生のままで食べるだけでなく、多様な料理やデザートにも活用できます。古くから「奈良漬け」のような漬物の材料としても用いられてきました。その他、マリネやコンポート、シャーベット、ジャムなど、加熱調理や加工によってもその風味を堪能できます。













