キュウリ接ぎ木完全ガイド:初心者でも失敗しないコツと手順
家庭菜園でキュウリを育てるなら、接ぎ木は必須テクニック!病気に強く、収穫量もアップする接ぎ木キュウリに挑戦してみませんか?難しそうに感じるかもしれませんが、ポイントさえ押さえれば初心者でも大丈夫。この記事では、キュウリの接ぎ木の中でも最も簡単な「呼び接ぎ」に焦点を当て、写真付きで分かりやすく解説します。準備するものから、具体的な手順、接ぎ木後のケアまで、失敗しないためのノウハウを徹底的に伝授。この記事を読めば、あなたも自家製接ぎ木キュウリで、豊作を実感できるはずです!

はじめに

野菜の接ぎ木は、異なる特性を持つ2つの植物、土台となる「台木」と、実をつける「穂木」を結合させ、両方の長所を併せ持つ新しい個体を育てる伝統的な農法です。接ぎ木自体は比較的簡単ですが、その後の繊細な管理が難しいことがあります。この記事では、初心者や家庭菜園でも取り組みやすく、成功しやすい「キュウリの呼び接ぎ」を詳しく解説します。日本では一般的に、キュウリをカボチャに接ぎ木し、根をカボチャにすることで、病気への抵抗力強化や成長促進など、多くのメリットを得ます。私も以前は「接ぎ木は難しそう」と思っていましたが、近所の方に頼まれたのをきっかけに挑戦しました。不器用な私でも、いくつかの重要なポイントを押さえることで、高い成功率を達成できました。さらに、余った苗を販売したところ、「来年も作ってほしい」と言われるほど好評でした。そこで、「接ぎ木に挑戦したいけれど、何から始めればいいかわからない」「失敗しないコツを知りたい」という方に向けて、私が特に注意した点や具体的な手順、接ぎ木後の管理方法などを詳しく紹介します。このガイドを参考に、ぜひ自家製の接ぎ木苗づくりに挑戦し、健康で豊かな野菜栽培を楽しんでください。

野菜の接ぎ木とは?

接ぎ木は、生育が旺盛で病気に強い根や茎を持つ「台木」と、品質の良い実をたくさん収穫できる「穂木」を人為的に結合させ、両方の優れた特性を兼ね備えた新しい植物を育成する技術です。農業では、この技術を利用して、病害抵抗性や生育の強化、特定の環境への適応性向上などのメリットを持つ苗を作ります。果樹の接ぎ木が主に同じ品種を増やすクローン技術として使われるのに対し、野菜の接ぎ木は、株全体の勢いを強くしたり、特定の病気への耐性を与えることを主な目的とします。例えば、ナスの場合、青枯れ病が多発する畑では、この病気に抵抗性を持つ台木を使った接ぎ木苗を植えることで、被害を減らし、安定した収穫が可能です。また、春先の促成栽培では、生育の強い接ぎ木苗を使うことで、低温期の生育停滞を防ぎ、収量を増やし、収益性を高めることができます。このように、接ぎ木は栽培環境の課題を克服し、高品質な作物を安定して生産するための重要な手段として、現代農業で広く活用されています。

