果物りんご:知られざる魅力と健康効果

「一日一個のリンゴは医者を遠ざける」ということわざがあるように、リンゴは古くから健康に良い果物として世界中で親しまれてきました。この記事では、単なる美味しい果物以上の、リンゴが持つ知られざる魅力と健康効果に焦点を当ててご紹介します。豊富な栄養素、品種ごとの個性的な味わい、そして日々の生活に取り入れやすい多様なレシピまで、リンゴの奥深さを探求していきましょう。さあ、リンゴの世界へ一緒に旅立ちませんか?

リンゴとは?特徴と生態、栽培の広がり

リンゴは、人が食してきた最も古い果物の一つと言われ、その歴史は約8000年前に遡ります。世界中で重要な果物として扱われ、年間生産量は約6000万トン。そのうち約半分を中国が生産しています。日本での本格的な栽培は明治時代から始まりました。栄養価が高く食べやすいことから、今日では世界中で親しまれています。2023年の日本国内におけるリンゴ生産量は約60万トンで、青森県が国内生産量の約6割を占める最大の産地です。欧米では昔から「一日一個のリンゴは医者いらず」という言葉があるほど、健康に良い果物として広く知られています。低カロリーで満腹感を得やすく、日々の食生活に取り入れやすいことも魅力です。

リンゴの木は秋に葉を落とし、冬の間は休眠状態に入ります。しかし、一定期間低温にさらされることで目を覚まし、春になると芽を出し花を咲かせます。リンゴの花は白から淡いピンク色をしており、自家不和合性という性質を持つため、同じ品種の花粉では実を結びません。異なる品種の花粉による受粉が必要です。秋になると、丸みを帯びた果実が実ります。熟すと表皮にアントシアニンが蓄積し、赤くなるのが一般的ですが、品種によっては黄色や黄緑色のものもあり、特に緑色の強いものは「青リンゴ」と呼ばれます。食用となる果肉は、花の子房壁が発達したもので、シャキシャキとした食感と、甘味と酸味のバランスが特徴です。食物繊維が豊富で、特に皮には多くの栄養が含まれているため、よく洗って皮ごと食べることをおすすめします。リンゴの熟し具合を見分けるには、皮の色を参考にしましょう。赤い品種は熟すにつれて色が鮮やかになり、お尻の部分も緑色から黄色へと変化します。また、リンゴを切った際に果肉が茶色く変色するのは、ポリフェノールが空気に触れて酸化するためです。変色を防ぐには、切ったリンゴを薄い塩水やレモン水に浸すと効果的です。

リンゴ栽培では、接ぎ木によって苗木を育てます。そのため、同じ品種のリンゴは遺伝的に同じクローンとなります。近年では、木の大きさを抑える矮化栽培が主流となっており、管理が容易になっています。品質の良いリンゴをたくさん収穫するためには、剪定、病害虫対策、摘花・摘果、袋かけなど、様々な作業が欠かせません。リンゴの貯蔵性は品種によって異なりますが、CA貯蔵(Controlled Atmosphere貯蔵)などの技術により、一年を通して市場に出回るようになりました。世界には数多くの品種(約2500品種)があり、日本でも‘ふじ’、‘つがる’、‘王林’、‘ジョナゴールド’、‘紅玉’、‘シナノスイート’、‘トキ’、‘サンふじ’など、様々な品種が栽培されています。生のまま食べるのが一般的ですが、アップルパイやタルトなどの材料として使われたり、ジュースやシードル、ジャムなどに加工されることもあります。リンゴは神話や聖書、ことわざなどにも登場し、文化や芸術と深く関わってきました。また、アップル社のロゴやニュートンのリンゴのように、現代においても象徴的な存在として扱われることがあります。

リンゴの名称と語源

リンゴは世界中で愛される果物であり、その名前や学名には、歴史と変遷があります。特に日本では、昔からある在来のリンゴと、明治時代に導入された西洋リンゴで、その名称が変化してきました。

和名「林檎」の由来

「林檎(リンゴ)」という和名は、中国北部原産の「和林檎(ワリンゴ)」(学名:Malus asiatica)を指す中国語の名称がもとになっています。中国では、6世紀にはすでに「林檎」という言葉が使われており、鳥が果実を食べに集まる様子から「来禽(ライキン)」に由来するとも言われています。日本で「林檎」という言葉が初めて使われたのは、918年に深江輔仁が書いた薬草に関する書物「本草和名」です。平安時代中頃に作られた辞書『和名類聚抄』には、「林檎」を「利宇古宇(リウコウ/リウゴウ/リンゴウ)」と読むと記されています。江戸時代の書物『多識編』によると、当時のリンゴには縄で縛ったような溝があり、そのような形をしたものを「利宇古(りうご)」と呼んでいたそうです。その後、リンキ、リンキン、リンゴといった読み方もされるようになり、江戸時代後期にはリンゴという読み方が一般的になりました。

日本において、ワリンゴは、室町時代以降に栽培されるようになり、江戸時代にはある程度普及していました。1787年(天明7年)には、徳川家斉が人々に3万個のリンゴを配ったという記録も残っています。明治時代になると、欧米からセイヨウリンゴ(学名:Malus domestica)が導入され、栽培が始まり急速に広まりました。セイヨウリンゴは、当初はワリンゴと区別して「オオリンゴ(大林檎)」、「セイヨウリンゴ(西洋林檎)」、「トウリンゴ(唐林檎)」などと呼ばれていましたが、次第に「リンゴ」と呼ばれるようになりました。一方、ワリンゴの栽培は減少し、「ワリンゴ(和林檎)」または「ジリンゴ(地林檎)」と呼ばれるようになります。中国では、セイヨウリンゴを「苹果」、「蘋果」、「柰」と書き、日本でも明治から昭和前半にかけて「苹果(へいか)」と表記したり、そう呼んだりすることがありました。例えば、青森県りんご試験場(現 りんご研究所)は、1950年までは青森県苹果試験場という名前でした。

セイヨウリンゴの学名

セイヨウリンゴの学名は、長い間混乱しており、Malus pumila、Malus communis、Malus paradisiaca、Malus sylvestrisなどの名前が使われていました。しかし、2010年にQuianらの研究によって、Malus domestica Borkh. が正式な学名として提唱され、2017年の第19回国際植物学会議で承認されました。現在では、セイヨウリンゴの学名としてMalus domestica Borkh. が広く用いられています。学名の "domestica" は、ラテン語で「栽培された」という意味を持ち、人類との長い関わりを示唆しています。

古語におけるリンゴの呼び名「カラナシ」

昔の言葉でリンゴを指す言葉に「カラナシ」というものがあります。平安時代の辞書である『和名類聚抄』や薬物辞典の『本草和名』には、セイヨウリンゴを意味する「柰」という漢字に「奈以(ない)」、「加良奈志(からなし)」という読み方が記載されています。「からなし」という読み方は、「中国からやってきた梨」という意味合いで解釈されていたようです。1697年の百科事典『訓蒙図彙』には、昔は柰を「からなし」と読んでいたが、江戸時代には「ふなえ」と呼ぶようになったと書かれており、名前の変化が分かります。1709年の本草書「大和本草」では、柰に「リンキン」という読みを当て、それはワリンゴを指すとされており、名称の使用に混乱があったことが伺えます。

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リンゴのルーツと進化の物語

現在、私たちが食べているリンゴ(セイヨウリンゴ、学名: Malus domestica)は、中央アジアが発祥の地であると考えられてきました。その後の詳しい研究で、リンゴやその近縁種の遺伝子を比較した結果、リンゴは中央アジアに自生する野生種「Malus sieversii」(マルス・シヴェルシー)から進化したことが明らかになりました。特に、カザフスタンの天山山脈の西側に分布するグループがセイヨウリンゴの起源であると考えられており、天山山脈の東側に生息するグループは関与していないことが判明しています。この地域にある最大の都市アルマトイは、現地の言葉で「リンゴの都」を意味し、リンゴとの深い繋がりを示しています。起源となったMalus sieversiiは果肉が柔らかいことが多いのですが、栽培される過程で、ほどよい硬さを持つものが選ばれてきました。果実の硬さは、美味しさだけでなく、輸送や保存の面でも重要な要素だからです。また、遺伝子の解析から、より甘みが強く、酸味が少ないものが選ばれてきたことも分かっています。祖先種であるMalus sieversiiは、もともと野生のリンゴの中で最も大きな果実をつける種類ですが、栽培されるうちに、さらに大きな果実へと進化する緩やかな力が働いたと考えられています。炭化したリンゴの痕跡は約8000年前の新石器時代の遺跡からも発見されており、人類が昔からリンゴを利用していた証拠となっています。実際に、8000年前の遺跡からは大小2種類のリンゴの痕跡が見つかっています。

