ニンジンとは?知っておきたい基礎知識と魅力
鮮やかなオレンジ色が食卓を彩るニンジン。その甘みとシャキシャキとした食感は、サラダや煮込み料理など、様々な料理に活用されています。実は、ニンジンはアフガニスタン原産のセリ科の植物で、世界中で栽培されている身近な野菜です。この記事では、ニンジンの基礎知識から栄養、調理方法まで、知っておきたい情報をぎゅっと凝縮。ニンジンの魅力を再発見してみませんか?

ニンジンとは?基本的な概要と定義

ニンジン(学名:Daucus carota subsp. sativus)は、セリ科に属する一年生または二年生の植物であり、広義には野生のノラニンジン(Daucus carota)も含まれます。その起源はアフガニスタン周辺とされ、現在では世界中の畑で広く栽培されています。食用とされるのは主に肥大した根の部分で、独特の風味と鮮やかな色彩が特徴であり、世界中の様々な料理に利用されています。

ニンジンの名前と語源

ニンジンは、地域や状況によって異なる呼び名を持っています。例えば、和名では「セリニンジン」とも呼ばれます。属名の「Daucus」は、ギリシャ語の「daio」(燃える)から派生しており、これはニンジンの持つ刺激的な風味や鮮やかな色合いを連想させます。種小名の「carota」は、ラテン語で「ニンジン」を意味し、英語の「carrot」もこの言葉に由来しています。これらの名称は、古くからニンジンが持つ特徴や重要性を示唆しています。
一方、日本語の「人参」は、本来はウコギ科の植物であるオタネニンジン(朝鮮人参)を指す言葉でした。そのため、一般的に食用とされるニンジンは、かつては「胡蘿蔔(こらふ)」という外来の野菜として認識されていました。現代の中国でも「胡蘿蔔」と表記され、「胡」は「外来の」または「西方から来た」という意味を持ち、「蘿蔔」はダイコンの別名です。これは、ニンジンがダイコンのように根を食用とする、外国から来た植物であることを示しています。

ニンジンの特徴と形状

ニンジンは、大きく分けて東洋系と西洋系に分類され、それぞれ異なる特徴と栽培の歴史を持っています。両系統とも、古くから薬用や食用として世界中で栽培されてきました。ニンジンは特有の香りを持っていますが、加熱することで甘味が増し、より美味しく食べられます。独特の苦味は、イソクマリン類によるものとされています。
食用とされる根は、一般的に細長い円錐形で、長さは15〜20センチメートル程度ですが、品種改良によって様々なサイズが存在します。短いものでは4センチメートル程度、長いものでは1メートルを超える品種もあります。根の色も多様で、一般的なオレンジ色の他に、赤色、黄色、紫色、白色などがあります。これらの色の違いは、含まれる色素によるもので、オレンジ色や黄色は主にカロテン類、濃紫色や紅紫色の品種(黒ニンジンなど)はアントシアニンを含んでいます。ニンジンは春から秋にかけて、大きな複散形花序を形成し、多数の小さな白い5弁花を咲かせます。果実は細長い楕円形で、表面には多くのトゲがあります。ちなみに、薬草として知られる朝鮮人参や高麗人参は、ウコギ科に属しており、ニンジンとは全く異なる植物です。

ニンジンの歴史と世界への広がり

ニンジンの原産地はアフガニスタン周辺であり、そこから東西に分かれて世界各地に伝わったと考えられています。西洋系ニンジンは、アフガニスタンから西に広がり、15世紀頃にはヨーロッパ全域に到達しました。その後、スペインやポルトガルを経てアメリカ大陸に伝わり、各地で品種改良が進められました。一方、東洋系ニンジンは、10世紀頃には中国に伝わっていたとされ、中央アジアを経由してアジア地域に広がりました。
日本には、16世紀から17世紀頃に中国から東洋系ニンジンが伝来し、比較的短い期間で全国に広まりました。江戸時代の農書には「菜園に欠かせない」と記されるほど、当時の日本の食文化に深く根付いていたことがわかります。江戸時代後期には西洋系ニンジンも伝わり始め、明治時代に入ると欧米品種が積極的に導入されました。その結果、東洋系ニンジンの栽培は減少し、第二次世界大戦後には、栽培が容易で収量の安定した西洋系品種が主流となりました。

ニンジンの品種:東洋種と西洋種の比較

ニンジンの品種は大きく東洋種と西洋種に分けられ、それぞれ特徴が異なります。東洋種は一般的に根が細長く、色が薄い傾向にあります。また、西洋種に比べてカロテン含有量が少ないことが多いです。一方、西洋種は根が太く短めで、色が濃い鮮やかなオレンジ色をしています。これはカロテンを豊富に含んでいるためです。食感に関しても違いがあり、東洋種は比較的柔らかく、西洋種はシャキシャキとした歯ごたえがあるものが多く見られます。用途としては、東洋種は煮物などによく用いられ、西洋種はサラダやジュースなど、生食や色を活かした料理に使われることが多いです。