キュウリの接ぎ木がもたらすカボチャ台木の利点

この記事で詳しく解説するキュウリの接ぎ木では、台木としてカボチャの根を利用することで、以下の5つの重要な利点が得られます。これらの利点は、キュウリ栽培の安定性と収益性を大きく向上させます。
1. 病気の回避: カボチャの台木は、キュウリの栽培で問題となるつる割れ病や疫病などの土壌病害に強い抵抗力を持つため、これらの病気のリスクを大幅に減らせます。これにより、病害による収量減少や品質低下を防ぎ、健全な生育を促進し、安定した収穫量につながります。病原菌が蔓延しやすい連作畑や、過去に病害が発生した土壌での栽培に特に有効です。
2. 吸肥力の向上: カボチャの根は、キュウリ本来の根よりも肥料成分、特に窒素やリン酸などの養分を吸収する能力が優れています。この特性により、栽培期間を通してキュウリの生育を力強く維持でき、特に多くの実を連続して収穫する長期栽培や、肥料が不足しがちな土壌でも、安定した生育と収穫が期待できます。株の疲弊を抑え、収穫期間の最後まで品質の良いキュウリを収穫できます。
3. 低温伸張性の優位: 春先の定植時や寒冷地での栽培など、地温が低い環境では、キュウリ本来の根よりもカボチャの根の方が活発に成長します。この低温伸張性の高さにより、低温期の生育停滞を防ぎ、発根や初期生育を促進します。定植後の活着が早まり、その後の生育も順調に進むため、早出し栽培での収量確保や、寒の戻りがある地域での安定した収量向上に貢献します。
4. ブルームが吹かない: 現在主流となっているブルームレス台木を使った場合、きれいなキュウリができるという視覚的な利点があります。ブルームレス台木を使わない場合、キュウリの表面にはブルームと呼ばれる白い粉が付着します。スーパーで売られているキュウリはブルームレス台木で栽培されたものが多いため、ブルームのあるキュウリはあまり見かけません。この白い粉の主要な成分はケイ素で、ウリ科の植物(特にキュウリとカボチャ)はケイ素を多く吸収するため、ブルームが発生しやすいとされています。この性質を利用し、ケイ素の吸収が少ないカボチャ品種をブルームレス台木として使うことで、ブルームの発生を抑えます。以前に使われていたカボチャ品種ではブルームが発生する可能性がありました。
5. 長期栽培での草勢維持: カボチャの強健な根は、キュウリが長期間にわたって多くの実をつけ続けるための養分と水分を安定的に供給します。これにより、夏の高温期や収穫期間の後半でも株が疲れにくく、植物全体の勢いが衰えにくい状態を保てます。収穫期間が長くなり、総収量が増加し、効率的で持続可能なキュウリ栽培ができます。家庭菜園で長期間キュウリを楽しみたい場合や、業務用として連続出荷を目指す場合に大きなメリットとなります。

接ぎ木準備(種まき数日前からの土壌・資材消毒)

接ぎ木苗を健全に育てるためには、種まき前の準備が重要です。まず、キュウリと台木カボチャを播くための育苗箱や、接ぎ木後に植え付けるポリポットに培養土を入れ、水をたっぷり与えます。培養土は、排水性、保水性、通気性のバランスが取れたものを選び、苗の初期生育をサポートします。次に、土壌消毒を行います。苗立枯病などの土壌病害を防ぐためには、太陽熱や薬剤を使って土と育苗箱、ポリポット、トレーなどの資材も消毒することが大切です。太陽熱消毒は、環境に優しく効果的な方法で、晴れた日に水をたっぷり含んだ育苗箱やポットを透明な袋に入れて封をし、日当たりの良い場所に数日間置いておくだけでも効果が期待できます。地温が60℃に達し、その温度を維持できれば、多くの昆虫の卵や幼虫、有害な糸状菌、細菌を死滅させることができます。そこまで高温にならなくても、キュウリの苗立枯病の原因菌であるピシウム菌とリゾクトニア菌は、比較的低い温度でも死滅することが知られています。日中の土の温度を確認するためには、温度計を育苗箱の土の中に差しておくと良いでしょう。これらの準備を丁寧に行うことで、病害のリスクを減らし、健康な接ぎ木苗を育てることができます。

種子の選び方

接ぎ木苗を成功させるには、育てたい品種の種子(穂木)に加え、接ぎ木用に開発された台木の種子が欠かせません。台木用品種は、特性によって大きく2つに分けられます。1つは、特定の病害への抵抗力を持つ「耐病性品種」で、「○○病・ウイルスに抵抗性」と表示されています。これにより、病気が発生しやすい環境でも安定した栽培が可能です。もう1つは、作物の成長を促進し、収穫量や品質を向上させる「強勢品種」です。これらの台木用品種は、大手種苗会社のカタログやウェブサイトで紹介されていますが、多くの場合、1000粒単位で販売されています。ナスなどの一部種子は適切に保存すれば数年使用できますが、少量だけ必要な場合は、近くの種苗店に相談してみましょう。家庭菜園向けに小分け販売してくれる可能性があります。また、台木と穂木には相性があり、組み合わせによっては活着しなかったり、生育が悪くなることがあります。栽培したい穂木品種に最適な台木や、特定の病害対策に適した台木について、種苗会社や販売店に問い合わせ、地域の気候や栽培条件に合わせたアドバイスを得ることが重要です。最適な台木選びが、接ぎ木成功への第一歩です。

