夏のビールのお供として親しまれる枝豆と、味噌や豆腐などの原料として欠かせない大豆。一見すると全く異なる食材ですが、実は同じ植物であることをご存知でしょうか。この記事では、枝豆と大豆の知られざる関係に迫ります。生育過程の違いから生まれるそれぞれの特徴、栄養価、そして食卓での楽しみ方まで、奥深い魅力を紐解いていきましょう。枝豆と大豆、それぞれの個性を知れば、日々の食事がさらに豊かなものになるはずです。
枝豆と大豆の基本的な関係性:同じ植物の成長段階と利用法
夏の味覚である枝豆と、一年を通して利用される大豆は、見た目も食感も異なりますが、実は同じ植物に由来します。どちらもマメ科ダイズ属に属し、枝豆は成熟前の若い状態で収穫されたもの、大豆は完全に成熟してから収穫されたものを指します。成長が進むにつれて、色は緑から茶色へと変化し、最終的に乾燥させることで、おなじみの丸い大豆となります。元々、枝豆は成熟させて大豆として収穫する目的で栽培されていた品種を、若いさやごと収穫して食用としていました。ダイズには、日照時間が短くなると花芽をつける「短日性」のものと、日照時間の影響を受けないものがあり、枝豆として利用されるのは主に後者です。具体的には、晩生種を成熟させて大豆として収穫するのに対し、早生種の未熟な実を夏に枝豆として収穫します。そのため、枝豆の旬は一般的に6月から9月ですが、大豆の収穫時期は10月頃になります。大豆と枝豆は、外見や味、食べ方の他に、栄養成分や栽培環境にも違いが見られます。
近年では、より美味しく、収穫量が多く、粒が大きく、食感の良い枝豆を安定供給するため、400種以上とも言われる専用品種が開発され、市場には様々な枝豆が出回っています(例:秋田県農業試験場「あきたのほのか」、「とびきり」)。枝豆専用品種を成熟させて大豆として収穫することは、通常、種子を得る目的以外では行われません。食卓での利用法も異なり、枝豆は茹でてそのまま食べることが一般的ですが、加工されることは大豆ほど多くなく、菓子類が中心です。一方、成熟した大豆は収穫後に乾燥させることで長期保存が可能になり、そのまま食べるだけでなく、乾燥大豆や炒り大豆、蒸し大豆として販売されたり、煮豆やお菓子に使われたり、豆腐、納豆、味噌、醤油など日本の伝統的な食品の原料として広く利用されるなど、私たちの食生活に不可欠な存在となっています。
枝豆と大豆の味と食感の比較
大豆は、素材本来の優しい甘さが特徴で、様々な料理に活用できます。蒸すと、ほくほくとした柔らかな食感を楽しめます。枝豆は、塩ゆでによって風味が引き立ちます。少し固めに茹でると、心地よい歯ごたえを味わえます。
枝豆の起源と古文書に見る歴史
大豆は東アジアが原産地とされ、枝豆はその未熟な実を若いうちに収穫したものです。日本や中国では、枝豆は大豆の代表的な食べ方として古くから親しまれてきました。日本で枝豆が食べられるようになったのは17世紀頃と言われています。『古事記』(693年)には、大豆が五穀の一つとして記載されており、平安時代・鎌倉時代には既に現在の形で食べられていたと考えられています。鎌倉時代の僧侶である日蓮が信者から贈られた品に対する礼状には、「(略)、枝大豆・ゑびね、旁の物給ひ候ひぬ」とあり、枝についたまま食べられていたことが窺えます。戦国時代には、伊達政宗が枝豆の美味しさに感銘を受け、自ら考案して刀で枝豆を砕いて食べたという逸話も残されています。
江戸時代に書かれた『俗事百工起源』(1771年)には、夏になると枝豆を売る人が路上に現れたと記されています。現在のように枝からさやを取り外した状態ではなく、枝についたまま茹でたものが売られており、当時はそれを食べ歩いていたことから、現代のファストフードのような存在だったと考えられています。この状態のものを「枝付き豆」または「枝成り豆」と呼び、それが「枝豆」という名前の由来になったと言われています。
近代の品種改良と冷凍技術の進化