東洋種のニンジン

東洋種のニンジンは、西洋種に比べて細長く、鮮やかな赤色や濃い紫色を帯びた外観が特徴です。甘みが強く、特有の風味を持つことから、煮物や炒め物など、様々な料理に用いられます。また、西洋種に比べてβカロテンなどの栄養価が高い傾向にあり、健康的な食生活を意識する人々からも注目されています。地域によっては伝統野菜として栽培されており、その土地ならではの品種や調理法が受け継がれています。

西洋種のニンジン

西洋種のニンジンは、鮮やかなオレンジ色と特有の甘みが特徴的な根菜です。日本で一般的に流通しているニンジンの多くがこの西洋種に分類され、カロテンを豊富に含んでいるため、健康的な食生活に貢献します。生でサラダとして食べるのはもちろん、加熱することで甘みが増すため、煮込み料理や炒め物など、様々な料理に活用されています。品種改良も盛んに行われており、より甘みが強いものや、彩りが美しい紫色のものなど、多様な品種が存在します。

ニンジンの育て方と適した環境

ニンジンは、日当たりと水はけの良い肥沃な土壌を好みます。種まき前に苦土石灰を施して土壌を中和し、堆肥や有機肥料を混ぜ込んで土をふかふかにすると良いでしょう。種まきは春または秋に行い、発芽適温は15~25度です。種は好光性なので、土を薄く被せる程度にして、乾燥させないように丁寧に水やりをします。発芽後は間引きを行い、株間を広げることで、ニンジンが大きく育つようにします。生育期間中は、土が乾いたらたっぷりと水を与え、追肥も忘れずに行いましょう。また、雑草を取り除くことも大切です。収穫時期は種まきから約3~4ヶ月後で、葉が黄色くなり始めた頃が目安です。

ニンジンの病害虫対策と共生植物

ニンジンの栽培において、病気や害虫による被害は重要な課題です。特に、アゲハチョウ科のキアゲハは、ニンジンに産卵し、ふ化した幼虫が葉を食べる被害がよく見られます。葉が多少食べられても、ニンジンの成長に大きな影響はないことが多いですが、幼虫を見つけ次第、取り除いて駆除することで、被害の拡大を防ぐことができます。また、根に被害を与えるネコブセンチュウやネグサレセンチュウといった線虫類の被害も深刻です。これらの線虫類は土壌に生息し、ニンジンの根にコブを作ったり、根を腐らせたりして、生育を妨げます。以前の作で線虫の被害があった畑では、連作を避け、適切な対策を講じることが大切です。
効果的な病害虫対策として、「コンパニオンプランツ(共生植物)」を活用する方法があります。ニンジン(セリ科)とエダマメ(マメ科)を一緒に植えることで、互いの害虫を予防する効果があると言われています。具体的には、ニンジンの害虫であるキアゲハが、エダマメから出る特定の物質を嫌がり、近づきにくくなると考えられています。同様に、エダマメの害虫も、ニンジンの存在によって寄せ付けられにくくなる効果が期待できます。このように、異なる種類の植物を一緒に栽培することで、自然の力を利用した害虫対策が可能になり、農薬の使用量を減らすことにもつながります。

日本におけるニンジンの主な産地と流通経路

日本では、年間を通じて安定的にニンジンが供給されていますが、その産地は季節によって変わります。最も生産量が多いのは千葉県で、年間を通して大量のニンジンを出荷しています。その他、青森県や北海道なども主要な産地として知られています。特に冬ニンジンは、千葉県に加え、愛知県、徳島県、長崎県などで多く生産され、市場に出回ります。このように、季節ごとに最適な気候条件を備えた地域が主な産地となるため、一年中新鮮なニンジンを入手できます。また、国内生産だけでは需要を満たせないため、海外からの輸入も行われています。主な輸入国は中国が最も多く、次いでオーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどからも輸入されており、これにより年間を通して安定したニンジンの供給体制が確立されています。