西洋におけるリンゴ栽培の歴史と広がり

このMalus sieversiiが栽培化され、シルクロードを通って西へと運ばれ、その途中でいくつかの種と交配しましたが、特にヨーロッパで自生するクラブアップル(Malus sylvestris)と交雑したことが大きな影響を与え、現在のセイヨウリンゴ(Malus domestica)が誕生したと考えられています。また、逆にセイヨウリンゴからMalus sylvestrisへの遺伝子の逆流(バッククロッシング)も起こっていることが確認されています。古代ギリシャでは果樹園が作られ、リンゴは貴重品として扱われ、最高品質のものは輸入されていた時代もありました。紀元前3~4世紀には、アリストテレスがリンゴの野生種と栽培種を区別しており、栽培方法や受粉についても記録しています。古代ローマでもリンゴは贅沢品として果樹園で栽培され、プリニウス(大プリニウス)(1世紀)はリンゴには23の品種があると記述しています。当時のローマ人の食事は卵料理から始まり、果物で終わることが一般的だったため、ラテン語の「卵からリンゴまで (ab ovo usque ad mala)」という言葉が「最初から最後まで」という意味で使われていました。また、ジュリアス・シーザー(紀元前1世紀)がガリア(フランス)に侵攻した際、現地の人が野生のリンゴを発酵させてシードル(リンゴ酒)を作っているのを発見し、それをローマに持ち帰りました。ローマ帝国の拡大とともに、リンゴ栽培はヒスパニア(イベリア半島)、ゲルマニア(ドイツ)、ブリタニアに広がり、フランス南東部に残るモザイク画には、リンゴの接ぎ木から収穫までの様子が描かれているほど、その技術と文化が広まっていました。

中世初期になると、ヨーロッパではリンゴ栽培は一時的に衰退しましたが、修道院などで栽培が続けられました。カール大帝(シャルルマーニュ)(8~9世紀)は、領地に関する命令の中で、様々な植物とともにリンゴを植えることを命じており、その中には甘いもの、酸味があるもの、貯蔵に適したものなど、様々な品種が記載されています。そして13世紀になると、リンゴ栽培は再び盛んになり、現在まで続く品種が登場するとともに、徐々に一般的なものとなっていきました。また、16世紀に生まれたマルティン・ルターはリンゴを好み、プロテスタントの普及とともにリンゴ栽培も広まりました。リンゴの品種改良も進み、17世紀には少なくとも120品種が記録されています。16~17世紀以降には、ヨーロッパ諸国が海外に進出するのに伴い、リンゴはアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどに広がっていきました。特に北米東海岸では雨が多い気候のため、ヨーロッパから持ち込まれた多くの品種は接ぎ木などでは育たず、種から育てたものが増えていき(リンゴの種子からは、親品種とは異なる様々な特徴を持つ子孫が生まれる)、その中には現在でも利用されている優れた品種が多く含まれています。

東洋におけるリンゴ栽培の発展と日本への伝来

セイヨウリンゴの元となったMalus sieversiiは東へも伝わり、コリンゴ(Malus baccata)やマンシュウコリンゴ(Malus mandschurica)と交雑してワリンゴ(Malus asiatica)やズミ(Malus prunifolia)が生まれたと考えられています。ワリンゴは中国で古くから栽培され、多くの品種が作られていました。しかし、19世紀半ばになると中国にもセイヨウリンゴが導入され、商業的に生産されるリンゴのほとんどがセイヨウリンゴとなりました。中国におけるリンゴ(セイヨウリンゴ)の生産は1980年代以降に増加し、2022年時点では世界の総生産量の約半分を占めるまでになっています。

日本では、遅くとも平安時代ごろに中国からワリンゴが導入され栽培され、「リンゴ(林檎)」と呼ばれていました。しかし、江戸時代末期ごろから、日本にもセイヨウリンゴが持ち込まれるようになりました。1854年(嘉永7年)には、ペリー提督率いる艦隊から贈られた「アッフル」というリンゴが加賀藩主・松平康寿の下屋敷で栽培され、翌年に実をつけたため食用とされたことが、当時の加賀藩士の記録に残っています。藩主から「小さな餅につけて食べるように」と言われ、家臣たちはそのようにして食べたことから、砂糖漬けや煮リンゴにして食べたものと考えられています。文久年間(1861~1863年)には、江戸幕府の重臣であった小栗忠順が、アメリカ産のセイヨウリンゴの苗木を入手し、それが郊外の福井藩で栽培されていたとも言われています。また、明治初期に北海道に入ったドイツ人のR・ゲルトナー(ガルトネル)が持ち込んだという説もあります。

1871年(明治4年)、開拓使の次官であったホートン・ケプロンは、アメリカから多くの果樹の苗木を持ち帰国しました。その中には、‘ボールウィン’(原名: ‘Baldwin’)、‘エソパス スピッツェンバーグ’(‘Esopus Spitzenburg’)、‘柳玉’(‘Yellow Bellflower’)、‘倭錦’(‘American Summer Pearmain’)、‘紅魁’(‘Red Astrakhan’)など、リンゴの75品種が含まれており、これらは東京青山の官園などで育成され、北海道にも送られました。1874年(明治7年)以降は、内務省がリンゴの苗木を全国に配布し、日本のリンゴ栽培を奨励しました。1875年(明治8年)には、前田正名がフランスから108品種を導入しましたが、多くは日本の雨の多い気候には適応できず、普及には至りませんでした。このように、幕末から明治初期にかけて日本におけるセイヨウリンゴの商業栽培が本格的に始まり、急速に一般化していきました。その結果、従来のワリンゴの栽培は激減し、セイヨウリンゴが「リンゴ(林檎)」と呼ばれるようになり、日本の食文化に深く根付いていったのです。

美味しいリンゴの選び方と鮮度を保つ保存方法

美味しいリンゴを選ぶためには、いくつかのポイントを押さえておきましょう。まず、全体の色が均一で、ハリとツヤがあり、手に持ったときにずっしりと重みを感じるものを選びましょう。お尻の部分が深くくぼんでいて、形が崩れていないものが良いとされています。また、軸(つる)が太くしっかりと付いているリンゴは、栄養が十分にいきわたっている証拠と言えるでしょう。購入したリンゴの鮮度を長く保つには、適切な保存方法が欠かせません。リンゴは湿度を高く保ち、低温で保存するのが理想的です。室内であれば1~2週間ほど保存できますが、冷蔵庫で保存する場合は、水分が蒸発するのを防ぐために、一つずつ薄いポリ袋に入れるか、ラップで丁寧に包んで密閉することで、1~3か月ほど鮮度を保つことができます。特に長期保存したい場合は、リンゴを1個ずつ新聞紙やキッチンペーパーなどで包んでからポリ袋に入れ、密閉しておくと良いでしょう。さらに、軸のある側を上にして保存すると、エチレンの放出量が減るため、より長持ちするとされています。ただし、リンゴは冷やしすぎると風味や甘みが損なわれることがあるため、冷やしすぎには注意が必要です。

知っておきたいリンゴの豆知識:皮のべたつきから人気品種まで

リンゴに関するちょっとした知識として、完熟したリンゴの皮がべたつく現象について解説します。これは、一部の品種、例えば「ジョナゴールド」などでよく見られる現象で、熟すにつれてリンゴの表皮からリノール酸やオレイン酸などの成分が分泌され、表皮のろう物質を溶かすことで起こる自然な現象です。このべたつきをワックス処理と勘違いする人もいますが、日本ではリンゴに対するワックス処理は行われていないため、安心して皮ごと食べることができます。また、日本で最も多く生産されているリンゴの品種は「ふじ」であり、その甘みと酸味の絶妙なバランスから、長年にわたって多くの人に愛されています。「ふじ」は、美しい色とツヤを出すために、栽培時に一つずつ袋をかけて育てられます。これに対して、「サンふじ」のように名前に「サン」が付く品種は、袋をかけずに太陽の光をたっぷりと浴びて栽培されます。そのため、表面に多少の色むらが見られることがありますが、太陽光をたくさん浴びることで完熟が進み、甘みがより一層増し、中心部分には「蜜」が入っていることが多いのが特徴です。リンゴは国際的な会議が定期的に開催されるほど、その魅力は世界中で認められています。