明治初期(19世紀末)には、庄内藩で「だだちゃ豆」のルーツとなった「小真木」が育成されたとされ、地域に根ざした品種改良が進みました。昭和期に入ると、1974年にはサッポロビール園が、生育が早くさやが大きい品種を開発し、枝豆専用品種「サッポロミドリ」を発売して人気を博しました。この頃から、枝豆は「未熟な大豆」としてではなく、「枝豆という独立した野菜」として認識されるようになります。さらに、冷凍技術が発展すると、枝豆の流通と消費は大きく拡大しました。2003年にはJA鶴岡が「殿様のだだちゃ豆」のフリーズドライを発売し、2005年には北海道中札内村の大規模な瞬間冷凍施設で作られた「大袖の舞」が人気を集めるなど、一年を通して高品質な枝豆を楽しめるようになりました。
色の違いによる分類:白毛、茶豆、黒豆
枝豆は非常にデリケートで、収穫後の鮮度劣化が早いため、産地近辺での消費が一般的です。そのため、各地の気候や食文化に合わせた多様な品種が生まれました。枝豆は元々大豆の未熟なものを食していましたが、現在では大豆専用種と枝豆専用種に分かれています。大豆から枝豆として栽培されるものは、豆の色の違いで「白毛豆(青豆)」、「茶豆」、「黒豆」の3つに大きく分類されます。最も流通しているのは「白毛」タイプで、緑色のさやに白い毛が生えているのが特徴です。節間が狭く、1つのさやに2~3粒入っていることが多く、「湯あがり娘」が代表的な品種です。全国的に栽培されており、緑色の豆でありながら茶豆のような風味があるため人気があります。
地域に根差した多様な枝豆品種
東北地方では「茶豆」が主に栽培されており、さやの毛と豆を覆う薄皮が茶色いのが特徴です。山形県鶴岡市の特産品「だだちゃ豆」は、トウモロコシのような香ばしい香りと濃厚な甘みが特徴で、その風味の良さから人気があります。「新潟茶豆」は、豆がまだ小さい八分程度の大きさで収穫され、茹でると豊かな香りが立ち、独特の美味しさがあります。また、「黒豆」系統の枝豆もあり、これは黒大豆になる品種を、豆が黒くなる前に収穫したものです。豆は大粒で、薄皮がうっすらと黒みを帯びており、兵庫県丹波地方の特産「丹波黒」の未熟果がこれにあたります。お正月の煮豆の枝豆版として、大粒さと上品な甘さが楽しめます。日本には各地で地方品種が栽培されており、枝豆の品種は400以上あると言われています。東北地方では、宮城県の「秘伝」、山形県の「かおり枝豆」、新潟県の「におい豆」、岩手県の「早生」や「いうなよ」などが知られています。変わったものでは、岐阜県岐阜市の枝豆や、10月頃に収穫される丹波地方の「十月豆」などがあり、品種によって味が異なります。
黄大豆:日本の食卓を支える多用途な大豆
成熟した大豆も、色、成分、利用目的に応じて多様な種類があります。一般的に「大豆」として知られているのは「黄大豆」です。「サチユタカ」「こがねさやか」「タマホマレ」などが代表的な品種で、煮豆として食べられるだけでなく、大豆油の原料、味噌、納豆、豆腐など、日本の食文化に欠かせない多くの食品の主要な原料として広く使われています。
黒大豆:煮豆の逸品と健康成分アントシアニン
「黒大豆」は、豆の皮が黒いのが特徴です。「丹波黒」「いわいくろ」「くろさやか」などの品種があり、主に煮豆に使われ、特におせち料理には欠かせない存在で、ふっくらとした食感と上品な甘さが喜ばれます。黒い皮にはアントシアニンというポリフェノールが豊富に含まれており、その栄養機能性も注目されています。
青大豆:風味と彩りを添える食材
青大豆は、「キヨミドリ」や「あきたみどり」、「あやみどり」などの品種があり、緑色が特徴です。煮豆や、風味豊かで緑色が鮮やかな「うぐいすきな粉」の原料に使われるほか、「青豆腐」などにも加工され、食卓を豊かにする食材として親しまれています。これらの大豆は、それぞれ独自の風味、食感、栄養成分を持ち、日本の食文化を支えています。
大豆のおすすめ調理法:蒸し大豆の活用
