イチジク品種図鑑:多様な品種と選び方のポイント

甘くて美味しい果実として親しまれているイチジク。品種により、大きさや色、そして味まで、それぞれの品種が異なる個性を持っています。この記事では、そんなイチジクの魅力的な品種の数々を詳しく解説。代表的な品種から希少な品種まで、特徴を比較しながらご紹介します。

イチジクの品種に関する基礎知識

イチジクは、クワ科イチジク属に属する落葉性の小高木果樹であり、世界中で栽培されています。品種により、果実の大きさ、色、形、そして味に至るまで、それぞれが独自の特性を持っています。さらに、収穫時期も品種によって異なるため、栽培を始める際には、これらの特徴をしっかりと理解しておくことが不可欠です。日本のイチジク市場では、「枡井ドーフィン」と「早生日本種(蓬莱柿)」が二大品種として君臨しています。特に枡井ドーフィンは市場の約8割を占める圧倒的なシェアを誇り、早生日本種、別名蓬莱柿と合わせると、市場の約9割を占める状況です。これらの品種が広く普及した背景には、栽培の容易さや日持ちの良さなど、栽培・流通上のメリットがあります。一方、希少な品種は市場に出回ることが少なく、生産農園での直売や特定のオンラインストア、あるいは地元の飲食店など、限られた販路でのみ取引されることがほとんどです。そのため、一般消費者が手軽に入手できる品種は限られています。イチジク栽培を検討する際には、まず品種の多様性と市場における流通状況を把握することが、最適な品種選びの第一歩となります。

イチジク品種選びのポイント

イチジクの品種を選ぶ際には、収穫時期と栽培地域の気候条件という、2つの重要な要素を考慮する必要があります。まず、収穫時期によって、イチジクは「夏果」「秋果」「夏秋兼用品種」の3種類に大別されます。夏果は一般的に6~7月頃、秋果は8~10月頃に収穫時期を迎えます。夏果、秋果、夏秋兼用種では、それぞれ実の付き方や成長サイクルが異なるため、剪定方法も異なってきます。例えば、日本の主要品種である枡井ドーフィンは夏秋兼用種に分類されますが、地域や栽培農家の判断によっては、品質向上や作業効率の観点から、秋のみに収穫を限定するケースもあります。次に、気候条件への適応性も、品種選びにおいて非常に重要なポイントです。イチジクはアラビア半島南部原産の亜熱帯植物であり、基本的に温暖な気候を好みます。そのため、日本の冬の寒さや霜は、イチジクの生育を阻害する大きな要因となります。品種ごとに耐寒性が異なるため、栽培を予定している地域の冬季の気候に適した品種を選ぶことが大切です。日本の二大品種を比較すると、早生日本種の方が耐寒性に優れており、比較的寒冷な日本海側や東北地方での栽培実績があります。一方、枡井ドーフィンは寒さに弱いとされ、和歌山県、愛知県、大阪府など、比較的温暖な地域が主な産地となっています。これらの収穫時期と耐寒性の違いをしっかりと理解し、自身の栽培環境に最適な品種を選ぶことが、イチジク栽培を成功させるための鍵となります。

枡井(ますい)ドーフィン

枡井ドーフィンは、日本のイチジク市場で約8割のシェアを誇る、まさに日本のイチジクを代表する品種です。その歴史は、1909年に種苗業者の桝井光次郎氏がアメリカから持ち帰ったことに始まります。この品種が広く普及した最大の理由は、栽培が比較的容易であることに加え、果実の日持ちが良く、輸送にも適しているという点です。そのため、生食用だけでなく、缶詰やジャムなどの加工品の原料としても幅広く利用されています。果皮は特徴的な緑色をしており、完熟した果肉は美しいピンク色を呈します。サマーレッドと比較すると、果実のサイズはやや小ぶりです。果実のサイズは、イチジクの品種の中ではやや大きめに分類されます。繊維がしっかりとしており、ココナッツのような独特の強い香りも特徴です。収穫時期は、本来は夏果と秋果の両方を収穫できる夏秋兼用種ですが、多くの農家では品質管理や収穫作業の効率化の観点から、秋果のみを収穫する栽培方法を採用しています。収穫は8月後半頃から始まり、シーズンを通して長く楽しめる品種です。

早生日本種(蓬莱柿)

