キャッサバ芋:世界の食を支える驚異の根菜

キャッサバ芋は、その驚くべき生命力で世界の食糧を支える、まさに「驚異の根菜」です。別名マニオク、マンジョカとも呼ばれ、中南米原産でありながら、現在ではアジアやアフリカの熱帯地域で主要な主食として広く栽培されています。痩せた土地でも育ち、高い生産性を誇るキャッサバ芋は、約10億人もの人々の食を支える重要な資源。この記事では、キャッサバ芋の魅力と、その秘められた可能性に迫ります。

キャッサバの基礎知識と概要

キャッサバ(学名:Manihot esculenta)は、トウダイグサ科に属する熱帯性の低木植物で、マニオク、マンジョカ、カサーバ、ユカなど、世界中で様々な名前で親しまれています。原産地はブラジルからパラグアイにかけての中南米地域、具体的にはブラジル北西部やメキシコ西部などが挙げられ、現在ではアジアやアフリカを含む広範な熱帯地域で、重要な食料源として栽培されています。「キャッサバ芋」とも呼ばれるように、根にできる塊根(イモ)は、ジャガイモやサツマイモと並び、「世界三大いも類」の一つとして知られています。ジャガイモやサツマイモが多年草であるのに対し、キャッサバは低木である点が異なりますが、その有用性は世界中で高く評価されています。塊根は、蒸したり、茹でたり、揚げたり、粉末にして炒めたりと、多様な調理法で利用され、世界中で約10億人分の食料およびエネルギー源を供給していると推定されています。生産規模は、トウモロコシ、イネ、コムギに次ぐ重要な資源とされており、特にアフリカでは、人々の生活に不可欠な主要な主食として広く栽培されています。さらに、塊根から抽出されるデンプンはタピオカの原料として、葉は家畜の飼料として利用されるなど、食用以外の用途も非常に多岐にわたります。

キャッサバの植物としての特徴は、直立する茎と、3〜7枚の小葉から構成される葉にあります。茎の根元には、緩やかな同心円状に複数の塊根(イモ)が形成され、その形状は両端が細長いものが多いです。栽培は非常に容易で、切断した茎を土に挿すだけで発根し、そのまま成長させることができます。通常、約1年で高さ2〜3mまで成長し、地下には1株あたり約20kgものイモが収穫できます。作付面積あたりの生産量は、他の穀物やイモ類と比較して多く、高い生産効率が特徴です。しかし、食用とするためには必須の毒抜き処理が必要であり、毒抜きのために皮や芯を取り除いたイモは、速やかに加工しないと腐敗してしまうなど、利用上の制約も存在します。

このような特性を持つキャッサバは、乾燥地、酸性土壌、栄養の乏しい土壌など、従来の農地としては適さない環境でも生育が可能です。そのため、他の作物が育たない過酷な環境下でも成長し、世界の食糧問題や環境問題の解決に貢献することが期待されています。食用以外の用途も広く、葉を発酵させて毒抜きすることで家畜の飼料として利用されるほか、発酵によるバイオマスエタノール製造の原料としても注目されています。さらに、熱帯都市では緑地帯の植栽に利用されたり、観葉植物としても人気があり、観賞価値の高い斑入りの葉を持つ品種も存在します。

キャッサバの栄養成分

キャッサバの塊根には、炭水化物をはじめ、ビタミンC、ビタミンB6、葉酸、カルシウム、マグネシウム、カリウムなど、様々な栄養素が含まれています。特に炭水化物が豊富であるため、エネルギー源として非常に重要であり、世界中で多くの人々の食生活を支えています。他の芋類と同様に、キャッサバには豊富な食物繊維が含まれており、腸内環境の改善にも役立つと考えられています。また、キャッサバに含まれるビタミンCは、一般的な野菜のビタミンCが加熱によって失われやすいのに対し、加熱後も壊れにくい性質を持っており、調理後も効率的に摂取できるという利点があります。これらの栄養価の高さが、キャッサバが世界中で重要な主食作物として位置づけられている理由の一つです。

