初夏の訪れを告げる爽やかな香り、山椒。その小さな実は、料理に奥深い風味と独特の刺激を加えてくれます。しかし、せっかく手に入れた山椒の実も、適切な乾燥と保存方法を知らなければ、その風味はたちまち失われてしまいます。そこで今回は、山椒の実の乾燥方法と、風味を長持ちさせる保存術をご紹介。この記事を読めば、ご家庭でも手軽に山椒の豊かな香りを一年中楽しむことができるようになります。さあ、山椒の世界へ足を踏み入れて、日々の食卓をより豊かに彩りましょう。
山椒の魅力:季節ごとの楽しみ方と収穫時期
山椒は、その花、葉、実すべてが食用になる、非常に有用なスパイスです。一年を通して、さまざまな時期に異なる部位を収穫し、食卓で楽しむことができます。山椒はミカン科サンショウ属の植物で、日本の各地の森林、特に多様な種類の木々が生い茂る雑木林の日陰に自生しています。山椒の木には雄と雌があり、実をつけるのは雌の木だけです。山椒の恵みは、春の訪れとともに、3月から4月にかけて収穫される柔らかい葉、通称「木の芽」から始まります。木の芽は、天ぷらやお吸い物、炊き込みご飯、煮物など、さまざまな料理に添えられ、その爽やかな香りで料理の風味を一層引き立てます。特に、同時期に旬を迎えるタケノコとの相性は抜群です。4月下旬頃になると、「花山椒」の収穫時期を迎えます。花が咲く直前のつぼみを摘み取って利用する花山椒は、まだ辛味が穏やかなため、佃煮や刺身のつまみとして、その繊細な香りを楽しみます。5月頃には、柔らかく青い「実山椒」を収穫できます。この時期の実山椒は、佃煮や煮物に適した、爽やかさと辛さのバランスが取れた風味が特徴です。丁寧にアク抜きをすることで、その風味を最大限に引き出すことができます。さらに、梅雨明け後の7月下旬頃にも実山椒の収穫時期がありますが、この時期の実は硬くなっているため、粉山椒の材料として適しています。初夏に収穫した青い実が、夏の強い日差しを浴びて熟し、9月から10月にかけて収穫されるのが「割山椒」です。割山椒は、青かった実が赤く色づき、中の黒い種がはじけて見える状態のものを指します。秋に収穫される割山椒は、木からたっぷりと栄養を吸収しているため、香りが豊かで、より強く爽やかな刺激があります。これを粉山椒に加工すると、市販の粉山椒とは比べ物にならないほどの深い香りが楽しめます(ただし、黒い種は取り除いて使用します)。このように、山椒は季節ごとに異なる表情を見せ、私たちの食卓を豊かに彩ってくれる貴重な食材です。
実山椒の収穫体験:緑色の実が放つ香りと収穫のコツ
山椒の実は、収穫時期によって状態や用途が大きく異なります。ここでは、5月から6月にかけて収穫する青い実山椒の収穫と、その後の加工についてご紹介します。私が実山椒を収穫したのは、2017年の6月20日。大家さんから「庭に山椒の木があるので、ぜひ採って食べてみてください」と声をかけていただいたのがきっかけでした。一般的に、柔らかい実山椒の収穫は、5月末から6月中旬に行うのが最適とされています。実の色が変わる前に、鮮やかな緑色のうちに摘み取ることが大切です。実際に収穫作業をしてみると、あたり一面に爽やかな香りが広がり、とても心地よい気分になりました。一度の収穫で、ざるいっぱいの実山椒を手に入れることができました。まだ小さい「山椒の赤ちゃん」のような実もありましたが、これらは大きく成長するまで待つことにしました。長崎県では、年によって5月末から6月中旬頃が収穫の目安となりますが、日当たりや標高、地域によって収穫時期が前後する可能性があるため、お住まいの地域の気候に合わせて調整することが大切です。また、梅雨が明けて暑い夏の盛りとなる7月下旬にも、青々とした実山椒を収穫できますが、この時期の実はすでに硬くなっているため、乾燥させて粉山椒を作るのに適しています。収穫の際は、目的に合わせて実の熟度や硬さを確認し、最適な時期を見極めることが重要です。
乾燥させて作る、香り高い自家製粉山椒
