コクワの実:小さくて美味しい山の恵み

山で見かける愛らしいコクワの実。別名サルナシとも呼ばれ、その名の通り、昔から猿たちも好んで食してきた山の恵みです。見た目は小さなキウイフルーツのようで、一口食べれば、凝縮された甘みとほのかな酸味が口いっぱいに広がります。子供の頃、山でコクワを見つけては、夢中で頬張った記憶がある方もいるのではないでしょうか。今回は、そんな懐かしい味わいのコクワの実について、その魅力や栄養、食べ方などを詳しくご紹介します。

サルナシ(コクワ)とは?

サルナシ(猿梨、学名:Actinidia arguta)は、別名シラクチカズラ、シラクチヅル、コクワ(小桑)、シラクチ、ヤブナシなどとも呼ばれる、マタタビ科マタタビ属の落葉性のつる植物です。多くの場合、雌株と雄株が別々に存在しますが、雌雄が混在する株もあります。山地に自生し、小さなキウイフルーツのような果実を実らせ、その甘酸っぱさが特徴です。サルナシという名前は、猿が好んでこの実を食べることに由来すると言われています。

サルナシの分布と生育環境

サルナシは、日本、朝鮮半島、中国などに分布しており、日本では北海道から九州まで広く見られます。特に北海道や長野県に多く、山間部の平地から山地にかけて、沢沿いや林の中に自生し、他の樹木に絡みついて成長します。本州中部以南の比較的温暖な地域では、標高600m以上の山岳地帯に自生することが多く、寒冷な地域では標高100mに満たない里山でも見られます。

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サルナシの特徴:外観と生態

サルナシは、落葉性のつる植物であり、他の樹木や岩などに絡みつきながら成長します。幹の直径は15cm程度、高さは30mに達することもあります。つるは太く、巻き付いた木を締め付けるほどの力があります。樹皮は滑らかな灰白色で、成長すると薄く剥がれることがあります。一年枝は褐色で、最初は毛がありますが、次第に無毛になります。葉は広卵形から広楕円形で、長さ6 - 10cm、幅5cm程度です。葉の先端は尖り、基部は丸みを帯びており、やや厚みがあり、表面には艶があります。裏面には細かい大小不揃いの毛が生えています。葉柄は長く、赤茶色で2 - 8cm程度です。秋になると紅葉し、落葉します。花期は初夏(5 - 7月)で、雌雄異株または雌雄雑居性です。花は白色の5弁花で、葉の付け根から下向きに垂れて咲きます。雄花は数個まとまって咲き、雌花は単独で咲きます。花の直径は1 - 1.5cmで、葯は黒紫色をしています。果期は8月中旬から10月にかけてです。秋に実る果実は液果で、キウイフルーツを小さくして無毛にしたような見た目で、楕円形から球形をしており、先端は尖っていません。熟すと淡緑色の2 - 3cm程度の大きさになります。果実の中には細かい種子が多数入っており、味は甘く、キウイフルーツに似ています。果実は落葉後も枝に残ることがあります。

サルナシの栽培方法

サルナシは、もともと高冷山間地が自生地であるため、山間地域での栽培に適していると考えられています。長野県ではサルナシの栽培が盛んで、西日本では生産量で全国トップクラスを誇る地域もあります。その地域では、40年以上前から栽培が行われており、2001年には生産者たちが集まり「サルナシ栽培研究会」を設立し、特産品としての普及に力を入れています。現在は、村内で自生しているものと、東北地方から導入した2種類の品種を用いて、加工品の生産にも取り組んでいます。栽培特性の向上や食味の改善を目指して、自生株(野生種)からの選抜や近縁種との交配による新品種の開発も行われており、長野県などで栽培されています。

コクワの収穫時期と果実の販売

コクワの旬は、おおよそ9月下旬頃です。生で味わえる果実は、地元の直売所や一部の販売店でのみ、時期を限定して販売されることが多いですが、事前に問い合わせれば購入できる場合もあります。コクワを使った手作りジャムや、コクワシュガーなどの加工品は、販売店の店頭だけでなく、オンラインショップでも手軽に購入できます。また、コクワが収穫できる時期は、プルーンやラズベリーなども旬を迎えるため、普段はなかなか体験できない珍しい果物狩りを楽しめる果樹園も存在します。