早生日本種は、別名「蓬莱柿」とも呼ばれ、日本に最も古くから存在するとされる品種の一つで、「在来種」や「日本イチジク」とも呼ばれています。その起源は明確には分かっていませんが、枡井ドーフィンが日本に導入される以前から広く栽培されていました。この品種の最大の特長は、優れた耐寒性にあり、比較的寒冷な地域でも栽培が可能なため、現在では中国地方から九州北部を中心に広く栽培されています。果実は皮に近い部分まで果肉が詰まっているため、果実全体が透き通るような美しいピンク色に見えるのが特徴です。一方で、日持ちが短いという弱点があるため、産地から遠く離れた関東や東日本の市場では、あまり見かけることがないかもしれません。果皮はやや白っぽい色をしており、完熟すると果実のお尻の部分が星形に美しく割れるのが特徴です。熟すと裂果しやすい傾向がありますが、この品種特有のほのかな酸味と、枡井ドーフィンよりもやや高い平均糖度が織りなす、上品で奥深い味わいが魅力です。果実のサイズはやや小ぶりで、可愛らしい印象を与えます。収穫時期は秋に実をつける秋果専用種であり、夏果は実を結びません。

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ビオレソリエス

「幻の黒イチジク」や「黒いダイヤ」とも呼ばれるビオレソリエスは、フランス原産の希少な品種です。国内での栽培は依然として難しく、市場に出回る量が少ないため、高級品としてのブランド化が期待されています。果皮は非常に濃い黒色をしており、栗きんとんのように少し平たい独特な形状で、一般的なイチジクと比べて皮が裂けにくいのが特徴です。果肉は濃い赤色で、見た目にも魅力的です。香り、味ともに非常に濃厚で、口に含むと滑らかな食感が広がります。酸味はやや強めですが、それを上回るほどの強い甘味があり、糖度が20度を超えるものもあるほどです。皮がしっかりとしており、水分が少ないため、焼き菓子などの加熱調理にも適しています。種のプチプチとした食感も楽しめます。秋果専用種であり、夏には収穫できません。その希少性と独特の風味、調理への適性から、食通や高級食材を扱う飲食店から高く評価されています。

バナーネ

バナーネは、バナナを連想させる色、形、そしてねっとりとした食感が特徴的なイチジクです。熟しても果皮が赤くならない品種として近年人気が高まっています。果皮は鮮やかな黄緑色をしていますが、9月後半には茶色みを帯びることもあります。果肉は淡いピンク色から赤色で、種のプチプチとした食感がしっかりと楽しめます。イチジクの中でも特に大きく、夏果では200gを超えることもあります。秋果は桝井ドーフィンと比較すると、やや小ぶりに感じられることもあります。ねっとりとした独特の食感は、他の品種では味わえないもので、味の評価も非常に高いです。夏秋兼用品種ですが、多くの農家では、甘みが凝縮される秋の収穫に力を入れています。8月中旬頃から収穫が始まり、その大きさと特徴的な食感から、生食はもちろん、スイーツの材料としても重宝されています。

ブラウンターキー

ブラウンターキーは、その名の通り、褐色がかった外観が特徴的なイチジクで、欧米を中心に広く栽培されています。比較的寒さに強い品種として知られており、様々な地域での栽培が可能です。果実は小ぶりですが、収穫期間が長く、結果的に収穫量も多いという利点があります。そのため、生食だけでなく、ジャムやドライイチジクなどの加工品にも適しています。果皮は特徴的な褐色で、果肉は鮮やかな赤色をしています。甘味と酸味のバランスが良く、濃厚な風味が楽しめます。夏秋兼用品種であり、夏から秋にかけて長く収穫できるため、家庭菜園でも人気があります。

ザ・キング

ザ・キングは、「王様」の名を持つ、鮮やかな黄緑色の果皮が目を引くイチジクです。主に6〜7月が旬で、多くの品種が秋に最盛期を迎える中、比較的早い時期に収穫できます。希少価値が高い一方で、収穫期間が短く、耐寒性も弱いため、栽培は難しいとされています。果皮は鮮やかな黄緑色、果肉は赤色をしています。皮ごと食べられ、さっぱりとした味わいで、暑い夏にぴったりの風味です。果実のサイズは40gから180gと幅がありますが、大きめのものが多い傾向にあります。夏果専用種であり、夏のみ収穫可能です。その美しい外観と爽やかな味わいは、市場でも特別な存在感を放っています。

サマーレッド

サマーレッドは、大玉で目を引くワインレッド色の果皮が特徴です。一般的な桝井ドーフィンと比べ、イチジク特有の香りが穏やかなため、すっきりとした味わいが楽しめます。真夏の暑い時期に、水分たっぷりの大きな実を堪能するのに最適な品種と言えるでしょう。収穫は8月上旬から始まります。

イスキアブラック

イスキアブラックは、イタリア生まれの黒イチジクで、小ぶりながらも非常に強い甘みが特徴です。ビオレソリエスに匹敵するほどの濃厚な味わいを持っています。果実は小さく、水分が少ないため、焼き菓子やフルーツサンドなどの加工品に最適です。酸味はほとんどなく、ピュアな甘さを存分に楽しめる品種です。