ニンジンの流通と購入ルート

消費者が新鮮なニンジンを手に入れるための主要なルートの一つに、地元の農家が生産した農産物を直接販売する「JAファーマーズマーケット」(農産物直売所)があります。JAが運営するファーマーズマーケットは全国に約1700カ所あり、道の駅やカフェ、レストラン、市民農園などを併設する店舗も増えており、観光スポットとしても注目されています。毎朝、地元の生産者から届けられる採れたての野菜や果物が並び、生産者の顔が見える安全で安心な旬の農産物を手に入れることができるため、家族で楽しめる場所としても人気です。
また、全国各地から産地直送で旬の農産物や特産品を取り寄せることができる通販サイト「JAタウン」も、重要な購入ルートです。JA全農が運営するこのオンラインショッピングモールでは、全国のJAなどから農畜産物や特産品が産地直送で届けられます。家庭用はもちろん、贈答用や飲食店向けの業務用まで幅広い商品が揃っており、人気の果物や珍しい野菜、話題の肉や米など、さまざまなニーズに対応できます。パソコンだけでなくスマートフォンからも注文可能で、いつでもどこでも手軽に購入でき、「JAタウン通信」や「ショップだより」を通じて毎週、美味しい情報や産地の情報が配信されています。

ニンジンの栄養成分と健康への効果

※ 健康に関する記述は、野菜に含まれる栄養素に基づいた一般的な情報であり、病気の治癒などを保証するものではありません。
ニンジンの根は、野菜の中でも特に炭水化物の含有量が多く、ショ糖を豊富に含んでいるため、独特の甘みが際立っています。この甘みは、ニンジンの美味しさを構成する重要な要素の一つです。ニンジンが持つ栄養価の中で最も注目されるのは、ビタミンAに変換される「カロテン類」の豊富さです。特にβ-カロテンはカロテン類の中で唯一、体内でビタミンAに変わるプロビタミンAに分類され、ニンジンの鮮やかなオレンジ色は、このβ-カロテンによるものです。β-カロテンの含有量は緑黄色野菜の中でもトップクラスであり、「カロテン」という名前は英語の「キャロット」に由来しています。
ニンジンの根の色は、含まれる栄養成分、特にカロテン類によって決まります。β-カロテンの含有量が少ない品種では、赤みが少なく、黄白色をしています。一方、濃い赤色になる品種、例えば金時ニンジンには、トマトなどにも含まれるリコピンが多く含まれています。具体的には、一般的なニンジン約4分の1本(約50グラム)で、成人1日あたりのビタミンA必要量を満たすことができるほどです。β-カロテンは脂溶性ビタミンであり、生のまま食べる場合の吸収率はあまり高くありませんが、熱に強く、油と一緒に調理することで吸収率が大幅に向上します。例えば、油で炒めたり煮込んだりすることで、生で食べる場合の約10倍もの吸収率が期待できます。2016年の日本栄養・食糧学会での発表によると、油を使う場合は200℃もの高温は避け、短時間で調理する方が、カロテンの消化・吸収が良くなります。ニンジンの皮は、出荷される際に強い力で機械洗浄されるため、表面の硬い部分はほとんど剥がれていると言われています。β-カロテンなど色素成分になっている栄養素は、色の濃い皮に近い部分に多く含まれているので、できるだけ皮を剥かずに調理する方が、栄養をより多く摂取できます。
β-カロテンは、体内で必要に応じてビタミンAに変換され、皮膚や粘膜を丈夫にするため、免疫力を高めるのに役立ちます。また、抗酸化作用が強いため、肌の老化を防ぐ効果も期待できます。さらに、高血圧の予防に役立つカリウムや、腸内環境を整える食物繊維も含まれています。ニンジンはβ-カロテン以外にも、鉄、ビタミンC、ビタミンB群、カルシウムなど、多様な栄養素をバランス良く含んでおり、その栄養的価値は非常に高いと評価されています。ただし、東洋系ニンジンの代表である金時ニンジンに多く含まれるリコピンは、強い抗酸化作用を持つものの、体内でビタミンAには変換されないという特徴があります。

生のニンジンにはアスコルビナーゼという酵素が含まれており、これがビタミンCを分解する作用を持つことが知られています。このアスコルビナーゼがビタミンCを破壊するため、ダイコンなどビタミンCの多い野菜との相性を問題視する意見もありますが、少量の酢やレモン汁を加えることで、アスコルビナーゼのビタミンC破壊作用を弱めることができます。しかし、アスコルビナーゼを含むキュウリなどと同様に、これにより分解されたと見えるビタミンCは、実際には酵素の働きによって還元型ビタミンCから酸化型ビタミンCに変異するだけであり、酸化型に変わったビタミンCでも体内で還元型に戻るという可逆的な性質を持っているため、現在では生理作用も還元型と同等であることが明らかになっています。