Image

キャッサバの種類と特性

キャッサバは、その特性によって大きく「苦味種」と「甘味種」の2つの種類に分けられます。苦味種は、皮にシアン化合物の一種であるリナマリンとロタウストラリンを多く含むことが特徴です。これらの成分は摂取すると有害ですが、苦味種はより大きな塊根を形成するため、主にデンプン源作物やアルコール製造などの加工用として栽培されます。食用にするには、入念な毒抜きが不可欠ですが、天日干しや加熱乾燥、発酵、すりおろし、脱水などの方法で毒素を取り除き、調理することが可能です。一方、甘味種は毒性成分の含有量が比較的少なく、毒抜き処理を施して蒸したり茹でたりすることで、安全に食用として利用できます。甘味種の味と食感は、甘さ控えめのサツマイモに似ていると評されることが多いです。このように、種類によって毒性の有無や塊根のサイズ、推奨される利用方法が異なり、各地域の食文化や加工技術に合わせて使い分けられています。両方の種類とも毒性を持つため、調理の際には適切な処理が不可欠です。

キャッサバの生産状況

国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、2019年の世界のキャッサバ生産量は3億356万トンに達し、主食となるイモ類の中ではジャガイモに次いで2位の生産量を誇っています。これは、3位のサツマイモを大きく上回る規模です。2013年の世界の生産量も2億7676万トンであり、地域別に見ると、アフリカが全体の半分以上、アジアが4分の1強を占め、残りのほとんどが南アメリカで生産されています。主な生産上位10カ国の気候は、ケッペンの気候区分でいう熱帯サバナ気候が中心で、インドネシアのみが熱帯雨林気候に属しています。また、アンゴラのように国全体が熱帯気候であっても、南部の温暖湿潤気候地域ではキャッサバの栽培はあまり一般的ではありません。

日本におけるキャッサバの生産量は非常に少ないですが、鹿児島県や沖縄県などの温暖な地域で、小規模ながら栽培されています。さらに、ブラジルや東南アジア出身者が多い群馬県西部や邑楽町などでは、地域住民の食文化を支える作物として栽培される例も見られます。近年、日本では、特に夏にタピオカ入りドリンクが人気となり、台湾やタイなどの主要生産国からタピオカが大量に輸入される現象が起こりました。これは、キャッサバの経済的価値と、グローバルな食文化への影響を示す具体的な例と言えるでしょう。

毒抜き

キャッサバを安全に食するためには、適切な毒抜きが不可欠です。特に有毒な品種には、シアン配糖体という有害物質が含まれており、不十分な処理は健康被害につながる可能性があります。嘔吐、頭痛、めまいといった症状を引き起こし、重症化すれば命に関わることもあります。一般的に食される甘味種であっても、毒の含有量は少ないだけで、生食は避けるべきです。毒抜きにはいくつかの方法があり、毒性の低い甘味種に限られるものの、生で食べる方法があります。アフリカの熱帯地域では、芋を加熱後に細かく切り、水にさらして毒性を除く方法が一般的です。南米では、生の芋をすり潰して一晩置き、絞って毒を抜きます。工業的な方法や伝統的な方法として広く用いられているのは、好気性または嫌気性発酵による除毒です。家庭でもできる簡単な毒抜き方法として、以下の手順が推奨されます。

まず、キャッサバの皮に毒が多く含まれているため、丁寧に剥きましょう。5cmほどの長さにカットし、皮に5mm程度の切れ込みを入れて剥がすと簡単です。次に、中心部の芯を取り除きます。芯は変色しているため、容易に見分けられます。縦にカットして芯が見えるようにし、切れ込みを入れて取り除きます。芯の除去は、生のままでも、加熱して柔らかくしてからでも構いません。キャッサバに含まれるシアン配糖体は、水に浸したり加熱したりすることで減少するため、調理前に必ず行いましょう。たっぷりの水に浸し、時々水を交換します。その後、十分に水を張った鍋で茹でてください。これらの下処理を経て、キャッサバは安全に食べられる状態になります。茹でたキャッサバは冷凍保存も可能なので、多めに処理しても安心です。これらの毒抜き工程は、キャッサバを安全に食卓へ届けるための、先人たちの知恵と工夫の結晶と言えるでしょう。

