乳アレルギー

乳アレルギー

牛乳や乳製品に含まれるタンパク質が原因で起こる乳アレルギー。乳幼児期に多く見られる食物アレルギーの一つですが、成長とともに症状が軽減することも珍しくありません。しかし、適切な対策を講じなければ、重篤な症状を引き起こす可能性も。この記事では、乳アレルギーの原因、症状、日々の対策に加え、成長とともに見られる変化について詳しく解説します。

乳アレルギーとは?概要と罹患率

乳アレルギーは、牛乳や乳製品に含まれる特定のタンパク質に対して、身体の免疫システムが過剰に反応する状態を指します。特に、幼少期における食物アレルギーとしては、鶏卵に次いで頻繁に見られます。日本国内での乳アレルギーの罹患率は、乳幼児期(0~6歳)において0.2~2.1%、小中高生では0.16~1.3%と報告されています。多くの場合、成長と共に症状が軽減されますが、適切な管理と継続的な経過観察が不可欠です。

乳アレルギーの原因物質:カゼインとホエイ

乳アレルギーを引き起こす主な原因となるタンパク質は、牛乳の中に存在するカゼインとホエイ(乳清タンパク質)です。カゼインは、牛乳タンパク質の約80%を占めており、熱に対して安定で、消化されにくい性質を持つため、加熱処理された食品であってもアレルギー反応を引き起こす可能性があります。一方、ホエイは牛乳タンパク質の約20%を占め、その中でも特にβ-ラクトグロブリンが強いアレルゲン性を持つとされています。ホエイは熱に弱い性質があり、加熱処理によってアレルゲン性が低下することがあります。
  • カゼイン:牛乳タンパク質の約80%を占める。熱に強く、チーズやヨーグルトといった発酵乳製品に多く含まれる。
  • ホエイ:牛乳タンパク質の約20%を占める。β-ラクトグロブリンが主要なアレルゲン。加熱によってアレルゲン性が低下する可能性あり。

乳アレルギーの症状:多様性とアナフィラキシーのリスク

乳アレルギーの症状は、軽微なものから重篤なものまで幅広く存在します。一般的な食物アレルギーと同様に、じんましん、湿疹、かゆみ、嘔吐、下痢、腹痛、呼吸困難などの症状が現れることがあります。乳アレルギーは、特に症状が重く、アナフィラキシーショックを引き起こしやすい食品としても認識されています。症状の発現には、摂取後比較的すぐに現れる即時型(摂取後2時間以内)と、時間が経過してから現れる遅延型(最大72時間後)があります。遅延型の場合、腹痛、逆流、下痢、便秘、血便、湿疹などの症状が見られることがあります。皮膚に症状が現れた際には、写真撮影を行い記録しておくことを推奨します。

乳アレルギーの診断:検査と食物経口負荷試験

乳アレルギーの診断は、詳細な問診、血液検査、皮膚テスト、食物経口負荷試験などを組み合わせ、総合的に判断されます。症状が現れた場合に乳アレルギーを疑い、検査結果だけでなく、実際の臨床症状と合わせて診断を行うことが重要です。小児アレルギーを専門とする医師の診察を受けることが望ましいです。
  • 血液検査(特異的IgE抗体検査):牛乳タンパク質に対するIgE抗体の量を測定します。数値が高いほど、アレルギーの可能性が高いことを示唆します。
  • 皮膚プリックテスト:乳タンパク質の抽出液を皮膚に滴下し、小さな針で皮膚を刺して反応を確認します。即時型反応を評価するのに適しています。
  • パッチテスト:乳タンパク質を含む試薬を皮膚に貼り付け、遅延型アレルギーの反応を観察します。
  • 食物経口負荷試験:専門医の厳重な管理下で、少量ずつ乳製品を摂取し、アレルギー反応を慎重に観察する、診断を確定するための重要な検査の一つです。

乳アレルギーの治療:原因物質の除去と経口免疫療法

乳アレルギーの主な治療法は、原因となる物質を食事から排除することと、徐々に体を慣らしていく経口免疫療法です。患者さんの症状の程度や年齢を考慮して、最適な治療方法を選びます。

