初夏の訪れを告げる、鮮やかなオレンジ色の宝石「びわ」。その甘酸っぱい味わいは、一口食べれば爽やかな風が吹き抜けるようです。原産地の中国から日本へ伝わり、古くから親しまれてきたびわは、見た目の美しさだけでなく、栄養も満点。この記事では、みずみずしい果肉に詰まった魅力、美味しい食べ方、知られざる栄養効果まで、びわのすべてを余すところなくご紹介します。この季節ならではの味覚を、心ゆくまでお楽しみください。
ビワとは?基本情報と特徴
ビワ(学名:Rhaphiolepis bibas)はバラ科の常緑樹で、美味しい果実を実らせます。中国の南西部が原産で、日本へは古い時代に伝わったと考えられています。ビワの葉は深緑色で大きく、表面がつやつやした長楕円形をしています。初夏の頃、杏に似た甘い果実が葉の陰に実り、熟すと黄橙色になります。
ビワの歴史と分布
ビワは中国南西部が故郷で、日本には昔に渡来しました。現在では、関東・東海の沿岸部、石川県から西の日本海側、四国、九州北部などで自生しています。また、中国からの移民がアメリカへ、日本からはインドやブラジルへと広がりました。日本では奈良時代にビワ栽培が盛んになり、お寺の僧侶が中国から伝わったビワの葉を使った治療を行ったため、お寺にはビワの木が多いと言われています。千葉県より南の地域では、庭木としてもよく見かけられます。
ビワの名称と分類
ビワという和名は、果実の形が楽器の琵琶に似ていることに由来します。中国語でも「枇杷」(pípá)と書きます。英語では「loquat」と呼ばれますが、これは中国語の「蘆橘」(lú jú)の発音からきています。ビワの学名は長らくEriobotrya japonicaが使われてきましたが、2020年の研究でシャリンバイ属(Rhaphiolepis)に含まれるという結果が出て、Rhaphiolepis bibasが正式な学名となりました。ただし、この分類には異なる意見もあります。
ビワの植物学的特徴
ビワは常緑の高木で、高さは5〜10メートルくらいになります。葉は厚くて硬く、長さ15〜20センチメートルほどの広倒披針形または長楕円形で、表面にはつやがあります。花は晩秋から冬(11〜2月)にかけて咲き、甘い香りのする白い5弁花がたくさん集まって咲きます。果実は初夏(5〜6月)に黄橙色に熟し、直径3〜4センチメートル、長さ6センチメートル前後の球形から卵形をしています。果実の中には大きな赤褐色の種がいくつか入っています。
ビワの栽培方法:庭木から本格的な栽培まで
ビワは比較的温暖な気候を好み、日当たりの良い場所でよく育ちますが、ある程度の耐陰性も持ち合わせています。水はけの良い砂壌土が栽培に適しています。庭木としても親しまれており、生い茂る葉は目隠しの役割も果たします。果実の収穫を目的とする場合、実がなるまでには一般的に7〜8年程度かかります。ビワは一本でも実をつける性質があるため、異なる品種を рядомに植える必要はありません。繁殖方法としては、種から育てる実生、接ぎ木、挿し木などが挙げられます。剪定は、3月下旬から4月にかけてと、9月に行います。露地栽培では、より品質の良い実を収穫するために、摘蕾・摘房、摘果、袋かけといった作業が欠かせません。果実が成長してくると、モモチョッキリなどの害虫による被害に注意が必要です。
ビワの産地と旬
ビワは寒さに弱い性質を持つため、温暖な地域での栽培が盛んに行われています。主な産地としては、九州地方、四国地方、淡路島、和歌山県、房総半島などが挙げられます。特に千葉県は、長崎県に次ぐ全国第2位のビワの産地として知られており、房総半島の南端に近い南房総市、館山市、鋸南町で栽培されています。中でも南房総市は、千葉県全体の生産量の9割以上を占めています。千葉県産のビワは、ハウス栽培のもので4月下旬から5月下旬にかけて、露地栽培のもので5月下旬から6月下旬にかけて出荷されます。収穫の最盛期となる6月10日前後には、国道127号線沿いに多くの直売店が軒を連ね、賑わいを見せます。
ビワの品種:個性豊かな味わい
ビワには多種多様な品種が存在し、それぞれが独特の風味や特徴を持っています。千葉県では、大房、田中などの露地栽培品種に加え、富房、瑞穂、房光、希房などのハウス栽培品種が主に栽培されています。大房は、一つあたり70〜80グラムと大ぶりで、酸味が少なく上品な味わいが特徴です。田中は、一つあたり65〜75グラムと比較的大ぶりで、見た目の美しさと優れた食味が魅力です。富房は、一つあたり65〜75グラムと比較的大ぶりで、食味が良いことから温室栽培の主要品種となっています。
