日本料理に欠かせない柑橘類、ゆず。その爽やかな香りは食卓を彩り、冬至のゆず湯は心身を温めます。家庭菜園でも育てやすい果樹として人気があり、自家製ゆずの収穫は格別です。この記事では、初心者でも安心してゆず栽培を始められるよう、苗選びから収穫までのポイントを丁寧に解説します。日々の管理方法や病害虫対策もご紹介。ゆずの木を育て、実りの秋を迎えましょう。
ユズ栽培の概要
ユズは、その芳醇な香りと独特の風味で、日本の食文化に深く根ざした柑橘類として知られています。料理に爽やかな風味を添える果汁や果皮は、多くの人々に愛されています。また、冬至のユズ湯は、日本の四季を感じさせる風習の一つです。ご家庭の庭でも比較的容易に栽培でき、自家製のユズを収穫する喜びを体験できます。ユズの木は比較的丈夫で、適切な手入れをすれば枯れる心配は少ないでしょう。
ユズ栽培に適した環境
ユズは他の柑橘類に比べて耐寒性がありますが、栽培場所を選ぶことが重要です。柑橘類の中では比較的寒さに強いユズですが、-9℃を下回ると成木が枯死する可能性があります。また、-7℃を下回ると、3年未満の若い木が枯れてしまうこともあります。栽培に適した環境としては、最低気温が-7℃を下回らない地域が理想的です。ただし、-5℃を下回ると葉が凍傷を起こして落葉してしまうため、温暖な地域ほど栽培に適しています。降水量が多いほど果実の生育が促進され、大玉のユズが収穫できます。日当たりと水はけの良い場所を選び、土壌は弱酸性(pH6.0〜6.5)に保つようにしましょう。
ユズの品種選び
ユズには様々な品種が存在します。選ぶ際には、大玉で早期に実がなりやすく、トゲが少ない品種を選ぶと良いでしょう。また、ステムピッティング病や、かいよう病などの病気に強い品種を選ぶことも重要です。苗木を選ぶ際は、病害虫の被害がなく、接ぎ木部分がしっかりと結合しているかを確認しましょう。
土づくりと植え付け
植え付けの最適な時期は、新芽が動き出す前の3〜4月です。ユズは常緑樹なので、暖かくなってからの植え付けが基本です。植え付け時期が決まっている場合は、前年の12月頃から植え穴を掘り起こして土づくりを始めると良いでしょう。掘り起こした土を冬の寒さにさらすことで、土中の病害虫や有害なガスを取り除き、根が張りやすい環境を整えることができます。土づくりでは、堆肥を毎年6kg以上施し、土壌中の有機物を増やします。土壌の酸度も調整し、pH6.0〜6.5程度の弱酸性に保つようにしましょう。石灰や苦土は、土壌検査の結果に基づいて適切な量を施用します。窒素肥料を年間300g以上施用すると土壌が酸性になりやすいため、苦土石灰を200g程度施用して中和すると良いでしょう。2月にこれらの作業を行い、軽く耕しておきます。乾燥しやすい時期には、適宜水やりを行い、光合成を促進することも重要です。接ぎ木部分から30〜40cm上で剪定し、高めに埋め戻した植え穴に根を広げて植え付けます。根に土がつくように軽く押さえ、植え穴の周りに土手を作り、たっぷりと水を与えます。水が浸透して土が湿ったら、マルチを敷き、支柱を立てます。植え付け後は、土が乾燥しないように水やりを丁寧に行いましょう。3〜4週間後に発芽し始めたら、肥料を与えます。50センチ四方を掘り上げて、堆肥20キロ、苦土石灰1キロを混ぜて置いておき、植え付け直前に市販の配合肥料を1キロ混ぜて植え付けます。
ユズの肥料管理
ユズ栽培において、春肥は非常に重要です。これは別名「元肥」とも呼ばれ、新芽の成長、葉の緑化、開花、結実、そして果実の肥大に不可欠な栄養を供給するからです。しかし、肥料の量という点では、夏から秋にかけての方が多く施します。なぜなら、この時期は気温と地温が高く、根の成長が活発になるため、肥料の吸収量が増え、効果も高まるからです。具体的には、6月の夏肥と9月の初秋肥が、果実の発育と樹勢の維持に役立ちます。特に実の多い木には、多めに肥料を与えましょう。秋肥は収穫時期と重なり、11月に行いがちですが、気温が下がると肥料の効果が出にくいため、収穫前の10月までに済ませるようにしましょう。6月と9月の施肥量が多かったとしても、果実の着色が遅れることがありますが、品質には影響ありません。