初夏の庭を彩る、宝石のような果実、スグリ。その鮮やかな赤や黒、緑色の実を見ているだけで、心が躍る方もいるのではないでしょうか。スグリは、ユキノシタ科から独立したスグリ科スグリ属の植物で、世界中に約150種もの仲間が存在します。日本では主にジャムやジュース、果実酒などに加工され、その酸味と豊かな風味で親しまれてきました。本記事では、スグリの植物としての特徴から、栽培方法、様々な利用法まで、その魅力を余すところなく徹底解説します。スグリの知られざる世界へ、ご案内いたします。
スグリ属の徹底解説:特徴、分布、利用法、知られざる歴史的背景
スグリ属(学名:Ribes、和名漢字表記:酸塊属)は、初夏の頃に、まるで宝石のように美しい果実を実らせることで知られている植物群です。以前はユキノシタ科に分類されていましたが、近年のAPG体系によって独立したスグリ科スグリ属として扱われるようになりました。スグリ属には約150種もの多様な種が存在し、主に北半球の温帯地域から亜寒帯地域にかけて広く分布しており、ヨーロッパや北アメリカ、日本、中国、東南アジアなど、さまざまな地域で見ることができます。日本には9種が自生し、数種類が栽培されています。スグリの果実は、その鮮やかな見た目から、ケーキやデザートの彩りとして人気がありますが、生で食べると酸味が強いため、ジャムやジュース、果実酒などに加工して利用されるのが一般的です。また、ビタミンCやアントシアニンが豊富に含まれているため、健康食品の原料としても注目を集めています。本記事では、スグリ属の植物学的な特徴、広範囲にわたる分布と多様な種、利用方法、学名や和名の由来、栽培方法、具体的な食べ方、カシスやグーズベリーといった関連名称との違いなど、スグリ属の魅力を詳細に解説します。
スグリ属とは?分類と概要
スグリ属(学名:Ribes、和名漢字表記:酸塊属)は、以前はユキノシタ科に分類されていましたが、最新のAPG(被子植物系統発生学グループ)体系においては、独立したスグリ科(Grossulariaceae)に属する唯一の属として分類されています。この科は、落葉性または常緑性の低木が中心で、つる性の種もわずかに存在します。スグリ属の植物は、その美しい果実が特徴的であり、食用としての価値も高く評価されています。学名の「Ribes」は、ペルシャ語やアラビア語で「酸っぱい」という意味を持つ「ribas」という言葉が語源とされており、これは多くのスグリ属の果実が生食すると酸味が強いことに由来しています。また、日本語の漢字表記である「酸塊」も、同様に果実の強い酸味に由来すると考えられています。「塊」という字は、小さな果実がブドウのようにまとまって実る様子や、群生する性質を表していると解釈できます。世界中で約150種が確認されており、主に北半球の温帯から亜寒帯にかけて広範囲に分布し、ヨーロッパ、北アメリカ、日本、中国、東南アジアなど、様々な地域でその姿を見ることができます。日本国内には9種が自生しており、その他に数種が観賞用や食用として栽培されています。スグリ属は、生物学的な多様性、経済的な価値、そして環境との関連性といった多角的な側面から、古くから人々に親しまれ、研究の対象とされてきました。
スグリ属の植物学的特徴:葉、花、果実の構造
スグリ属の植物は、一般的に落葉性または常緑性の低木であり、まれにつる性の種も見られます。樹高は1mから1.5m程度で、あまり高くならず、剪定の手間も比較的少ないのが特徴です。葉、花、そして果実には、それぞれ特徴的な構造が見られます。葉は互い違いに生え、多くは手のひら状に浅くまたは中程度に裂けており、一部の種には刺があります。この刺は、外敵から身を守ったり、乾燥した場所で水分の蒸発を抑えたりする役割を果たすと考えられています。花は通常5枚の花弁を持ち、まれに4枚の場合があり、多くは総状花序を形成して咲きますが、束状や単生の場合もあります。スグリの花期は通常5月から6月初旬にかけてで、白や緑といった控えめな色の花を咲かせる種が多く、葉に紛れてしまい、注意深く観察しないと見過ごしてしまうほどです。しかし、「ハナスグリ」とも呼ばれるリベス・サングイネウム(Ribes sanguineum)のように、他のスグリとは異なり、大きく鮮やかな花を咲かせる品種も存在します。