大豆を美味しく、かつ栄養を逃さず食べるには、蒸し調理が最適です。蒸すことで、大豆本来の旨味や栄養成分の流出を最小限に抑えることができます。蒸し大豆を口にすると、栗のような甘さとホクホクとした食感に驚くかもしれません。そのままおやつやおつまみとして食べるのはもちろん、シンプルな味わいなので様々な料理に合わせやすいのが魅力です。乾燥大豆を一晩水に浸けてから蒸すのは手間がかかりますが、市販の「蒸し大豆」なら、すぐに使えます。スーパーなどで手軽に入手でき、開封後すぐに食べられる手軽さが魅力です。
枝豆と大豆の栄養素比較と特徴
大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど、良質なタンパク質と脂質を豊富に含み、栄養価が高い食品です。イソフラボンなどの機能性成分が多いのも特徴です。一方、未成熟な状態の枝豆の栄養価は、成熟した大豆とどのように異なるのでしょうか。食品成分表では、枝豆は「野菜類」、大豆は「豆類」に分類されていますが、栄養成分には違いが見られます(出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂))。生の枝豆(可食部100gあたり)には、エネルギー135kcal、水分約71%、タンパク質11.7g、脂質8.8g、炭水化物6.2g、灰分1.6gが含まれています。主要な栄養素を比較すると、タンパク質と食物繊維は、成熟した茹で大豆の方が枝豆よりも多く含まれています。これは、大豆が成熟するにつれてこれらの成分が蓄積されるためです。一方、鉄分と葉酸は、茹で大豆よりも枝豆に多く含まれています。特に葉酸は、細胞の生成と成長に欠かせない栄養素です。また、大豆にはほとんど含まれないビタミンCやカロテンなどの野菜特有の栄養素も、枝豆には豊富に含まれています。枝豆は未成熟な状態で収穫されるため、葉酸やビタミンCが豊富で、緑黄色野菜に分類されます。カリウムと葉酸は水溶性のため、茹でる際に水に溶け出しやすい性質がありますが、枝豆はさやに入ったまま調理されるため、栄養素の流出を抑えられます。さらに、蒸し焼きにすることで、栄養素の減少をより抑えられます。このように、枝豆と大豆は成長段階が異なるため、栄養成分のバランスも異なります。それぞれの特徴を理解して食生活に取り入れることで、より効果的な栄養摂取につながります。
枝豆の機能性成分と健康への効果
枝豆は、大豆と同様に栄養価が高く、植物性タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富です。特にカリウムや葉酸は野菜の中でも多く含まれています。注目すべきは、ビタミンB1の多さです。ビタミンB1は新陳代謝を促進して疲労を防ぎ、アルコールの分解を助けて悪酔いを軽減し、肝臓の機能を守ります。また、枝豆に含まれるアミノ酸の一種であるメチオニンも、アルコールから肝臓や腎臓を保護する働きがあるため、お酒のおつまみとして枝豆が選ばれるのは合理的です。さらに、大豆の未熟果である枝豆には、サポニンやレシチン、イソフラボンといった大豆特有の成分も含まれています。サポニンは血液中のコレステロール値を下げ、レシチンは細胞の活性化を促し、内臓や神経を若々しく保つのに役立つと言われています。イソフラボンは女性ホルモンに似た働きがあり、健康維持に貢献します。このように、枝豆は多機能な食品として栄養価が高く評価されています。
主な産地と旬の時期
国内で枝豆が盛んに栽培されている地域は、北海道、青森県、千葉県、群馬県、埼玉県、新潟県などが挙げられます。これらの地域では、5月頃から徐々に出荷量が増加し、7月から8月にかけて最盛期を迎えます。収穫後の鮮度維持には、低温での保管が効果的とされており、品質を保つための様々な工夫が凝らされています。良質な枝豆は、サヤの色が鮮やかな緑色で、ふっくらと膨らみ、表面に細かな毛が密集しているのが特徴です。サヤの膨らみが小さいものは実が十分に育っておらず、黄色く変色しているものは熟しすぎているため、風味が落ちます。種子が成熟するにつれて、特有の香りを生み出す成分や、甘味成分であるショ糖、アラニン、バリンなどが減少するという研究結果もあり、適切な時期に収穫することの重要性を示しています。
種まきから収穫までのスケジュール