調理法と味

キャッサバの産地では、毒抜き処理された甘味種は、ジャガイモやサツマイモのように日常的な食材として利用されています。キャッサバはイモ類特有のホクホクとした食感と、控えめな甘みが特徴で、サツマイモに似た味わいです。味が主張しすぎないため、茹でる、揚げる、焼くなど、様々な調理法に適しています。一般的な調理法としては、蒸す、茹でる、揚げるといった方法があります。薄切りにして揚げたキャッサバチップスは、手軽なスナックとして人気です。アフリカの多くの地域では、加熱したキャッサバを潰して「フーフー」や「ウガリ」と呼ばれる、練り物状の主食として食べられています。コンゴ川下流域では、ペースト状にしたキャッサバを発酵させ、「シクワング」というバナナの葉で包んだ食品が作られています。ブラジルでは、キャッサバの粉を炒めた「ファリーニャ」(製粉の意味)が、香ばしさを活かして様々な料理にふりかけられます。また、キャッサバの粉を焼いて、細かく刻んだベーコンと炒めた「ファロファ」は、肉料理の付け合わせとして親しまれています。キャッサバ粉を使ったパンも広く普及しており、ブラジルの「ポンデケージョ」、ベネズエラやコロンビアの「アレパ」、カリブ海の「キャッサバブレッド」などが、日常的な食品として定着しています。根茎から作られるデンプンは「タピオカ」として知られ、球状に加工された「タピオカパール」は、デザートやドリンクの材料として世界中で愛されています。

キャッサバのおすすめレシピ:フライドポテト

キャッサバのあっさりとした甘みは、揚げ物にすることで引き立ちます。外はカリカリ、中はホクホクとした食感が楽しめます。下処理済みのキャッサバを好みの大きさにカットし、170℃の油で揚げます。塩だけでなく、ガーリックパウダーや粉チーズなど、様々な調味料で味付けを変えるのもおすすめです。

キャッサバのおすすめレシピ:バター焼き

キャッサバ本来の美味しさをシンプルに味わうなら、バター焼きが最適です。フライパンにバターを溶かし、2cm厚さに切った茹でキャッサバを焼きます。表面に焼き色がついたら、塩や醤油などお好みの調味料で味付けをして完成です。ホクホクのキャッサバとバターの風味が絶妙にマッチした一品です。

キャッサバを使ったおすすめレシピ:キャッサバ餅

ベトナムには、茹でて潰したキャッサバに砂糖と茹でた緑豆を混ぜて丸め、平らにして表面を炙ったお菓子があります。家庭では、炭火を使わずにフライパンで焼けば手軽に作れます。もっちりとした食感と優しい甘さが特徴のキャッサバ餅は、ちょっと小腹が空いた時に最適です。砂糖の量を調整したり、バナナやレーズンなど、お好みの具材を混ぜ込むことで、自分だけのオリジナルキャッサバ餅を楽しめるでしょう。

工業的な活用

キャッサバのデンプンを主成分とするタピオカデンプン等の加工品の取引量は、世界中で増加傾向にあり、生産農家にとって大切な収入源となっています。特に東南アジア、中でもタイが主要な生産国であり、ここで収穫されたキャッサバは、まず乾燥させて「キャッサバチップ」へと加工されます。このキャッサバチップは、その後中国などの国に輸出されます。中国では、このキャッサバチップを発酵させて「酢酸」を製造します。さらに、この酢酸を原料に、氷酢酸とエタノールを化合させることで「酢酸エチル」が大量に生産されています。その生産量は年間およそ80万MTにも達します。中国で作られた酢酸エチルは、年間約30万MTが海外へ輸出されており、有機化学の分野において、外貨獲得の重要な手段となっています。このように、キャッサバは食料としてだけでなく、工業原料としても重要な役割を果たしています。