ロードス

ロードスは、ギリシャのロードス島から日本へやってきた品種です。果実はやや小ぶりで、見た目は控えめですが、内部には鮮やかで美しい赤色の果肉が広がります。特徴的なのは、若草のようなフレッシュな香りがあり、強めの酸味とベリーを連想させる風味が調和している点です。生のまま食べることで、その美しい断面と独特の風味を余すところなく堪能していただきたい一品です。

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ドリーミースイート(旧名イスラエル)

ドリーミースイート(旧名イスラエル)は、つややかな黄緑色の果皮が印象的な品種です。その青さから、熟しているか不安になるかもしれませんが、酸味や渋みが少なく、上品な甘さが広がります。果肉は白から淡いピンク色で、完熟すると美しい星形に裂ける様子も魅力の一つです。果肉が赤い他のイチジクと組み合わせて盛り付けることで、見た目も楽しいデザートを演出できます。

久留米くろあま

黒いちじくの一種である久留米くろあまは、その大きさが魅力の一つです。他の品種と比較して食べ応えがあり、満足感を得られます。果皮はデリケートで薄いため、ひび割れが生じやすい点には注意が必要です。緻密な果肉は、程よい酸味と洗練された甘さが見事に調和し、上品な味わいを堪能できます。

ゼブラスイート

ゼブラスイートは、その外観から強い印象を与える品種です。黄緑と黄色のストライプ模様が特徴的な果皮は、他にはないユニークさを際立たせています。見た目とは異なり、果肉は鮮やかな赤色をしており、種子のつぶつぶとした食感がアクセントになっています。安定した美味しさを誇り、見た目と味の両方で楽しめるイチジクです。

セレスト

セレストは、黄みがかった薄茶色の果皮と、小さめの果実が特徴的な品種です。白い果肉の中に時折現れる赤い模様が、可愛らしい断面を彩ります。成熟しても実が割れにくいことから、栽培しやすい品種として知られています。種子のプチプチ感が少なく、なめらかで優しい甘さが際立ち、非常に食べやすいのが特徴です。

ブラックミッション

光沢のある黒色の果皮が目を引くブラックミッションは、細長い洋梨のような形状をしています。実が割れにくい性質を持ち、栽培のしやすさも魅力です。さっぱりとした甘さが特徴で、カリフォルニアを中心に広く栽培されています。生食はもちろんのこと、ドライイチジクなどの加工品としても重宝されています。

カドタ

カドタは、イタリアを原産とする小ぶりなイチジクで、光沢のある明るい黄緑色の果皮が目を引きます。果皮はとても薄く、口にした瞬間、上品な甘さが広がります。

まとめ

イチジクは、その多様な品種とそれぞれが持つ個性的な特徴から、栽培においては品種選びが非常に重要です。これらの情報を参考に、理想のイチジク品種を見つけて、栽培を楽しんでください。

イチジクの主な品種は何ですか?

日本で最も多く栽培されているイチジクの品種としては、「枡井ドーフィン」と「早生日本種(蓬莱柿)」の2つが挙げられます。これらの品種が日本の市場の約9割を占めており、特に枡井ドーフィンは、国内で流通するイチジクの約8割を占める、非常に人気のある品種です。

イチジクは暖かい地域でしか育たないのでしょうか?

イチジクは元々、アラビア半島南部を原産とする亜熱帯性の植物なので、一般的には温暖な気候を好みます。しかし、品種によっては寒さに強く、比較的涼しい地域でも栽培できるものがあります。例えば、日本早生種(蓬莱柿)は耐寒性があるため、日本海側や東北地方といった地域でも栽培されています。栽培を考えている場所の気候に合った品種を選ぶことが大切です。

「夏果」「秋果」「夏秋兼用種」の違いは何でしょうか?

これらはイチジクの収穫時期による分類です。「夏果」は、前年の夏にできた花芽が冬を越し、翌年の6~7月頃に収穫できる果実のことです。「秋果」は、その年にできた花芽が成長し、8~10月頃に収穫できる果実を指します。「夏秋兼用種」は、夏果と秋果の両方を収穫できる品種です。実のなり方や剪定方法などが異なるため、品種を選ぶ上で重要なポイントとなります。

イチジクは品種によって味や食感が大きく違うのでしょうか?

はい、イチジクは品種によって、果実の大きさ、色、形はもちろんのこと、味や食感も大きく異なります。例えば、ますいドーフィンは甘さが控えめで、かすかな酸味があるのが特徴ですが、ビオレソリエスは糖度が高く、濃厚な味わいです。また、バナーネは独特のねっとりとした食感を楽しめます。今回ご紹介したゼブラスイートのように、皮に縞模様がある品種や、カドタのように非常に小さい品種もあり、自分の好みに合わせて品種を選ぶことができます。

いちじく