肥料の割合は、チッソ10、リン酸6、カリ8が目安です。石灰、苦土、マンガン、亜鉛などは、ボカシ肥や堆肥マルチなどで補給できます。ユズの木を植え付けてから最初の3年間は、木を大きく成長させることに専念しましょう。庭で小さく育てたい場合や鉢植えの場合は、2年目から収穫できますが、最初の1年は実をつけさせないようにします。もし実がなってしまったら、6月までに全て取り除きましょう。木を大きくしたい場合は、3月から10月にかけて毎月肥料を与えます。月に1回、配合肥料を200グラムずつ根元に散布してください。小さく育てたい場合でも、6月と10月の2回は追肥を行いましょう。これは翌年からの収穫に影響します。鉢植えの場合は、毎月大さじ1杯の追肥を忘れずに行いましょう。収穫が始まった後は、3月、6月、10月の3回追肥することで、安定した生育を促せます。
ユズの剪定
剪定の時期は、木のなり年によって調整します。収穫量が多い年は早めに、少ない年は遅めに剪定を行いましょう。徒長枝を取り除くことで、剪定作業の8割は完了したと言っても過言ではありません。残りの作業は、十分に成長していない枝や込み合っている側枝を間引くことです。主枝の数を3本以下に抑え、収穫や病害虫対策などの作業がしやすい状態を目指しましょう。ユズの樹冠は、夏から秋にかけて伸びる徒長枝によって形成されます。これらの枝を放置すると、分岐角度が狭く直立しやすくなり、下枝がなくなって、ほうきを逆さにしたような樹形になってしまいます。その結果、実が樹冠の上部に集中し、収穫作業が困難になるだけでなく、果実に傷がつきやすくなります。また、病害虫の防除など、栽培管理全般が難しくなるため、以下の方法で整枝・剪定を行いましょう。まず、メインとなる主枝を3~4本、斜めに伸ばします。そして、主枝の進行方向とは逆の内側に向かって伸びる枝が密集しないように整理します。家庭でユズを栽培する場合は、数年間は剪定せずに、ある程度木が育ち、枝の選択肢が増えてから木の形を整えるのが簡単です。剪定は、木全体の2割程度に抑えるようにしましょう。木の中に木漏れ日が差し込む程度に透かすことを意識し、枯れた枝が発生しにくい状態を目指しましょう。枝が密集しすぎると、日の当たらない部分が枯れてしまうため、枯れ枝が増えてきたら、剪定が必要なサインです。また、枝にあるトゲを剪定時にできる限り取り除くことで、病気を予防し、収穫作業も楽になります。
幼木(樹齢10年まで)の整枝
基本的な作業は行いますが、幼木の時期は生育を促進することを優先し、枝の成長は自然に任せます。実をつけるようになる4年目までは、あまり整枝・剪定を行わず、木を育てることに集中しましょう。樹齢が4~5年になり、樹高が1.5m以上になったら、整枝を行い、主枝と亜主枝の候補となる枝を決定します。主枝は2~3本、亜主枝は主枝1本につき1~2本を目安とします。次に、主枝と亜主枝の先端部から同じ時期に伸びた枝を間引き剪定し、1~2本に絞ります。誘引して広げた主枝同士の間隔は1m以上とし、一番下の枝は先端が地面に触れるほど低く誘引します。それより上の枝は、分岐点と枝先の高さが同じになるか、枝先が下になるように誘引し、枝の勢いを弱めます。枝の分岐角度が狭い場合は、無理に誘引すると裂けやすいので、誘引する前に分岐点の上を縛っておくと良いでしょう。誘引後、倒した部分から伸びてくる徒長枝は、すべて剪定します。目指す樹形はあくまでも開心自然形なので、徒長枝を放置すると樹形が乱れてしまうので注意しましょう。主枝と亜主枝の先端部に発生した夏秋枝は、1~2本だけ残して、残りは剪定します。残した枝が長くて垂れ下がるようであれば、3分の1程度切り戻します。主枝、亜主枝の根元から発生した徒長枝は、早めに芽かきを行いましょう。樹齢が進んでくると、側枝が太く大きくなり、枝が混み合ってきます。また、主枝、亜主枝から直立した緑枝が大きくなっている場合もあるので、これらは間引き剪定します。ただし、3年以上経った太い枝は、切り口から枯れ込むことがあるため、根元から切らずに、一番下の枝だけを残して切り返し剪定をし、翌年に根元から剪除するという二度切りを行います。剪定したい枝が直径2cm以上の場合や、枝の根元に緑枝がない場合は、緑枝が発生するのを待ってから剪定するようにしましょう。剪定後の切り口には、必ず癒合剤を塗布して、枯れ込みを防ぎましょう。また、枯れ枝は丁寧に剪定し、トゲも太い枝には残らないように、剪定時はもちろん、日頃から剪除するよう心がけましょう。これらの誘引および剪定は、芽が出る前の3月中に行うことが重要です。剪定時期が遅れるほど、春に伸びる枝の発芽数と成長量が少なくなります。