台木と穂木の種まきと発芽後の管理

台木と穂木の種まきは、接ぎ木を成功させるための基本であり重要なステップです。種まきや育苗方法は通常の野菜栽培と大きく変わらず、箱まきでもセルトレイ育苗でも、栽培環境や規模に合わせて選択できます。重要なのは、台木と穂木の種まき時期を適切に管理することです。接ぎ木を成功させるには、接ぎ木時に台木の茎が穂木よりも太く、しっかり育っている状態が理想的です。そのため、一般的には台木の種を穂木よりも早めにまくことが推奨されており、その差は品種によって数日から2週間程度です。早まきの程度は、購入した台木種子のカタログや種袋に記載されているので、事前に確認しましょう。
キュウリの呼び接ぎでは、台木となるカボチャの種まき時期は、穂木となるキュウリの種まきと同日か、せいぜい2日ほど早くまく程度で十分です。穂木と同時、あるいは1日遅らせて台木を播種することもありますが、重要なのは接ぎ木時に穂木と台木の胚軸の太さが合うように調整することです。種をまく際は、タネの向きを揃えると、発芽後の生育が均一になり管理がしやすくなります。畑への定植時期から逆算して、台木と穂木の種まき時期を計画的に決めることが、接ぎ木苗作りの重要なポイントです。

種まき後の発芽管理も大切です。土の温度を28℃に保つと、キュウリは約3日目、台木カボチャは約4日目に発芽することが期待できます。発芽が確認できたら、土の温度を23℃ほどに下げて、徒長を防ぎ、健全な苗の成長を促します。発芽予定日の夕方になっても発芽しない場合は、土を軽く掘ってタネの状態を確認することをおすすめします。夜間や被覆した状態で発芽すると、胚軸が伸びすぎて接ぎ木作業が難しくなることがあります。土の温度管理や遮光を調整し、できるだけ朝に発芽するように工夫することも、良い苗を育てる上で大切です。

初心者でもできるキュウリの呼び接ぎの基本

接ぎ木作業で多くの人が苦労し、失敗しやすいのが、接ぎ木直後の「順化」という処理です。これは、手術後の患者が集中治療室で回復を図るように、接ぎ木後の苗も慎重な環境管理が必要です。遮光された密閉空間で苗の消耗を防ぎ、徐々に自然光や外気に慣らしていきます。接ぎ木の方法はいくつかありますが、今回は最も簡単で初心者にも向いている「キュウリの呼び接ぎ」の方法を詳しく解説します。この方法なら、約1ヶ月弱で接ぎ木苗を育てられます。
呼び接ぎの名前は、「穂木と台木を呼び寄せるように接着させる」ことに由来し、「寄せ接ぎ」とも呼ばれます。呼び接ぎの大きな特徴は、接ぎ木をした日と、約1週間後に穂木の根を切り離す日の2日間を注意すれば、ほとんどの場合成功することです。キュウリの台木には、一般的にカボチャが用いられます。呼び接ぎの成功率が高いのは、穂木と台木のそれぞれの根が、切り口が完全に癒着するまで残されているため、苗への負担が少ないからです。これにより、苗が自力で養分や水分を供給できるため、枯れるリスクが大幅に減少し、初心者でも安心して挑戦できます。

接ぎ木前の苗の調整と準備

接ぎ木を成功させるには、苗の事前の調整と準備が非常に重要です。特に、穂木となるキュウリと台木となるカボチャの胚軸の長さと太さを合わせることが、活着率を高める鍵となります。胚軸は水を十分に与えると伸びやすいため、接ぎ木作業の3日前からは水やりを控え、徒長を防ぎ、長さを調整します。これにより、接ぎ木作業時の切込みや固定がしやすくなり、切り口の密着度も向上します。ただし、夏場などの高温期には水切れしやすいため、水やりが必要になることもあります。その場合は、胚軸が伸びやすくなるので、こまめに観察し対応しましょう。また、接ぎ木前日には、接ぎ木した苗を植え付けるポリポットの土の温度を28℃に温め始め、翌日の作業に備えます。これは、接ぎ木後の苗がストレスなく根を張り、活着を促すための重要な環境条件です。土の水分が少ない場合は、前日までにたっぷりと水やりをして、接ぎ木後の乾燥を防ぎます。これらの細やかな準備を行うことで、接ぎ木作業の成功率を高めることができます。

