みかんの消毒時期
年間を通じた消毒計画は、安定した収量と果実品質を確保するための基盤です。発生しやすい病害や吸汁・食害性害虫を、生育段階ごとに予防主体で管理し、萌芽前から落葉後までの各期で目的(発病抑制、伝播阻止、密度低下)を明確化します。作用機構の異なる薬剤を計画的にローテーションし、気象と被害履歴の記録を活用して散布間隔を最適化。園内衛生、剪定、被害部位の除去、排水や風通しの改善など耕種的手段を併用し、抵抗性回避と残効のバランスを取りながら、被害最小化と安定生産を両立させます。
時期と薬剤選定のポイント
散布時期は感染・侵入前の予防を基本とし、開花期、降雨期、幼果期など感受性が高いタイミングを逃さないことが重要です。薬剤は対象と気象に適した剤型を選び、耐雨性、残効、薬害リスクを比較。同一作用機構の連用を避け、希釈倍率・使用回数の上限を厳守します。天候、樹勢、周辺環境(受粉昆虫・天敵)に配慮し、部分散布や斑点散布で総量を抑制。樹冠サイズに応じて散布量と被覆を調整し、ドリフト防止と安全装備を徹底。実施記録の蓄積により翌年以降の精度を高め、無駄のない防除につなげます。
年間計画と重要ポイント
年間計画は休眠期、萌芽期、開花から梅雨期、盛夏から収穫期、収穫後に区分して設計します。休眠期は越冬源の除去と基礎防除、萌芽期は新梢保護を重視。開花から梅雨期は最重要期として初発を封じ、果実や新梢の感染リスクを下げます。盛夏から収穫期は吸汁害虫やダニ類の密度監視を強化し、必要最小限で適時対応。収穫後は貯蔵中の劣化要因に備え、衛生管理と選果・予冷を含む総合対策で品質を維持します。年ごとの気象や圃場条件で最適解は変わるため、地域の発生情報と最新の登録・ラベルに基づき、計画を毎年更新することが重要です。
1月~4月:開花前の越冬病害虫対策と園地整備
収穫後から開花前は、翌季の発生源を断つ最重要期。病斑枝・枯れ葉を除去し、剪定と通風・排水改善で園内衛生を高める。越冬中の病害虫は温暖な冬で増えやすく、春先に急増するため、発生履歴を踏まえ監視を強化。鉱物油や石灰硫黄合剤など基礎防除を適期に実施し、翌春の感染・加害リスクを低減する。
かいよう病
葉・果実・緑枝にコルク状病斑を生じ、秋の感染は越冬して翌春の主要な感染源となる。新梢の食害痕は侵入門戸となるため、被害枝の早期除去と新梢期の保護が要点。病原は早春から活動するため、開花前の予防散布と雨風による飛散対策、樹勢維持で感受性を下げることが重要。
ミカンハダニ対策
低温期も生存し、暖冬では活動開始が早まる。葉の退色・光合成低下を招き、発生は年に多数回。早春から葉裏の密度監視を行い、初期から抑え込む。鉱物油や選択的殺ダニ剤をローテーションし、天敵や受粉昆虫への影響に配慮。被覆ムラを防ぐため、剪定で樹冠内部まで届く散布を徹底する。
ヤノネカイガラムシ対策
葉・果実・枝に寄生し、着色遅延や生育阻害、重度で枝枯れを招く。雌成虫・雄幼虫で越冬し、温暖な冬は翌春の多発要因。冬期の鉱物油で基礎密度を下げ、剪定・園内衛生で寄生部位を減らす。葉裏や幹の凹凸への丁寧な被覆が効果の鍵。増勢維持と日当たり改善で寄生を受けにくい樹体を作る。
かいよう病の薬剤防除
予防は晚冬〜晩春に集中し、春葉へ病斑を作らせないことが果実感染防止の核心。石灰銅剤などの銅剤を芽出し前〜新梢期に計画的に散布。鉱物油や石灰硫黄合剤との近接散布は効果低下や薬害の恐れがあるため間隔を確保。降雨直前は避け、展着剤で付着性を高める。台風前の予防散布も有効。
ミカンハダニ・ヤノネカイガラムシの薬剤防除
収穫後の暖かい日に高濃度の鉱物油を一度しっかり散布し越冬個体を抑える。作用は気門閉塞で抵抗性化しにくいが、厳寒時や連用は樹勢を損ねる恐れ。冬と春の連続実施は避け、後期の発生には作用機構の異なる薬剤で対応。散布中断時は重ね掛けを避け、葉裏・枝幹の徹底被覆で効果を確保。
5月〜6月:開花期・幼果期の病害虫対策の重要性
この時期は樹体が最もデリケートで、初期被害が後追い困難に直結。梅雨入りが早い年は晴れ間を逃さず予防散布を計画し、雑草除去や病葉の削減と並行。雨で薬剤が流亡しやすいため耐雨性と残効を考慮し、天気予報と連動して時期を最適化。早期発見・早期封じ込めが収量と品質を左右する。
