「かおり」:芳醇な香りが特徴、幻の梨が辿った異色の軌跡
芳醇な香りが鼻腔をくすぐる、青梨「かおり」。神奈川県で生まれたこの梨は、一度は品種登録を断念された、まさに「幻の梨」とも言える存在です。しかし、その類まれなる香りと味わいに魅せられた一部の農家が栽培を継続。試験中止から時を経て、その美味しさが再評価され、近年再び脚光を浴びています。知る人ぞ知る、異色の軌跡を辿った「かおり」の魅力に迫ります。

「かおり」とは?その独創的な歴史と名前の由来

神奈川県生まれの青梨「かおり」は、名前の通り、その独特で豊かな香りが際立っており、近年ますます注目されています。この梨の物語は1953年(昭和28年)に始まり、神奈川県平塚市にあった農業技術研究所園芸部で、「新興」と「幸水」を掛け合わせることで「ナシ平塚16号」として開発がスタートしました。しかし、その後の特性調査と栽培試験の結果、味は素晴らしいものの、実が落ちやすい性質があること、そして他の品種と比べて保存期間が短いという課題が明らかになりました。そのため、1975年(昭和50年)に試験は打ち切られ、正式な品種登録には至りませんでした。通常、試験中止となった系統は処分されることが多いのですが、1978年(昭和53年)以降に定められた厳しい規則とは異なり、当時は栽培を続けることに対する制約が少なかったため、試験的に苗木が配布されていた一部の農家では、その美味しさに魅せられて栽培を続けていました。この農家の方々の努力と情熱が実を結び、近年になって「香りが良く、美味しい梨」として再び注目されるようになり、現在では「かおり」のほか、「かおり梨」や「香梨」といった名前で広く市場に出回っています。このように、「かおり梨」は一度は表舞台から姿を消したものの、その隠された価値が認められ、独自の道を歩んできた特別な品種と言えるでしょう。

「かおり」の際立つ個性:心を奪う香りと驚きの大きさ、洗練された味わい

「かおり」は、名前が示すように、他の梨にはない独特の爽やかで芳醇な香りが何よりも魅力的な点です。果実のサイズも非常に大きく、中には1kgに達するものもあり、その存在感は市場でも際立っています。味わいについては、強い酸味は控えめで、上品な甘さが口の中に広がり、その絶妙なバランスが多くの梨ファンを虜にしています。果肉の質感は、ややざらつきがあるものの、非常に柔らかく、噛むたびにジューシーな果汁があふれ出るのが特徴です。このような他にない特徴を持つ「かおり梨」の親品種は、「新興」と「幸水」という二つの赤梨ですが、さらにそのルーツを辿ると、「新興」の親である「二十世紀」と、「幸水」の親である「菊水」は、どちらも青梨の血統を受け継いでいます。この遺伝的な背景が、「かおり梨」が青梨としての特徴を持ちながらも、赤梨の持つ豊かな風味も兼ね備えている理由の一つと言えるでしょう。特別な香りと驚きの大きさ、そして上品な甘さとジューシーな食感は、「かおり梨」を他の梨とは一線を画す特別な存在にしています。

美味しい「かおり」の選び方:新鮮さと熟れ具合を見極めるコツ

美味しい「かおり」を選ぶためには、いくつかの大切なポイントがあります。まず、全体的に丸みを帯びた形をしており、特にお尻の部分がふっくらとしているものを選びましょう。手に取った時にずっしりと重みを感じるものは、果汁をたっぷりと含んでおり、みずみずしい食感が期待できます。これは、梨の美味しさを示す重要な目安の一つです。「かおり」は青梨に分類されるため、本来はきれいな緑色の果皮をしていますが、熟成が進むにつれて徐々に黄色みを帯びてくる性質があります。もし、酸味が少なく、より甘みの強い梨を求めるのであれば、濃い緑色よりも、少し黄緑色に変化しているものを選ぶのがおすすめです。ただし、「かおり」は非常に大きくなることが多いため、形が少しごつごつしていたり、わずかにいびつなものも見られます。しかし、このような形のばらつきは、梨そのものの品質や美味しさにほとんど影響しないため、あまり神経質になる必要はありません。これらのポイントを参考に、ぜひ最高の「かおり」を選んで、その美味しさを心ゆくまで楽しんでください。

「かおり」の新鮮さを保つ保存方法

「かおり」は、その独自の風味と食感を最大限に楽しむために、鮮度が非常に重要となる品種です。他の日本の梨と比べても、特に長持ちするわけではないため、購入後はできるだけ早く、新鮮なうちに食べきることをおすすめします。しかし、一度に食べきれない場合でも、適切な方法で保存すれば、ある程度の期間その品質を維持することが可能です。保存する際は、まず一つ一つの梨を新聞紙などで丁寧に包み、乾燥から守ります。その後、包んだ梨をポリ袋に入れ、袋の口を軽く閉じて密閉に近い状態を作りましょう。この状態で、冷蔵庫の野菜室、または温度変化の少ない冷暗所に保管するのが理想的です。特に重要なのは、梨が乾燥すると鮮度が急速に落ちるため、新聞紙やポリ袋でしっかりと水分を保持することです。また、高温の場所に置くことも鮮度を大きく損なう原因となるため、涼しい場所での保存を徹底してください。これらの方法を実践することで、「かおり」の美味しさを少しでも長く味わうことができます