呼び接ぎの詳細な手順と接ぎ木直後の管理

キュウリの呼び接ぎは、以下の手順で進めていきます。まず、接ぎ木を行う日に、土壌の乾燥具合を確認し、乾燥しているようであれば、朝にたっぷりと水をやります。その後、穂木とするキュウリと、台木とするカボチャの苗を、根を傷つけないように丁寧に掘り上げます。次に、台木となるカボチャの苗の本葉と成長点は、完全に摘み取ります。この処理を怠ると、カボチャの生育が優勢となり、穂木のキュウリの生育を妨げる「台木勝ち」という状態になる可能性があるため、必ず行いましょう。穂木とするキュウリの苗の本葉は、そのまま残します。次に、清潔で切れ味の良い新しいカミソリを用意します。カミソリの切れ味が悪いと、切り口がつぶれてしまい、その後の癒着がうまくいかない原因となるため、必ず新しいものを使用しましょう。用意したカミソリで、台木となるカボチャの胚軸を斜め下方向に、穂木となるキュウリの胚軸を斜め上方向に切り込みを入れます。切り込みは、深く入れるほど切り口の接触面積が広くなり、癒着が促進され、生育も良くなる傾向があるため、思い切って深く切り込むのがポイントです。切り込みを入れたら、台木と穂木の切り口を丁寧に合わせ、ズレが生じないように、接ぎ木用のクリップなどでしっかりと固定します。クリップの締め付けが弱すぎると癒着せず、強すぎると茎を傷つけてしまうため、適切な力加減で固定することが重要です。
接ぎ木が完了した苗は、一つのポリポットにまとめて植え付けます。この際、台木となるカボチャがポットの中心に来るように配置し、根の周りに培養土を十分に充填します。植え付けが終わったら、葉が濡れるほどたっぷりと水をやります。この水やりは、苗が乾燥しないようにするために重要です。その後、初期の養生として、地温を28℃に保ち、湿度を維持するため、黒い寒冷紗やビニールシートなどで覆い、光を遮断します。この状態で1日程度置くことで、切り口の乾燥を防ぎ、初期の癒着を促進します。接ぎ木作業を行う際は、苗への負担を軽減し、活着率を高めるため、2日ほど曇りの日が続くような日の夕方に行うと、環境変化による負担が少なく、成功率が高まることが期待できます。翌朝には遮光用の覆いを取り除き、その後は通常の育苗と同様に管理します。この期間中、日中に苗が一時的にしおれてしまうことがありますが、徐々に癒着が進み、苗は元気を取り戻していきます。

接ぎ木後の順化と癒着の促進

接ぎ木作業が完了し、最初の遮光期間が終わった後は、順化と癒着を促進するための管理が重要になります。接ぎ木を施した苗は、順調にいけば2~3日後には切り口がくっつき始めます。この時期から、苗を徐々に外部環境に慣れさせる「順化」を開始します。具体的には、段階的に遮光を弱め、苗が光に慣れる時間を増やしていきます。同時に、換気を行い、密閉された空間で高まっていた湿度を徐々に下げていくことで、苗が自力で水分を吸収し、蒸散する能力を促します。この過程では、適度な水やりも継続し、根の成長と発根を促すことで、苗全体の活力を高めます。順化期間中は、苗に過度なストレスがかからないよう、天候や苗の状態を注意深く観察しながら、遮光の程度や換気の頻度を調整することが重要です。この丁寧な管理によって、切り口の癒着がより強固になり、苗は新しい根(カボチャの根)からの養分と水分供給に完全に移行するための準備が整います。