リベス・サングイネウムの花は濃いピンク色で、小さな花がいくつも連なり、かんざしのように枝垂れて咲く姿は非常に美しく、観賞用として人気があります。ただし、夏の暑さに弱いため、日本では寒冷地や北国でないと栽培が難しいとされています。果実は液果で、内部には小さな種子がたくさん含まれています。初夏に熟す果実は、赤、白、黒、緑、紫など、様々な色を持ち、半透明でみずみずしい姿は、まるでビーズや宝石のようです。特に、フサスグリのガーネットのような鮮やかな赤色、クロフサスグリのオニキスやスモーククォーツを思わせる深みのある黒色、そしてセイヨウスグリの緑や紫といった色彩は、スグリの大きな魅力となっています。これらの果実は食用に適しており、その美しさからケーキやデザートの飾り付け、料理の付け合わせなど、様々な用途で利用されています。
スグリ属の広範な分布と多様な種
スグリ属は、世界中で約150種が確認されており、その多くが北半球の温帯から亜寒帯にかけて広く分布しています。特に、ヨーロッパ、北アメリカ、そしてアジアの日本、中国、東南アジアなどでよく見られます。一部の種は南米のアンデス山脈にも分布しており、その高い適応能力を示しています。日本には9種が自生しており、さらに観賞用や食用として数種類が栽培されています。この多様な種は、7つの亜属に分類されていますが、植物学者の間では、セイヨウスグリなどが属するスグリ亜属(Subgen. Grossularia)を独立した別の属として扱う考え方もあります。このような分類に関する議論は、スグリ属の種の多様性と複雑さを反映しています。各種は、生育環境や果実の形、利用方法において独自の特性を持っています。例えば、耐寒性に優れる種が多い一方で、高温多湿には弱い傾向があり、特に日本の関東以南では夏越しが難しい場合があります。
しかし、グーズベリーと呼ばれるセイヨウスグリは冷涼な気候を好む一方で、アメリカスグリは比較的耐暑性があり、日本の温暖な地域でも栽培可能な品種が見られるなど、品種によって耐性が異なります。この広範な分布と多様な種は、スグリ属が様々な気候条件に適応し、進化してきた結果であり、それぞれの地域で独自の文化や食生活に取り入れられてきました。例えば、特定の地域では野生種が伝統的な食材として利用され、また別の地域では改良された栽培品種が大規模に生産されるなど、その利用形態も多岐にわたります。
スグリ属の主な種:日本と世界の代表例とその特徴
スグリ属は多種多様であり、日本原産の種と世界中で栽培され利用されている種に大別できます。これらの種はそれぞれ、独自の形態的特性、利用方法、歴史的背景を有しています。
日本に自生するスグリ属の主な種
日本には、その土地の環境に適合したスグリ属の種がいくつか自生しています。中には、特異な生態を持つものや、絶滅の危機に瀕しているものも存在します。たとえば、ヤシャビシャクは日本のスグリの中でも珍しく、他の樹木に付着して生育するという特徴的な生態を持っています。その果実の表面には針状の細毛があり、見た目にも触った感じも独特です。残念ながら、現在では絶滅危惧種に指定されており、保護が急務となっています。また、コマガタケスグリは長野県の木曽駒ヶ岳で最初に発見されたことが名前の由来とされ、その果実は食用には適しません。ヤブサンザシは、冬に赤く熟す果実がサンザシに似ていることから名付けられましたが、その実はサンザシよりも小さく、こちらも食用には向きません。これらの日本固有種は、食用としての価値は低いものの、日本の豊かな生態系において重要な役割を果たしています。
世界に分布するスグリ属の主な種
世界中で広く知られ、利用されているスグリ属の種は、その鮮やかな果実と加工のしやすさで高く評価されています。フサスグリ(アカフサスグリ)は、初夏に直径6~7mmほどの鮮やかな赤い透明感のある果実をブドウのように房状に実らせます。英語では「Red currant(レッドカラント)」と呼ばれ、これは干しブドウの品種「カラント」に由来すると言われています。フランス語では「Groseille(グロゼイユ)」と呼ばれ、酸味が強いながらも、その美しい色合いからケーキや菓子の飾りとして非常に人気があります。また、フサスグリにはあまり知られていませんが、白い実をつける品種も存在します。クロフサスグリ(クロスグリ)も初夏に実をつけますが、こちらは光沢のある漆黒の果実で、まるでオニキスのようです。