柑橘類の肥料時期

柑橘類の肥料時期

柑橘栽培で甘くて美味しい実を収穫するためには、肥料の与え方が非常に重要です。適切な時期に、適切な種類の肥料を、適切な量だけ与えることで、柑橘の生育を促進し、病害虫への抵抗力を高めることができます。この記事では、柑橘栽培を成功させるための肥料の与え方を徹底解説。肥料の種類、与え方、そして年間スケジュールまで、初心者の方にも分かりやすくご紹介します。この記事を参考に、あなたも美味しい柑橘を育ててみませんか?

肥料の基本:三大栄養素(N・P・K)の役割

植物の成長に不可欠な肥料の三大栄養素である窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)は、みかん栽培においても非常に重要な役割を果たします。これらの栄養素がみかんの生育にどのように影響を与えるかを理解し、バランス良く肥料を与えることが、美味しいみかんを育てるための最初のステップです。

窒素(N):葉や茎の成長を助ける

窒素は、光合成で作られた糖分からタンパク質を合成するのに必要不可欠な要素です。葉緑体や核酸といった、植物が生きていく上で重要な成分の生成を助け、葉、茎、そしてみかんの木全体の成長を促進します。窒素が不足すると、葉の緑色が薄くなり、光合成を行う能力が低下してしまうため注意が必要です。みかん栽培では、春に土の温度が12℃を超える頃から窒素の吸収が始まり、新しい枝が伸びる5~6月と、果実が大きくなる7~9月に吸収のピークを迎えます。ただし、窒素を過剰に与えすぎると果実の品質が低下する可能性があるため、適切な施肥計画を立てることが大切です。

リン酸(P):光合成とエネルギーの利用

リン酸は、炭素やエネルギーの代謝に広く関わり、植物が生きていく上で重要な役割を果たす要素です。細胞膜の構成成分であり、光合成や呼吸を活発にします。また、遺伝情報を伝えるDNA(核酸)の構成要素でもあります。リン酸は土に蓄積しやすい性質があるため、効率的に利用するにはマグネシウム(苦土)と一緒に使うと効果的です。みかん栽培においては、窒素と同様に5~6月と7~9月に吸収のピークを迎えますが、木よりも果実への移動が多い傾向があります。リン酸が不足すると、葉の数や大きさが減少し、成長が悪くなったり、実の数が減ったり、果実の味が落ちたりします。過剰に与えても大きな影響は少ないですが、過剰になるとマグネシウム、亜鉛、鉄が不足する恐れがあります。

カリウム(K):根と茎を強くし、抵抗力を上げる

カリウムは、植物の細胞液の濃度を適切に保ち、葉からの水分の蒸発を調整する役割を担っており、肥料としては「加里」という名前で知られています。また、タンパク質や炭水化物の生成など、植物内部での様々な化学反応を助ける酵素としても働きます。根や茎を丈夫にし、病気や害虫、寒さに対する抵抗力を高める効果があります。みかんの栽培においては、6月頃に新しく伸びる枝葉がカリウムを多く吸収しますが、その後は吸収量が減ります。カリウムが不足すると、根腐れや葉の黄変が起こり、養分の吸収や光合成に悪い影響が出ます。逆に、多すぎるとマグネシウムの吸収を妨げ、植物内のアルカリ性のバランスが崩れて、タンパク質の合成がうまくいかなくなることがあります。

みかんを育てる上での肥料計画

みかん栽培では、通常、春肥(元肥)、夏肥(追肥)、秋肥(礼肥)の3回、肥料を与えます。畑の地形や土の状態に合わせて、肥料の種類や量を調整することが、安定した収穫を得るために重要です。ここでは、それぞれの肥料を与える時期、目的、そして肥料の量の目安について説明します。

春肥(元肥):新しい枝の成長と開花の準備

春肥(元肥)は、土の温度が12℃を超える3月下旬から4月上旬に施します。これは、翌年の果実を実らせるための基礎となる新しい枝をしっかりと育て、開花や小さな果実が大きくなるために必要な栄養を供給するためです。春肥が足りないと、木の勢いが弱まり、新しい葉や花芽の発育が悪くなることがあります。発芽や開花の時期に肥料の効果が現れるように、早めに肥料を与えるか、早春と晩春の2回に分けて与える方法もあります。元肥の効果を最大限に引き出すには、肥料を与える前に畑の雑草を取り除き、雑草が養分を奪うのを防ぐとともに、土の温度を上げて養分の吸収を促進することが大切です。
温州みかんの春肥の量の例(10アール当たりの成分量):窒素5〜7kg、リン酸5〜7kg、カリウム5〜7kg