リンゴが最も美味しい時期と市場に出回る時期

リンゴは、その種類と産地によって収穫時期が異なり、一年を通して様々なリンゴの味を楽しむことができます。特に多くの品種が収穫のピークを迎える秋から冬にかけてが、最も美味しい時期と言われています。

月ごとの入荷状況

1月は、寒さ厳しい冬の時期に、長期保存に適した品種が市場に多く並びます。特に保存性に優れた「ふじ」や「サンふじ」が主流です。冬のリンゴは蜜がたっぷり含まれていることが多く、甘みが際立っています。

2月も引き続き、貯蔵技術によって品質が維持された晩生品種のリンゴが豊富に入荷されます。この時期のリンゴは甘味が濃厚で、デザートやジュースに最適です。

3月になると、春の足音が聞こえ始めますが、市場にはまだ多くのリンゴが入荷されています。特にCA貯蔵されたリンゴは、収穫から時間が経過しても、変わらぬ美味しさを保っています。

4月はリンゴの入荷量が減少し始めますが、一部の品種は引き続き市場に出回ります。新鮮なリンゴを探すには、スーパーマーケットや産地直売所の情報をチェックするのがおすすめです。

5月になると、リンゴの入荷はさらに少なくなりますが、貯蔵技術によって保存されたリンゴがわずかに流通します。新しいリンゴの収穫が待ち遠しい時期です。

6月に入ると、リンゴは非常に手に入りにくくなります。前年の収穫分はほとんどなくなり、市場で見かけることはほとんどありません。

7月はリンゴの端境期にあたり、ごく一部の早生品種がわずかに出始める程度で、本格的な出荷はまだ先となります。

8月になると、早い時期に収穫できる品種のリンゴが市場に登場し始めます。特に「つがる」などの早生品種が出始め、夏の終わりを感じさせる爽やかな味わいを提供します。

9月は早生品種から中生品種へと切り替わる時期で、リンゴの種類が豊富になります。「つがる」や「早生ふじ」などが多く出回り、秋の到来を感じさせます。

10月はリンゴの収穫が本格化し、市場には様々な種類のリンゴが並びます。「ジョナゴールド」や「紅玉」など、個性的なリンゴが旬を迎えます。

11月はリンゴが最も美味しい時期で、特に「ふじ」や「サンふじ」といった人気の主力品種が大量に入荷されます。蜜入りのリンゴも多くなり、贈答品としても人気を集めます。

12月も引き続きリンゴの旬が続き、年末年始の食卓を豊かに彩ります。貯蔵性の高い品種が中心となり、新鮮で美味しいリンゴを楽しむことができます。

リンゴの品種について:分類、開発、主要品種

リンゴの世界は奥深く、世界中で約1万5千種類以上、日本国内だけでも約2千種類もの品種が存在すると言われています。ただし、古い時代に生まれた品種で、品種登録されていないものも多く、日本で品種登録されているのは約300種類に過ぎません。これまで数多くの品種が開発されてきましたが、商業的なニーズや栽培の難しさ、病気への抵抗力などの理由から、維持されずに消えてしまった品種も少なくありません。現在、リンゴは世界的な商品作物となっており、生産性や貯蔵性などを考慮した一部の品種のみが大量に生産され、市場を占めています。

品種の分類

日本では、リンゴの品種は、実が熟す時期によって、大きく分けて早生、中生、晩生の3つに分類されます。具体的には、花が満開になってから120日以内に成熟するものが早生、120日から165日程度で成熟するものが中生、165日以上かけて成熟するものが晩生と定義されています。特に、満開から90日以内という非常に短い期間で成熟するものは、極早生と呼ばれることもあります。一般的に、早生品種は収穫後の日持ちが短く、甘味が少ない傾向があります。特に極早生品種ではその傾向が顕著であり、北海道などの寒冷地では実が十分に成熟しないこともあります。中生品種は種類が豊富で、実の特徴も様々ですが、早生品種に比べて甘味が強く、貯蔵性に優れているものが多いです。晩生品種は、味が濃厚で甘味が強く、特に長期保存に向いているものが多い傾向にあります。

リンゴの皮の色は、若い果実の頃はほとんどが緑色ですが、熟していくにつれて品種によって赤色や黄色に変化します。この色の違いによって、リンゴは大きく赤色品種と黄色品種に分けられます。赤色品種では、表皮細胞、特に下皮の部分にアントシアニンという色素が多く蓄積することで、赤く色づきます。この着色の度合いは品種によって異なり、‘あかね’、‘陽光’、‘秋映’などは比較的簡単に濃い赤色になりますが、‘ふじ’、‘ジョナゴールド’、‘北斗’などは着色しにくい傾向があります。黄色品種では、果皮の細胞にアントシアニンがほとんど蓄積されないため、成熟するにつれて果皮のクロロフィルが分解・減少することで、黄緑色や黄色になります。黄色品種であっても、日光がよく当たる部分は薄い赤色になることがありますが、その程度は品種によって異なり、‘王林’ではほとんど着色しません。特に‘王林’や‘金星’のように、熟しても緑色が残っている品種は、一般的に青リンゴと呼ばれることもあります。

リンゴの品種は、その用途によって生食用、調理用、加工用に分類できます。日本で栽培されているリンゴの多くは生食用品種で、甘味が強く、酸味が少なく、果肉の歯ごたえが良いといった特徴が好まれます。調理用や生食用として利用される品種には、‘ジョナサン’、‘紅玉’、‘ブラムリー’、‘ヨークインペリアル’などがあり、果肉がしっかりしていて煮崩れしにくく、酸味が強いことが特徴です。加工用の品種には、‘Harry Masters Jersey’や‘Yarlington Mill’などがあり、タンニンを多く含むため渋みが比較的強く、主にシードルなどの原料として使われます。

新品種育成

リンゴの新しい品種を作る方法としては、主に交雑育種法、突然変異育種法、倍数体育種などが用いられます。中でも、交雑育種法が最も一般的で、異なる品種同士を掛け合わせ、その結果としてできた種から育った苗を選抜する方法です。リンゴは遺伝的に多様性が高いため、品種間の交配によって得られる苗は、様々な特徴を示すという利点があります。リンゴの品種改良では、果実の品質向上が主な目的であるため、糖度、酸度、果肉の質、果汁の量などに優れた組み合わせで交配を行い、得られた種子をまいて育てた苗の中から、望ましい特徴を持つ個体を選びます。日本でよく見られる品種の多くは、‘ふじ’、‘つがる’、‘王林’など、この方法で育成されています。遺伝子解析の結果から、日本で栽培されているリンゴの品種は、主に7つの品種(‘紅玉’、‘国光’、‘ゴールデンデリシャス’、‘スターキングデリシャス’、‘ウースターペアメイン’、‘印度’、‘旭’)の組み合わせに由来していることがわかっています。

自然環境下では、ごくまれに樹木の一部の細胞に突然変異が起こることがあり、このような自然に発生した突然変異体は枝変わりと呼ばれます。特に、果皮の色に関する枝変わりは比較的多く発見されており、‘デリシャス’の着色性の枝変わりである‘レッドデリシャス’や‘スタークリムソンデリシャス’は世界中で広く栽培されています。また、人工的に突然変異を起こさせ、その中から望ましい特徴を持つ個体を選び出す突然変異育種法も用いられています。放射線や化学物質などを変異源として使用する方法がありますが、処理した組織は変異した細胞と通常の細胞が混ざった状態になりやすく、変異体を選抜する際には、この混ざり合った状態を解消することが重要になります。‘ゴールデンデリシャス’の果実の表面にできるさびが少ない品種‘Lysgolden’や、‘ふじ’の果皮の色が濃く着色する変異品種‘盛放ふ 3A’などが、この方法によって育成されています。

染色体を3セット以上持つ倍数体は、果実が大きくなるなど、有用な形質を示すことがあるため、人工的に倍数体を作り出して新品種とすることがあります。リンゴの栽培品種の多くは二倍体ですが、‘ジョナゴールド’、‘陸奥’、‘北斗’は三倍体品種であり、特に実が大きく、味が優れていることで知られています。

日本と世界の主要品種

リンゴには非常に多くの品種が存在し、それぞれが独特の風味や特徴を持っています。ここでは、日本で広く親しまれている主要なリンゴの品種をご紹介します。これらの品種は、その風味、食感、収穫時期によって、様々な楽しみ方ができます。