英語では「Black currant(ブラックカラント)」と呼ばれ、フサスグリの赤い実と対比して呼ばれます。フランス語の「Cassis(カシス)」という名前は特によく知られており、カシスリキュールや菓子など、この名前で販売されている製品が多くあります。カシス、ブラックカラント、クロフサスグリはすべて同じものを指し、健康食品としてもよく利用されています。セイヨウスグリは、初夏に赤や緑の果実をつける種で、ヨーロッパ原産であり、ヨーロッパや北アメリカで広く栽培されています。英語名「gooseberry(グーズベリー)」の語源は、「アヒルが好んで食べる」という説よりも、「セイヨウスグリの果実で作ったソースをアヒル料理に添えると相性が良いから」という説が有力です。アメリカスグリも同様に「gooseberry(グーズベリー)」と呼ばれ、アメリカ原産で、黒ずんだくすんだ紫や茶色のような形容しがたい色の果実をつけ、そのソースがアヒル料理によく合うとされています。これらの国際的なスグリの種は、それぞれが持つ独特の風味と外観によって、世界各地の食文化に深く浸透しています。
スグリ属の関連用語:カシス、グーズベリーとの違い
スグリ属の果実は、種類によって異なる名称で呼ばれることがあり、特に海外の名称が日本で広く使用されることで混乱を招くことがあります。ここでは、混同されやすい「カシス」と「グーズベリー」について、スグリとの関連性を明確に説明します。
スグリとカシスの違いは?
「カシス」という名前は、実はクロフサスグリをフランス語で表現したものです。つまり、カシス、クロフサスグリ、そして英語でブラックカラント(Black currant)と呼ばれるものは、すべて同じ植物、同じ果実を指しています。スグリ属は非常に多くの種類を含む大きなグループですが、その中でも特に「クロフサスグリ」という特定の種を指す場合に、カシスやブラックカラントという言葉が使われます。カシスは、独特の濃い色と風味で、リキュールやジャム、お菓子など様々な食品に加工され、世界中で愛されています。ですから、「カシスはスグリの一種である」と理解するのが最も適切です。
スグリとグーズベリーの違いは?
「グーズベリー」は、主にセイヨウスグリとアメリカスグリという2種類のスグリ属の植物をまとめて呼ぶ際に用いられる英語名です。セイヨウスグリもアメリカスグリも、スグリ科の植物ですから、グーズベリーも「スグリの一種である」と言えます。グーズベリーと呼ばれるこれらの種類は、枝に鋭い棘があるのが特徴で、果実は通常、赤、緑、紫などの色をしており、食用として利用されます。英語名の由来には、アヒルが好んで食べるという説もありますが、有力なのは、グーズベリーで作ったソースがアヒル料理と良く合うことから名付けられたという説です。カシスと同様に、グーズベリーも特定の食用スグリの品種群を指す名称であり、スグリ属全体を指す言葉ではありません。
スグリ属の多様な利用法と注意すべき点
スグリ属の植物は、様々な特性を持つため世界中で色々な形で活用されており、特に果実は経済的な価値が高いです。多くの種類が生で食べられたり、ジャム、ゼリー、ジュース、果実酒などに加工されたりします。特にフサスグリやクロフサスグリは、鮮やかな色と独特の酸味で、ケーキやデザートの飾りとして、また肉料理のソースや付け合わせとしても人気があります。ビタミンCやアントシアニンなどの栄養素が豊富に含まれているため、健康食品の原料としても注目されており、需要が高まっています。スグリの果実は甘酸っぱい味が特徴で、漢字で「酸塊」と書かれるように、酸味が強いです。そのため、生のまま大量に食べるよりも加工して味わうのが一般的ですが、十分に熟せば生で食べることもできます。また、スグリの生の果実はスーパーなどではあまり見かけず、日持ちがしないのが難点です。ジャムなどに加工された状態で売られていることが多いですが、新鮮な果実を収穫して味わえるのは家庭菜園ならではの楽しみでしょう。しかし、広く利用される一方で、注意すべき点もあります。スグリ属は、樹木の枝枯れなどを引き起こす特定のさび病の宿主となることがあります。特にアメリカ合衆国では、アジアから侵入した「Cronartium ribicola」という病原菌が原因の「マツ類泡状さび病(White Pine Blister Rust)」が深刻な問題となっています。この病気は、現地の抵抗力のないマツ類に大きな被害を与え、枯死させてしまうこともあります。そのため、アメリカ東部の一部の州では、現在でもスグリの栽培が禁止されています。このような病害のリスクは、スグリの栽培や利用を考える上で重要なポイントとなります。