原因物質の除去

食事から牛乳や乳製品を排除することが基本となります。完全に除去するか、アレルギーを起こしにくい食品を中心とした食事を心がけ、チーズ、ヨーグルト、バター、アイスクリームなどの食品を避けるようにします。代わりに、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク、乳成分を含まないアレルギー対応食品(豆乳ヨーグルトなど)などを活用しましょう。加工食品を購入する際は、原材料表示をしっかりと確認し、牛乳由来の成分が含まれていないかを確認することが大切です。特に、包装されていない食品(外食や惣菜など)については、お店の人に直接確認するようにしましょう。

経口免疫療法

専門医の指導のもと、ごくわずかな乳製品を摂取することから始め、徐々に体を慣らして耐性を獲得していく治療法です。比較的症状が軽い患者さんに適用されることが多いですが、必ずしも完全に耐性が得られるわけではありません。経口免疫療法を受けた小児32人のうち、4人が重篤な副作用などにより治療を中止し、残り28人が13カ月間の治療を終了しました。治療中、牛乳または牛乳に多く含まれるたんぱく質であるカゼインに対する特異的IgE値など、牛乳アレルギーのマーカーの値は改善していました。しかし、その後に2週間牛乳の摂取を中断した後に受けた食物負荷試験で目標値を超える牛乳を摂取できた、つまり持続的無反応を獲得したのは7人のみでした。加熱処理された乳製品(クッキーやパンなど)から試すこともあります。近年、経口免疫療法中に重いアレルギー症状が出た事例も報告されており、安全性を確保するための適切な手順を踏むことが重要視されています。

乳アレルギーの予後:自然に治る可能性と影響する要因

乳アレルギーは、成長とともに自然に治る可能性が高い食物アレルギーの一つとして知られています。ただし、症状が改善する度合いには個人差があり、以下の要素が影響します。
  • IgE抗体の量:牛乳に対する特異的なIgE抗体の数値が高いほど、耐性を獲得するのが難しいとされています。特にカゼインに対するIgEが高い場合は、治りにくい傾向が見られます。
  • アレルギー症状の深刻さ:蕁麻疹や湿疹といった比較的軽い症状のみが現れる場合は耐性を獲得しやすいですが、過去にアナフィラキシーショックを起こしたことがある場合は獲得しにくい傾向があります。
  • 加熱した乳製品への反応:加熱した乳製品を食べても症状が出ない場合は耐性を獲得しやすいですが、加熱したものでも症状が現れる場合は獲得しにくい傾向があります。
  • 他のアレルギーとの関連性:鶏卵や小麦のアレルギーを併発している場合や、アトピー性皮膚炎や喘息などの疾患がある場合は、乳アレルギーが長引く可能性があります。

乳アレルギーにおける食事指導:完全除去と摂取可能範囲の拡大

乳アレルギーの食事療法は、完全に乳製品を避ける場合と、徐々に摂取できる範囲を広げることを目指す場合があります。いずれの場合も、医師や管理栄養士の専門的なアドバイスを受けることが非常に大切です。

完全除去が必要な場合の食事

牛乳および牛乳由来の加工食品を徹底的に排除します。ヨーグルト、チーズ、バター、生クリーム、粉ミルク、加糖練乳、乳酸菌飲料、アイスクリーム、パン、カレーやシチューのルー、加工肉製品、洋菓子、調味料など、様々な食品に牛乳が使用されている可能性があるため、原材料表示をしっかりと確認することが不可欠です。牛乳の代替品としては、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクなどを活用し、カルシウム不足にならないように、小魚、緑黄色野菜、海藻類、大豆製品など、カルシウムを豊富に含む食品を積極的に摂りましょう。名称に「乳」とついていても、乳化剤、乳酸、乳酸カルシウムなどは牛乳とは無関係の成分です。一方、「全脂粉乳」「脱脂粉乳」「加糖練乳」「乳酸菌飲料」「発酵乳」などには牛乳が含まれます。

摂取可能範囲の拡大を目指す場合

食物経口負荷試験の結果に基づき、摂取できる食品の範囲を段階的に広げていくことを目標とします。総負荷量(牛乳の量)に応じて、摂取可能な食品の種類や量を調整します。まずは負荷試験で摂取したものと同じ食品から始め、問題がなければ他の加工食品も試していきます。日常生活に影響が出ない量まで摂取できることを確認し、自宅外(集団給食や外食など)でも除去対応が不要となることを目指します。