黒点病
葉・枝・果実に微小斑点や涙斑状の症状を示し、梅雨期の果実感染が中心。発生量が多いと収穫後の軸腐れの要因にもなる。幼果期からの予防主体で、雨期前に保護効果の高い剤を被覆し、降雨量に応じて期間内に再散布。風通し改善と病斑源除去で初発を減らし、残効切れの空白を作らない。
灰色かび病
周辺の花や雑草由来の胞子が花弁に付着し、多湿・低風環境で多発。落弁期の長雨は結実不良や幼果落果、果面の痕跡拡大を招く。満開前後に予防散布を行い、換気・日当たり確保や手揺すりで花弁を早期に落とす耕種的防除を併用。被害残渣は速やかに除去し、発生サイクルを断つ。
そうか病
葉・果実にいぼ状・かさぶた状病斑、枝には筋状斑。夏秋枝の感染は越冬し翌春の源となる。苗木〜定植後しばらくは感受性が高く、早期からの予防が要。新梢の保護、降雨前散布、病斑枝の除去で圃場内の接種源を低減。薬剤は作用機構を替えつつ、発病圧や品種特性に合わせて間隔を調整する。
ゴマダラカミキリ対策
幼虫が株元付近から幹内部を食害し、長期的に樹勢を衰えさせる。成虫は初夏に出現し産卵まで間があるため、産卵痕や木屑を見つけ次第物理的除去や薬剤で初期対応。株元の保護資材設置や巡回強化で侵入を抑止。被害箇所の早期発見と集中的処理が枯死防止の分岐点となる。
果樹カメムシ対策(早期発生型)
地域によっては春から飛来し、幼果落果や果実品質低下を招く。防除情報とフェロモン・予察トラップ等を参考に飛来期を把握。園地で個体を確認した段階で速やかに処理し、外周部の重点散布で侵入を遮断。大量飛来後は対応が難しいため、初期の一手と継続的観察が成否を分ける。
黒点病の農薬対策
満開期〜夏にかけて耐雨性の高い保護剤を計画的に散布。濃度はラベルの範囲で気象・発生圧に合わせ調整し、効果持続は降雨量の累積で判断。散布後24時間以内の降雨は効果低下要因のため回避。鉱物油や展着剤の併用で付着性を補強(時期と薬害に注意)。秋期の追加発生には作用機構を替えて対応。
灰色かび病・そうか病の農薬対策
満開〜落弁期に予防効果の高い剤を選び、降雨前に処理。残効が短い剤は黒点病対策の保護剤と併用・ローテーションし、連用を避けて抵抗性リスクを低減。結実期は薬害・受粉昆虫への影響に配慮し、散布は夕方や気温の穏やかな時間帯に。園内の花弁・病斑残渣の除去を徹底する。
カミキリムシ対策:農薬と物理的防除
成虫出現期には株元の保護資材で産卵を抑止し、樹皮下の幼虫には時期を合わせて処理。湿潤環境は資材劣化や害虫の潜み場所となるため、排水・除草で株元環境を管理。産卵痕・木屑の定期点検、被害部の物理的除去と薬剤処理の併用で被害拡大を防ぐ。
カメムシ対策:早期発見と農薬散布
個体を確認したら初期段階で対処。合成ピレスロイドや浸透移行性剤などを発生量・樹体ステージで使い分け、後期多発が見込まれる場合は残効を重視。特定系統の多用はハダニ・カイガラムシ増加を誘発しやすいため、モニタリングに応じて選択的殺ダニ剤の併用も検討する。
畑の管理と周辺環境整備
日照を妨げる竹・笹は若芽のうちに伐採し、再生抑制を併用。風倒や擦傷を避けるため境界管理を徹底する。猛暑時間帯の作業は避け、休憩・水分・防護具で安全確保。作業中の不慮の事故や昆虫侵入にも備え、複数人での見回り・連絡体制を整えることでリスクを下げる。
7月〜12月:収穫時期の腐敗防止と品質管理
果実に直接影響する病害虫が増えるため、気象と発生状況に応じた適期処理が重要。収穫前の予防散布で貯蔵病害の初発を抑え、収穫・選果・貯蔵・出荷の各段階で傷を作らない取り扱いを徹底。予冷と換気、容器・施設の衛生管理で腐敗リスクを低減し、品質を安定させる。
貯蔵病害(青かび病・緑かび病・軸腐病・白かび病)
収穫前の健全果確保と、収穫時の丁寧な扱いが最大の予防。果面の微傷を避け、選果で疑わしい果実を除去。貯蔵は温湿度管理と清潔な容器を用い、風通しを確保。予防的な殺菌剤処理は発生状況と使用基準に沿って実施し、残効と収穫間隔を厳守。施設・用具の洗浄で再汚染を防ぐ。
褐色腐敗病
