柿が実りの秋を迎えると、生で味わうだけでなく、栄養価が高まり、より甘みが凝縮された干し柿を心待ちにする人も多いのではないでしょうか。干し柿は別名「吊るし柿」とも呼ばれ、通常は柿のヘタと軸を残し、そこに紐を結びつけて吊るして乾燥させるのが一般的です。しかし、軸付きで収穫するのは手間がかかりますし、お店で買う柿や人からいただく柿には軸がないことも珍しくありません。そのため、「軸のない渋柿(ヘタなし柿)では干し柿は作れないのでは?」と諦めてしまう人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。軸がなくても、自宅で手軽に美味しい「自家製つるし柿」を作るための裏ワザがいくつか存在します。もし枝が残っていれば、そこに紐を引っ掛けるだけで簡単に干し柿を作れますが、軸がなくても美味しく仕上がらない、あるいは手間が増えるということは決してありません。自宅で手軽に、場合によっては1個あたり25円程度の低コストで、市販品にも劣らない絶品の干し柿を作り出すことは十分に可能です。吊るして干すことで、ザルなどで干す場合に比べてカビが生えにくく、より綺麗に、そして早く仕上がるという利点もあります。軸なし柿でも、市販の柿クリップを使う方法、ザルに並べて干す方法、串に刺して干す方法、そして特に大量に干す場合に安価で効率的な「みかんネット」を活用する方法など、様々な工夫で美味しい干し柿を作ることができます。ザルで干す場合は、下側が乾きにくいため、時々柿を裏返す必要があり、特にヘタ側を下にしたままにしておくとカビが発生しやすいという注意点もありますが、この記事で紹介する方法なら、そうした心配も無用です。今回は、自宅で簡単にできる、効果的な吊るし柿の作り方をご紹介します。ここでは平核無柿(ひらたねなしがき)を使って解説しますが、他の渋柿でも同様に作ることができます(枝なし四ツ溝柿でも実績あり)。干し柿は美味しいだけでなく、保存食や登山時の携帯食としても重宝するため、その魅力は計り知れません。
干し柿作りに最適な柿の選び方と品種の知識
美味しい自家製吊るし柿を作るためには、まず適切な柿を選ぶことが大切です。一般的に、干し柿には熟しすぎていない、固めの柿が適しています。柔らかすぎる柿は皮が剥きにくいだけでなく、乾燥に時間がかかり、途中で形が崩れたり、カビが生えやすくなったりする原因となります。そのため、少し青みが残っているくらいの柿がよく使われますが、それでも十分に甘く美味しく仕上がります。より甘い干し柿を目指すのであれば、赤く熟していてもまだ柔らかくなっていない、しっかりと固さのある柿を選ぶのがおすすめです。柿を選ぶ際には、ヘタやその周辺が綺麗なものを選ぶことも重要なポイントです。ヘタ周りは病気や害虫の被害を受けやすい部分であり、ヘタが汚れていたり、傷があったりすると、後々の工程でカビが発生する原因になることがあります。また、カメムシが柿を吸った跡が、ヘタの近くに茶色い傷として残っていることがありますが、これらは食べても問題ありません。気になる場合は、後述する皮むきの工程で削ぎ落とすこともできますが、多少味が落ちる程度なので、神経質になる必要はありません。このように、細部に注意して柿を選ぶことで、より高品質な自家製干し柿を作ることができるでしょう。
主要な渋柿品種:平核無柿(ひらたねなしがき)を深掘り
干し柿作りに適した渋柿には様々な品種がありますが、その中でも特に良く知られており、スーパーなどでも手に入りやすいのが「平核無柿(ひらたねなしがき)」です。この品種は新潟県が原産で、新津市古田地区には原木が今も残っています。平核無柿は、その産地によって様々な呼び名を持つことでも知られています。例えば、新潟県では「八珍柿(はっちんがき)」、佐渡島では「おけさ柿」、そして山形県では「庄内柿(しょうないがき)」と呼ばれています。庄内柿という名称は品種名ではなく、山形県庄内地方で栽培された平核無柿の地域ブランド名です。その歴史は、明治初期に庄内藩家老職の酒井調良が、新潟原産の平核無柿の苗木を山形県庄内地方に持ち帰り、栽培を始めたことに由来します。さらに、その庄内柿の穂木が佐渡島に持ち込まれ、栽培されるようになったものが、おけさ柿となったとされています。平核無柿は平べったい四角い形をしており、種がないのが特徴で、スーパーなどでもよく見かけるでしょう。筆者も以前は平核無柿を甘柿だと思っていましたが、実際には渋柿であり、市場に出回っているものは渋抜き処理(さわし柿、抜き柿)が施されているものがほとんどです。同じく平核無柿の枝変わり品種である「刀根早生柿(とねわせがき)」も同様に、渋抜きされたものが流通しています。これらの渋抜きされた柿は、渋を抜く工程を経ているとは信じられないほど、しっかりとした歯ごたえがあり、美味しく、そこには柿の生産・加工に携わる人々の長年の知恵と努力が詰まっていることが感じられます。これらの品種を選ぶことで、質の高い干し柿作りを心ゆくまで楽しめるでしょう。