山椒の実を乾燥させて保存する場合、特に粉山椒を作る際には、手順が非常に重要になります。まず、収穫した実山椒を水で丁寧に洗い、砂や虫を落とし、不要な枝や葉を取り除きます。冷凍保存する場合とは異なり、乾燥させる際にはアク抜きは不要です。収穫したばかりの新鮮な山椒の実を、ざるやネットなどに広げ、太陽の光をたっぷり浴びさせて乾燥させます。収穫後すぐに乾燥作業に取り掛かることで、山椒本来の豊かな香りと風味を閉じ込めた、上質な乾燥山椒を作ることができます。収穫直後の青い実山椒を乾燥させると、実が自然に割れて、中から黒い種が出てきます。この黒い種を一つ一つ丁寧に取り除くことが重要です。「食べるのは緑色の外皮である」という点を覚えておきましょう。乾燥の度合いは、山椒の実の用途によって異なります。例えば、よく晴れた梅雨の合間に6時間ほど天日干しした場合、実山椒は弾けてカラカラの状態になりますが、この状態ではまだすりこぎで粉にしようとしても、実が潰れるだけで粉状にはなりません。これは乾燥が不十分なサインです。粉山椒を作るためには、さらに時間をかけて乾燥させる必要があります。天日干しを約1週間ほど続けると、実山椒は美しい朱色に変化します。完全に乾燥し、朱色に染まった実山椒は、すりこぎで簡単に粉状にすることができます。ミキサーを使用しても問題ありません。さらに、少し白っぽい皮が気になる場合は、ふるいにかけることで、より均一で風味豊かな粉山椒を作ることができます。自家製の乾燥山椒を粉山椒にすると、その凝縮された芳香は市販品では味わえないほどの素晴らしさです。一度体験すると、もう市販の粉山椒には戻れなくなるでしょう。粉山椒は、やはり挽きたてが一番です。実山椒を乾燥させた状態でストックしておき、使いたい時にすりつぶせば、一年を通して楽しむことができます。乾燥させることで保存性も高まり、ホールスパイスとして様々な料理に活用できるため、非常におすすめの保存方法と言えます。スパイスミルに乾燥山椒を入れておけば、いつでも挽きたての香りを楽しむことができます。うどんや鰻の蒲焼き、鶏の照り焼きなどの薬味としてはもちろん、中華料理で花椒の代わりに使ったり、スパイスカレーに加えても、その独特の香りが美味しさを一層引き立てます。私が使っているスパイスミルは、食材に合わせて挽く粗さを調整でき、セラミック製の刃を使用しているため、風味を損なわないのが特徴です。使うたびにゴリゴリと挽くことで、香りが立ち上り、最高の風味を堪能できます。挽きたての粉山椒を、ぜひ一度お試しください。
冷凍保存や佃煮に!実山椒のアク抜き方法
収穫した実山椒を冷凍保存したり、佃煮などの料理に使うには、丁寧なアク抜きが欠かせません。まず、摘み取ったばかりの実山椒には、不要な葉や小枝、軸などが混ざっていることがあります。これらは、大まかに取り除けばOKです。完璧に除去する必要はなく、後の工程、特に茹でた後で柔らかくなった状態の方が、ずっと取り除きやすくなります。次に、大きめの鍋にたっぷりの湯を沸かし、塩を少し(大さじ1程度)加えます。沸騰したら実山椒を投入し、茹でていきます。茹で加減の目安は、指で軽く押さえると潰れるくらいの柔らかさになるまで。私は大体10分くらい茹でますが、レシピによってはもっと短い時間で良いとされているものもあります。茹で時間は、実山椒の熟し具合や収穫時期によって変わるので、実際に硬さを確かめながら調整するのがポイントです。茹で上がった実山椒は、すぐに冷水に浸し、お好みの辛さになるまで水にさらします。私は3時間ほど水にさらしましたが、もう少し辛味を抜いても良かったかな?と感じました。辛さの感じ方には個人差があるので、味見をしながら時間を調整することをおすすめします。好みの辛さになったら、残っている葉や小枝、軸などを丁寧に除去します。茹でた後なので、比較的簡単に取り除くことができます。軸の部分は、風味を損なうものではないので、気になるようなら取り除く程度で良いでしょう。アク抜きが終わった実山椒は、保存袋に入れて冷凍庫で保存するのがおすすめです。きちんと冷凍保存すれば、約1年間は風味を保ったまま使えるので、旬の味を長く楽しむことができます。
食卓を彩る!実山椒のおすすめレシピ4選

実山椒を料理に加えることで、爽やかな香りと独特の辛味が加わり、いつもの食卓がより豊かなものになります。ここでは、特に我が家で人気のある、実山椒を使ったおすすめレシピを4つご紹介します。
ご飯が止まらない!絶品「ちりめん山椒」
実山椒の定番の活用法といえば、やはり「ちりめん山椒」でしょう。細かく刻んだちりめんじゃこと削り節、そして下処理をした実山椒を、醤油やみりんなどで甘辛く煮詰めるだけで、香り高い一品が手軽に作れます。たくさん作った時は、近所の方におすそ分けすることもあります。炊きたての熱々のご飯にたっぷりと乗せて食べると、山椒の爽やかな香りと、ちりめんじゃこの旨味、甘辛い味が絶妙にマッチして、箸が止まらなくなる美味しさです。常備菜としても重宝するので、ぜひ試してみてください。