つがる

「つがる」は、青森県で生まれた早生品種で、8月下旬から9月上旬にかけて収穫されます。果肉はシャキシャキとした食感が特徴で、甘みが強く酸味は控えめです。みずみずしい食感も魅力で、夏から秋にかけて楽しむことができます。生で食べるのが最もおすすめです。

旬の始まりを告げる「早生ふじ」

「早生ふじ」は、誰もが知る「ふじ」から生まれた早生品種です。通常よりも早い9月下旬~10月上旬頃に収穫時期を迎えます。その魅力は、何と言っても「ふじ」譲りの甘さと程よい酸味、そしてみずみずしさ。一足早く秋の味覚を堪能したい方には、ぴったりのリンゴです。

甘酸のハーモニー「ジョナゴールド」

アメリカで生まれた「ジョナゴールド」は、10月中旬から下旬に旬を迎えます。特筆すべきはその味のバランス。甘みと酸味が絶妙に調和し、芳醇な香りが口いっぱいに広がります。果肉はしっかりとした歯ごたえで、生で食べるのはもちろん、アップルパイなどの焼き菓子に使うのもおすすめです。完熟すると表面がべたつくことがありますが、これは自然の成分によるものなので安心してお召し上がりください。

お菓子作りの名脇役「紅玉」

鮮やかな赤色が目を引く「紅玉」は、アメリカ生まれの小ぶりなリンゴ。10月上旬~中旬頃に収穫されます。 最大の特徴は、その強い酸味と個性的な香り。生食には向きませんが、アップルパイ、タルト、ジャム、コンポートなど、お菓子や加工品にすると、その酸味がまろやかになり、風味も格段にアップします。お菓子作りに欠かせないリンゴと言えるでしょう。

リンゴの王様「ふじ」

日本を代表するリンゴ「ふじ」は、11月上旬から中旬にかけて収穫期を迎えます。 甘みと酸味のバランス、シャキシャキとした食感、そしてたっぷりの果汁が特徴。その美味しさは、まさに王様と呼ぶにふさわしいでしょう。また、貯蔵性にも優れているため、長く楽しめるのも魅力です。丁寧に袋をかけて育てることで、鮮やかな赤色に色づきます。

サンふじ

りんごの代表品種「ふじ」を、袋をかけずに太陽光を最大限に浴びさせて育てたものがサンふじです。収穫時期は11月中旬から下旬頃。見た目は多少色ムラがあることもありますが、その分、糖度は非常に高く、濃厚な甘さを堪能できます。蜜が入りやすいのも魅力で、芳醇な味わいが楽しめます。

世界一

名前のインパクトも大きい「世界一」は、1個1kgを超えることもある大型のりんごです。収穫は10月下旬から11月上旬。果肉はきめ細かく、甘みが際立っており、酸味は穏やかです。その存在感から、ギフトや慶事にも重宝されています。

陸奥(むつ)

青森県で生まれた「陸奥」は、11月上旬から中旬に旬を迎える大玉のりんごです。果肉は白く、バランスの取れた甘さと酸味が特徴で、果汁も豊富。食べ応えがあり、貯蔵性にも優れているため、年末まで美味しくいただけます。

きおう

岩手県生まれの黄色いりんご「きおう」は、9月上旬から中旬に収穫される早生品種です。爽やかな甘さに加え、レモンのような独特の香りが楽しめます。果肉は硬めで、シャキシャキとした食感が特徴。酸味は控えめで食べやすいりんごです。

トキ

青森県で生まれた、鮮やかな黄色のりんご「トキ」。親は「王林」と「ふじ」という人気の品種です。収穫時期は10月の上旬から中旬頃。その味わいは、気品のある甘さとほどよい酸味、そして清々しい香りが絶妙なバランスで調和しています。果肉は少し硬めで、噛むほどに果汁があふれ出すジューシーさが魅力。食味が優れているため、多くの方から愛されています。

シナノゴールド

長野県生まれの「シナノゴールド」は、黄色い果皮が美しいりんごです。収穫は10月下旬から11月上旬にかけて行われます。甘みと酸味のバランスが秀逸で、一口食べると、その爽やかな味わいと、心地よいパリッとした食感に魅了されるでしょう。また、貯蔵性に優れているため、春先まで長く楽しめるのも嬉しいポイントです。

星の金貨

北海道で生まれた希少な黄色いりんご「星の金貨」。収穫時期は10月上旬から中旬頃です。その最大の特徴は、蜜が入りやすいこと。濃厚な甘さと、芳醇な香りが口いっぱいに広がります。果肉はきめ細かく、噛むほどにジューシーな味わいが楽しめます。

王林

青森県が誇る「王林」は、黄緑色のりんごで、11月上旬から中旬に収穫されます。その特徴は、何と言ってもその芳醇な香り。酸味が少なく、強い甘みが際立っています。果肉は緻密で、口に入れるとジューシーな果汁が溢れ出し、豊かな味わいが楽しめます。

金星

丁寧に袋掛け栽培されることで、美しいクリーム色に仕上がるのが特徴のりんごです。収穫時期は11月上旬から中旬にかけて。芳醇な香りと濃厚な甘みが際立ち、果肉はやや硬めで、心地よい歯ごたえが楽しめます。その上品な外観と味わいから、贈答品としても高い人気を誇ります。

クラブリンゴ:観賞用、台木、授粉樹…多彩な役割を担う

一般的に、酸味のある小ぶりな丸い果実をつけるリンゴ属の植物、またはその果実をクラブリンゴと呼びます。クラブリンゴには、西洋リンゴが導入される以前から日本に存在した「林檎」である和リンゴ(Malus asiatica)や、犬リンゴ(姫リンゴ; Malus baccata var. mandshurica)、シベリアリンゴ(Malus baccata)、ズミ(Malus prunifolia)といった野生種やその近縁種が含まれます。しかし、「紅玉」のような栽培リンゴの小玉品種も、クラブリンゴと呼ばれることがあります。

クラブリンゴは、その可憐な花や愛らしい実が観賞価値を持つことから、庭木や公園樹として世界中で広く親しまれています。数多くの園芸品種間の交配によって生まれた雑種も存在し、花弁の色も白からピンク、赤紫など多岐にわたり、「ヴァン・エセルタイン (Van Esoltine)」のように八重咲きの品種も開発されています。

リンゴは自家不和合性という性質を持つため、効率的に果実を生産するには、異なる品種を混植し、他品種の花粉を受粉させる必要があります。しかし、複数のリンゴ品種を混植すると、作業効率が低下したり、農薬の使用タイミングなどに問題が生じることがあります。そこで、果実生産を目的としないクラブリンゴを授粉樹として利用する場合があります(授粉樹の遺伝的性質は、果実において種子以外の部分には影響しません)。授粉樹として役立つ性質としては、花粉の稔性が高いこと、花粉の量が十分であること、栽培品種と開花時期が一致すること、隔年結果性がないこと、樹のサイズが小さいことなどが挙げられます。「スノードリフト・クラブ」、「レッドバッド・クラブ」、「ネービル・コープマン」、「メイポール」、「ドルゴ・クラブ」などのクラブリンゴは、これらの特性から広く利用されています。

クラブリンゴは、果実生産用の品種の台木としても利用されています。日本で広く利用されている(いた)M9、MM106、JMなどは、クラブリンゴを原種とする台木です。特にM5(マルス5号)は耐寒性に優れているため、寒冷地での台木として重宝されています。また、クラブリンゴはリンゴに対するウイルスの検出に用いられる指標植物としても有用で、特定のウイルス感染の有無を目視で確認するのに役立ちます。さらに、クラブリンゴは栽培リンゴに耐病性を付与するなど、品種改良における貴重な遺伝資源としても重要な役割を果たしています。

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世界のリンゴ生産と流通の現状

2022年の世界のリンゴ生産量は約9,583万トンに達し、この巨大な生産量が、世界の食料供給においてリンゴがいかに重要な作物であるかを物語っています。国別に見ると、中国の生産量が圧倒的に多く、世界のリンゴ生産量の約半分を占めています。次いで、米国、トルコ、ポーランド、インドが続き、これらの国々が世界のリンゴ市場を主導しています。栽培面積においても中国が突出しており、広大な土地で効率的なリンゴ生産が行われていることがわかります。