ユズの病害虫対策
ユズには多くの病害虫が発生しますが、家庭での栽培では、ある程度の放任栽培を希望される方も多いと思いますので、いざという時に役立つ薬剤をいくつか紹介します。まず、「マシン油」は、安価で園芸用に調整されたオイルです。これを散布することで、ダニなどの小さな虫を窒息死させることができ、カイガラムシにも効果があります。次に、「ボルドー剤」は、銅と石灰を混ぜた薬剤です。見た目は良くありませんが、あらゆる病気から木を守る保護殺菌効果があります。万が一のために、ジマンダイセン水和剤とスミチオン乳剤という、安価で手に入りやすい殺菌剤と殺虫剤を手元に置いておくと役に立つでしょう。より徹底的に防除したい場合は、スプラサイド水和剤とデランフロアブルという薬剤がおすすめです。ただし、これらの薬剤は、専門性の高い園芸店やJAの資材センターでないと手に入りにくいかもしれません。特に注意が必要な時期は、病害虫が侵入しやすい3~4月と6~7月の2回です。これらの時期は特に注意して観察しましょう。そうか病、アブラムシ、ハモグリガなどの病害虫は、発生初期に徹底的に防除することが重要です。
ユズの摘果作業
ユズ栽培では、摘果を行うことで、果実一つひとつを大きく育てることが期待できます。さらに、摘果は、豊作の年と不作の年が交互に訪れる「隔年結果」と呼ばれる現象を抑制し、安定した収穫量へとつなげることが可能です。摘果は、その年の果実のためだけでなく、翌年の実りを豊かにするためにも重要な作業と言えるでしょう。摘果時期は早ければ早いほど効果的ですが、6月頃までは生理落下という自然に果実が落ちる期間があるので、それが終わってから始めるのがおすすめです。理想的な状態としては、一つの果実に対して葉が約100枚ある状態を目指しましょう。
ユズの収穫時期と方法
ユズは、糖度を上げる必要がないため、比較的早い時期から収穫を楽しめるのが特徴です。8月から9月にかけては青ユズとして収穫し、その後、年末にかけて黄色く熟したものを順次収穫していきます。完熟したユズは貯蔵期間が短いため、青ユズから積極的に収穫し、長く楽しみましょう。2月、3月頃まで貯蔵したい場合は、完熟する前に、9割程度の色づきで収穫を終えるのが理想的です。ユズ酢用には、少し緑色が残った7分着色の果実が適しており、爽やかで香りの高い酢を作ることができます。青果用としても、この時期に収穫した果実は浮皮が少なく、貯蔵性も高いため、品質が安定しています。もし完熟期に浮皮になる場合は、少し緑色が残る8〜9分着色の果実を収穫することで、冷所での長期貯蔵が可能になります。収穫する際は、果実にトゲで傷をつけないよう、周辺のトゲを丁寧に切りながら行いましょう。よく切れるハサミを使用し、果梗を2度切りすることで、果実を傷つけずに収穫できます。また、果梗が他の果実を傷つけないよう、短めに切るのがポイントです。
1年目の管理
1年目は、木の生育を促進し、樹冠を大きく広げることを目指します。肥料は、毎月1回、1本当たりチッソ15g、リン酸12g、カリ9gを、6月から10月にかけて施します。化学肥料だけでなく、ボカシ肥や油かすなどを株元から離して施すと良いでしょう。夏場は、1週間に1回、1本当たり30リットル以上の水やりを行います。また、株元の除草も忘れずに行いましょう。そうか病、アブラムシ、ハモグリガなどの病害虫が発生した場合は、初期段階で徹底的に防除することが重要です。冬場の凍害対策として、保温性の高い防寒資材を用いるほか、寒冷地では主幹部を土で覆うなどの対策が必要です。
2年目の管理