旬の野菜と好相性「お浸しや煮びたし」
ほうれん草や小松菜など、旬の葉物野菜を使ったお浸しや煮びたしに、実山椒は最高のアクセントになります。先日、友人から家庭菜園で採れた新鮮な野菜をたくさんもらったので、さっと茹でてお浸しにしました。実山椒をそのままパラパラと散らしても良いですし、より風味豊かにしたい場合は、先ほどご紹介した自家製ちりめん山椒をトッピングするのもおすすめです。山椒のピリッとした刺激が、野菜本来の甘みを引き立て、さっぱりとした中に奥深い味わいが生まれます。
うどんの薬味に、爽やかな刺激を
温かいうどんに実山椒は、想像以上に好相性です。下茹でして丁寧にアクを取り除いた実山椒をほんの少し加えるだけで、いつものうどんが風味豊かな一品に変わります。ピリッとした刺激と爽やかな香りが加わり、食欲をそそります。特におすすめは、かけうどんや素うどん。シンプルだからこそ、山椒の香りがより一層引き立ちます。薬味として少量添えるだけで、味と食感の両面で素晴らしいアクセントとなるでしょう。
魚料理の隠し味に「煮付け」
私の地元、長崎では、新鮮な魚介類が手頃な価格で手に入ります。旬の魚を使った料理は、食卓に欠かせません。先日、夫が立派なイサキを買ってきたので、早速煮付けにしました。その美味しさは格別でした。煮付けを作る際に、山椒の実を数粒加えて煮込むことで、魚特有の臭みを抑え、爽やかな香りとピリッとした辛みが魚の旨味をさらに引き立ててくれます。ぜひお試しいただきたい、おすすめの活用方法です。今まで山椒の実を使う機会はあまりなかったのですが、様々な料理に活用できることを知り、食卓のバリエーションが広がりました。
まとめ
山椒は、若葉から花、実、乾燥させた粉末まで、一年を通して楽しめる日本の伝統的な香辛料です。特に、5~6月頃に収穫される青い実山椒は、佃煮や煮物に適しており、7月下旬頃に収穫される固い実山椒は、乾燥させて自家製粉山椒にするのに最適です。下処理では、冷凍保存や佃煮にする場合は丁寧なアク抜きが重要です。粉山椒を作る場合は、天日干しと種を取り除くことで、風味を最大限に引き出すことができます。自家製粉山椒は、市販品とは比べ物にならないほど香りが高く、うどんや鰻、魚の煮付けなど、様々な料理に奥深さと爽やかさを加えます。ご飯のお供に最適なちりめん山椒や、お浸しの薬味としても重宝し、食卓を豊かに彩ります。この記事でご紹介した収穫時期、下処理、活用方法を参考に、ご家庭で山椒の風味を存分にお楽しみください。山椒の魅力を知ることで、毎日の食事がより楽しくなるはずです。
山椒の実の収穫時期はいつが良いですか?
山椒の実は、用途によって収穫時期を選ぶのがおすすめです。佃煮や煮物、冷凍保存には、5月下旬から6月中旬頃に収穫される、柔らかい青い実が適しています。この時期の実は、爽やかな香りと程よい辛味が特徴です。粉山椒を作る場合は、7月下旬頃に収穫するのが良いでしょう。この時期になると実が固くなり、乾燥に適しています。また、9月~10月頃には、実が赤く弾けた「割山椒」を収穫できます。これは特に香りが強く、風味豊かな粉山椒を作るのに最適です。
山椒の実のアク抜きはなぜ重要なのでしょうか?
山椒の実を冷凍保存する場合や、佃煮、煮物などの料理に利用する際には、アク抜きが欠かせません。アク抜きを行うことで、山椒独特の強烈な辛さや苦み、えぐみが軽減され、より穏やかで風味豊かな味わいに変わります。適切なアク抜きをすることで、山椒本来の清々しい香りと心地よい刺激だけを残し、料理全体の調和を高めることができます。ただし、乾燥させて粉山椒として使用する場合は、アク抜きは必要ありません。
自家製粉山椒を作る上で重要な点は何ですか?
自家製粉山椒を作る上で最も重要なことは、しっかりと乾燥させることです。まず、収穫した実山椒(特におすすめは7月以降の硬い実)を丁寧に水洗いし、枝や葉、黒い種などを取り除きます。次に、ザルなどに広げて約1週間、実が鮮やかな朱色に変わり、完全に乾燥するまで天日干しを行います。乾燥が不十分な場合、すりこぎで挽いても粉状にならず、潰れてしまうことがあります。完全に乾燥したら、すりこぎやミルサーなどで細かく粉砕し、必要に応じてふるいにかけて粒度を調整します。自家製の挽きたて粉山椒は、市販品とは比べ物にならないほどの香りが楽しめます。