中国での生産

中国におけるリンゴ生産は1980年代から目覚ましい成長を遂げ、2002年には世界の総生産量の約3分の1を占めるまでに発展しました。そして2022年には、世界総生産の約半分に相当する約4,800万トンを中国一国で生産するまでになっています。そのほとんどは国内で消費され、2010年以降、輸出量は約80万トンから140万トンの間を推移しています。2022年時点で最大の産地は、山東省、陝西省、甘粛省などで、中国国内各地に広く分布しています。中国の品種別リンゴ生産では、「ふじ」が長年にわたり圧倒的なシェアを誇り、2022年時点でも全リンゴの70%を占めています。「ヴィーナスゴールド」、「瑞雪(ルイシュエ)」、「瑞陽(ルイヤン)」、「瑞香(ルイシャン)」、「紅明月(ホンミンユエ;または名月 ミンユエ)」、「魯麗(ルリ)」など、新しい品種も開発・導入されていますが、品種の転換はなかなか進んでいません。

米国での生産

2022年、アメリカ合衆国でのリンゴ生産量は約443万トンに達し、これは世界の総生産量の約5%に相当します。2020年代初頭において、アメリカは中国、トルコと並び、世界で2番目または3番目に大きなリンゴ生産国です。州別に見ると、ワシントン州が圧倒的な生産量を誇り、2023/2024年には米国全体の約64%を占める見込みです。その他、ニューヨーク州(11%)、ミシガン州(10%)、ペンシルバニア州(4%)、カリフォルニア州(2%)、バージニア州(2%)なども主要な産地です。2023/2024年の品種別生産量予測では、‘ガラ’ (18%)、‘レッドデリシャス’ (13%)、‘ハニークリスプ’ (11%)、‘ふじ’ (10%)、‘グラニースミス’ (10%)、‘ゴールデンデリシャス’ (6%)、‘コズミッククリスプ’ (5%)が上位を占めています。2023/2024年に生産されるリンゴの用途は、約70%が生食用、残りの約30%が加工用(シードル、ジュース、アップルソースなど)として利用される見込みです。2022年の輸出量は約60万トンで、主な輸出先はメキシコ(39%)、カナダ(25%)、台湾(7%)、ベトナム(6%)の順でした。一方、生果の輸入量は約7万5000トンでした。さらに、2022年には濃縮リンゴ果汁を約250万トン輸入しています。

トルコでの生産

2022年のトルコのリンゴ生産量は世界第2位であり、約481万トンを生産し、これは世界の総生産量の約5%を占めています。県別に見ると、イスパルタ県が最も多く(全体の20%)、次いでカラマン県、ニーデ県、デニズリ県、コンヤ県、ブルドゥル県、アンタルヤ県など、主に南部から中部の県で多く生産されており、これらの県を合わせるとトルコ全体の生産量の71%を占めています(2020年時点)。品種別では、‘スターキングデリシャス’や‘ゴールデンデリシャス’などが一般的ですが、ニーデ県はやや異なり、トルコ原産の品種である‘Amasya (Amassia)’が生産量の32%を占めています。トルコで生産されるリンゴの大部分は生食用ですが、一部はジュースやドライアップルなどの加工品に利用されます。2019年時点での輸出量は全生産量の7%(約27万トン)であり、2017年から2019年における主な輸出先はイラク(47%)で、その他にはシリア、インド、ロシア、サウジアラビアなどがありました。

ヨーロッパでの生産

ヨーロッパ全体で見ると、リンゴの生産量は中国に次いで世界で2番目に多く、2022/2023年には約1,268万トンに達し、これは世界の総生産量の約15%に相当します。また、ヨーロッパは総体として輸出量が最も多く、その量は100万トンを超えます。国別の生産量では、ポーランド(37%)、イタリア(18%)、フランス(12%)、ドイツ(9%)、ハンガリー(3%)、スペイン(3%)の順に多くなっています。品種別に見ると、‘ゴールデンデリシャス’が最も多く (16%)、次いで‘ガラ’ (12%)、‘レッドデリシャス’ (6%)、‘アイダレッド’ (5%)、‘グラニースミス’ (4%)、‘シャンピオン’ (4%)、‘ジョナゴールド’ (3%)、‘エルスター’ (3%)、‘ブラムリー’ (3%)、‘ふじ’ (3%)、‘ピノバ’ (3%)など、多様な品種が栽培されています。

日本での生産

日本におけるリンゴの生産量は、1962年(昭和37年)から1971年(昭和46年)の10年間には100万トンを超える時期もありましたが、価格の低迷により、その後は徐々に減少傾向にあります。2023年(令和5年)の収穫量は60万3,400トンで、前年度比18%減となりました。この減少は、開花期に発生した凍霜害が原因であると考えられています。2023年の都道府県別生産量では、青森県と長野県が上位2県であり、全国生産量のおよそ80%を占めています。その他、東北地方の各県および北海道が上位に位置しています。日本のリンゴ生産においては、古くは北米から導入された品種(‘ジョナサン’、‘レッドデリシャス’、‘ゴールデンデリシャス’、‘マッキントッシュ’、‘ローマビューティー’、‘バルドウィン’)が多く栽培され、1982年時点では全体の43%を占めていました。しかしその後、日本産の品種の割合が急速に増加し、2023年時点でも‘ふじ’ (51%)、‘つがる’ (11%)、‘王林’ (7%)が上位3品種であり、これらはすべて日本産の品種です。第4位は米国で開発された品種である‘ジョナゴールド’ (6%)となっています。また、2021年の栽培面積では、‘ふじ’(50%)、‘つがる’(11%)、‘王林’(7.3%)、‘ジョナゴールド’(6.8%)、‘トキ’(3.2%)、‘シナノゴールド’(2.6%)、‘紅玉’(1.6%)、‘あかぎ’(1.5%)、‘さんさ’(1.3%)、‘世界一’(1.3%)、‘ひめかみ’(1.2%)、‘陸奥’(1.2%)の順で多く栽培されています。

日本では、リンゴの生果は1971年に輸入が自由化されましたが、コドリンガやその他の病害虫の防疫上の理由から、欧米などからの輸入は長らく禁止されていました。しかし、防疫技術の確立とともに多くの国からの輸入が可能になりました。しかし、日本の消費者の好みに合致しないことが多く、2023年時点ではニュージーランドからの輸入が4,692キロリットルと最も多く、輸入シェアはニュージーランド(62%)、アメリカ(10%)、フランス(7%)、チリ(4%)、中国(3%)、韓国(2%)、カナダ(2%)、イタリア(2%)の順となっています。日本における果汁飲料を含むリンゴの自給率は、かつては100%近かったものの、1990年にリンゴ果汁の輸入が自由化されて以降は約60%程度に低下し、2022年には59%となっています。

世界の輸出入動向

国際的なリンゴの取引状況を見ると、2022年から2023年のデータでは、ヨーロッパからの輸出量が際立っており、およそ100万トンを超えています。これに次ぐのが中国で、輸出量は約80万トンから140万トンの間です。その他の主要な輸出国としては、米国(約60万トン)、チリ(61万トン)、ニュージーランド(55万トン)、イタリア(47万トン)などが挙げられます。一方、リンゴの輸入量が多い国は、ドイツ(23万トンから36万トン)、イギリス、インド、メキシコ、ロシアなどです。これらの国々は、国内生産だけではリンゴの需要を満たせないため、海外からの輸入に大きく依存していると考えられます。

栽培

リンゴの栽培に適した気候条件としては、年間平均気温が7~12℃で、夏の気温が18~24℃程度の冷涼な地域が理想的です。また、年間降水量が600mm程度と少なめで、昼夜の寒暖差が大きいことも望ましいとされています。リンゴの休眠打破には、4~7℃の低温が1200時間程度必要とされますが、これは品種や地域によって異なります。日本では、青森県と長野県が主要なリンゴの産地として知られています。冷涼な気候は、リンゴの貯蔵にも適しています。土壌については、肥沃で水はけが良く、十分な深さがある土層が適しています。

植栽:台木の種類と栽培方法

リンゴの植栽では、一般的に台木に穂木を接ぎ木する方法が用いられます。この接ぎ木の方法としては、台木を畑から掘り上げてから行う「揚げ接ぎ」が一般的です。また、早期の結実を促すなどの目的で、すでに植えられている接ぎ木に別の品種の穂木を接ぎ木する「高接ぎ(二重接ぎ)」という方法もあります。この場合、古い品種の部分が台木と新しい品種の間に位置することになるため、「中間台木(interstock)」と呼ばれます。リンゴ栽培で使用される台木は、大きく分けて、地上部の成長を促進して樹冠を大きくする「強勢台木」と、逆に成長を抑制して樹を小さくする「矮性台木(わい性台木、dwarf stock)」があります。さらに、これらの中間的な性質を持つ「半強勢台木」や「半矮性台木(semi-dwarfing rootstock)」も存在します。矮性台木を利用することで、樹の高さが抑えられ、管理作業の効率化や早期結実を促すことが可能です。

