ネギ栽培で最も警戒すべき病害の一つ、それが「軟腐病」です。この病気は、ネギの品質を著しく損ない、収穫量を大幅に減少させる可能性があります。特に新規にネギ栽培を始める方にとって、軟腐病の早期発見と適切な対策は不可欠です。本記事では、軟腐病の症状から原因、そして効果的な対策までを徹底解説。予防から発病後の対処法まで、ネギ栽培を成功に導くための知識を網羅的にご紹介します。
ネギ軟腐病の概要と発生しやすい時期
この細菌はネギだけでなく、アブラナ科やナス科など多くの野菜に感染し、被害をもたらす可能性があります。収穫間近の成熟した株が感染しやすく、育苗中のネギが感染することは稀です。被害が発生しやすい時期は、5月から10月頃の高温多湿な時期です。主な症状は、葉の付け根に水が染みたような斑点ができる地際部からの発生と、根元が黒ずみ茶色に変色する地下部からの発生の2パターンです。いずれの場合も株全体が腐敗し、特有の悪臭を放ちます。軟腐病は伝染力が強く、急速に周囲に広がる恐れがあるため、早期発見と対策が重要です。排水性の悪い畑や長雨の時期は特に注意が必要です。また、過去に土壌由来の病気が発生した畑は、軟腐病も発生しやすくなります。
地際部に発生した場合の症状
ネギ軟腐病が地際部、つまり株の根元付近に発生した場合、まず葉の付け根部分に水が染みたような斑点が生じ始めます。この初期症状は、時間が経つにつれて拡大し、病斑が生じている箇所から徐々に内部組織の腐敗が進行します。その結果、ネギの外側の葉から徐々に軟化し始め、病気が進行するにつれて株全体が腐敗し、最終的には枯死に至ります。腐敗が進むと、独特の強い悪臭を放つようになるため、異臭を感じたら軟腐病の可能性を疑う必要があります。この悪臭は、病原菌が組織を分解する際に発生するもので、軟腐病を特定する上で重要な判断材料となります。この地際部での腐敗は、特に葉ネギにおいて葉の部分の見た目を著しく損ね、出荷できなくなる原因となることがあります。
地下部に発生した場合の症状
一方、ネギ軟腐病が地下部、具体的には茎盤(根と茎の境目)に発生した場合、初期症状としてこの部分の一部が黒ずみ、次第に茶色に変色します。この地下部の病変が進行すると、病原菌が茎の内部で増殖し、茎内部の腐敗によって地上部の生育に悪影響を及ぼし、生育不良の兆候が現れるようになります。そして、病原菌が株の内部で増殖し続けることで、最終的には地際部で発生した場合と同様に、ネギ全体を腐敗させて枯死させてしまいます。地際部と地下部での発生では症状の現れ方が若干異なりますが、いずれの場合も最終的に株全体が腐敗するという点は共通しており、腐敗部分からは軟腐病特有の悪臭が強く放たれるため、早期発見のための重要なサインとなります。特に根深ネギでは、地下部の腐敗が進むと白い部分の品質が著しく低下し、商品価値を失うことになります。
伝染経路
ネギ軟腐病は、土壌を介して感染が広がる病気であり、病原となる細菌は主に土中の水分を通して移動します。これらの細菌は、ネギの根元付近の土壌や葉の上で繁殖し、植物体の傷や自然に存在する小さな穴から侵入します。特に、灌漑や雨天時に、土壌中の細菌が土の粒子と一緒に跳ね上がり、ネギの株に付着することで感染が拡大することが一般的です。ネギは本来、表面にワックス層を持っているため、細菌が直接侵入することは難しいのですが、農作業中(特に土寄せの際)にできる小さな傷や、強風による葉の摩擦、アザミウマやネギハモグリバエなどの害虫による食害痕から、細菌が侵入しやすくなります。一度感染した株からは、雨や灌漑水、または水の流れによって細菌が他の健康な株へ移動し、畑全体に急速に広がる危険性があります。さらに、ネギを収穫した後も、軟腐病菌は雑草の根元や、残った植物体で生き続けるため、汚染された畑で再びネギを栽培すると、土壌に残存する菌によって再び感染が広がるリスクがあり、細心の注意と対策が求められます。連作は特に、病原菌の密度を高め、被害を深刻化させる可能性があります。
発生条件
ネギ軟腐病の発生は、特定の環境条件に大きく左右されます。最も発生しやすい時期は、初夏から初秋にかけての長雨や高温が続く時期です。病原菌は多湿な環境を好むため、土壌が湿った状態が続くと発生のリスクが高まります。具体的には、排水が不十分な水田を転換した畑や、土壌水分が多く、水が溜まりやすい低湿地では、軟腐病が発生しやすい傾向にあります。台風や長雨の期間中は、泥はねが起こりやすく、これが病原菌の拡散とネギの株への付着を促進し、発生リスクをさらに高めます。また、病原菌は育苗中のネギにはほとんど感染せず、収穫時期が近づいた5月から10月頃の成株に主に感染します。過去に根腐萎凋病や萎凋病といった、同様に土壌伝染性の病害が発生した畑では、土壌環境が悪化していることが多く、ネギの株も弱っているため、軟腐病の発生を助長する要因となることが知られています。これらの条件を考慮し、畑の環境を適切に管理することが、軟腐病の予防には不可欠です。
