コーヒー豆を育む赤い宝石、コーヒーチェリー。その果肉はこれまで見過ごされがちでしたが、実は甘酸っぱい風味と豊かな栄養を秘めたサステナブルな食材です。この記事では、歴史から現代の多様な活用法まで、コーヒーの実が持つ知られざる魅力を徹底解説します。
コーヒーの実とは?コーヒー豆を包む赤い宝石
コーヒーの実は、アカネ科コーヒーノキ属の植物であるコーヒーノキに実る果実のことです。コーヒーノキは、つややかな緑色の葉と、白い可憐な花を咲かせます。花が終わると実がなり、熟すと鮮やかな赤色になるのが一般的ですが、品種によっては黄色く熟すものもあります。その美しい見た目から「コーヒーチェリー」と呼ばれ、まるでサクランボのようです。赤く、小さなオリーブのような形状で、甘い果肉を持ち、その中にコーヒー豆と呼ばれる種子を大切に包み込んでいます。私たちがコーヒーショップで目にする焙煎されたコーヒー豆は、このコーヒーの実から取り出された種子を加工したもので、コーヒーという飲み物の原料として、非常に重要な役割を担っています。
コーヒーの実:6つの層とそれぞれの役割
コーヒーの実は、外側から内側にかけて大きく6つの部分で構成されており、それぞれがコーヒー豆の成長と保護に貢献しています。一番外側にあるのが「外果皮」です。外果皮は比較的厚みがあり、指で押すと少しへこむ程度の硬さです。その内側には、「果肉」があり、水分と糖分を豊富に含んでいます。果肉は甘酸っぱい味がしますが、食用部分は少ないため、一般的に生で食べられることはありません。さらに内側には、「ミューシレージ」と呼ばれる粘液質の層があり、甘い蜜のような物質で豆全体を覆い、精製過程で重要な役割を果たします。その内側には、種子を保護する役割を持つ硬めの「内果皮(パーチメント)」があり、さらにその内側に「シルバースキン」と呼ばれる薄い皮が種子を包んでいます。そして、最も重要な「種子」が、私たちがコーヒー豆と呼ぶ部分です。コーヒーの実全体の約20%を占め、通常一つの実に2つの種子が入っています。これらの層が一体となって、貴重なコーヒー豆を守り、育てているのです。
カスカラ:コーヒー製造における果肉・果皮の有効活用
コーヒーを作る過程では、通常コーヒーの実からコーヒー豆のみを取り出し、製品として流通させます。コーヒー豆を焙煎して飲むのが一般的ですが、この精製過程で取り除かれる果皮や果肉の部分は、「カスカラ」と呼ばれます。カスカラは、長い間不要なものとして廃棄されてきました。果肉は甘酸っぱい風味が特徴ですが、食用部分が少ないため直接食べられることは少なく、ほとんどが廃棄物として処理されてきたのです。しかし近年、大量に発生するカスカラに着目し、新たな価値を見出す動きが世界中で広がっています。かつては廃棄されていたものが、環境負荷の低減や新たな商品開発につながる貴重な資源として見直され、その活用方法が注目されています。
コーヒーの実は昔から食べ物だった?エチオピアでの利用
現代ではコーヒーといえば焙煎した豆から抽出した飲み物が一般的ですが、実はコーヒーの果実は、昔から食材として使われていました。特に、コーヒーの木が自然に生えているエチオピアでは、果実そのものが人々の生活に深く結びついた食品であり、活力を与える貴重な資源として大切にされてきたのです。例えば、エチオピア南西部に暮らすオロモ族は、コーヒーの果実をバターで炒めて団子状にしたものを、遠征時の携帯食料としていました。この携帯食は、彼らが疲れることなく戦い続けるのを助けたと言われています。これらの事例から、コーヒーは単なる飲み物として知られるようになる前から、人々の食料やエネルギー源として様々な形で利用されてきた長い歴史を持っていることが分かります。