日本では、昔から台木としてワリンゴ(Malus asiatica var. ringo)、マンシュウコリンゴ(Malus baccata var. mandshurica)、ミツバカイドウ(Malus baccata; 図17a)など、様々な種類のリンゴ属植物が利用されてきました。また、穂木と同じ種類のリンゴを台木とする「共台」が用いられることもありました。しかし、1965年以降に日本で植えられたリンゴの台木の多くはマルバカイドウであり、2011年時点では日本のリンゴの台木の65%をマルバカイドウが占めていました。マルバカイドウは、半強勢台木に分類され、抵抗力が高く、挿し木での発根が良いという特徴があります。さらに、乾燥や湿気に強く、根が深く伸びるため、土壌への適応性が広く、日本で広く利用されてきた歴史があります。

このマルバカイドウ台木を用いた日本での典型的な栽培方法は「普通栽培」と呼ばれ、樹の間隔を約8メートル(m)ほどとり(おおよそ10アールあたり15~30本)、樹の形を「開心型」または「遅延開心型」とすることが一般的です(図17b)。この栽培方法には、樹が丈夫で比較的育てやすいこと、強風や干ばつ、大雨などの自然災害に強いこと、経済寿命が長く、長期間にわたって安定した収穫が見込めること、そして、必要な苗木の数が少なくて済むことなどの利点があります。一方で、樹が大きくなると、樹冠内部への光の入りが悪くなり、果実の着色管理が難しくなること、高度な剪定技術が必要になること、樹が大きくなりすぎると間伐が必要になること、安定した収穫を得るまでに時間がかかることなどの欠点もあります。

一方、1975年頃からは、「矮性台木」を用いた「矮化栽培(わい化栽培)」が日本でも普及し始めています。この栽培法は「密植」を前提としており、樹の形は「細型紡錘形(スレンダースピンドル)」などを採用し、植え付けは「並木植え(ヘッドロー)」が基本となります。中には、枝が横に広がらず、円筒形の樹形となる「カラムナータイプ」と呼ばれる品種も存在します。矮化栽培では、樹勢をコントロールするために、強勢台木と穂木の間に長さを変えた矮性台木を中間台木として利用することもあります。矮化栽培の利点としては、樹の高さが低く抑えられるため、管理作業(剪定、摘果、収穫など)が容易になること、樹の内部に光が入りやすくなり、着色管理が容易になること、密植栽培が可能であるため(一般的に樹間2メートル、列間4メートルで10アールあたり100~125本植栽)、単位面積あたりの収穫量が多くなること、そして樹勢が早期に安定するため、花芽をつけさせない期間を短縮し、早期に結実を開始できることなどが挙げられます。

しかし、矮化栽培にはいくつかの課題も存在します。単位面積あたりの苗木の本数が多くなるため、初期費用がかかること、根が浅く、倒伏しやすいので支柱が不可欠であること、自然災害(強風、大雪など)による被害を受けやすいこと、経済的樹齢が約30年と普通栽培に比べて短いこと、樹高が低く、樹勢が弱いため、肥料や病害虫管理、凍結害に対する細やかな注意が必要なこと、そして、ネズミによる苗木や若木の食害に遭いやすいことなどが問題点として指摘されています。欧米などでは矮化栽培が広く普及していますが、日本では導入が遅れているのが現状です。矮性台木として世界的に有名なのは、イギリスのイースト・モーリング試験場 (East Malling Research Station) がリンゴ属植物のパラダイス(Malus pumila var. paradisiaca)から育成した「M系」です。M系の中でよく知られた「M.9」は、接いだ樹の大きさが本来の大きさの30~40%になる非常に矮性の強い台木です。M.9は複数種のウイルスに感染していることがあったため、無毒化した「M.9A」や「M.9EMLA」が開発されています。この他にも、「M.26」(樹の大きさは40~50%)や「M.27」(樹の大きさは20~30%)などがあります。

M系以外の矮性台木としては、ニューヨーク州立農試共同育成の「MM系」や、農林水産省果樹試験場盛岡支場育成の「JM系」などがあります。この中では、MM.106(M.1とリンゴ品種である‘Northern Spy’の交配から選抜され、樹の大きさは60–70%)、JM1(‘Fuji’とM.9の交配から選抜され、樹の大きさはM.9よりやや小さい)、JM7(マルバカイドウとM.9の交配から選抜され、樹の大きさはM.9よりやや小さい)などが使われています。JM系台木はM系台木と異なり挿し木発根性があるため、取り木を行う必要がなく、耐水性に優れることから日本国内の栽培方法に適しており、果実の糖度も高くなる特徴があります。

さらに、より高密度での栽培を行い、早期多収、均質生産、作業効率向上を目指した高密植栽培が世界的に広まりつつあります(図18)。高密植栽培では、一般的に中間台木ではないM.9系の台木が用いられ、樹の間隔を1 m以内、列の間隔を3~3.5 mで植栽し、10アールあたり300本以上になることが特徴です。フェザー苗を用い、樹の形はさらに細長いトールスピンドルに仕立てられます。果樹を支える棚(トレリス)が必須であり、トレリスをV字型とし、樹を斜めに伸ばして手が届きやすくすることもあります。高密植栽培の利点としては、より早期に多くの収穫が得られ、均一な品質のリンゴを生産できること、高度な剪定技術を必要とせず、作業をマニュアル化できること、着色管理などの作業効率が大幅に向上すること、そして農薬の使用量を削減できることなどが挙げられます。一方で、多くの苗木、支柱などの固定資材、灌水設備など、多額の初期費用を必要とすること、適した畑の選択や整備が必要であること、経済的樹齢がさらに短いこと、凍害や大雨など自然環境による影響を受けやすいことなどの問題も存在します。

整枝剪定

リンゴ栽培における整枝剪定は、樹の自然な成長を調整し、栽培管理しやすい樹形に育て、それを維持するとともに、花芽の形成と結実を安定させて、果実の収量を確保するために行われます。また、ロープや重り、突っ張り棒(スプレッダー)、E型金具などを用いて、枝の伸びる方向を調整することもあります。例えば、上に向かって伸びる枝は、栄養成長が盛んになる傾向があるため、枝を下向きに矯正することで、花芽の形成や結実を促します。剪定は、主に冬季と夏季に行われます。冬季に行われる剪定は、主に樹の形を整え維持することを目的とし、根や幹に蓄えられた養分に対して、春に伸びる枝や芽が減少するため、強く剪定するほど残った枝や芽の春の成長が促進される傾向があります。一方、夏季に行われる剪定は、樹冠内の光の環境を改善し、徒長枝(不要な勢いのある枝)を整理するために行われ、光合成を行う器官が減少するため、成長を促進する効果は少ないとされています。剪定には、枝の途中から切り落とす「切り返し剪定」と、枝の根元から切り落とす「間引き剪定」があります。切り返し剪定では、強く切り返すほど残された枝の芽が強く成長し、結果的に花芽を形成する枝(結果枝)が減少することがあるため注意が必要です。剪定作業は、ほとんどが手作業で行われており、樹は個体によって性質が異なるため、特に普通栽培では、経験と高度な技術が求められます。剪定技術の良し悪しによって、収穫量に大きな差が出ることがあります。大規模な栽培の場合は、バリカンなどが用いられることもあります。また、米国では、新梢の成長を抑制する薬剤として、植物成長調整剤であるプロヘキサジオンカルシウム剤 (APOGIE) を用いることがあります。

栄養成長が盛んで花芽が少なくなったり、樹が大きくなりすぎる場合は、主幹や枝に環状剥皮などの外科的な処理を行い、師部組織を傷つけることで光合成産物の輸送を遮断し、成長を抑制することがあります。このような処理は、通常花芽が形成される前に行われ、これによって樹勢が調整されて花芽の形成が促進されます。また、この処理によって果実の糖度や酸度が増加することが知られていますが、一方で果実の成熟が早まり、貯蔵性が低下することもあるため、適切な判断が必要です。

土壌管理

リンゴは一般的に乾燥には強くありません。日本のリンゴ栽培でよく使われるマルバカイドウの台木は根が深く張るため、以前はほとんどの場合、追加の灌水は不要でした。しかし、近年は温暖化の影響で、特に暑くて乾燥した年には灌水が必要になることが増えています。また、近年普及している矮化栽培では、根が浅いため、定期的な灌水が不可欠です。一方で、リンゴは過湿にも弱いため、水田を転換した果樹園などでは土壌の水分量が問題になることがあります。そのため、排水対策が非常に重要です。さらに、リンゴは土壌中の塩分濃度が高い状態にも弱いとされています。

