コーヒー発祥の地:エチオピアを巡るコーヒージャーニー
コーヒー愛好家なら一度は憧れる発祥の地、エチオピア。その一杯には、肥沃な大地で育まれた豊かな風味だけでなく、深い歴史と文化、生産者の情熱が凝縮されています。本記事では、あなたのコーヒー観を変えるかもしれないエチオピアの奥深い世界へ、『コーヒージャーニー』としてご案内します。

国としての基本情報

アフリカ北東部に位置する内陸国

エチオピア連邦民主共和国は、アフリカ大陸の北東部に位置する内陸国です。その歴史や文化、地理的特徴から「アラビカ種の故郷」とも称され、コーヒー発祥の地として世界的に知られています。

エチオピア高原と自然環境

国土の約半分を占めるエチオピア高原(別名アビシニア高原)は、首都アディスアベバを含み、標高は最大で2,700mにも達します。この高原地帯は、アフリカ大陸を南北に縦断する「グレートリフトバレー(大地溝帯)」によって東西に分かれています。

コーヒーの主な産地

エチオピアでは、南西部を中心にコーヒー栽培が盛んですが、以下の地域でも高品質な豆が収穫されています。
  • ハラール地域(北東部):古くからコーヒー栽培が行われている名産地
  • シダモ、イルガチェフェ、ジマなど:個性的な香りと味わいで世界中にファンを持つ

多民族国家としてのエチオピア

エチオピアは約1億1,787万人の人口を擁し、アフリカではナイジェリアに次ぐ規模を誇ります。国内には以下のような多様な民族が共存しています。
  • オロモ人
  • アムハラ人
  • ティグライ人
  • ソマリ人
  • その他、約80の民族

公用語と文化的多様性

エチオピアでは以下の言語が公用語として使用されています。
  • アムハラ語
  • オロモ語
  • 英語
文化や宗教も多様であり、地域ごとの特色が色濃く表れています。

独立を維持してきた誇り高き歴史

エチオピアは、1936年から1941年の短期間を除き、外国による植民地支配を受けたことがありません。この時期は、イタリア王国が「イタリア領東アフリカ(Africa Orientale Italiana, AOI)」を設立し、エチオピアを占領下に置いた期間にあたります。
  • イタリア領東アフリカとは?
    • 1936年、第二次エチオピア戦争の結果として成立
    • イタリア領ソマリランド、イタリア領エリトリア、そして占領下のエチオピア帝国を統合
    • 形式上は独立国とされていたが、実態はイタリアの植民地
この5年間を除き、エチオピアは独立を維持してきました。19世紀にアフリカ諸国が次々と植民地化される中、独立を保ち続けたことは国民の誇りであり、「一度も植民地になったことがない国」という意識が、エチオピアの精神的な支柱となっています。
出典: イタリア領東アフリカ - Wikipedia(一次情報の出典は国際連盟・国際法関連文献に準拠), URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E9%A0%98%E6%9D%B1%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB, 2024-06-01

国民食「インジェラ」とエチオピア人の誇り

エチオピアの人々の間で愛されている主食は、「インジェラ」と呼ばれる独特なクレープ状の食品です。これは、イネ科の穀物である「テフ」を粉末状にし、水と混ぜて3日間発酵させた後、薄く焼き上げたものです。独特の風味と、乳酸菌による爽やかな酸味が特徴で、肉や野菜をピリ辛く煮込んだ「ワット」などのスパイシーなシチューと一緒に、手を使って食べるのが一般的です。インジェラ以外にも、ヤギ肉を使った料理、新鮮な牛肉料理、そして豊富なスパイスを駆使した刺激的な料理が、エチオピアの食文化を豊かに彩っています。これらの食文化は、独自の伝統を守り続けてきた歴史の証と言えるでしょう。こうした独立の精神と多様な文化が、コーヒーを含むエチオピアの産物すべてに、他に類を見ない個性と深みを与えているのです。

“コーヒー”の語源とカルディの伝説

世界中で愛されているコーヒーが最初に発見され、アフリカ大陸から世界へと広がった場所として、エチオピアは「コーヒー発祥の地」として広く認識されています。その起源は西暦800年から900年頃に遡ると言われており、キリスト教圏では「世界で初めてコーヒーを発見した」とされる羊飼いカルディの伝説が語り継がれています。エチオピアの高原地帯で、カルディ少年は自分が飼っているヤギたちが、ある茂みに生えている赤いコーヒーの実を食べると非常に元気になっていることに気づきました。興味を持ったカルディ自身もその実を試してみたところ、体に活力がみなぎってきたと伝えられています。この発見が、その後コーヒーが世界各地へと広がるきっかけになったのです。また、エチオピア南西部のカファ地方で、世界で初めてアラビカ種が発見されたことから、この「カファ」という地名がコーヒーの語源になったという説が有力視されています。これらのコーヒーの語源に関する様々な説は、エチオピアがコーヒーの歴史においていかに重要な位置を占めているかを明確に示しています。