「かおり」を堪能する:最高の食べ方と多彩な活用術

最高の状態の「かおり」は、何と言っても生のまま味わうのが一番です。その理由は、芳醇な香りと上品な甘さ、そしてジューシーな食感をダイレクトに感じられるからです。梨は、軸に近い部分よりもお尻の部分の方が甘味が強いので、甘さを均等に楽しむには「くし形切り」がおすすめです。梨を縦に8等分にカットし、芯を取り除いて皮を剥けば、準備完了です。こうすることで、どこを食べても甘みが均一で美味しく味わえます。また、「かおり」はその豊かな風味を活かして、様々な料理にも応用できます。コンポートやジャムにすれば、長期保存が可能になり、旬の時期以外でも楽しむことができます。特にジャムを作る際は、梨の甘さに加え、レモン汁を加えることで、とろみと爽やかな風味を引き立てるのがポイントです。驚くかもしれませんが、梨は肉料理にも相性抜群です。すりおろした梨には、肉のタンパク質を分解し、柔らかくする効果があるため、調理前に梨のすりおろしに15分ほど漬け込むと、肉が柔らかくジューシーに仕上がります。「かおり」は、生食はもちろん、加工品や料理の隠し味としても使える、非常に魅力的な果物です。

かおり梨が品種登録されていない理由

かおり梨は、昭和28年に「新興」と「幸水」を掛け合わせて生まれ、「ナシ平塚16号」として育成が進められました。しかし、その後の特性調査で、実が落ちやすい、日持ちがしないといった課題が見つかりました。そのため、昭和50年に試験は中止となり、正式な品種登録には至りませんでした。しかし、試験的に配布されていた穂木から栽培を始めた一部の農家が、その美味しさに魅せられ栽培を継続。近年になり、その独特の香りと味が改めて評価され、「かおり」として広く知られるようになりました。試験中止後の系統は伐採されるのが原則でしたが、それ以前は農家が比較的自由に栽培を続けられたため、現在でも栽培されているのです。

かおり梨の際立った特徴

かおり梨の最も大きな特徴は、名前が示す通り「他にはない爽やかな香り」と「その大きさ」です。中には1kgにもなるものもあり、見た目のインパクトも抜群です。味は、ほどよい甘さと少ない酸味が特徴で、上品な味わいが楽しめます。果肉はやや粗いものの、水分をたっぷりと含んだ、みずみずしく柔らかな食感も魅力の一つです。

美味しいかおり梨の選び方

美味しいかおり梨を選ぶポイントは、「丸みがあり、お尻がどっしりと安定していて、ずっしりと重みがあるもの」を選ぶことです。果汁が豊富なものは、それだけ重みがあります。また、かおり梨は青梨に分類され、一般的に果皮は緑色をしていますが、熟すにつれて少しずつ黄色みを帯びてきます。より甘みの強いものが好みであれば、濃い緑色よりも少し黄緑がかったものを選ぶと良いでしょう。大玉のかおり梨は、表面が多少ゴツゴツしていることもありますが、味には影響しないので、あまり気にしなくても大丈夫です。

かおり梨の日持ちと保存方法

かおり梨は、他の梨と比べて特に日持ちが良いというわけではありません。そのため、あの特有の香りとみずみずしい食感を最大限に楽しむためには、できるだけ早く食べることがおすすめです。すぐに食べきれない場合は、乾燥を防ぐために新聞紙などで丁寧に包み、ポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室に入れるか、風通しの良い冷暗所で保存してください。乾燥した場所や、温度の高い場所に置いておくと、鮮度が落ちやすくなるので注意が必要です。

かおり梨は、生のままで食べる以外にどのような楽しみ方がありますか?

かおり梨は、新鮮なうちにその芳醇な香りを堪能するため、生のまま味わうのが一番のおすすめです。梨は一般的に、軸に近い部分よりもお尻の部分の方が甘みが強いため、くし形に切って(縦に8等分し、芯と皮を取り除く)、甘さを均一にして食べるのがおすすめです。
生のまま食べる以外にも、コンポートやジャムに加工して楽しむこともできます。ジャムにする際は、とろみと風味を増すためにレモン汁を加えるのがコツです。また、すりおろした梨にはお肉を柔らかくする効果があるため、お肉料理の下ごしらえにも活用できます。お肉を15分程度漬け込んでから調理することで、より柔らかく美味しく仕上がります。