葉っぱの活用法

キャッサバの葉も食用として広く利用されています。特にサハラ砂漠以南のアフリカ地域では、茹でたキャッサバの葉がよく食べられており、魚や肉と一緒にシチューとして煮込まれることが多いです。この料理は、地域によってさまざまな名前と調理法があります。例えば、コンゴ民主共和国では「サカサカ」、中央アフリカやカメルーンでは「プンドゥー」、ルワンダでは「ラビトゥトゥ」、モザンビークでは「マタパ」、マダガスカルでは「エトジェイ」と呼ばれており、それぞれ独自の風味で親しまれています。これらの料理は、その土地の食文化にとって大切な栄養源であり、地域の食の知恵が詰まっています。

キャッサバとタピオカのつながり

独特のもちもちとした食感が魅力で、日本でも一時ブームになったタピオカですが、その原料がキャッサバだと知っている人は少ないかもしれません。実は、タピオカはキャッサバの根から作られるデンプンが原料なのです。ここでは、その深い関係性と、関連製品について詳しく解説します。

キャッサバはタピオカの源

タピオカの主原料となるキャッサバは、主に甘味種が用いられます。キャッサバの根茎から採取されるデンプンが、一般的に「タピオカ」として知られています。このデンプンを水に溶かし、加熱しながら攪拌することで、あの特徴的な球状になります。さらに乾燥させることで「タピオカパール」となり、これを約2時間茹でると、誰もが知るもちもちとした食感のタピオカとして味わうことができます。このようにキャッサバは、タピオカドリンクや様々なデザートに欠かせない素材であり、独自の加工技術によって多様な食品へと変化を遂げます。

なぜキャッサバがタピオカと呼ばれるのか?

日本では「タピオカ」という名前が広く浸透していますが、キャッサバ由来のデンプンがなぜその名で呼ばれるようになったのでしょうか。その起源は、ブラジルの先住民族であるトゥピ族の言語にあります。トゥピ族は、キャッサバからデンプンを生成する方法を「タピオカ」と呼んでいました。この製法名が、デンプン自体、そしてそこから作られる食品の名称として世界中に広まりました。その結果、キャッサバデンプンをベースとする食品が「タピオカ」という名前で広く認識されるようになったのです。

キャッサバ粉とタピオカ粉の違いとは?

キャッサバから製造される「キャッサバ粉」と「タピオカ粉」は、どちらも同じ原料を使用していますが、その性質は大きく異なります。キャッサバ粉は、キャッサバの根茎を乾燥させて微粉末にしたものです。そのため、キャッサバ本来の食物繊維が豊富で、独特の風味を持っています。一方、タピオカ粉は、キャッサバの根茎からデンプンだけを抽出し、精製して粉末状にしたものです。デンプンを主体とするため、水と混ぜて加熱すると、独特のもちもちとした弾力のある食感が生まれるのが特徴です。

用途にも違いが見られます。キャッサバ粉は、その風味と豊富な食物繊維を活かし、トルティーヤ、パン、クッキーなどの材料として適しており、中南米やアフリカでは主食としても広く利用されています。対照的に、タピオカ粉は、もちもちとした食感とほぼ無味無臭という特性から、タピオカドリンクのパール、ポンデケージョなどのパン、中華菓子の材料、または片栗粉の代替品として、主に食感や風味を重視するお菓子作りや料理のとろみ付けに使用されます。このように、同じキャッサバを原料としていても、加工方法によって特性が大きく異なるため、料理の目的に応じて適切に使い分けることが重要です。

キャッサバの育て方

キャッサバは主に熱帯地域で栽培される作物ですが、その栽培は比較的容易であり、厳しい環境にも順応する生命力を持っています。日本のような温暖な地域でも栽培は不可能ではありませんが、留意すべき点もいくつか存在します。一般的に生のキャッサバは市場に出回ることが少ないため、自分で栽培してみたいと考える方もいるかもしれません。ここでは、キャッサバの具体的な栽培方法について詳しく解説していきます。

日本での栽培と収穫時期

キャッサバは、熱帯や亜熱帯地域では一年を通して収穫できますが、日本で栽培する場合は、その気候への適応を考慮する必要があります。比較的温暖な九州や沖縄では、冬を越せることもありますが、多くの地域では寒さが厳しくなる前に収穫を終えるのが一般的です。目安としては、3月から5月に植え付けを行い、およそ6ヶ月後の10月から11月頃に収穫時期を迎えます。葉の色が黄色くなり、植物の成長が鈍化した頃が、収穫に適したサインです。根を傷つけないよう、シャベルやスコップなどを使い、丁寧に芋を掘り起こしましょう。収穫後のキャッサバの木は、適切に管理することで再利用が可能です。根が付いた状態で大きめの鉢に植え替え、室内や温室で保管すれば、翌年も栽培に利用できます。