リンゴが吸収できる土壌中の栄養分は、収穫量や品質に直接影響します。そのため、肥料の管理は非常に重要です。施肥する成分の種類や量、タイミングは、土壌の条件や栽培方法によって大きく異なります。リンゴの木が吸収した栄養分の量や、施肥した栄養分の利用効率などを考慮し、葉の色や新梢の成長具合といった外観的な栄養状態の診断、さらに葉の成分分析による生理的な栄養状態の診断に基づいて、最適な施肥計画を決定します。標準的な施肥量としては、窒素が10アールあたり約15kg、リン酸が約5kg、カリウムが約5kg程度とされています。施肥は通常、春と秋の年2回行われますが、雪が多く寒い地域では、春にまとめて施肥することが一般的です。

土壌表面の管理方法としては、雑草が生えないように管理する「清耕法」、積極的に草を生やす「草生法」、そして藁や堆肥などの資材で土壌表面を覆う「マルチ法」などがあります。矮化栽培の場合、木の株元と通路で異なる管理方法を使い分けることもあります。一般的には草生法が広く用いられていますが、リンゴの木と雑草の間で養分や水分を奪い合う可能性や、雑草が病害虫の発生源となる可能性も考慮する必要があります。完全に雑草を取り除く清耕法は、有機物が不足して土壌の状態が悪化したり、表土が流失したりする原因となるため、通常は避けられます。マルチ法は、雑草の抑制と土壌の品質や水分の維持に効果的ですが、使用する資材の種類によって効果が異なります。

病虫害対策

リンゴには非常に多くの病虫害が発生する可能性があり、日本国内では250種類以上の害虫と65種類以上の病害が確認されています。特に、日本のように高温多湿な環境では病虫害が発生しやすいため、適切な農薬の使用が不可欠とされています。しかし、冷涼で乾燥した気候の北米西部やヨーロッパなどでは、農薬の使用を極力控えた有機栽培も行われています。

病虫害の防除を行う際には、病害虫の発生状況を予測する情報に基づいて、適切な時期に防除を行うことが重要です。日本では、年間12回程度の薬剤散布が行われるのが一般的です。病原菌やダニの中には、薬剤に対する抵抗性を持つ個体が出現することがあり、同じ系統の薬剤を連続して使用することは避けるべきとされています。一部の害虫に対しては、性フェロモンを利用して交尾を阻害する防除方法も普及しています。また、紋羽病のように土壌中で生育する病原菌に対しては、植え替えの際に土壌や苗木の消毒を行うことがあります。接ぎ木によってウイルス病が伝染することも知られているため、接ぎ木を行う際には、健全な木から採取した穂木を使用することが重要です。遺伝子組み換え技術を利用して、病気に強い品種を開発する試みも世界的に行われていますが、これらのリンゴ品種は日本ではまだ栽培されていません。

病虫害の他にも、シカやイノシシ、ネズミなどの動物による被害が発生することがあります。特に冬の時期に、これらの動物がリンゴの根や若い木を食べてしまい、木を枯らしてしまうことがあります。ネズミに対しては、殺鼠剤の使用や捕獲などの対策が行われます。また、若い木の幹を金網などで保護することも有効です。

生理障害

生理障害とは、病害や虫害といった生物的な要因ではなく、温度、光、養分、水分といった化学的・物理的な環境要因によって引き起こされる障害のことです。リンゴ栽培において発生する主な生理障害としては、以下のようなものがあります。

気象災害

リンゴの栽培において、様々な気象現象が深刻な被害をもたらすことがあります。

開花時期の前後に発生する遅霜は、受粉や果実の形状に深刻な影響を与える可能性があります。この被害を防ぐためには、花が咲いている部分の温度を氷点以上に保つ必要があり、防霜ファンで空気を循環させたり、燃焼資材を使用したりする対策が行われます。また、幼果期や果実の肥大期に雹(ひょう)が降ると、果実に傷がつき、商品価値が著しく低下します。雹が頻繁に降る地域では、果樹園全体にネットを張り巡らせて被害を防ぐ対策が取られることもありますが、その設置には多大な費用がかかります。

果実に強い直射日光が当たると、その部分の表面の色が抜けて白っぽくなり、やがて褐色に変色して商品価値を失うことがあります。これは「日焼け」と呼ばれる現象です。また、袋掛け栽培で袋を取り外した後に、果実が紫外線によって褐色に変色する「除袋後日焼け」も発生することがあります。

台風や大雪によって、収穫前の果実が大量に落下したり、木そのものが大きく損傷したりすることがあります。特に1991年(平成3年)の台風19号は、9月27日の夜から28日の朝にかけて青森県に接近し、収穫間近だったリンゴがほとんど落下するという甚大な被害をもたらしました。その被害面積は2万2400ヘクタール、被害量は約38万トン、被害額は約741億円に達し、この台風は「リンゴ台風」と呼ばれるようになりました。台風の多い地域では、防風ネットや防風垣を設置することで風による被害を軽減する対策が取られています。また、雪の多い地域では、雪の重みで幹が折れたり、枝が裂けたりすることがあります。そのため、若い木の枝を束ねたり、融雪剤を散布するなどの対策が行われます。雪による被害を受けた箇所は病原菌が侵入しやすくなるため、傷口に薬剤を塗布したり、損傷した枝を切り落としたりすることが重要です。

結実管理

リンゴは自家受粉しにくい性質を持つため、安定した収穫を得るには、相性の良い異なる品種を一緒に植えることが重要です。日本では、ミツバチやマメコバチなどの昆虫を利用したり、人工授粉を行うことが一般的ですが、海外では人工授粉はあまり行われていません。

リンゴに限らず、果物の栽培では、実がなりすぎると栄養を奪い合い、品質が低下するだけでなく、翌年の花の数が減るなど、樹木に負担がかかります。そのため、実の数を調整するために間引きを行います。間引きは早めに行う方が効果的ですが、自然に実が落ちる現象や、作業を分散させるために、数回に分けて行うのが一般的です。つぼみの間引きを「摘蕾」、花の間引きを「摘花」、実の間引きを「摘果」と呼びます。リンゴの花は、最初に咲く中心花とその周りの側花で構成されていますが、栽培では通常、中心花だけを残して摘蕾・摘花します。結実後には、品種ごとに決められた葉果比(一つの実を育てるのに必要な葉の数)を目安に摘果します。例えば、「ふじ」や「つがる」では1つの実に対して40~50枚の葉、「ジョナゴールド」や「王林」では70~80枚の葉が必要です。また、作業を効率化するために、植物成長調整剤や石灰硫黄合剤などを摘花・摘果剤として使用することもあります。ただし、欧米では大きな実が好まれないため、摘花・摘果の頻度は日本ほど高くありません。

着色管理

赤いリンゴの色は、リンゴが作り出すアントシアニンという色素によるもので、鮮やかな赤色にするためには十分な日光が必要です。そのため、日本では、日光を遮る葉を取り除く作業や、均等に光が当たるように実を回す作業、太陽光を反射させるシートを敷くなどの工夫が行われます。また、葉を取り除く作業を楽にするために、摘葉剤も開発されていますが、これらの作業は日本以外ではあまり行われていません。

さらに日本では、着色を促進するためにリンゴに袋をかける栽培方法があります。これを「有袋栽培」と呼び、袋をかけない栽培を「無袋栽培」と呼びます。元々、袋かけは害虫から実を守るためのものでしたが、現在では着色を良くするために行われることが多いです。まず、幼い実に二重の袋や着色用の袋をかけ、日光を遮断して果皮のクロロフィル生成を抑制します。その後、アントシアニンが作られる時期に袋を取り外し、日光を当てて着色を開始させます。クロロフィルがないため、果皮はより鮮やかに赤くなります。袋を取り外す時期は品種や袋の種類によって異なりますが、一般的に早生品種では収穫の15~20日前、中生品種では25~30日前、晩生品種では35~40日前に行われます。有袋栽培されたリンゴは、保存性も向上します。また、表面のざらつきを防ぐ効果もあるため、それを防ぐために遮光性の低い袋を使用することもあります。