「モカ」という名のコーヒー

エチオピア産のコーヒー豆は、イエメン産のコーヒー豆と共に「モカ」と呼ばれることがあります。この名前は、かつてイエメンの重要な港町であったモカ港から来ています。昔、エチオピア産のコーヒーもモカ港を通って輸出されていたため、「エチオピア・モカ」や「モカ・ハラー」という名前で呼ばれるようになりました。コーヒー業界では、今でもこの呼び方が使われており、昔はイエメンのバニーマタル地方で栽培されたコーヒーが「モカ・マタリ」と呼ばれ、エチオピア産と区別されていました。「モカ」という名前は、エチオピアコーヒーの豊かな風味と特別な個性を表す言葉として、世界中で知られています。

コーヒーを通じたおもてなし「カリオモン」と暮らし

エチオピアのコーヒー文化で大切なのは、伝統的なコーヒーセレモニー「カリオモン」です。「カリ」は「コーヒー」、「オモン」は「一緒に」という意味で、日本の茶道のように、お客さんをもてなすエチオピアのコーヒーの作法として大切にされてきました。このセレモニーは、コーヒー豆を洗うことから始まり、炒る、挽く、抽出するまでのすべての工程を行います。女性が中心となって行うこの儀式は、家族や友人との大切なコミュニケーションの手段であり、地域の交流の場としても役立ち、人々の生活に深く関わっています。エチオピアには「Bunna dabo naw(ブンナ ダボ ナオ)」、「コーヒーは私たちにとってパンだ」という言葉があり、コーヒーがエチオピアの人々の生活にどれほど大切かが分かります。エチオピアの大統領宮殿にある日本庭園には、コーヒーセレモニーができるコーヒーハウスがあり、カリオモンが重要な食文化であることが分かります。スターバックスのコーヒー豆のパッケージには、コーヒーを抽出する時に使う「ジャバナ」という伝統的なコーヒーポットが描かれており、このコーヒーセレモニーに敬意を表し、その文化的な価値が世界中で認められています。

アフリカNo.1の生産国

エチオピアは、アフリカで最もコーヒーを生産している国で、2020年には年間58万トンを生産し、世界で5番目に多い生産国です。これは、アフリカで2番目のウガンダ(世界9位、29万トン)や3番目のタンザニア(世界17位、6万トン)と比べても、生産量の多さが際立っています。エチオピアの代表的なコーヒーブランドには、ハラール、シダモ(イルガチェフェ、グジを含む)、リム、ジンマ、カファ、レケンプティの6つがあります。これらのブランドに加えて、南部のオロミア州ジンマ地方にある自然林「ベレテの森、ゲラの森」には、品種改良されていない野生のコーヒーの木が生えており、ここで収穫されるコーヒーは「フォレスト・コーヒー」と呼ばれています。さらに、21世紀に入ってから国際オークションで高値が付き、世界中で注目された「ゲイシャ」は、エチオピア南西部のゲシャ村が原産で、その名前の由来となっています。エチオピアのコーヒーは、多様な品種と豊富な生産量で、世界のコーヒー市場で重要な役割を果たしています。

標高1000m以上のエリアでの栽培とガーデンコーヒー

エチオピアでは、標高1000m以上の高い場所でコーヒーが栽培されることが多く、この場所の特徴がエチオピアコーヒーの独特な風味を作っています。エチオピアのコーヒー栽培の大きな特徴は、大きな農園ではなく、「ガーデンコーヒー」と呼ばれる小規模な生産者が多いことです。これは、農家が自宅の庭にコーヒーの木を植え、家族で手入れをする伝統的な栽培方法です。このような環境では、さまざまな種類のコーヒーの木が混ざっていることが多く、収穫されるコーヒー豆の形や大きさにばらつきが見られることがあります。しかし、この多様性こそが、エチオピアコーヒーの複雑で豊かな風味の理由です。特に自然林に自生する「フォレスト・コーヒー」は、人の手が加えられていない自然のままの状態で育つため、その希少性と独特の味わいが大切にされています。

風味と格付け


「エチオピア・モカ」の名で親しまれるコーヒーは、伝統的な精製方法であるナチュラル(非水洗式)が一般的です。この方式では、コーヒーチェリーを果肉がついたまま天日乾燥させます。2週間以上の時間をかけて乾燥させる必要がありますが、エチオピアではコーヒーの収穫時期が乾季にあたるため、ナチュラル精製でも安定した品質を保ちやすいというメリットがあります。ナチュラル精製されたコーヒーは、ベリーや赤ワイン、スパイスを思わせる華やかでフルーティーな香りと、ベルベットのような滑らかな口当たり、そしてダークチョコレートのような風味が特徴です。これは、果肉の甘みがコーヒー豆に移ることで生まれる複雑なアロマによるものです。一方で、少数ではありますが、コーヒーチェリーの果肉を取り除き、水洗後に乾燥させるウォッシュド(水洗式)という精製方法も用いられます。ウォッシュド精製されたコーヒーは、ブラックティーやジャスミンのような、より繊細でクリアな風味が際立ちます。
コーヒー豆の品質を表す格付けは、欠点豆の混入率によって決まります。欠点豆とは、カビ豆、虫食い豆、未成熟豆など、コーヒーの風味を損なうとされる豆のことです。エチオピアのコーヒー豆は、欠点豆の少なさによってG1(グレード1)、G2…とランク分けされ、数字が小さいほど高品質とされます。輸出規格としてはG5までが認められており、G1やG2といった高品質な豆は、その個性的な風味と希少性から世界中のコーヒー愛好家から高く評価されています。