自宅で実践!軸なし柿で自家製吊るし柿を作る具体的な手順
軸がない柿でも、以下の手順に従えば、自宅で手軽に美味しい吊るし柿を作ることができます。今回は特に、大量に干す際にも効率的で安価な「みかんネット」を使った方法と、少量の柿に最適な「竹串」を使った方法の両方を詳しく解説します。干し柿作りで最も重要なのは、丁寧な下準備と、適切な乾燥・熟成です。
はじめに:共通の下準備
美味しい干し柿を作るには、吊るし方に関わらず、事前の準備が非常に大切です。特に、皮を丁寧に剥くことと、熱湯消毒をしっかりと行うことが、カビを防ぎ、最高の干し柿に仕上げるための重要なポイントとなります。
1. まず、柿の上部にあるヘタとその周辺の皮を包丁で切り落とします。その後、ピーラーを使って残りの皮を丁寧に剥いていきます。以前はヘタをハサミで切り、ピーラーで皮を剥いていましたが、この方法だとヘタの周りの皮が剥き残ってしまうことがありました。そこで、効率的な方法として、包丁を寝かせるように固定し、柿を回転させながらヘタの「がく」の部分を切り落とすのがおすすめです。こうすることで、ヘタ周りがすっきりとし、後の作業がスムーズに進みます。残りの皮は、切れ味の良いピーラーを使うことで、無駄なく綺麗に剥けます。長年yaxellのステンレスピーラーを愛用していましたが、現在は手に入りづらいようです。皮を剥いていると、茶色い傷のようなものが見えることがありますが、これはカメムシが柿を吸った跡と言われています(柿農家の方から教わりました)。食べても問題はありませんが、干すとこの跡が黒く目立つことがあります。気になる場合は、あらかじめ薄く削ぎ落としておくと良いでしょう。ただし、完全に除去できなくても、味が大きく損なわれるわけではないので、神経質になる必要はありません。
2. 次に、熱湯消毒を行います。柿を約10秒間、熱湯に浸してください。この工程は、カビの発生を抑えるために非常に重要です。熱湯に浸ける時間を30秒に延ばしたり、塩やお酢を加えたりする方法もありますが、色々な方法を試した結果、効果に大きな差は見られませんでした。そのため、私はシンプルに10秒間浸ける方法を採用しています。特にみかんネットを使用する場合は、熱湯に長く浸けすぎるとネットや輪ゴムが溶けてしまう可能性があるため、注意が必要です。柿をお湯に入れると、紫色のようなアクが出てくることがありますが、これは渋みの原因となる柿タンニン(ポリフェノールの一種)なので心配はいりません。ただし、熱湯消毒後に鍋をきちんと洗わないと、柿タンニンがこびり付いて紫色が取れなくなることがあるので注意が必要です。この工程を丁寧に行うことで、干し柿を清潔に保ち、カビのリスクを減らすことができます。
方法1:竹串とひもを使った吊るし方
ヘタ(軸)がない柿を吊るす手軽な方法として、焼き鳥用の竹串と紐を使った方法があります。これは、少量だけ干し柿を作りたい場合に特におすすめです。
1. まず、焼き鳥用の竹串を柿のヘタの下から刺し、そのまま反対側まで貫通させます。この時、ヘタのすぐ近くを刺すと、ヘタに当たって上手く貫通しないことがあるため、ヘタから約5mmほど下を狙うとスムーズに刺すことができます。竹串は、100円ショップなどで簡単に手に入れることができます。
2. 次に、用意した紐に結び目を作り、そこに柿に刺した竹串を通します。紐の反対側にも同じように結び目を作り、竹串を通してください。こうすることで、1本の紐に4~5個程度の柿を繋げて吊るすことができます。紐の長さは、柿を5個繋げる場合は、約1メートルを目安に用意してください。
方法2:みかんネットを使った吊るし方
枝のない柿を大量に、かつ効率的に干し柿にしたい場合は、みかんネットを使うのが最適です。みかんネットは安価で手に入りやすく、一度にたくさんの柿を処理できるのが大きなメリットです。