スグリの育て方と栽培のコツ
スグリはスグリ科の果樹で、種類によって緑、白、黒、赤などの果実をつけます。生の果実はスーパーなどではなかなか手に入らないため、家庭菜園で育てて、新鮮な果実を味わってみましょう。スグリは耐寒性が非常に高く、比較的育てやすい植物ですが、日本の高温多湿な気候には弱いという特徴があります。そのため、特に日本の関東以南のような地域では、夏を越せずに枯れてしまうことが多いです。スグリを元気に育てるためには、風通しを良くし、蒸れないようにし、夏の気温上昇に注意して管理することが大切です。
スグリの植え付け
スグリの苗を植えるのに最適な時期は、木が休眠状態に入る12月から2月にかけての落葉期です。ただし、寒冷地では、土壌の凍結を避けるため、春先の穏やかな時期に植え付けを行うのがおすすめです。スグリは夏の暑さと湿気を嫌うため、植え付け場所の選定は非常に大切です。風通しが良く、特に午後の強い日差しを避けられる半日陰を選びましょう。具体的には、午前中は日が当たり、午後は日陰になるような場所が理想的です。適切な場所を選べば地植えでも問題なく育てられますが、難しい場合は鉢植えにして、季節に応じて移動させるのも良い方法です。土壌は、水はけが良く、肥沃な土を好みます。地植えにする際は、腐葉土や赤玉土、堆肥などを混ぜ込んで、土壌を良く耕しておきましょう。植え付け時には、根が十分に成長できるように、元肥として緩効性肥料をしっかりと混ぜ込むことが重要です。肥料入りの培養土を使用する場合は、追加の肥料は不要で、そのまま植え付けて問題ありません。地植えの場合、根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、苗を丁寧に植え込み、土を戻します。鉢植えの場合は、一回り大きな鉢を用意し、植え付けを行います。鉢底に鉢底石を敷き詰めて水はけを良くしてから、用土を入れましょう。鉢植えの土を自分で配合する場合は、小粒の赤玉土と酸度調整済みのピートモスを7~8:3~2の割合で混ぜたものがおすすめです。市販のハーブ用培養土なども利用できます。植え付け後には、たっぷりと水を与えましょう。
スグリの水やり
水やりの頻度は、スグリの成長段階や栽培環境によって調整することが大切です。スグリは乾燥を嫌う植物です。庭植えの場合、一度根付いてしまえば、基本的に頻繁な水やりは必要ありません。自然の雨水で十分に水分が足りるため、特に乾燥した日が続く場合を除いては、水やりは控えめにするのが良いでしょう。一方、鉢植えのスグリは、土の量が限られているため、乾燥しやすくなります。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出るくらいたっぷりと水を与えてください。特に夏場は、土の中の温度が上昇しやすく、根に負担がかかることがあるので注意が必要です。そのため、水やりは午前中の涼しい時間帯や、夕方の気温が下がってから行うようにしましょう。日中の暑い時間帯の水やりは避けるのが賢明です。乾燥が気になる場合は、腐葉土などを土の表面に敷いてマルチングするのも効果的です。
スグリの肥料
スグリに肥料を与える際は、適切な時期と量を守ることが、健康な成長と実の収穫のために重要です。植え付けの際には、元肥として緩効性肥料を施します。肥料入りの培養土を使う場合は、追加で肥料を与える必要はなく、そのまま植え付けてください。追肥は、通常、木が休眠に入る前の11月上旬に行うのが最適です。この時期に、堆肥に油かすを混ぜたものを、株の周りの土に混ぜ込むように施します。地植えの場合は、2月と10月に追加の肥料を与えます。ばらまくだけで効果が2~3ヶ月続く緩効性肥料が便利です。また、地植えの場合、根の成長が始まる2~3月頃に、枝の先端の下あたりに寒肥として、堆肥と肥料成分がペレット状になった肥料を施すのも効果的です。鉢植えの場合は、2月、7月、10月に緩効性肥料を与えます。速効性のある成分と、ゆっくりと効果を発揮する有機質を配合した肥料を選ぶと、安定した効果が約1~2ヶ月間持続します。ただし、肥料の与えすぎには注意が必要です。過剰な施肥は、株が徒長する原因になったり、病害虫を引き寄せやすくなるリスクを高める可能性があります。植物の状態を注意深く観察し、必要な量だけを与えるように心がけましょう。