牛乳アレルギー対応ミルクの適切な使用

乳幼児に牛乳アレルギーがある場合、母乳や通常のミルクの代替品として、牛乳アレルギー対応ミルクを使用します。製品によって含有されるタンパク質の種類や分解度が異なるため、医師の指示に従って最適な製品を選ぶことが大切です。牛乳アレルギー対応ミルクは特有の苦味や匂いがあるため、味覚が発達してくると飲ませるのが困難になることがあります。ミルクアレルギー児におけるビオチン欠乏症の症例報告が相次いでいる。症例は臨床的に特徴的な皮膚症状や脱毛を認め,ビオチン投与により速やかに改善した。ビオチン欠乏症は平均してアレルギー用ミルクへの切り替え後約3.8か月で発症している。

乳糖不耐症や乳タンパク不耐症との違い

乳アレルギーとよく似た症状を示すものとして、乳糖不耐症と乳タンパク不耐症が挙げられます。
  • 乳糖不耐症:乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)の働きが十分でないために、乳糖がきちんと消化されず、下痢や腹痛といった症状が現れます。乳糖をあらかじめ分解した牛乳や、ラクターゼを補う薬を使用することで症状の軽減が期待できます。
  • 乳タンパク不耐症:牛乳に含まれるタンパク質に対する遅延型のアレルギー反応で、IgE抗体が関与しないため、一般的なアレルギー検査では判別が難しい場合があります。症状や対処法は乳アレルギーと似ています。

牛乳の代替となる食品:牛乳アレルギーを持つ人の選択肢

牛乳アレルギーの方のために、様々な牛乳の代替品が販売されています。代表的なものとしては、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルク、ライスミルクなどがあります。これらの代替品は、牛乳アレルギーを持つ人にとって大切な栄養源となりますが、栄養成分やアレルギーのリスクを考慮して選ぶことが大切です。例えば、豆乳はタンパク質が豊富ですが、大豆アレルギーを持つ人には向きません。アーモンドミルクはカロリーが低い反面、カルシウムやビタミンを添加する必要がある場合があります。また、乳幼児向けには、特別な調整が施された代替品も販売されています。

まとめ

乳アレルギーは、適切な診断と管理を行うことで、症状を抑え、生活の質を向上させることが可能です。アレルゲンとなる食品の除去、代替食品の活用、経口免疫療法など、それぞれの状況に合わせた治療方法を選択し、専門医と連携していくことが大切です。成長とともにアレルギー反応が軽減される可能性もあるため、長い目で見てアレルギーと向き合っていきましょう。
本記事は情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。診断や治療については、必ず専門の医師にご相談ください。

よくある質問

質問1:乳アレルギーの子供がいますが、カルシウム不足にならないか心配です。何か良い対策はありますか?

牛乳アレルギーのお子様のカルシウム摂取については、牛乳アレルギー対応のミルク、煮干しなどの小魚、小松菜などの青菜、海藻類、大豆製品などを積極的に食事に取り入れることをお勧めします。アレルギー対応ミルクを料理に使ったり、煮干しを細かくしてふりかけにするなどの工夫も有効です。

質問2:加工食品の成分表示で、牛乳が使われているかを見抜くには、どこをチェックすれば良いですか?

加工食品の成分表示を確認する際、「牛乳」という文字だけでなく、「乳製品」の表示にも注意を払いましょう。 「全粉乳」、「脱脂粉乳」、「練乳」、「乳酸菌飲料」、「発酵乳」などの記載がある場合は、牛乳が使用されている可能性が高いと考えられます。「乳化剤」、「乳酸菌」、「乳酸カルシウム」などは牛乳とは無関係の成分である場合が多いですが、アレルギーが重篤な場合は、念のため製造元に確認することをお勧めします。

質問3:うちの子は牛乳アレルギーなのですが、経口免疫療法はいつ頃から始めるのが良いのでしょうか?

経口免疫療法を開始するのに最適な時期は、お子様の年齢やアレルギー症状の重さによって異なります。まずは専門医を受診し、お子様に適した開始時期や治療方法について詳しく相談することが大切です。経口免疫療法は、必ず専門医の指導のもと、慎重に進めていく必要があります。
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