1. 柿の皮を剥いたら、みかんネットに柿を入れていきます。柿を入れる際は、ヘタを上にして入れるようにしましょう。こうすることで、干し上がった柿の形が綺麗に仕上がります。柿と柿の間は、輪ゴムで区切ります。輪ゴムは二重にすると、ちょうど良い間隔を保つことができます。仕切りがないと、柿同士が近すぎて風通しが悪くなり、乾燥が遅れてカビが生えやすくなるので注意が必要です。柿が1個あたり約150gの場合、みかんネット1本に4個入れるのが目安です。詰め込みすぎると、柿が乾きにくくなってしまいます。みかんネットの口は、最後に輪を作るようにして閉じると、S字フックなどを引っ掛けやすくなります。もしみかんネットの長さが足りない場合や、手元にない場合は、ビニール紐で代用することも可能です。紐で輪を作って結ぶか、上部の網目に交互に紐を通すことで、縛らなくても口を閉じることができます。先に柿を4個ほど入れてから、輪ゴムで仕切るという順番でも問題ありません。この方が上部で輪を結びやすいですが、柿を詰め込みすぎると、やはり乾きにくくなるので注意が必要です。
2. みかんネットに入れた柿を、干す前に重さを測り、記録しておきましょう。これは、乾燥具合を確認するために重要な作業です。干す前と干した後の重さを比較することで、乾燥の進み具合を判断できます。吊り下げて測れるデジタルスケールがあると便利です。全ての柿の重さを測る必要はなく、2~3本のネットを測るだけでも十分な目安になります(私は記録魔なので、全ての重さを測って記録していますが、乾き具合に大きな差はありませんでした)。どのネットの重さか分からなくならないように、ネットごとにタグを付けて管理することをおすすめします。マスキングテープに番号を書き、S字フックに貼り付けるなど、分かりやすい方法で管理してください。
まとめ
ヘタ(軸)がない柿でも、竹串と紐を使う方法や、みかんネットを使う方法で、手軽に美味しい干し柿を作ることができます。これらの方法なら、カビの発生を抑えながら、綺麗で効率良く干し柿を作ることが可能です。柿の選び方、包丁とピーラーを使った皮むき、カビを防ぐための熱湯消毒、竹串やみかんネットを使った吊るし方、日当たりと風通しの良い場所選び、甘みと食感を左右する揉み作業、重さで乾燥具合を判断する方法(干す前の30~33%が目安)、冷凍・冷蔵による熟成と保存方法など、ご紹介した手順とコツを実践すれば、毎年美味しい自家製干し柿を楽しめるでしょう。特に、みかんネットを使う方法は、たくさんの柿を一度に処理できるだけでなく、柿の形が整いやすく、柔らかく仕上がる傾向があるという発見もありました。また、干し柿作りの副産物である柿の皮の活用法や、他の自家製保存食作り、防災への意識向上など、自家製保存食作りには様々な魅力があります。ぜひ旬の柿を使って、栄養価も高く、甘くてしっとりとした自家製干し柿作りに挑戦してみてください。この記事が、皆さんの干し柿作りのお役に立てれば幸いです。
軸がない柿でも本当に吊るし柿は作れますか?
ご安心ください。軸がない柿でも吊るし柿を作ることは可能です。この記事でご紹介しているように、例えば、焼き鳥に使う竹串をヘタの根元に差し込み、そこに紐を結んで吊るす方法や、市販のみかんネットを活用して柿を吊るすといった工夫ができます。これらの方法を試せば、軸の有無に関わらず、ご自宅で美味しい吊るし柿を堪能できます。
吊るし柿を作る際に、柿はどのようなものを選ぶべきですか?
吊るし柿作りに最適なのは、まだ熟しきっていない、 твердый 柿です。柔らかすぎる柿は作業が難しく、乾燥中に形が崩れたり、カビが発生するリスクが高まります。より甘い干し柿を目指すなら、赤みを帯びていても твердый ものを選ぶと良いでしょう。また、カビを防ぐためには、ヘタ周辺が綺麗で、病害虫の被害を受けていない柿を選ぶことが重要です。
干し柿を干す期間はどのくらいが目安ですか?
吊るし柿の乾燥期間は、通常10日から2週間程度が目安となります。ただし、これは天候、気温、湿度、柿のサイズ、そして個人の好みの твердый さによって調整する必要があります。私自身は、乾燥前の重さから約30%(あんぽ柿の場合は35〜45%)水分が抜けた状態を目安にしています。乾燥中に柿の表面に透明感が出てきたら、完成間近のサインです。