穂木の切り離しと定植までの管理

接ぎ木からおよそ1週間が経過し、接ぎ跡が完全に癒着したら、台木であるカボチャの頭部(葉)と、穂木であるキュウリの根を切り離す作業を行います。この作業によって、キュウリの苗は台木であるカボチャの丈夫な根系のみに依存して成長するようになります。切り離し作業の前日、つまり接ぎ木から6日後には、穂木となるキュウリの胚軸を指で軽く潰しておくことを推奨します。これは、翌日の軸切りに苗を慣らすための準備です。キュウリの胚軸は角ばっているので、触ることで容易に確認できます。そして、接ぎ木から7日後に、前日に潰しておいた部分をハサミなどで切り、穂木が完全にカボチャの根から養分と水分を吸収する状態にします。接ぎ木がうまくいっていない場合、軸切り後に苗が萎れてしまうことがあります。具体的な失敗例としては、台木カボチャの軸への切り込みが浅すぎると、キュウリがカボチャの根から効率よく養分と水分を吸収できなかったり、接ぎ木クリップの締め付けが緩いために傷口同士が十分に癒着しなかったりといったケースが考えられます。これらの失敗を避けるためには、事前の準備と正確な作業が非常に重要です。
根を切り離した後も、丁寧な養生が欠かせません。接ぎ木作業を行った日と同様に、たっぷりと水をやり、再び1日間の遮光を行います。その後1〜2日間は、日中に穂木が一時的にしおれることがありますが、完全に枯れてしまわないように、葉に霧吹きなどで水をかけると効果的です。苗の状態が安定し、自力で元気に成長できると判断できたら、キュウリの呼び接ぎ作業は完了です。軸切りから約7日後、10.5cmのポットで本葉が3枚程度展開した状態が、畑への定植に適した時期となります。この時期には、根がポリポット内で十分に成長しており、定植時に土が崩れることなく、スムーズに作業を進めることができます。こうして完成した接ぎ木苗は、つる割れ病などの病害に対する抵抗力を持つだけでなく、生育が旺盛で、長期にわたって安定した収穫が期待できる丈夫な苗となります。
キュウリ以外の果菜類、例えばナスやピーマンについても、接ぎ木の基本的な考え方はキュウリと同様です。ただし、ナスやピーマンの接ぎ木では「割り接ぎ」という方法が一般的であり、キュウリの呼び接ぎに比べて順化期間が10日ほどと長く、より細やかな日照管理や湿度管理が求められます。しかし、大掛かりな設備が必要というわけではなく、園芸用の簡易温室や家庭用の衣装ケースなどを活用して湿度を保つ工夫をすれば、十分に挑戦できます。キュウリの接ぎ木で成功したら、ぜひ他の作物への挑戦も検討してみてください。接ぎ木技術を習得することで、家庭菜園の幅が広がり、より豊かな収穫を楽しめるでしょう。

おわりに

本記事では、初心者や家庭菜園愛好家にも取り組みやすい「キュウリの呼び接ぎ」を中心に、野菜の接ぎ木の基本的な知識から具体的な手順、接ぎ木後の管理方法、定植のタイミングまでを詳しく解説しました。接ぎ木は、生育が旺盛で病害に強い台木の特性と、品質の良い果実を実らせる穂木の特性を組み合わせることで、病気に強く、収量の安定した苗を育成する優れた技術です。特にキュウリの呼び接ぎは、接ぎ木直後の「順化」と呼ばれるデリケートな管理期間が比較的短く、穂木と台木の根が癒着するまで維持されるため、苗への負担が少なく、成功率が高いというメリットがあります。筆者の経験からも、今回紹介したポイントをしっかり押さえれば、手先の器用さに自信がない方でも、高い確率で成功させることができます。
接ぎ木を行う際は、台木と穂木の相性を考慮する必要があります。例えば、トマトの接ぎ木では、台木と穂木のトマトモザイクウイルス(TMV)に対する抵抗性の遺伝子型を揃える必要があるなど、作物によっては専門的な知識が求められる場合があります。「どの台木でも合う」というわけではなく、栽培する品種(穂木)によって最適な台木を選ぶことが重要です。しかし、キュウリの場合は、市販されている多くの台木と穂木の組み合わせで比較的うまくいきやすく、生育が強くなりすぎるということもほとんどありません。今回紹介した詳細な手順や、台木種子の選び方、種まきの時期の調整、種まき数日前の土壌・資材消毒などの実践的な情報を活用し、自宅や畑で自家製の接ぎ木苗作りに挑戦してみてください。初めての接ぎ木で成功体験を得ることは、農業や園芸への興味を深め、技術向上につながるはずです。

ナスやピーマンなどの他の果菜類では、「割り接ぎ」などの異なる方法や、より細やかな管理が必要となる場合もありますが、簡易温室や身近な道具を工夫して使うことで、挑戦の幅を広げることが可能です。養生には手間がかかりますが、それに見合うだけの確かな効果が得られるのが接ぎ木の魅力です。接ぎ木を通じて、より健全で豊かな野菜栽培を楽しみましょう。本記事が、読者の皆様の接ぎ木挑戦の第一歩となり、成功への手助けとなれば幸いです。
参考文献:
高橋英生. 1998. “接ぎ木苗と自根苗,直まきでの生育の違い.” In 『農業技術大系』野菜編第1巻追録第23号 基85-基90.
橘 治. 2012. “ブルームキュウリの再評価.” 『農業技術大系』野菜編第1巻追録第57号 基17-基24.
吉本正人. 2000. “キュウリの苗立枯病の生態と防除.” 『農業技術大系』野菜編第1巻追録第38号 基115-基120.
(博士(農学)専門は栽培学、植物生理学。種苗会社、農業資材・ハウス販売会社、大学で勤務経験あり)

なぜ野菜の接ぎ木は重要なのでしょうか?