枝豆は、春(4月~6月)に種をまき、夏から秋にかけて収穫時期を迎えます。枝豆として収穫する場合、春に種をまいてから約80日で収穫できる早生品種と、初夏に種をまいて秋に収穫する晩生品種があります。種まきの時期を少しずつずらすことで、収穫時期も分散させることができ、新鮮な枝豆をより長い期間楽しむことが可能です。栽培に適した温度は20~25℃とされており、ナスやピーマンなどの夏野菜に比べて低温に強く、やや早めに種をまくことができます。連作は避ける必要があり、2~3年ほどマメ科の植物を栽培していない、日当たりの良い畑で育てることが大切です。家庭菜園でも比較的育てやすく、深めのプランターなどを使用すれば、鉢植えでも栽培できます。他のマメ科植物と同様に、根がまっすぐ伸びる性質があるため、移植には適していません。また、枝豆(未熟な状態)を収穫せずに、サヤが完全に枯れるまで待つと、大豆として収穫することも可能です。
生育環境と植物としての特徴
枝豆として利用される大豆は、夏の暑さを感じると開花・結実する「夏大豆」に分類されます。葉は、3枚の丸みを帯びた小さな葉(小葉)からなる複葉で、花は白色から紫色をした小さな蝶のような形をしています。多くのマメ科植物と同様に、自家受粉によって実を結びます。開花時期の気温が高すぎると花が咲きにくくなり、30℃以上になると受精がうまくいかず、花が落ちてしまうことがあります。開花から結実にかけての期間は、十分な水分と強い日差しが必要不可欠です。これらの条件が満たされないと、サヤはできても中身がスカスカになってしまうことがあるため、適切な環境管理が重要になります。
具体的な栽培方法と土壌管理
畑は深く耕し、堆肥を混ぜ込んで肥沃にしておきます。根に根粒菌が共生するため、肥料は窒素肥料を控えめにすることがポイントです。種は、株間を25~30cm程度あけて、1ヶ所に3~4粒ずつまき、軽く土を被せます。土を被せる深さが浅すぎたり、土を十分に押さえなかったりすると、芽が正常に成長できないことがあります。発芽のためには適切な水分管理が重要ですが、水を与えすぎると種が腐ってしまう可能性があるため注意が必要です。発芽率を上げるためには、種まき直後は水を与えず、翌日にたっぷりと水を与えると効果的です。発芽までの間は、ハトやカラスなどの鳥が種を食べてしまう鳥害が発生することがありますので、芽が出るまでは防虫ネットなどで保護することをおすすめします。
栽培時の注意点と病害虫対策
生育段階で、本葉が5、6枚になったら、生育の良くない芽を間引くのではなく、株元からカットして丈夫な芽を一本残します。その後、芽の先端を摘芯することで、わき芽の成長を促します。種まきからおよそ80~90日後、開花するまでの期間に、肥料成分を抑えた追肥と、株が倒れるのを防ぐための土寄せを数回行います。開花後約1か月で莢が膨らみ、収穫時期を迎えます。早生品種では6月頃から収穫が可能です。莢を軽く押して中身を確認し、豆が柔らかいうちに株ごと引き抜いて収穫しましょう。枝豆にはカメムシなどの害虫が発生しやすく、莢がつき始める頃に実の養分が吸われてしまうことがあるため、適切な対策を講じることが大切です。
一般的な調理方法と鮮度維持のコツ
枝豆は塩茹でが一般的ですが、その他にも炒め物、揚げ物、蒸し料理、煮物など、様々な調理法で楽しめます。産地によっては、すり潰してずんだにしたり、莢ごと甘辛く煮て食べる習慣もあります。枝豆は収穫後の鮮度劣化が早く、風味が落ちやすいのが難点です。袋入りのものも販売されていますが、枝付きの方が鮮度が良く、風味も豊かです。茹でる前には、莢を傷つけないようにヘタの先端で枝から取り外すことが重要です。莢に傷がつくと、茹でる際に水が入り込み、水っぽくなって風味が損なわれる原因になります。収穫後できるだけ早く、遅くとも翌日までに食べきるのが理想的です。保存する場合は、生のままではなく、固めに茹でてから冷まし、冷凍保存するのがおすすめです。冷凍した枝豆を食べる際は、熱湯にさっとくぐらせて解凍すると美味しくいただけます。