瑞穂は、一つあたり75〜85グラムと非常に大きく、果肉が柔らかく、甘味と酸味のバランスが絶妙な、食味の良い品種です。房光は、一つあたり70グラム程度の大ぶりな実で、酸味が特徴的で、濃厚な味わいを楽しむことができます。希房は、世界で初めて種なしビワとして開発され、果肉の割合が多く、柔らかい肉質で、程よい酸味があり、食味が良いのが特徴です。
ビワの選び方と保存方法
美味しいビワを選ぶためには、果皮にハリがあり、全体に細かい毛(産毛)と白い粉状のもの(ブルーム)が残っているものを選びましょう。また、熟しすぎたビワは皮に縦方向のひび割れが見られますが、より甘くなっていることが多いです。皮に赤みがかっているものは、太陽の光をたくさん浴びて育った証拠であり、味も濃厚で美味しいとされています。ビワは比較的日持ちがしないため、購入後はなるべく早く食べるようにしましょう。保存する場合は、冷蔵庫で短期間保存するのがおすすめです。
ビワの味わい方:そのままから加工食品まで
ビワは、みずみずしい生の果実を味わうのが一般的ですが、風味を生かした様々な加工品としても楽しまれています。例えば、甘酸っぱいジャム、上品なコンポート、とろけるようなシロップ煮、手軽な缶詰などがあります。また、ビワの実を使った果実酒は、自家製ならではの味わいが楽しめます。特に、ビワの種子だけで作られたビワ種酒は、杏仁豆腐を思わせる独特の香りが特徴で、愛好家の間で珍重されています。ビワの産地として知られる富浦町(現在の南房総市)が出資した第三セクター「枇杷倶楽部」では、ビワ缶詰、ビワジャム、ビワアイスクリームなど、30種類を超える多彩なビワ関連商品を開発・販売し、ビワの魅力を発信しています。
ビワの恵み:栄養と効能
ビワの果肉には、体内で必要に応じてビタミンAに変換されるβ-カロテンや、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種、タンニンなどが含まれています。また、ビワの葉は「枇杷葉(びわよう)」、種子は「枇杷核(びわかく)」と呼ばれ、古くから民間療法で咳止めや下痢止めとして利用されてきました。枇杷葉には、タンニンなどの収斂作用に加え、サポニンなどの鎮咳作用を持つ成分が含まれています。乾燥させたビワ葉は、ビワ茶として飲用されるほか、患部に直接貼るなど、生薬としても活用されています。
ビワの注意点:アミグダリンとシアン化水素
ビワの種子や葉には、アミグダリンという天然の化合物が含まれています。アミグダリン自体は無害ですが、体内で分解される過程でシアン化水素を生成します。ごく微量のシアン化水素は人体で安全に処理できますが、過剰に摂取すると、嘔吐、顔の赤み、下痢、頭痛といった中毒症状が現れることがあります。大量に摂取した場合には、意識障害や昏睡を引き起こし、最悪の場合、死に至る可能性もあります。熟した果肉や、適切に加工された製品を通常の量で摂取する分には安全ですが、種子にはアミグダリンが特に多く含まれているため、生の種子を粉末状にした食品を摂取する際は注意が必要です。厚生労働省も、ビワや杏などの種子を使用したレシピについて、注意喚起を行っています。
ビワと文化:季語と格言
日本では、ビワは初夏の訪れを告げる季語として親しまれており、ビワの実がたわわに実る様子は、季節の風物詩となっています。また、冬には、枝先に淡い黄色の入った白い小さな花を咲かせ、その芳醇な香りは初冬の季語として詠まれます。ビワは種から育てると実がなるまでに長い年月がかかることから、「桃栗三年柿八年、枇杷は早くて十三年」という言葉があります。また、「ビワを庭に植えると良くない」という言い伝えもありますが、これはビワの根が広範囲に広がるため、家屋に影響を与える可能性があるためと考えられています。ビワの花言葉は、「温和」「あなたに打ち明ける」です。
まとめ
ビワは、その甘美な味わいで人々を魅了するだけでなく、昔から健康維持にも役立つ植物として重宝されてきました。生育環境、品種の違い、栄養成分、期待できる効果、安全性に関する知識を持つことで、ビワの魅力をさらに深く理解できるでしょう。旬を迎える初夏の時期には、ぜひビワを味わってみてください。