野菜の接ぎ木は、主に二つの重要な目的があります。一つは、台木が持つ病害抵抗性を利用し、病気が発生しやすい土壌でも栽培を可能にしたり、病気による被害を軽減したりすることです。例えば、ナス栽培における青枯病対策がその代表例と言えるでしょう。もう一つは、台木の持つ強い生育力を活用して、穂木の生育を促進し、収穫量や品質の向上、栽培期間の延長を目指すことです。特に早期栽培などでは、安定した収量を確保するために、生育力の強い接ぎ木苗が非常に役立ちます。この記事で取り上げているキュウリの接ぎ木では、カボチャを台木として利用することで、つる割れ病や疫病などの病気を回避したり、養分吸収力を高めて長期栽培での生育を維持したり、低温環境下でも生育しやすい性質を利用して早期栽培での収量アップを図ったり、ブルームレス台木を使って表面に白い粉が発生するのを防ぐといったメリットが期待できます。

接ぎ木は初心者でもできますか?

はい、初心者の方にはキュウリの「呼び接ぎ」が特におすすめです。呼び接ぎは、接ぎ木後の苗が環境に慣れるまでの期間が短く、穂木と台木の双方の根がしっかりと結合するまでそれぞれの根を残しておくため、苗への負担が少なく、成功しやすい方法です。作業の手順も比較的簡単で、この記事で解説している手順に沿って行えば、初心者の方でも十分に成功させることができます。約1か月程度で接ぎ木苗を作ることができます。

台木の種はどこで手に入りますか?

台木専用の種は、主に種苗会社のカタログやウェブサイト、またはお近くの種苗店で購入できます。多くの種苗会社では、業務用として大量の種子(1000粒単位など)を販売していることが多いですが、家庭菜園で少量だけ必要な場合は、近くの種苗店に相談してみると、小分けにして販売してくれるかもしれません。購入する際には、育てたい穂木の品種との相性を店員さんに確認することをおすすめします。

台木と穂木の種まきのタイミングは同じで良いですか?

いいえ、台木と穂木の種まき時期は異なります。接ぎ木を成功させるためには、接ぎ木を行う時点で台木の茎が穂木よりも太く、丈夫に育っていることが望ましい状態です。そのため、一般的には台木の種を穂木よりも数日から2週間程度早くまきます。特にキュウリの呼び接ぎにおいては、台木となるカボチャの種まき時期は、穂木となるキュウリの種まきと同日、もしくは1~2日程度早くまく程度で十分でしょう。ただし、正確な種まきのタイミングは、品種や品目によって異なるため、購入した種子の袋やカタログに記載されている情報を必ず確認し、苗を植え付ける時期から逆算して、計画的に種まきを行いましょう。

接ぎ木後の「順化」における管理の重要性

接ぎ木を行った苗にとって、「順化」とは、手術痕のような状態から回復し、新たな環境に順応して再び成長を始めるために不可欠な期間です。この期間中は、苗への負担を最小限に抑えるため、光を遮断した湿度が高い密閉空間で管理し、接合部分の癒合を促進します。その後、徐々に光の量を増やし、外気に触れさせることで、苗が自らの力で水分を吸収し、光合成を行えるように段階的に慣らしていきます。キュウリの呼び接ぎにおいては、接ぎ木直後の密閉と遮光、適切な水分供給、そして穂木の根を切り離した後の完全遮光が順化管理の主な内容です。さらに、種をまく数日前には、育苗箱やポリポット、培養土を太陽熱や適切な薬剤で消毒し、苗の立ち枯れを引き起こす可能性のある病原菌(ピシウム菌やリゾクトニア菌など)を事前に除去しておくことが、健康な苗を育成するための重要な準備となります。
きゅうり接ぎ木