長雨や裂果、枝葉の接触部からの感染が誘因。園内の落果・病果を速やかに除去し、密植・過繁茂を避けて乾きやすい樹姿を保つ。降雨前の予防散布と、実割れを招く急激な水分変動を抑える土壌水分管理が有効。被害枝・果は持ち出して処分し、接種源の持ち越しを防止する。
アザミウマ類
幼果表面を吸汁し、銀白化や環状瘢痕を生じる。開花期〜幼果期に園周縁から侵入しやすいため、雑草・隣接作物の管理と粘着トラップで早期把握。発生初期に選択的薬剤で要所処理し、天敵保全とローテーションで持続的に抑える。果面の被覆ムラを避ける散布技術が重要。
ミカンハモグリガ
新梢の潜葉被害がかいよう病などの侵入門戸となる。新梢発生期のモニタリングで成虫ピークを捉え、剪定で新梢の過密を避けつつ初期防除。被害葉は除去し、次世代発生を抑える。防風・通風改善で成虫の定着を減らし、世代交代の前に密度を下げる。
ミカンサビダニ
成虫越冬後に新芽・若葉で増殖し、のち果実表面へ移動。高温・少雨で多発し、果面の黒褐変を招く。効果は早期が肝要で、初夏からの予防散布が基本。単独防除は選択的殺ダニ剤を、アザミウマ同時発生園では両者に有効な剤を選ぶ。後期の広域散布は品質面の影響に留意し、時期を守る。
カメムシ類(後期対策)
着色期まで吸汁被害が続き、果肉スポンジ化など商品性低下を引き起こす。越冬成虫密度や周辺の球果量で年変動が大きいため、地域情報を活用。飛来期は園周囲を重点に残効のある剤で防護帯を形成し、内部の発生は密度に応じてスポット処理。圃場間での協調防除が効果的。
マルカイガラムシ類
収穫直前に気づきやすい隠れ害虫。冬期の鉱物油機会減少や薬剤選択の偏り、散布ムラが多発要因。発生園では初夏からの早期抑制が重要で、仕上げ摘果時に寄生果を見つけたら速やかに対処。葉裏・果梗部・樹冠内部まで届く散布と、樹形改善で再発を抑える。
ミカンハダニ(後期対策)
果実寄生が確認された場合に限り、晩夏〜初秋に殺ダニ剤で迅速対応。未発生なら無散布で経過観察し、不要な処理を避ける。抵抗性回避のため年をまたぐ同一成分の固定化は避け、数年単位でローテーション。被覆・タイミング・薬量の遵守が効果の安定化に直結する。
貯蔵病害の農薬対策
収穫前に発生病害に合わせて予防的殺菌剤を選択。浸透移行性と保護効果の組み合わせで初発を抑え、使用回数・前処理間隔を厳守。併せて選果・予冷・清潔な容器、貯蔵庫の衛生と換気で二次感染を防止。薬剤に頼り切らず、物理・衛生管理を組み合わせた総合対策で品質を守る。
まとめ
みかん栽培では多様な病害虫が発生し、複合要因で被害が拡大する。幹内を食害する甲虫や吸汁性の昆虫は最悪樹勢を衰弱・枯死させ、黒点病の病原が貯蔵中の腐敗を誘発し、潜葉害虫の食痕は細菌病の侵入口となる。特に5月〜梅雨期は活動が活発で初期封じ込めが要。天候に応じ散布時期を柔軟に見直し、作用機構の異なる薬剤のローテーション、適正希釈と被覆、耕種的対策を組み合わせた年間計画を実行する。記録と見回りを徹底し、熱中症対策など安全にも配慮。地域の関係機関の最新情報を活用し、圃場条件に合わせて最適化することで収量・品質・信頼性を高める。
よくある質問
質問1:年間で特に重要な防除時期は?
最重要は5〜6月の開花〜幼果・梅雨期。黒点病・灰色かび病・そうか病やアザミウマ・カメムシ・カミキリ類が活発化するため、予防主体で耐雨性・残効を考慮した散布を計画。雑草・病葉除去や通風改善など耕種的対策と併用し、天気予報に合わせてタイミングを最適化する。
質問2:かいよう病の発生と防除は?
秋の感染が越冬して翌春の主な発生源となり、葉・果実・若枝にコルク状病斑を生じる。潜葉害虫の食痕が侵入口になるため、晚冬〜春は予防散布を徹底。芽出し前〜新梢期に銅剤(石灰銅剤など)を基軸に、降雨前処理・展着剤で付着性を確保。病斑枝の除去や園内衛生、台風前の予防散布も有効。
質問3:ミカンハダニ・ヤノネカイガラムシの越冬対策は?
収穫後〜冬〜早春の温暖日に鉱物油乳剤を一度しっかり散布して基礎密度を低下。10℃未満や連続処理は樹勢低下の恐れがあるため回避し、冬か春のどちらかに限定。剪定で葉裏まで薬液が届く樹姿に整え、その後の発生には選択的殺ダニ剤・浸透移行性剤をローテーションで最小限対応する。