栽培の特性と注意点

キャッサバは種子ではなく、主に苗木から育てます。挿し木で容易に増やせるため、栽培の難易度は比較的低いと言えるでしょう。また、痩せた土地でも育ちやすい性質があり、他の作物が育たないような厳しい環境でも成長するため、土壌を選ばないというメリットがあります。ただし、キャッサバの生育には、年平均気温20℃以上、無霜期間が9ヶ月以上必要とされ、高温や乾燥には強い反面、寒さには弱いという特徴があります。そのため、寒冷地での栽培では、日照時間や気温に注意が必要です。さらに、キャッサバは低木であり、成長すると高さが1.5mから3mにもなります。地下部分も広がるため、栽培には十分なスペースを確保しなければなりません。したがって、プランターでの栽培は難しく、庭や畑での栽培が適しています。十分なスペースと温暖な環境を準備できれば、比較的容易に栽培を楽しめるでしょう。

Image

キャッサバの旬な時期

キャッサバは、原産地の熱帯地域では一年中収穫できます。しかし、日本では気候条件が異なるため、収穫できる時期は限られています。日本におけるキャッサバの旬は、一般的に10月から11月頃です。この時期に、比較的温暖な鹿児島県や沖縄県などで、小規模ながら収穫が行われています。

生のキャッサバには、シアン化合物という有毒成分が含まれているため、植物防疫上の理由から、生の芋が日本に輸入されることは原則としてありません。したがって、生のキャッサバを入手したい場合は、国産キャッサバが旬を迎える10月から11月頃に探す必要があります。それ以外の時期や地域では、生のキャッサバを入手するのは非常に困難です。しかし、冷凍キャッサバや、デンプンを加工したキャッサバ粉、タピオカ粉などの加工品であれば、一年を通して手に入れることができます。

キャッサバはどこで買える?

日本では、生のキャッサバの芋は、一般的なスーパーマーケットではほとんど見かけません。これは、生のキャッサバに含まれる有毒成分のため、植物検疫による輸入制限が厳しいためです。そのため、生のキャッサバを入手するには、国内で少量栽培されているものを探すしかありません。現実的な方法としては、まずインターネット通販があります。オンラインストアでは、国産の生のキャッサバが旬の時期(10月~11月頃)に限定的に販売されることがあります。また、ブラジル、東南アジア、アフリカなど、キャッサバを日常的に食べる文化を持つ人が多く住む地域(群馬県西部や邑楽町など)にある、外国人向けの食料品店や専門市場では、生のキャッサバが手に入りやすい場合があります。これらの店舗では、輸入された冷凍キャッサバや、キャッサバ粉、タピオカ粉などの加工品が一年中販売されていることが多いです。生のキャッサバにこだわる場合は旬の時期に国産品を探す必要がありますが、加工品であればいつでも手軽に購入でき、キャッサバの風味や食感を楽しめます。

キャッサバの栽培史と伝播

キャッサバの祖先とされる「flabellifolia亜種」は、ブラジル中央西部が原産地であり、この地域では少なくとも1万年前から栽培されていたと考えられています。ただし、キャッサバ種全体の起源は、ブラジル南部とパラグアイ周辺とする説もあります。ペルーのパチャンカヤ洞窟から発見されたキャッサバの根の化石は、6600年前には既にその地でキャッサバが利用されていたことを示唆しています。さらに、メキシコのクエルナバカにある1400年前の遺跡からは、キャッサバ栽培の最も古い直接的な証拠が見つかっています。

食料としての有用性から、キャッサバはクリストファー・コロンブスによるアメリカ大陸の植民地化以前の15世紀末までには、南アメリカ北部、中央アメリカ南部、カリブ海の島々で人々の主食となっていました。これらの地域では、コロンブス以前の土器など、様々な工芸品のモチーフとしてキャッサバが用いられるほど、人々の生活に深く浸透していました。スペインとポルトガルによる植民地化以降も、これらの地域ではキャッサバの栽培が継続され、先住民の食文化を支え続けました。