夏肥(追肥):果実を大きく育てる

夏肥(追肥)は、主に5月下旬から7月にかけて行いますが、みかんの種類によって適切な時期が異なります。収穫時期が早い極早生温州などの品種では、実の付き具合によっては追肥を行わないこともあります。適切な量の追肥は、木の栄養状態を良好に保ち、果実の肥大や根の発達を促進するだけでなく、翌年の実の付き具合を安定させることにもつながります。果実が大きくなる時期に追肥の効果を最大限に活かすためには、雨が少ない場合には水を与え、土が乾燥しないようにすることが重要です。
温州みかんの夏肥の量の例(10アール当たりの成分量):窒素3〜5kg、リン酸0〜2kg、カリウム3〜5kg
地面をシートで覆うマルチ栽培をしている場合は、木の勢いが弱まりやすく、収穫量が減ったり、毎年実がならない隔年結果を招いたりすることがあります。追肥(夏肥)を行うことで木の栄養状態が改善され、果実の糖度や色付きが良くなることがあります。マルチ栽培では、実の付き具合に関わらず追肥(夏肥)を行うことが、収穫量と品質を安定させるためのポイントとなります。

秋肥(お礼肥):樹勢回復と耐寒性向上

秋肥(お礼肥)は、実りの秋が終わってから11月初旬を目安に行います。収穫時期と重なる場合は、収穫前の施肥でも問題ありません。例えば、愛媛県で栽培されている極早生温州みかんの場合、樹の活力を取り戻すために、10月中旬までにほとんどの果実を収穫し終え、10月上旬と11月上旬の2回に分けて肥料を与える農家の方もいます。秋肥を施すことで、樹勢が回復し、寒さに強くなるだけでなく、翌年の実の付き具合も良くなります。秋肥のタイミングが遅れると、土の温度が下がり、樹が養分を吸収しにくくなります。さらに、肥料の成分が春まで残ってしまうと、春に芽が伸びすぎてしまうなど、翌年の栽培に悪影響を及ぼすことも考えられます。畑に水をまいた後に、効果が早く現れる肥料を使うことが、秋肥の効果を最大限に引き出すための秘訣です。
温州ミカンにおける秋肥の施肥量の一例(10aあたりの成分量):窒素3〜5kg、リン酸3〜5kg、カリウム3〜5kg

みかん栽培におすすめの肥料の種類

みかんを栽培する際には、専用の肥料、油かすを原料とした肥料、有機肥料など、様々な種類の肥料を利用することができます。それぞれの肥料が持つ特性をしっかりと理解し、ご自身のみかんに最適な肥料を選ぶことが大切です。

みかん専用肥料

みかんをはじめとする柑橘類のために特別に作られた肥料は、必要な栄養素がバランス良く配合されているため、肥料選びに慣れていない方でも安心して使うことができます。「柑橘用肥料」や「果樹用肥料」といった名前で販売されていることが多く、栽培の手間を減らす手助けとなります。

有機肥料

油粕などの有機肥料は、土壌の質を向上させる効果も期待できるため、柑橘類の栽培に推奨されます。化学肥料と比較して、効果が穏やかで、土壌中の微生物を活性化させ、柑橘の根が栄養を吸収しやすい状態を作ります。ただし、分解に時間を要するため、効果が出るまでに時間がかかる点を考慮する必要があります。油かす肥料は、有機肥料の一種で、特に木の根元に施す元肥として使用すると、効果がゆっくりと長く続きます。窒素を豊富に含んでおり、肥料としての効果が穏やかに持続するため、みかんが成長する期間を通して安定した栄養を供給することができます。ただし、収穫前に窒素を与えすぎると、果実の品質が低下する可能性があるため、使用量には注意が必要です。

甘さを引き出す肥料

明確に「柑橘を甘くする」と謳われている肥料は存在しませんが、味の向上をサポートする資材はあります。柑橘類に適した肥料を適切な時期に、適切な量を与えることが基本です。その上で、アミノ酸やミネラルを補給できる肥料や、光合成を促進する肥料などを試してみるのも良いでしょう。「柑橘がおいしくなる肥料」として販売されている肥料は、化学肥料だけでなく有機質肥料を豊富に含み、甲殻類由来の物質や魚粉などを配合することで、アミノ酸やミネラルを補給できるように作られています。さらに、葉緑素の構成要素であるマグネシウムを配合することで、葉を維持し、光合成能力を高める工夫がされています。

栽培環境別の肥料の与え方

柑橘の栽培方法は、主に鉢植えと庭植えに分けられます。それぞれの栽培環境に合わせて、肥料の与え方を調整することが重要です。

鉢植えの場合

鉢植え栽培では、植え替え時に元肥として緩効性肥料を与えます。春には、固形または粒状の緩効性肥料を株元に置きます。追肥は、植物の生育状況を見ながら、液体肥料や速効性肥料を適宜与えます。肥料不足にならないよう、定期的に肥料を与えることが大切です。