スグリの植え替え
鉢植えで育てているスグリは、2年に1度を目安に植え替えを行うことをおすすめします。長期間植え替えないでいると、根詰まりを起こす原因となるため注意が必要です。植え替えに適した時期は、植え付けと同じく12月~2月です。この時期に、新しい用土を用意して植え替えを行いましょう。
スグリが被害にあいやすい病害虫と対策
スグリは丈夫な植物として知られていますが、それでもいくつかの病害虫には注意が必要です。特によく見られるのが「うどんこ病」です。この病気は、特定のカビが原因で発生し、葉の表面に白い粉をまぶしたような状態が現れます。うどんこ病にかかると、植物の光合成能力が低下し、生育に悪影響を及ぼす可能性があります。症状が進行すると、植物が枯れてしまうこともあるため、早期発見と対策が重要です。発見した場合は、感染した部分を速やかに切り取り、適切な薬剤で消毒することが大切です。うどんこ病の予防には、風通しの良い環境を保つことが不可欠です。葉が密集していると湿度が高まり、カビが繁殖しやすくなります。定期的に不要な葉を剪定し、株の内側まで光と風が届くように管理しましょう。予防的な薬剤散布も有効な手段です。
スグリの実が付きやすくなる剪定
スグリの剪定は、実の収穫量を左右する重要な作業です。スグリは主に「2年枝」と呼ばれる、前年に伸びた枝に実をつける性質があります。剪定の最適な時期は、落葉後から春の発芽前までです。この時期に剪定を行うことで、植物への負担を最小限に抑えられます。剪定では、まず元気のない新梢や不要な枝を根元から切り落とします。最終的には、一株あたり15本程度の枝がバランス良く残るように調整すると良いでしょう。枝が密集している部分は、風通しを良くするために適宜間引きます。また、4~5年経過した古い枝は実をつける能力が低下するため、思い切って剪定しましょう。適切な剪定を行うことで、株全体の風通しと日当たりが改善され、新しい枝の成長が促進されます。その結果、翌年の収穫量が増加し、品質の良い実をつけることが期待できます。剪定は、植物の形を整えるだけでなく、病害虫の予防にもつながるため、定期的な実施が推奨されます。品種によっては、枝にトゲがある場合があるので、剪定作業を行う際は手袋を着用し、怪我をしないように注意しましょう。
スグリの収穫
スグリは初夏に可愛らしい花を咲かせ、6月から7月にかけて実をつけます。収穫は、実が十分に熟したタイミングでハサミを使って丁寧に行いましょう。スグリは小さな実がたくさんなるため、収穫した実を入れるためのカゴや容器を用意しておくと便利です。収穫した実は、丁寧に水洗いした後、様々な方法で楽しむことができます。ただし、スグリの実は比較的日持ちがしないため、できるだけ早く食べるのがおすすめです。長期保存する場合は、冷凍保存すると良いでしょう。
スグリの増やし方と注意点
スグリは、挿し木や取り木といった方法で増やすことができます。栽培に慣れてきたら、ぜひこれらの方法に挑戦して、スグリの株を増やしてみましょう。
挿し木
スグリは、剪定後の枝を利用して増やすことが可能です。最適な時期は12月から2月にかけて。若い健康な枝を選び、およそ10cmから20cmの長さに切り分けます。切り口は斜めにすることで、吸水しやすくします。これらを挿し穂とし、水にしばらく浸けて十分に水を吸わせた後、挿し木専用の用土に挿します。用土は清潔で肥料分のないものを選びましょう。発根するまでは、用土が乾燥しないように水やりを心掛けてください。
取り木
挿し木での発根が難しい品種には、取り木という方法も有効です。適期は2月から3月頃。伸びてきた新しい枝を地面に寝かせ、土を被せて根が出るのを待ちます。枝の先端は土から出しておきましょう。発根を確認後、しばらく育ててから、植え替えに適した時期に親株から切り離し、個別に植え付けます。
スグリの実の美味しい食べ方と保存方法