17世紀に入り、大西洋奴隷貿易が活発化すると、アフリカから新大陸への数ヶ月に及ぶ輸送期間中、奴隷に供給する食料の確保が重要な課題となりました。ブラジルを支配していたポルトガル人は、栽培が容易で様々な環境に適応できるキャッサバを奴隷貿易用の食料として選びました。この決定が、キャッサバがアフリカをはじめ全世界に広がるきっかけとなりました。

ブラジルでは、キャッサバはポルトガル人が持ち込んだ米や、植民地化以前から栽培されていたトウモロコシとともに、現在も主食として重要な位置を占めています。ブラジル以外の南米諸国では「ユカ」と呼ばれ、特にアンデス地域を中心に重要な食材となっています。一方、アフリカでは、ポルトガル人によって伝えられた後、急速に栽培が広まりました。最初にキャッサバを受け入れたのはコンゴ川下流域のコンゴ王国付近であり、16世紀後半には既に盛んに栽培されていました。17世紀後半頃には、アフリカ独自の調理法も開発されたと考えられています。コンゴ王国よりも内陸の地域でもキャッサバは広く受け入れられ、19世紀後半にはコンゴ川流域の広範囲に栽培が広がりました。東アフリカへの伝播はやや遅れ、19世紀になって南アメリカの調理法と共に導入されました。キャッサバがアフリカで広く受け入れられた要因としては、高い生産性、多様な環境への適応力、そして貯蔵性が挙げられます。

アジアへは、17世紀にスペイン人によってフィリピンに、その後18世紀にはオランダ人によってインドネシアに導入され、本格的な栽培が始まりました。18世紀末には、インドからタイ、そしてマレーシアへと栽培地域が拡大し、現在ではアジアもキャッサバの主要な生産地となっています。

キャッサバの病害と研究

キャッサバの栽培は、いくつかの深刻な病害によって脅かされており、それが世界の食料安全保障上の懸念事項となっています。特に2000年代以降のアフリカでは、「キャッサバ褐条病(Cassava Brown Streak Disease: CBSD)」が発生しており、この病気が急速に拡大した場合、収穫量が激減し、深刻な飢饉が発生する可能性が指摘されています。そのため、病気に抵抗力を持つキャッサバ品種の開発に向けた国際的な取り組みが進められています。また、2015年には、これまでアフリカとインド周辺でのみ確認されていた「キャッサバモザイク病(Cassava Mosaic Disease: CMD)」がカンボジアで初めて確認され、アジア地域全体への病気の拡散が懸念されています。これらの病害はキャッサバの生産に壊滅的な影響を与える可能性があり、その対策が急務となっています。

このような状況の中、キャッサバに関する遺伝子レベルでの研究も盛んに行われています。理化学研究所の櫻井氏らの研究チームは、キャッサバを用いた実験を通じて、10621種類もの新しいcDNA(相補的DNA)を発見しました。これらのcDNAは、これまでキャッサバでは知られていなかったもので、植物が環境ストレス(例えば干ばつや病原体の攻撃など)にさらされた際に発現するものと考えられています。このような研究は、キャッサバの病害抵抗性や環境ストレス耐性を高めるための遺伝子改良につながり、将来的な食料問題の解決に貢献することが期待されています。

まとめ

日本ではまだ一般的には知られておらず、流通量も少ないですが、キャッサバは熱帯地域を中心に世界中で約10億人の食料を支える重要な作物であり、「世界三大芋類」の一つとして数えられます。タピオカの原料としても広く知られる塊根は、炭水化物、ビタミンC、食物繊維などが豊富で栄養価が高く、様々な調理法で親しまれています。生のキャッサバには有毒成分が含まれていますが、適切な毒抜き処理(皮と芯の除去、水にさらす、加熱など)を行うことで、フライドポテトやバター焼き、もちもちとしたキャッサバ餅など、家庭でも様々な料理として安全に楽しむことができます。味は甘味の少ないサツマイモに似ており、料理のバリエーションを豊かにします。また、キャッサバから作られるタピオカ粉とキャッサバ粉は、デンプン含有量と食物繊維の有無によって異なり、それぞれに適した料理があります。