庭植えの場合

地植えで柑橘類を育てる際は、植え付け前に有機肥料を株の根元を囲むように輪状に施し、土によく混ぜ込みます。これが元肥となります。追肥は、植物の成長具合を見ながら、緩効性肥料や即効性肥料を与えます。特に、果実が大きくなる時期には、肥料が不足しないように注意して管理しましょう。

栽培で起こりがちな問題とその対策

みかんを栽培する上で、結実不良、葉の変色(黄化)、病害虫の発生など、様々なトラブルが起こりがちです。それぞれの原因をしっかりと見極め、適切な対応をすることで、安定した収穫を目指しましょう。

実付きが悪い

みかんの結実が思わしくない原因としては、肥料の不足だけでなく、日照時間の不足、不適切な剪定、受粉の失敗、樹木の老齢化などが考えられます。適切な剪定を行い、日当たりを確保し、適切な量の肥料を与えることが大切です。また、人工授粉を試みることで、結実を促進できることもあります。

葉が黄色くなる

葉が黄色くなる原因としては、肥料不足(特に窒素の不足)、水不足、根腐れ、あるいは病害虫の影響が考えられます。肥料の種類や与え方を見直し、適切な水やりを心がけ、病害虫の予防と駆除を徹底しましょう。また、土壌のpHが適正範囲から外れている場合にも、葉が黄色くなることがあります。土壌の酸度をチェックし、必要に応じて調整してください。

病害虫の発生

みかんを栽培する上で気をつけなければならないのが、アブラムシ、カイガラムシ、ハダニ、ミカンハモグリガ(エカキムシ)、黒点病、かいよう病といった病害虫です。早期発見と早期防除が非常に大切になります。病害虫の発生を確認したら、県の病害虫防除所等の指導のもと、適切な農薬を、使用基準を遵守して使用するか、天敵を活用するなどして、早急に対策を講じましょう。農薬の使用にあたっては、農薬取締法を遵守し、使用方法、使用量、使用時期を厳守してください。

新しい栽培技術:マルドリ方式

糖度と酸味のバランスがとれた、高品質なみかん栽培を実現する革新的な技術として、「マルドリ方式」が注目を集めています。マルドリ方式は、「周年マルチ点滴灌水同時施肥法」を短縮した名称で、園地に設置した点滴灌水チューブを用いて、水やりと肥料やりを同時に行うシステムです。液体肥料を使用することで、肥料の吸収効率が高まり、生産コストの削減にもつながります。従来のマルチ栽培では、夏から秋にかけての降雨を遮断し、水分管理を行うことができましたが、乾燥しすぎによる樹勢の低下や、毎年マルチを敷設・撤去する作業が課題でした。マルドリ方式であれば、必要に応じて自動的に水やりと肥料やりができるため、天候の変化に左右されず、適切な水分管理が可能です。耐久性の高いハードタイプのマルチを敷設すれば、2~3年は撤去せずに済むため、農作業の省力化にも貢献します。

まとめ

みかん栽培における肥料に関する知識は、美味しいみかんを育てる上で非常に重要な要素です。この記事でお伝えした肥料の種類、施肥計画、栽培環境に応じた肥料の与え方、そして栽培で起こりうる問題とその対策を参考に、ご自身のみかん栽培に活かしてください。適切な肥料管理を行い、甘くて美味しいみかんをたくさん収穫しましょう。

よくある質問

質問1:みかんの木は実がなるまで何年くらいかかりますか?

一般的に、みかんが実をつけ始めるまでには、植え付けを行ってからおよそ3~4年程度かかります。苗木の種類や栽培環境によって多少の違いはありますが、適切な管理と育成を行うことで、このくらいの期間で初めての収穫を迎えることができるでしょう。

質問2:柑橘が実を結ばないのはなぜ?

柑橘類が実をつけない原因はいくつか考えられます。剪定が適切でなかったり、肥料が足りない、あるいは多すぎたりする場合、水やりが十分でない場合などが挙げられます。また、受粉がうまくいっていない可能性もあります。若い木であれば、まだ成熟していないために実をつけないこともあります。

質問3:柑橘の木に油かす肥料はどうやって与えるのが正解?

油かす肥料を元肥として使う場合は、木の根元から少し離れた場所に円を描くように溝を掘り、そこに肥料を埋めて土をかぶせます。追肥として使う場合は、根元に均等に撒き、軽く土と混ぜるか、水で薄めて液肥として与える方法もあります。ただし、肥料を与えすぎると根を傷める原因になるため、必ず決められた量を守って使用してください。
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