ネギ軟腐病の効果的な対策方法
ネギ軟腐病は、いったん発生すると進行を止めるのが難しく、最悪の場合、株が枯死して収量減少につながるため、発生前の予防が非常に重要です。そのため、栽培の初期段階から積極的な防除対策を講じる必要があります。対策としては、主に栽培方法や畑の環境を改善する「耕種的防除」と、農薬を使用して病原菌や媒介となる昆虫を抑制する「薬剤防除」の2つが一般的です。これらの防除方法は、栽培環境や具体的な状況に応じて適切に選択し、組み合わせることで、より効果を発揮します。病気が発生した後に対処するよりも、事前に発生条件を排除し、感染のリスクを減らすことが、軟腐病対策の鍵となります。
耕種的防除(栽培環境の改善と予防策)
耕種的防除は、ネギ軟腐病の発生を未然に防ぐための、最も基本かつ重要な対策です。畑が過湿状態にならないように、排水性を高めることが重要となります。具体的には、畝を高くしたり、排水溝を整備するなどの工夫が有効です。畑の準備段階として、軟腐病の病原菌は雑草の根の周辺や被害を受けた植物の残骸で生き続けるため、苗を植える前に土壌消毒を丁寧に行うことが推奨されます。特に高温期における追肥や土寄せは、ネギの生育を促進する一方で、株に傷をつけることで病原菌の侵入を助長する可能性があるため、避けるべきです。また、窒素肥料の過剰な使用も生育を軟弱にする原因となるため、適切な施肥管理を心がけましょう。汚染された畑での被害を避けるためには、ネギ軟腐病に対して抵抗力を持つ植物、例えばイネ科やマメ科の作物との輪作を行うことが効果的です。これにより、土壌中の病原菌の密度を減らし、連作による障害のリスクを低減できます。万が一、軟腐病が発生した場合は、周囲への感染拡大を防ぐため、発病した株だけでなく、その周辺の健康に見える株も一緒に抜き取り、病原菌が飛び散らないように袋などで覆い、畑の外で焼却するなど、適切に処分することが重要です。
薬剤による防除(農薬使用と害虫対策)
薬剤による防除は、耕種的防除と合わせて行うことで、ネギ軟腐病の発生リスクをさらに減少させ、あるいは初期段階での進行を抑制する効果が期待できます。軟腐病に対する農薬の散布は、基本的に予防を目的として行うことが重要です。特に、軟腐病の感染経路の一つである「害虫による食害痕からの感染」を防ぐためには、これらの害虫を駆除することが有効な対策となります。また、土壌中に存在する病原菌の密度を減少させるための土壌消毒も、薬剤による防除の一環として考慮されます。 ただし、農薬を使用する際は、ネギの軟腐病に効果が認められている製品の中から、登録内容(使用時期、使用方法、対象となる病害虫など)を十分に確認し、適切な選択と散布方法を厳守することが大切です。不適切な農薬の使用は効果がないだけでなく、環境への影響や作物への残留といった問題を引き起こす可能性もあるため、必ず専門機関の指導や農薬ラベルの指示に従って実施してください。具体的な農薬の種類や使用方法については、地域の農業指導機関や専門家への相談をおすすめします。
まとめ
ネギ栽培において軟腐病は、収穫間近の株に甚大な被害をもたらす代表的な細菌性の病気です。いったん発生すると根絶が難しいため、栽培初期からの積極的な予防策が不可欠となります。気候や畑の状態によって発生しやすい条件は異なるため、作物の生育状況や病害虫の発生予報をこまめに確認しながら、予防と早期防除に努めることで、ネギの安定した収量と品質を確保することができるでしょう。
ネギ軟腐病を引き起こす病原菌は何ですか?
ネギ軟腐病は、「Pectobacterium carotovorum」という細菌によって引き起こされます。この細菌は、ネギに限らず、アブラナ科やナス科をはじめとする様々な野菜に感染し、損害を与えます。
ネギ軟腐病の初期段階における兆候はどのように確認できますか?
株元に病変が現れた場合、最初に葉の付け根あたりに水が染み込んだような状態の斑点が現れ始めます。地中で発生した際は、茎の根元部分が黒ずみ、徐々に茶色に変色していきます。いずれの場合も、病状が進むにつれて、腐敗した部分から軟腐病特有の強い臭気を発するようになるため、この異臭が早期発見の重要な手がかりとなります。
ネギ軟腐病以外にも注意すべきネギの病害虫は?
ネギ栽培においては、軟腐病の他にも警戒すべき病害虫が存在します。例えば、「さび病」や「萎凋病」、「褐色腐敗病」といった病気、そして「ネギハモグリバエ」や「ネギアザミウマ」などの害虫です。これらの病害虫は、発生時期、症状、そして効果的な対策がそれぞれ異なります。安定したネギ栽培のためには、これらの情報をしっかりと把握し、適切な予防と駆除を行うことが重要です。