ブラジルを起源とし、奴隷貿易を通じてアフリカやアジアへと伝わり、各地で独自の食文化を育んできました。日本での栽培は旬が10月から11月に限られ、寒さに弱く広い栽培スペースが必要ですが、挿し木で簡単に増やせ、痩せた土地でも育つという特徴があります。生のキャッサバは輸入規制があるため国内での流通は少ないですが、冷凍品や加工粉は年間を通して購入できます。しかし、キャッサバ褐条病やキャッサバモザイク病といった病害の脅威に直面しており、抵抗性品種の開発などの研究が進められています。キャッサバは、その多岐にわたる利用価値と生命力によって、今後も世界の食と環境の未来を支える可能性を秘めた作物と言えるでしょう。

キャッサバとはどのような植物ですか?

キャッサバは、南米ブラジルが原産の熱帯地域に生育する低木です。根にできる塊根(芋)は、世界中で食料として重宝されており、ジャガイモ、サツマイモと並び「世界三大いも類」と称されます。世界人口の約10億人を支える重要な食料であり、あのタピオカの原料としても有名です。乾燥した土地や栄養分の少ない土壌でも育つ生命力の強い植物で、「マニオク」や「マンジョカ」、「ユカ」といった異名も持っています。

キャッサバに毒性はありますか?安全に食べるには?

キャッサバには、青酸配糖体という有害な物質が含まれる品種が存在します。含有量の多い「苦味種」と、比較的少ない「甘味種」に分けられ、特に苦味種は、食べる前に適切な毒抜き処理が必須です。一般的な毒抜き方法としては、まず外皮と中心部分を取り除き、その後、たっぷりの水に浸して何度か水を交換し、さらに十分な量の水で茹でます。その他、伝統的な方法や工業的な手法として、好気性発酵や嫌気性発酵、生の芋をすりおろして水分を絞るなどの様々な方法が存在します。

キャッサバは日本でも育てられていますか?

日本国内でのキャッサバ栽培は、まだ一般的ではありませんが、鹿児島県や沖縄県といった温暖な地域で栽培されています。また、ブラジルや東南アジアからの移住者が多い群馬県などでは、故郷の味を求めて小規模に栽培されているケースも見られます。日本での収穫時期は、おおよそ10月から11月頃が目安となります。

キャッサバは主にどのように利用されていますか?

キャッサバの主な用途は、根の塊茎を蒸したり、茹でたり、揚げたり、粉末にしてパンや料理に使用するなど、食料としての利用です。中でもデンプンは、タピオカの主要な原料となります。食料以外にも、葉を家畜の飼料としたり、バイオマスエタノールの原料として活用されるほか、観葉植物として親しまれることもあります。家庭では、塊根を使ってフライドポテトやバター焼き、キャッサバ餅など、様々な料理が楽しまれています。

キャッサバとタピオカ粉、キャッサバ粉の違いとは?

キャッサバ粉は、キャッサバの根を乾燥させ、それを粉末状にしたものです。食物繊維が豊富に含まれているのが特徴です。対照的に、タピオカ粉は、キャッサバの根からデンプン質だけを取り出して精製したもので、加熱すると独特のもちもちとした食感が生まれます。キャッサバ粉は、トルティーヤのような料理に使われることが多く、タピオカ粉は、タピオカドリンクのパールや、お菓子作りに適しています。

キャッサバはどこで購入できますか?

生のキャッサバには有害な成分が含まれているため、原則として日本への輸入は許可されていません。したがって、一般のスーパーマーケットで見かけることはほとんどありません。もし生のキャッサバを入手したい場合は、国産キャッサバが収穫される10月から11月頃に、オンラインショップや一部の専門的な食材店を探してみるのが良いでしょう。冷凍キャッサバや、キャッサバ粉、タピオカ粉といった加工品であれば、年間を通して購入可能です。

キャッサバ