秋の彩りを一皿に。「吹き寄せ」が織りなす日本の美意識
秋風が庭の隅に木の葉を寄せ集めるように、彩り豊かな旬の味覚を盛り合わせた「吹き寄せ」。それはまるで、日本の美しい秋を凝縮したかのような一皿です。素材の味、色、形、食感、すべてにこだわり、五感で秋を感じられるよう工夫されています。この記事では、「吹き寄せ」が持つ日本の美意識と、その奥深さに迫ります。食を通して日本の四季を感じてみませんか?

「吹き寄せ」の起源と菓子の関連性

「吹き寄せ」という言葉は、料理においては元々菓子に由来するとされていますが、言葉自体はそれ以前から存在していたため、正確な起源を特定するのは困難です。菓子の「吹き寄せ」は、紅葉や木の実など、秋の植物を模した色とりどりの小菓子を指し、籠や箕のような器に美しく盛り付けられます。特に10月から11月頃の茶席において、季節を楽しむ菓子として重宝されてきました。この菓子の盛り付けは、日本料理の八寸の盛り付けと非常に似ているため、料理における「吹き寄せ」の概念が、この菓子の表現から影響を受けた可能性も考えられます。言葉の歴史的な背景と、具体的な料理や菓子の形式が絡み合っている点が、「吹き寄せ」の多角的な魅力と奥深さを物語っています。

吹き寄せに宿る日本特有の美意識「あわれ」と「わび」

「吹き寄せ」が表現する情景を美しいと感じる感性は、日本の歴史の中で育まれてきました。例えば、『枕草子』の「野分のまたの日こそ」の一節には、台風の翌日の風景に対する作者の感情が描かれています。そこでは、暴風で塀や木が倒れた様子に心を痛めつつも、木の葉が格子の一つ一つに丁寧に集められたように吹き込んでいる様子に、自然の力とは異なる美を感じています。この描写は、整然とした庭よりも、適度に落葉がある庭に趣を感じる美意識を示しており、これは「あわれ」と呼ばれる日本の美意識の一つです。「あわれ」の精神は、不完全さの中に美を見出す心であり、中世になると、不完全なものや簡素なものに深い趣を感じる「わび」や「寂び」といった美意識が重視されるようになりました。生命力にあふれ、活気に満ちた姿は確かに美しいものですが、盛んなものもいつかは衰えることを知れば、その中に儚さを感じます。そして、枯れた景色の中に、内面から湧き出るような豊かな感情を見出すことも、日本人は美しいと感じてきました。このように、日本人の心は古くから季節の移ろいに敏感でした。近年では、季節のイベントが減少し、気候変動により季節感が薄れているため、季節の移り変わりがもたらす繊細な美意識が失われつつあると懸念されています。現代において、「吹き寄せ」が伝える深い季節感は、日本の伝統的な美意識を再認識させてくれるでしょう。ちなみに、料理人の間では、「吹き寄せ」を春に作り、貝類を盛り込むと「貝寄せ」という名に変わると考える人もいます。これは、春の季節風である3月下旬頃の西風を「貝寄風」と呼び、その風によって浜辺に貝が打ち上げられることに由来します。秋の「吹き寄せ」と合わせて、「貝寄せ」も覚えておくと、季節ごとの日本料理の奥深さをより堪能できるでしょう。

吹き寄せ料理の具体例:生揚のふきよせレシピ

ここでは、「吹き寄せ」の概念を具体的に表現した料理、「生揚のふきよせ」のレシピをご紹介します。様々な食材が集まり、秋から冬の季節感を味わえる煮物です。

生揚のふきよせ 材料(4人分)

生揚げ 200g(約1枚半)、鶏もも肉 100g、うずら卵 40g(4個)、人参 80g(中サイズ約半分)、筍 60g、干し椎茸 4g(中サイズ2枚)、玉ねぎ 140g(中サイズ1個)、グリーンピース(冷凍)20g、生姜 3.2g(約半分)、片栗粉 8g(大さじ1弱)、三温糖 4.8g(大さじ半分)、醤油 18g(大さじ1)、みりん 4.8g(小さじ3分の2)、サラダ油 4.8g(小さじ1強)、鰹節 8g(出汁用)

作り方

1. 生揚げは、熱湯をかけて油抜きをします。グリーンピースは軽く茹でておきましょう。鰹節で丁寧にだしを取ります。2. 鍋にサラダ油をひき、鶏肉、人参、筍、干し椎茸の順に炒めます。全体に油が回ったら、用意しておいた出汁と干し椎茸の戻し汁を加えて煮込みます。3. 2の鍋に油抜きした生揚げを入れ、三温糖、みりん、醤油で味付けします。玉ねぎとうずら卵を加えて、さらに煮込みます。4. たっぷりの煮汁で、弱火から中火でじっくりと味が染み込むまで煮込みます。5. 生揚げなどの具材に味が十分に染み込んだら、水溶き片栗粉でとろみをつけます。最後に茹でたグリーンピースと、千切りの生姜を添えて、色鮮やかに盛り付ければ完成です。

切り方

生揚げ:幅1.5cmに切ります。筍:短冊切りにします。玉ねぎ:2cm角の色紙切りにします。干し椎茸:細切りにします。人参:いちょう切りにします。生姜:針生姜にします。

まとめ

「吹き寄せ」は、様々な食材を盛り合わせただけでなく、秋の風景を表現した日本料理です。風が木の葉を吹き寄せる様子を料理で表し、日本人の繊細な感性を反映しています。お菓子にもその名残があり、日本の美意識と深く関わってきました。食を通して季節を感じる「吹き寄せ」は、自然とのつながりを思い出させてくれます。今回ご紹介した「生揚のふきよせ」を通して、ご家庭で秋を感じてみてはいかがでしょうか。

「ふきよせ」とは、どんな料理のことですか?

「ふきよせ」とは、色々な種類のものを集めた料理を指し、特に秋から冬にかけて、その時期ならではの食材を美しく盛り合わせた日本料理を言います。晩秋に風が木の葉を吹き集める様子をイメージしており、八寸や鍋物、煮物などで表現されます。ただ集めるだけでなく、落ち葉や木の実をかたどったり、盛り付け方にも工夫を凝らし、季節の移り変わりを表現する美しさが大切にされます。

なぜ「ふきよせ」は秋の料理なのでしょうか?

「ふきよせ」が秋の料理として知られているのは、その名前の由来となった風景が秋の終わり頃によく見られるからです。秋の強い風や冬の初めの木枯らしが吹き、木の葉が渦を巻きながら集まっていく様子からヒントを得ています。収穫の秋が過ぎ、紅葉が鮮やかに染まり、冬に向けて葉が落ち、草木が枯れていく直前の様子を料理で表すため、秋から冬にかけての季節感が大切にされています。

「ふきよせ」と日本の美意識「あわれ」「わび」との関係は?

「ふきよせ」の持つ雰囲気は、昔から日本人が大切にしてきた「あわれ」や「わび」といった美意識と深く関わっています。「あわれ」は、完璧ではないものや、少し葉が散った庭に趣を感じるような美意識です。また、中世には、不完全さや簡素さ、静けさの中に深い味わいを見つける「わび」の精神が重要視されました。「ふきよせ」は、命の移り変わりや、枯れたものの持つ味わい、そして内側から湧き出る豊かな感情を表現することで、これらの日本ならではの美意識を食べる人に感じさせます。

ふきよせ