コクワの利用法:食用としての魅力と薬効

秋に熟したコクワの果実は、甘みと酸味が絶妙なバランスで、そのまま生で食べるのはもちろん、ジャムや果実酒などに加工して楽しむこともできます。コクワはキウイフルーツと近い親戚関係にあり、果肉の味や色が似ているため、「ミニキウイ(またはキウイベリー、ベビーキウイ、デザートキウイ、カクテルキウイなど)」と呼ばれることもあります。完熟したものが最も美味しく、少し早めに収穫したやや硬めの実でも、追熟させることで美味しく生食できます。ただし、傷みやすい点には注意が必要です。口に含むと、独特の芳醇な香りと、甘みと酸味のハーモニーが楽しめます。コクワの実を焼酎に漬け込んで作る果実酒は「コクワ酒」と呼ばれ、コクワ酒を作る際は、熟しすぎていない、やや硬めの実を使用するのがおすすめです。完全に熟したものは、ジャムやゼリー、ジュースなどに加工され、商品として販売されています。コクワの果実には、ビタミンCが豊富に含まれています。春から初夏にかけて収穫できる、柔らかくて太めの若芽は、さっと茹でて水にさらし、冷ましてから、和え物や汁物の具、煮物、天ぷらなどにして食べたり、生のままサラダなどにして味わうこともできます。また、コクワは薬用としても利用され、疲労回復に効果があると言われています。

コクワと野生動物:生態系における重要な役割

コクワは、野生動物にとって貴重な食料源であり、特に日本では、クマやサルなどが好んで大量に食べることで、種子を広範囲に散布する役割を担っています。サルを含む多くの哺乳類の好みに合う味であること、そして、哺乳類が発達した嗅覚を刺激する香りを持つことから、コクワは主に哺乳類による果実の摂食を通じて種子を散布してもらうという進化を遂げた植物であると考えられています。

コクワの近縁種:シマサルナシ

コクワとよく似た植物に、同じマタタビ属のシマサルナシ(島猿梨、学名:Actinidia rufa)があります。シマサルナシは、本州西部以南、四国、九州の沿岸地域に分布しており、山林の林縁などに自生しています。雌雄同株で、雌雄異花のつる性落葉小高木であり、灰褐色のつるには縦横に深い亀裂が入るのが特徴です。葉は長さ10 cm、幅6 cm程度の卵状広楕円形で、コクワよりもやや幅広いです。花期は5月から6月頃で、直径15 mmほどの小さな花が多数咲きます。果実は長さ4 cm、直径25 mm程度の褐色の広楕円形で、外見がそっくりなキウイフルーツは、シマサルナシを改良した品種であると言われています。シマサルナシの果実も同様に食用とされ、少ししなびたくらいの頃が最も甘く、美味しく食べられます。

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コクワにまつわる昔話:猿酒伝説

コクワ(サルナシ)はその名の由来通り、猿たちが大好物とする果実です。しかし、食べきれないほどの量を、木の根元や岩の陰にあるくぼみに残していくことがあると言われています。猿自身も、時にはコクワの実をうっかり置き忘れてしまうようです。そうして残された実は、雨や露に濡れ、寒暖差を受けるうちに自然と発酵し、いつしか珍しい「猿酒」と呼ばれるお酒に変わる、という物語が、山里に暮らす人々の間で語り継がれてきました。コクワだけでなく、山ぶどうにも同じような話があり、猿の排泄物が発酵を助ける役割を果たす、という説も存在するようです。

まとめ

コクワ(サルナシ)は、キウイフルーツを思わせる独特の風味と、山に自生する希少性から、多くの人々を惹きつける魅力的な果実です。そのまま食べるのはもちろん、ジャムにしたり、お酒に漬けたりと、様々な楽しみ方ができます。もし山で見かける機会があれば、ぜひ一度その味を試してみてください。また、比較的簡単に栽培できるため、家庭菜園で育てるのもおすすめです。コクワの豊かな恵みを存分に味わい、自然の恵みに感謝しましょう。

コクワはどこで入手できますか?

コクワは、地元の農産物直売所やインターネット通販で購入することができます。また、コクワ狩りができる観光農園もあります。

コクワの美味しい時期はいつですか?

コクワが最も美味しい時期は、8月中旬から10月頃にかけてです。収穫のピークは9月下旬頃となります。

コクワ(サルナシ)を美味しく味わうには?

コクワは、そのまま生でいただくのが格別です。また、ジャムにしたり、果実酒として楽しむのも良いでしょう。

コクワ