まとめ

コーヒーが生まれた場所として世界に知られるエチオピア。その恵まれた自然環境と長い歴史の中で、他に比類のない多様なコーヒーが育まれてきました。標高1,000メートルを超える高地での栽培、家庭の庭先でコーヒーを栽培する「ガーデンコーヒー」の伝統、そして「カリオモン」に代表される独特のコーヒーセレモニーは、エチオピアコーヒーの奥深い味わいと文化的な背景を形成しています。特に「モカ」という名前はエチオピアコーヒーの代名詞となっており、伝統的なナチュラル精製によって生まれるベリーや赤ワイン、スパイスを思わせる華やかでフルーティーな香りは、バリスタが「ビロードのような舌触りと、ダークチョコレートのような風味」と表現するほどの特別な体験として、世界中のコーヒー愛好家を魅了し続けています。一方で、ウォッシュド精製では、紅茶やジャスミンのような、繊細で洗練された風味が楽しめます。UCCがJICAと協力して「フォレスト・コーヒー」の環境保全と地域経済の支援に取り組んでいるように、エチオピアのコーヒー産業は持続可能性への意識も高めています。一杯のコーヒーに込められた「生産者の想い」を感じながら、ぜひ一度、エチオピアの奥深いコーヒーの世界を体験し、「コーヒーの旅」の素晴らしさを実感してください。

エチオピアがコーヒー発祥の地とされるのはなぜですか?

エチオピアはアラビカ種の原産地であり、コーヒー発見にまつわる最も古い物語が語り継がれていることから、コーヒー発祥の地とされています。800年から900年頃、羊飼いのカルディという少年が、飼っているヤギがコーヒーの実を食べると元気になっていることに気づき、自身も試したところ活力が湧いてきたという伝説が広く知られています。また、南西部のカファ地方でアラビカ種が最初に発見されたという説があり、その地名がコーヒーの語源になったという説もあります。

エチオピアコーヒーの特徴的な風味は何ですか?

エチオピアコーヒーの風味は、精製方法によって大きく異なります。伝統的なナチュラル(非水洗式)精製では、ベリーや赤ワイン、スパイスのような、華やかでフルーティーな香りが際立ちます。バリスタは、この風味を「鮮やかな香りに包まれ、口に含むとベルベットのように滑らかな舌触りと、ダークチョコレートの風味が広がる」と表現することがあります。それに対し、ウォッシュド(水洗式)精製では、紅茶やジャスミンを連想させる、繊細でクリーンな味わいが特徴です。

「モカ」という名前はエチオピアコーヒーとどのように関係していますか?

「モカ」という名前は、もともとイエメンのモカ港から輸出されていたコーヒー豆の総称でした。かつてエチオピア産のコーヒーも、このモカ港を経由して輸出されていたため、エチオピア産のコーヒーも「エチオピア・モカ」や「モカ・ハラー」などと呼ばれるようになりました。現在でも、エチオピア産コーヒーを代表する名前として広く知られています。

エチオピアにおけるコーヒー栽培の特色は何ですか?

エチオピアでは、標高1,000メートル以上の高地がコーヒー栽培に適しており、大規模農園よりも、各家庭の庭先でコーヒーを栽培する小規模生産者、いわゆる「ガーデンコーヒー」が主流です。加えて、品種改良されていない原生種のコーヒーが自然の森林で育つ「フォレストコーヒー」も収穫されています。このため、コーヒー豆の形や大きさに多様性が見られ、それがエチオピアコーヒーの複雑で奥深い味わいを生み出す要因となっています。

エチオピアのコーヒー儀式「カリオモン」とは?

「カリオモン」は、エチオピアに根付く伝統的なコーヒーセレモニーであり、客人をもてなす重要な儀式です。「カリ」はコーヒーを、「オモン」は「共に」という意味を持ち、主に女性が中心となって行われ、コミュニケーションを深める場としての役割も担っています。日本の茶道と同様に一連の手順があり、生豆を洗浄するところから始まり、焙煎、粉砕、抽出といった全ての工程が含まれます。「Bunna dabo naw(ブンナ ダボ ナオ)」(コーヒーは我々のパンである)というエチオピアのことわざが示すように、コーヒーはエチオピアの人々の生活に深く根ざしています。スターバックスのコーヒー豆パッケージに描かれている伝統的なコーヒーポット「ジャバナ」は、この「カリオモン」で使用される道具です。



エチオピア コーヒーコーヒー