コーヒーチェリーを楽しむ新しい方法:カスカラティー
コーヒーチェリーの果肉は食べられる部分が少ないため、果物としてそのまま食べるのは難しいですが、果肉を食べる以外の斬新な方法で、その豊かな風味を楽しむことができます。その一つが、紅茶のようにして飲む「コーヒーチェリーティー」です。これは、コーヒー豆を精製する際に取り除かれたコーヒーチェリーの果肉を、丁寧に天日干しして乾燥させたものを使って作られます。乾燥させたカスカラをお湯で抽出することで、従来のコーヒーとは全く異なる、新しい味わいの飲み物が生まれます。コーヒーチェリーティーをストレートで飲むと、かすかに香るサクランボのようなフルーティーな香りが楽しめます。その穏やかな酸味と自然な甘さは、これまでのコーヒーとは違う、全く新しい飲み物体験を提供します。甘さが足りないと感じる場合は、シロップや蜂蜜を加えても美味しくいただけます。この紅茶は、まるでフルーツティーのような爽やかさを持ちながらも、どこかコーヒーの奥深さを感じさせます。カフェインも含まれていますが、コーヒーに比べると量が少ないため、カフェインが気になる方でも比較的安心して飲めるのが魅力です。リラックスしたい午後のひとときや、食後の軽やかな一杯としてもおすすめです。
さらに、コーヒーチェリーティーは味だけでなく、健康面でも注目すべきメリットがあります。この魅力的な飲み物には、ポリフェノールが豊富に含まれていることが研究で示されています。ポリフェノールは、強い抗酸化作用を持つことで知られており、抗菌作用も期待できるとされています。美味しく味わいながら健康維持にも役立つカスカラティーは、新しい健康飲料としての可能性を広げています。
まとめ
日本ではなかなか目にすることが少ないコーヒーの実は、コーヒーを作る過程で取り除かれる「不要な物」と捉えられがちです。しかし、実際は全く異なり、その活用方法は非常に多岐にわたります。昔はエチオピアで人々の食料やエネルギー源として使われ、携帯食やスープとして重宝されてきた歴史がある一方で、現代においては、肥料や堆肥として土に還し持続可能な農業に貢献するだけでなく、美味しい飲み物「カスカラティー」や、お菓子作りに使えるシロップ、カスカラシュガー、カスカラフラワーといったユニークな食品・製品へと生まれ変わっています。コーヒーの新しい楽しみ方として、この魅力的なコーヒーの実、そしてその副産物であるカスカラに注目することは、私たちに新たな発見と豊かな経験をもたらしてくれるはずです。コーヒーの奥深さを改めさんも遠いコーヒーの歴史に思いを馳せながら、一杯のコーヒー、またはカスカラティーを楽しんでみてはいかがでしょうか。
コーヒーチェリーはそのまま食べても大丈夫ですか?
コーヒーチェリーの果肉部分は甘酸っぱいサクランボのような味がして美味しいと言われています。しかし、食べられる部分が少ないことと、主役は豆であることから、果物として広く流通することはありません。そのまま食べることは可能ですが、一般的ではなく、主に精製後にカスカラとして加工されて利用されます。
カスカラって何?
カスカラは、コーヒーの実からコーヒー豆を取り出す精製過程で取り除かれる、果肉や果皮の部分を指します。スペイン語で「殻」という意味です。以前は廃棄されることがほとんどでしたが、近年では肥料や飲料、食品加工など様々な形で活用され、アップサイクルの対象として注目されています。
カスカラティーの風味は?
カスカラティーは、そのまま飲むと、ほのかなチェリーのような、フルーティーな香りが際立ちます。その特徴は、やさしい甘さと心地よい酸味が調和した、これまでのコーヒーとは一線を画す、爽やかで個性的な味わいです。お好みでシロップや蜂蜜を加えることで、さらに風味豊かに楽しむことができます。