定番の塩茹で:美味しさの秘訣と食文化
塩茹では、枝豆本来の風味を最大限に引き出す、最もポピュラーな調理法です。枝豆は鮮度が命。収穫直後が最も美味しく、時間が経つにつれて甘みや風味が失われていくため、できるだけ早く茹でるのが美味しく仕上げる秘訣です。豆の大きさや収穫時期によって茹で時間は異なりますが、通常は2~5分程度茹でて、一つ取り出して味を確認します。硬い場合は、さらに1~2分茹でると良いでしょう。旬の終わり頃や、大きく育った枝豆は、長めに茹でて柔らかく仕上げます。調理は簡単で、まず枝豆をボウルに入れ、塩もみして表面の産毛を取り除き、水洗いして水気を切ります。次に、莢の両端を切り落とし、塩を少量加えた熱湯で茹でます。茹で上がった枝豆を冷水にさらすと水っぽくなるため、ザルにあげて湯切りし、塩を振って広げ、そのまま冷ますのがおすすめです。1980年代からは、調理後に冷凍された枝豆も販売されており、スーパーなどで手軽に購入できます。
枝豆の塩茹では、夏のビールのお供として、特に居酒屋の定番メニューとして広く親しまれています。大豆に豊富に含まれるビタミンB1やメチオニンには、アルコールの分解を助ける働きがあるため、「枝豆をつまみにするのは理にかなっている」と言われるほどです。また、冷凍食品としては、莢から取り出した豆のみの商品もあり、サラダや炒め物など、様々な料理に手軽に活用できます。
焼き枝豆や漬物など、様々な調理法
生のままでは硬い枝豆を美味しく食べるための調理法として、焼いて香ばしさを加えた「焼き枝豆」や、漬物などがあります。焼き枝豆は、塩茹でとは異なる香ばしい風味が魅力です。オリーブオイルやニンニクで炒める洋風アレンジも人気があります。
東北地方の味「ずんだ」の秘密
枝豆を茹でて丁寧にすり潰し、ペースト状にしたものが「ずんだ」と呼ばれます。特に有名なのは、ずんだをたっぷり絡めた「ずんだ餅」で、宮城県をはじめ、山形県、秋田県、岩手県など、主に東北地方で愛される郷土の味です。伝統的な和菓子としてだけでなく、近年ではずんだシェイクやずんだ団子など、バラエティ豊かな商品が登場し、その鮮やかな緑色と独特の風味が幅広い世代を惹きつけています。
広がる枝豆の可能性:加工品と地域振興
お子様にも人気の高い枝豆は、アイスクリームの材料としても活用されるなど、その用途は多岐に渡ります。すり潰してスープにしたり、ご飯に混ぜ込んだり、サラダや炒め物のアクセントとして加えたりと、様々な料理に取り入れられています。さらに、地域活性化の取り組みとして、枝豆を使ったユニークなお酒が開発された事例もあり、枝豆が持つ無限の可能性が追求されています。
兵庫県・和歌山県に息づく「黒枝豆」
兵庫県丹波地方や和歌山県鞆渕地区では、黒大豆がまだ熟していない若い状態のものを「黒枝豆」と呼び、食卓に取り入れています。一般的な枝豆とは異なり、茹でる前はもちろん、茹でた後も鮮やかな緑色にはならず、豆自体が黒みがかった緑色をしているのが特徴です。しかし、その見た目からは想像できないほど美味しく、濃厚な甘みと深いコクが楽しめます。
旬の味覚:期間限定の特別な風味
黒枝豆はその珍しい見た目と卓越した味わいから、メディアでも度々紹介され、枝豆好きの間では広く知られています。しかし、収穫時期が限られており、毎年10月第2週頃から出荷されるため、市場に出回る期間が短く、入手は比較的困難です。そのため、希少価値の高い食材として珍重されています。それ以前に出回っている黒っぽい枝豆は、別の品種である可能性もあるため注意が必要です。秋の短い期間にしか味わえないその特別な風味は、多くの人々が心待ちにする秋の味覚となっています。
健康志向が後押しする世界的な広がり
健康への意識の高まりと和食への関心増加に伴い、枝豆、特にシンプルな塩茹でなどは、2000年頃から欧米を中心に海外でも親しまれるようになりました。その栄養価の高さと調理の手軽さが、世界中で健康を意識する人々から支持されています。
海外での呼び名と食され方
