最近、スーパーなどでデラウェアを目にする機会が減ったと感じることはありませんか?その背景には、消費者の味覚の変化や、ぶどう農家の栽培戦略の変化が深く関わっています。かつてデラウェアは、昭和の時代にはお盆のお供え物の定番であり、お下がりとして食べた時の、果肉がツルッと出てくる面白さと、濃厚な甘みが魅力的な、家庭で親しまれるぶどうでした。しかし、現在では以前ほどの存在感はありません。デラウェアの生産量の推移を見ると、1980年代には年間10万トン以上が出荷されていましたが、2000年代には約4万トンにまで減少しています。この出荷量減少の背景には、海外産ぶどうの輸入自由化や、国内での高価格帯品種への移行といった、農業を取り巻く経済的、社会的な事情が複雑に絡み合っています。この記事では、なぜデラウェアを最近見かけなくなったのか、その理由を生産量のデータや品種の特徴、市場の動向、そして若い生産者の取り組みなどを通して、詳しく解説します。デラウェアが持つ魅力と、現代の市場で再び注目されるための可能性を探ります。
デラウェアを見かけなくなった背景にある理由
デラウェアは、かつて夏の果物としてスーパーに並んでいました。昭和の時代には、ぶどうといえばデラウェアであり、家庭で食べるぶどうもほとんどがデラウェアだったように思います。房のサイズは手のひらほどで、粒は小指の先ほどの大きさでした。子供でも簡単に皮をむいて食べられ、濃厚な甘さが特徴でした。しかし、最近では7月中旬から下旬にかけてスーパーに並ぶものの、売り場は小さくなり、他の果物の棚の端に置かれているのが現状です。身近な果物だったデラウェアの存在感が薄れてしまったのは、単一の原因ではなく、様々な要因が関係しています。日本の農業が抱える問題、消費者のライフスタイルの変化、そして国内外の市場競争などが、デラウェアの生産と流通に影響を与えているのです。これらの要因を深く掘り下げることで、デラウェアの現状と未来が見えてきます。
農家の減少と高齢化がデラウェア生産に及ぼす影響
日本全体の高齢化は、農業にも影響を与えています。ぶどう農家も例外ではなく、高齢化による後継者不足や引退によって、デラウェアを栽培する農家の数が減少し、生産量減少の要因となっています。丹精込めてデラウェアを育てていた農家が減ることで、市場に出回るデラウェアの量が減少し、消費者が目にする機会も減っています。山形県高畠町の和田地区にルーツを持つ若手農家の髙橋善祐さんは、地元を訪れた際に「見渡す限りぶどう畑だったのに、今は切り株ばかりだ」と語っています。デラウェアの人気が落ち込み、生産者の高齢化が進む中で、廃業する農家が多い状況が、日本の多くのデラウェア産地で起きています。経験豊富な農家が引退する一方で、新規就農者がデラウェアを選ぶケースは少なく、後継者不足がデラウェア栽培の将来に影響を与えています。
消費者の嗜好の変化とデラウェアの課題:甘さと手軽さのニーズ
近年、消費者の間で人気を集めているのは、「甘みが強く、酸味が少ない果物」です。例えば、いちごの「あまりん」やぶどうの「シャインマスカット」などがあります。これらの品種は、甘さだけでなく、食べやすさも兼ね備えています。シャインマスカットは皮ごと食べられ、種もないため、手軽に楽しめます。一方、デラウェアは「種がある」「皮をむく必要がある」「酸味がある」といった点があります。食卓での手間を避けたいというニーズが高まる中で、デラウェアの特徴が消費者の求める手軽さや甘さのニーズと合わなくなり、人気が低下したと考えられます。特に子供のいる家庭では、種を出す手間や皮をむく手間が敬遠され、より手軽に食べられる他の品種へと需要がシフトしています。この消費者の嗜好の変化が、デラウェアの存在感を薄くする要因となっています。
高収益品種への移行とデラウェア栽培の経済性
デラウェアが市場で見かけることが少なくなった大きな要因として、農家が栽培するぶどうの品種を、デラウェアからより収益性の高い品種へと変更したことが挙げられます。デラウェアは、スーパーでの販売価格が1房あたり300円程度と比較的安価なため、農家にとっては少量多売の構造になりがちです。一方、近年人気の高いシャインマスカットは、1房3000円で販売されることも珍しくなく、デラウェアと比較して同じ労力でも単純に10倍の利益を得ることが可能です。このような経済的な合理性から、多くの農家がシャインマスカットやピオーネなど、より収益性の高い品種への転換を進めています。山形県高畠町の若手農家、髙橋善祐さんも、デラウェア栽培を続けながら、譲り受けた他のぶどう畑で大粒ぶどうの植え替えを検討していると述べており、こうした品種転換は全国的な傾向です。農家が収益を最大限にしようとするのは当然の経営判断であり、この品種転換の流れはデラウェアの栽培面積と生産量に大きな影響を与え、結果的に市場におけるデラウェアの供給量を減少させる要因となっています。