スグリの実は、その鮮やかな色合いと独特の風味が特徴で、様々な用途で楽しめます。生で食べると酸味が強いため、ブドウやイチゴのようにたくさん食べるのは難しいかもしれませんが、完熟するまで待てば生食も可能です。生の実は、スーパーなどではあまり見かけず、日持ちもしないため、家庭菜園で収穫したものを味わうのがおすすめです。採れたてのフレッシュなスグリは、ケーキやタルト、パフェなどのデザートの飾りとして、見た目の美しさを活かすのが一般的です。赤、白、黒の実が添えられることで、お菓子全体が華やかになります。また、肉料理の付け合わせとして、彩りや酸味のアクセントに使うのも良いでしょう。酸味が脂っぽさを抑え、料理をさっぱりと仕上げます。
スグリの冷凍保存
収穫したスグリをすぐに使い切れない場合は、冷凍保存が便利です。スグリを洗い、水気をしっかり拭き取ったら、重ならないようにバットに並べて冷凍庫で凍らせます。完全に凍ったら、保存袋に入れて密閉します。この方法で、スグリの鮮度を長期間保てます。ただし、冷凍したスグリを解凍すると、水分が出て食感が悪くなることがあります。そのため、解凍後のスグリは、ジャムやジュース、ソースなど、加熱調理する用途に適しています。冷凍保存することで、旬の時期以外でもスグリの風味を楽しめます。
スグリの自家製ジャム
スグリの際立つ酸味は、手作りジャムに最適です。グラニュー糖を加えてじっくりと煮詰めることで、スグリならではの甘酸っぱさが凝縮され、風味豊かな絶品ジャムに生まれ変わります。また、スグリには天然のペクチンが豊富に含まれているため、比較的簡単にジャムが固まるという利点があります。収穫したスグリを生で食べきれない場合は、自家製ジャムにして清潔な保存瓶に詰めれば、その美味しさを長期にわたって堪能できます。朝食のトーストに塗ったり、ヨーグルトに添えたり、手作りデザートの材料として活用したりと、その用途は多岐にわたります。自家製スグリジャムは、鮮やかなルビー色も魅力であり、食卓を華やかに彩ってくれるでしょう。
まとめ
スグリ属(Ribes)は、ユキノシタ科、または独立したスグリ科に分類される植物群で、多様な特徴と広い分布域を持っています。スグリの果実は、フサスグリ、クロフサスグリ、セイヨウスグリなど、赤、白、黒、緑、紫といった宝石のような美しい色合いを呈し、その可愛らしい見た目から洋菓子やケーキの装飾として珍重されています。この宝石のような果実を実らせるスグリは、風通しを良くし、高温多湿を避けて管理すれば、ご家庭でも十分に育てて楽しむことができる植物です。その愛らしい姿を見ているだけで心が癒されるスグリを、ぜひ身近で栽培し、その魅力を体験してみてください。
質問:スグリ属の果実の主な利用方法は何ですか?
回答:スグリ属の果実は、その見た目の美しさから、ケーキやデザート、肉料理の彩りとして利用されることがあります。生で食べると酸味が強いため、一般的にはジャム、ゼリー、ジュース、果実酒といった加工品として幅広く利用されています。特に、ビタミンCやアントシアニンなどの栄養成分が豊富に含まれているため、健康食品の原料としても貴重です。生の果実は傷みやすいため、市場では加工品として流通することが多いですが、家庭菜園で収穫した新鮮な果実は、熟したものを生で味わうこともできます。また、冷凍保存することで長期保存も可能ですが、解凍後は加工用として利用するのがおすすめです。
質問:スグリ属植物の栽培が制限されている地域がある理由は何ですか?
回答:アメリカ合衆国の一部地域では、スグリ属植物が、樹木に枝枯れなどの被害を引き起こすさび病(特にマツ科植物に壊滅的な被害をもたらすWhite Pine Blister Rust、和名:白銹病)の中間宿主となるため、栽培が規制されています。これは、アジアから侵入した病原菌Cronartium ribicola(和名:ゴヨウマツ銹菌)が、現地のマツ科植物に深刻な被害をもたらしているためです。
質問:スグリ属の学名「Ribes」と和名「酸塊」の語源は何ですか?
スグリ属の植物を指す学名「Ribes」は、ペルシャ語やアラビア語の「ribas」という言葉から来ています。この「ribas」は「酸っぱい」という意味を持っており、スグリ属の多くの種類が酸味の強い果実をつけるという特徴を表しています。また、日本語名の「酸塊」も、果実の持つ強い酸っぱさに由来すると考えられています。「塊」という字は、小さくまとまって実る果実の様子や、群生する様子を表現しています。