アメリカなどの英語圏では、枝豆は「green soybeans」または「edamame」として知られています。日本食レストランやアジア料理店では定番の前菜となっており、オーガニック食品店やアジア食材店では冷凍枝豆が手軽に購入できます。塩茹でだけでなく、サラダの材料やスープの彩りとしても利用されています。
様々な場面での活用と中国の「毛豆」
スポーツ観戦のお供としても人気があり、スタジアムの売店で見かけることもあります。中国では枝豆は「毛豆(マオドウ)」と呼ばれ、豆腐干と毛豆とキュウリの炒め物など、様々な料理の食材として広く用いられています。
食育にも役立つ枝豆の可能性
観光やビジネスで日本を訪れた外国人が好んで食べる傾向があります。豆そのものが世界中で食べられていること、親しみやすい味わいであること、自分で殻を剥くというユニークな食べ方、そして殻も柔らかく食べやすいことが理由として挙げられます。また、子供たちの食育にも貢献しています。野菜嫌いな子供でも、枝豆が飛び出す様子に興味を持ち、「遊び感覚で食べられる」「小さなサイズで食べやすい」「柔らかくて食べやすい」といった特長から、食への関心を高めるきっかけになることもあります。
まとめ
枝豆と大豆は、同じダイズという植物でありながら、収穫時期と利用方法が異なる、日本の食卓に欠かせない食材です。枝豆は、大豆が成熟する前に収穫されるため、大豆とは異なる独特の風味と栄養を持ちます。特にビタミンC、カロテン、葉酸が豊富で、肝臓を保護するビタミンB1やメチオニンも含まれています。緑黄色野菜としての側面も持ち、手軽に野菜の栄養を補給できます。一方、大豆は成熟した状態で収穫され、「畑の肉」と呼ばれるほどタンパク質や食物繊維が豊富です。味噌や豆腐といった日本の伝統食品の原料となり、長期保存にも適しています。古くから日本で食されてきた歴史を持ち、品種改良や冷凍技術の進歩により、一年を通して様々な品種が楽しめるようになりました。定番の塩茹では、鮮度を保ち、両端をカットして塩もみすることで、風味が増します。大豆は蒸し料理で、素材本来の甘みとホクホクした食感を堪能できます。ずんだ餅や焼き枝豆、黒枝豆など、地域独特の食文化も育まれてきました。近年では、健康志向の高まりとともに「edamame」として世界中で愛され、日本を代表する食文化となっています。枝豆と大豆それぞれの特性、栄養価、調理法を理解し、日々の食事に取り入れることで、より健康的で豊かな食生活を送ることができるでしょう。
質問:枝豆と大豆は本当に同じものなの?
回答:はい、枝豆と大豆は、生物学的には同じマメ科ダイズ属に分類される植物です。枝豆は、大豆として収穫するために栽培されている品種を、まだ豆が熟しておらず、さやが緑色の状態で収穫したものです。例えば、熟す前の青いトマトを収穫して食べるミニトマトと似たような関係と言えます。
質問:枝豆と大豆の旬や収穫時期はいつ?
回答:枝豆が最も美味しい旬の時期は、主に6月から9月の夏です。この時期には、新鮮な枝豆が市場に多く出回ります。一方、成熟した大豆の収穫時期は、一般的に10月頃です。枝豆は「若い大豆」なので、収穫時期に差が生じます。
質問:枝豆と大豆では、栄養成分にどのような違いがあるの?
回答:枝豆と大豆は、成長段階が異なるため、栄養成分の含有量に違いがあります。成熟した大豆の方が、一般的にタンパク質と食物繊維を豊富に含んでいます。一方、枝豆には鉄分、葉酸、ビタミンC、カロテンなどがより多く含まれています。枝豆はさやごと茹でるため、水溶性のカリウムや葉酸が流れ出しにくいというメリットもあります。さらに、枝豆には、アルコールの分解を助けるビタミンB1やメチオニン、コレステロールを下げるサポニン、細胞を活性化させるレシチン、女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンといった機能性成分も含まれています。未成熟な枝豆は緑黄色野菜としても分類されます(出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂))。