国内外の市場動向がデラウェアの存在感を変えた要因

海外とのぶどうの輸出入の状況も、デラウェアの市場における存在感の変化に深く関わっています。2010年頃からアメリカやチリからのぶどうの輸入量が増加し始め、さらに2014年にオーストラリアからの輸入が許可されたことで、輸入量は大幅に増加しました。これらの輸入ぶどうは、日本でぶどうが収穫できない冬、秋、夏の時期に安定して供給されるだけでなく、皮ごと食べられる高品質な品種が多く、新しい消費者ニーズに応えました。その結果、日本の消費者は一年を通して様々な種類のぶどうを楽しめるようになり、デラウェアが担っていた「夏のぶどう」という役割の一部が薄れていきました。その一方で、日本のぶどうの海外への輸出も2015年頃から目覚ましく増加しています。特にシャインマスカットなどの人気品種が積極的に海外市場へと輸出されるようになったことで、日本のぶどう全体の価格が大幅に上昇しました。ぶどうの価格は、みかんやりんごといった他の主要な果物と比較しても、この時期に2倍以上に跳ね上がっていることがデータからも明らかになっています。この価格の大幅な上昇は、シャインマスカットのような高価格品種を生産する農家をさらに増やし、結果的にデラウェアの生産量が徐々に減少していくという背景を作り出しました。国内外の市場の変化が、デラウェアの生産と供給のバランスを大きく変えたと言えるでしょう。
まとめ
デラウェアを最近見かけなくなったのは、一つの理由だけではなく、様々な要因が複雑に絡み合っているためです。主な要因としては、日本の農業全体で問題となっている農家の高齢化と後継者不足による生産者の減少、消費者の間で「酸味が少なく甘くて種なし」という手軽さを求める傾向が強まったこと、そして何よりも農家がより高い価格で販売でき、より多くの利益が期待できるシャインマスカットやピオーネといった新しい品種に作付けを切り替えた経済的な判断が大きく影響しています。さらに、2010年代以降の外国産ぶどうの輸入自由化と、国産ぶどう、特にシャインマスカットの輸出増加が、国内市場におけるデラウェアの相対的な位置づけを変化させました。かつてぶどうの代表格だったデラウェアの生産量は、1980年代の10万トン以上から2000年代には4万トン程度まで減少し、栽培面積も過去10年間で大きく縮小しています。しかし、デラウェアは1855年に命名され、1872年(明治5年)に日本に導入された歴史ある品種であり、糖度20~23度と非常に甘く、高い酸味との絶妙なバランスが魅力のぶどうです。山形県はデラウェアの生産量が日本一であり、特に高畠町の和田地区は恵まれた自然条件を持つ産地として知られています。この地域では、髙橋善祐さんのような若手農家が、衰退していく産地の現状に危機感を抱き、ワイナリー設立を計画するなど、デラウェアの産地再生に向けた新たな挑戦を始めています。彼のデラウェアは2023年の品評会で優秀賞を受賞するなど、現代のデラウェアは品種改良が進み、以前のイメージとは異なり、非常に美味しい品種となっています。消費者の皆様が改めてその魅力に気づき、様々な品種の中からデラウェアを選んで楽しむことで、再び店頭で見かける機会が増えるかもしれません。デラウェアが、伝統と革新の中で新たな価値を見出し、未来へと繋がっていくことを心から願っています。
デラウェアを最近見かけなくなった主な理由は何ですか?
デラウェアの生産量が減少した主な理由としては、農家の高齢化と後継者不足による生産者の減少、消費者の「酸味が少なく甘い果物」を好む嗜好の変化、そしてデラウェアよりも高価格で収益性の高いシャインマスカットやピオーネなどの新しい品種への農家の作付け転換が挙げられます。また、外国産ぶどうの輸入増加や国産ぶどうの輸出増加といった国内外の市場の変化も影響しています。
デラウェアはシャインマスカットよりも甘味が強いのでしょうか?
デラウェアの糖度は一般的に20~23度程度とされ、シャインマスカットの15~17度と比較すると、かなり高い数値を示しています。ただし、デラウェアは酸味も持ち合わせているため、ただ甘いだけでなく、甘味と酸味が調和した、メリハリのある味わいが魅力です。一方、シャインマスカットは酸味が穏やかで、皮ごと食べられる点が広く支持されています。
デラウェアをより美味しく味わうための秘訣はありますか?
デラウェア本来の風味を存分に楽しむには、皮をむかずに口に運び、口の中で皮を剥いて、あふれ出る果汁を味わうのがおすすめです。酸味が気になる場合は、果肉を噛まずにそのまま飲み込むことで、外側の甘い果汁をより堪能できます。冷蔵庫でしっかりと冷やすと甘味が増し、さらに美味しくいただけます。また、乾燥させてレーズンにしたり、冷凍保存することで、皮を気にせずに手軽に楽しむこともできます。