2年目も引き続き、樹冠の拡大を目指します。施肥、夏季の水やり、樹冠下の敷き草などは徹底して行いましょう。また、枝葉を病害虫から守ることも大切です。生育が旺盛な枝を主枝候補とし、分岐角度が狭い場合は、支柱を立てて誘引します。その先端から発生する束状の夏枝は、2本だけを残して摘芽します。秋枝も同様に、夏枝の先から出た芽を2芽だけ残して摘芽します。その他の枝は、伸びるだけ伸ばしておきますが、10月には枝の生育が終了するよう、遅れて伸びてきた枝は除去します。そうか病、アブラムシ、ハモグリガが発生した場合は、防除を行います。防寒対策としては、丈夫な支柱を立ててから、「寒冷紗」を使用するのがおすすめです。施肥量は1年目よりも少し増やし、チッソ16g、リン酸12g、カリ10gを3月から10月まで毎月1回施します。1年目と同様に、化学肥料だけでなく、ボカシ肥や油かすなどを株元から離して施しましょう。
3年目の手入れ
3年目になると、花を咲かせる株も出てきますが、実をならせると生育が鈍るため、蕾や花はすべて摘み取り、実をつけさせないようにします。これは、木を丈夫に育てるための大切な作業です。主枝として育てたい枝から、勢いの強い徒長枝(真上に伸びる枝)が生えてきますが、柔らかいうちにすべて取り除きましょう。そのままにしておくと、枝のバランスが崩れ、樹形が乱れる原因になります。主枝候補の枝先に出た枝は、夏枝、秋枝ともに2本だけ残し、他は早めに切り落とします。病害虫(そうか病、アブラムシ、ハモグリガ、ハダニ)の対策も重要で、発生初期に徹底的に防除しましょう。黒点病が発生しやすい地域では、6月中旬以降に予防を行います。肥料は2年目と同じ量を、3月から10月の間に毎月1回施します。化学肥料の他に、ぼかし肥料にした牛糞や油かすを与え、堆肥などで株元を覆う(マルチング)のも効果的です。ユズは柑橘類の中では比較的寒さに強い方ですが、5年目までは防寒対策をしっかりと行いましょう。
4〜5年目の手入れ
4年目になると、多くの株が花を咲かせ、実をつけ始めます。ただし、主枝の先端には実をつけさせず、内側の枝や下の方の枝に実をつけさせましょう。肥料の量は今までよりも増やし、チッソ25g、リン酸18g、カリ13gを、3月から10月の間に毎月1回施します。5年生になったらさらに増やし、チッソ30g、リン酸24g、カリ18gを同様に施します。病害虫は、そうか病、アブラムシ、ハモグリガ、ハダニに加え、実をつける株には灰色かび病、黒点病の予防も行います。剪定は、主枝と亜主枝を確立させることを意識して行います。防寒対策としては、主幹部分を稲わらや寒冷紗などで包み、樹冠部分はベタがけネットなどの軽い防寒資材で覆うと良いでしょう。
6年目以降の手入れ
6年目以降は、樹冠内部の込み合った枝を間引くように剪定し、主枝から発生する徒長枝は切り取るか、早めに摘み取るようにします。主枝候補は支柱で固定し、他の亜主枝や亜主枝候補、そこから出る側枝は、誘引して亜主枝、側枝を育てていきます。「木が大きくなったのに実がつかない」という話を聞くことがありますが、これは剪定のしすぎが原因と考えられます。強く切りすぎると、木が大きくなろうとする力が強くなりすぎるため、軽い間引き剪定で木の勢いを調整しましょう。
冬場の管理
ユズは比較的寒さに強い柑橘類ですが、まだ若い木や鉢植えの場合は、冬の寒さ対策が必要です。寒い地域では、株元を腐葉土や敷き藁で覆い、防寒ネットや不織布で覆うなどの対策を行いましょう。霜が降りる前に室内に取り込むのも有効な方法です。
柚子栽培で気をつけたいこと
柚子の木には鋭いトゲが多くあります。剪定や収穫作業を行う際は、怪我防止のために必ず手袋を着用してください。また、葉を食べるアゲハ蝶の幼虫が発生しやすいので、見つけたら早めに駆除することが大切です。柚子は一本の木だけでは実がなりにくい性質があるため、異なる品種を一緒に植えるか、人工授粉を行うことで実付きが良くなります。
まとめ
柚子の栽培は、適切な手入れをすれば、ご家庭でも香り高い実を収穫できる楽しい試みです。この記事を参考に、柚子栽培に挑戦して、自家栽培ならではの格別な香りと風味をぜひお楽しみください。