しかし、有袋栽培は手間がかかるため、農家の負担が大きくなります。また、有袋栽培されたリンゴは、無袋栽培されたリンゴに比べて糖度や味が劣る傾向があるという報告もあります。袋かけによって糖度が低下する原因としては、遮光による光合成の阻害や、高温多湿による果実の栄養吸収能力の低下などが考えられます。さらに、有袋栽培されたリンゴは、袋を取り外した後に日焼けしやすいという問題もあります。そのため、近年では手間のかからない無袋栽培が増えており、着色の良い品種や着色促進剤なども利用されています。同じ品種でも有袋栽培と無袋栽培が行われている場合、無袋栽培されたリンゴには「サン」という名前をつけて区別することがあります(例:ふじとサンふじ)。また、作業を省力化するため、そして果実により多くの光合成産物を供給するために、収穫まで葉を摘まない栽培方法もあり、このようにして収穫されたリンゴは「葉とらずリンゴ」と呼ばれます。「きおう」や「黄香」のような黄色い品種は、着色管理が不要なため、手間のかからない品種とされていますが、「王林」など花が多い品種では、摘花に時間がかかる傾向があります。

収穫

品種によっては、収穫前に実が落ちやすいものがあるため、落下防止剤を散布することがあります。ただし、オーキシンは果実の成熟を促進し、保存性を低下させることがあるため、散布時期や濃度を適切に調整する必要があります。

収穫時期は、品種やその年の天候、栽培場所、木の状態によって異なり、果実の色、硬さ、味、糖度、蜜の入り具合、ヨード反応(デンプンの糖への変化)など、様々な要素を総合的に判断して決定されます。また、出荷方法によっても収穫時期の判断基準が異なります。基本的には、樹上で早く完熟した果実から収穫されますが、短期間保存して販売される果実は比較的遅い時期まで成熟させてから収穫され、長期間保存して販売される果実はやや早い段階で収穫される傾向があります。

収穫された果実は、目視または重量センサーやカラーセンサーを備えた選果機によって選別されます。その他にも、成熟度、甘さ、酸味、蜜の入り具合、果肉の異常などを非破壊的に測定する最新技術も導入されています。

貯蔵

リンゴは成熟時に呼吸量が増加し、エチレンという物質の生成量が増えて急速に成熟が進む果物です。そのため、それを考慮した貯蔵方法が用いられます。日本では、早生リンゴが出回る時期まで、貯蔵されていた前年の晩生リンゴが出荷されるため、一年を通してリンゴが手に入ります。一般的な「普通冷蔵」では、温度を0~-1℃、湿度を90~95%に保って保存します。一方、20世紀後半からは、リンゴを長期保存する方法としてCA貯蔵が広く普及しています。CA貯蔵は、温度・湿度は普通冷蔵と同様ですが、ガスの組成を調整し、低酸素(1~3%)、高二酸化炭素(1~3%)の密閉環境で果実の呼吸を抑制して保存する方法です。ガスの最適な濃度条件は、品種によって異なります。ただし、熟しすぎた果実をCA貯蔵すると、保存中に品質が著しく低下することがあるため、熟度管理が重要です。その他に、水分は通さないが二酸化炭素などは通すプラスチック素材で個々の果実を密閉して鮮度を保つMA貯蔵法もあります。また近年では、エチレンの作用を阻害する薬剤である1-MCPを利用した鮮度保持技術も活用されており、貯蔵期間を大幅に延ばすことが可能になっています。

まとめ

リンゴは、約8000年もの長い歴史を持つ人類最古の果物の一つであり、その起源は中央アジアに自生する野生種、Malus sieversiiに遡ります。古代ギリシャ・ローマ時代から中世ヨーロッパを経て世界各地に広がり、北米大陸では独自の品種進化を遂げました。リンゴは、選び方のポイントを理解し、適切な方法で保存することで、その美味しさを長く楽しむことができます。リンゴは、私たちの食生活を豊かにし、健康を支える、まさに「果物の王様」と言えるでしょう。

リンゴの表面がべたつくのはなぜ?

熟したりんごの表面がべたべたするのは、特定の品種、特に「ジョナゴールド」などでよく見られる自然な現象です。これは、りんごが熟成する過程で、皮からリノール酸やオレイン酸といった成分が分泌され、それが皮の表面にあるロウ物質を溶かすために起こります。まるでワックスを塗ったように見えることがありますが、日本国内で販売されているりんごにワックス処理が施されることはほとんどありませんので、安心して皮ごと食べられます。

リンゴを切ると変色するのはなぜ?どうすれば防げる?

りんごを切った際に果肉が茶色く変色するのは、果肉に含まれるポリフェノールオキシダーゼという酵素が、空気中の酸素と反応してポリフェノールを酸化させるためです。この変色を防ぐには、カットしたりんごを薄い食塩水やレモン水のような酸性の液体に浸すのが効果的です。食塩水やレモン水の酸が、酸化酵素の働きを抑制する効果を発揮します。また、「シナノスイート」など、品種によってはポリフェノールオキシダーゼの活性が低く、変色しにくいものもあります。

「ふじ」と「サンふじ」って何が違うの?

「ふじ」と「サンふじ」は、実は同じ品種のりんごですが、栽培方法に違いがあります。「ふじ」は、見た目の色つやを良くするために、生育中に一つ一つ袋をかけて育てられます。一方、「サンふじ」は袋をかけずに、太陽の光をたっぷり浴びて育てられます。そのため、「サンふじ」は表面に色ムラが出やすいのですが、太陽光を浴びることで甘みが凝縮され、果肉の中心部分に「蜜」が入りやすいのが特徴です。

リンゴは一年中手に入るの?

はい、現在では、ほぼ一年を通してりんごが市場に出回っています。これは、様々な品種が時期をずらして収穫されることに加え、CA貯蔵(Controlled Atmosphere貯蔵)や1-MCP(1-メチルシクロプロペン)といった、りんごの鮮度を保つ高度な貯蔵技術が進歩したおかげです。夏から秋にかけては早生品種が出荷され、冬から春にかけては貯蔵性の高い晩生品種が出荷されるため、いつでも美味しいりんごを楽しむことができます。

りんごはどこから来たの?

私たちが普段食べているりんご(学名:Malus domestica)のルーツは、中央アジアの天山山脈周辺に自生する野生種のMalus sieversiiというりんごにあると考えられています。このりんごがシルクロードを通じて西へ伝わり、ヨーロッパの野生りんごとの交配を重ねることで、現在のりんごへと進化していきました。

りんごの種は食べても大丈夫?

りんごの種には、アミグダリンという物質が含まれています。これは体内で分解されると、シアン化水素という有害な物質を生成する可能性があります。しかし、りんご1個に含まれる程度の種であれば、人体に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。ただし、大量に摂取することは避けた方が良いでしょう。

りんごを冷やすとおいしくなるって本当?

その通りです。りんごを冷やすと、より甘く感じられます。これは、りんごに含まれる果糖という糖の一種が、低温になると甘みを強く感じる形に変化するためです。冷蔵庫でよく冷やしてから食べると、りんごの甘さを最大限に引き出すことができます。

りんごジュースにはどんな種類があるの?

お店で売られているりんごジュースは、大きく分けて「混濁ジュース」と「透明ジュース」の2種類があります。混濁ジュースは、りんごを搾ったそのままの状態で、果肉や繊維質が残っているため、濃厚な味わいが楽しめます。一方、透明ジュースは、酵素などを使って濁りを取り除き、透明に仕上げたものです。日本では混濁ジュースが多く作られており、透明ジュースは海外からの輸入に頼っていることが多いです。

リンゴから糖尿病治療薬が生まれたというのは本当の話?

おっしゃる通り、それは事実です。リンゴの木の皮に含まれる「フロリジン」という物質が、腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑える働きを持つことが判明しました。フロリジン自体は薬として利用されることはありませんでしたが、その構造を改良した結果、糖尿病の治療薬として知られる「SGLT2阻害薬」が開発され、2013年にアメリカで、翌年には日本でも承認・販売されるようになりました。

楽園に登場する禁断の果実とは、本当にリンゴのことなのでしょうか?

旧約聖書の原文(ヘブライ語)では、エデンの園にある「禁断の木の実」は、単に「果実」としか書かれておらず、リンゴであるとは明記されていません。この果実がリンゴとして認識されるようになったのは、西洋の文化的な解釈が大きく影響していると考えられます。一例として、ラテン語でリンゴを意味する「malum」という言葉が、「悪」という意味も持っていることが挙げられます。実際には、イチジク、ザクロ、ブドウなど、他の果実が禁断の果実だったとする説も数多く存在します。

りんご