葉の栄養価と活用法

普段、口にする機会は少ないかもしれませんが、ニンジンの葉は栄養の宝庫です。根の部分と比較すると、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンK、カリウム、カルシウム、鉄分、そしてクロロフィルといった栄養素が豊富に含まれる緑黄色野菜です。カロテン含有量は根に劣りますが、それでも十分に高い栄養価を誇ります。葉には、イソ酢酸やパルミチン酸などの脂肪酸、酢酸エステルやギ酸エステルなどのエステル類、ダウコールやキャロトールなどのアルコール類、さらにはアサロンなどの精油成分が含まれており、これらの成分が独特の香りを作り出しています。
市場に出回ることは多くありませんが、ニンジンの葉は炒め物や天ぷら、お浸しなどにして美味しく食べられます。風味はパセリに似ており、爽やかな味わいが特徴です。もし葉付きのニンジンを見つけたら、ぜひ試してみてください。ただし、根を食用として栽培されているニンジンの場合、葉に農薬が多く使用されている可能性があるため、調理前にしっかりと水洗いすることをおすすめします。

ニンジンの食材としての活用

およそ15センチほどの短い品種のニンジンは、一年を通して店頭に並び、様々な料理に利用されています。ニンジンの旬は、春(4月から7月)と秋冬(11月から12月)の2回です。春人参はみずみずしく、やわらかな食感が特徴で、秋冬人参は身が締まっており、加熱すると甘みが増します。良質なニンジンを選ぶポイントは、色が鮮やかで、表面に傷がなく滑らかでツヤがあり、ひげ根が少ないことです。また、根の上部が緑色になっていないものが良いとされています。
ニンジンは、生で食べるのはもちろん、炒めたり、煮たりと、様々な調理法で楽しむことができます。料理に使う際は、シャトー切り、飾り切り、いちょう切り、半月切り、乱切り、細切りなど、料理に合わせて切り方を変えることで、食感や風味の違いを楽しむことができます。西洋料理では、フォン(ブイヨン)やスープ、煮込み料理などに加え、料理に深みとコクを与える役割も果たします。また、ニンジンは甘みが強いため、キャロットケーキやプディングなどのデザートの材料としても最適です。すりおろしてジュースとして飲むのも一般的で、ビタミン補給や健康維持のために、サラダなどで生食するのもおすすめです。

ニンジンの旬と出荷時期

日本は南北に長く、気候や自然環境が地域によって大きく異なるため、野菜や果物の旬も地域によって様々です。東京都中央卸売市場の統計データを見ると、ニンジンの出荷量が最も多い時期は季節によって変動することが分かります。ここで紹介する「旬カレンダー」は、あくまで東京都中央卸売市場への出荷量に基づいたものであり、実際の生産量とは異なる場合があることにご注意ください。東京への出荷量が少ない地域で生産されたニンジンは、数値に反映されないことがあります。

ニンジンの選び方

新鮮でおいしいニンジンを選ぶには、いくつかのポイントがあります。まず、表面にひび割れや傷がなく、なめらかでハリとツヤのあるものを選びましょう。茎の切り口が細いものほど、芯が細く肉質が柔らかいため、より美味しく味わえます。葉付きのニンジンの場合は、葉が鮮やかな緑色で生き生きとしているものが新鮮な証拠です。また、ひげ根が少なく、根の上部が緑色になっていないものを選ぶようにしましょう。

ニンジンの保存方法

ニンジンの保存テクニックは、季節に応じて工夫が必要です。寒い時期は、キッチンペーパーなどで包んでからビニール袋に入れ、風通しの良い冷暗所で保存するのがおすすめです。暖かい時期は、同様に包んでポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で立てて保存すると良いでしょう。カットしたニンジンは、切り口をラップでしっかりと覆い、冷蔵庫で保存すれば2~3日程度は鮮度を保てます。泥付きのニンジンは、新聞紙にくるんで涼しい場所に置くと比較的長持ちし、土に埋めておけば半年ほど保存することも可能です。葉が付いている場合は、葉に水分や栄養が奪われて根の品質が低下するため、切り落として別々に保存し、葉は早めに使い切るのがおすすめです。葉は鮮度が落ちやすいので、できるだけ早く調理しましょう。また、エチレンガスを多く放出するリンゴやアボカドと一緒に保存すると、ニンジンが苦くなることがあるので注意が必要です。調理済みのニンジンは、粗熱を取ってから冷蔵庫で保存すれば4~5日は美味しくいただけます。

電子レンジ使用時の注意点:発火現象

少量(特に未調理の状態)のニンジンを電子レンジで加熱すると、マイクロ波が集中し、ニンジン内部でプラズマが発生して、スパークや発煙、さらには発火につながる場合があります。これは、ニンジンの水分量、形状、マイクロ波の強さなどが複合的に影響するためと考えられます。この現象を避けるためには、ニンジンに少量の水を振りかけるか、一度に加熱する量を100グラム以上に増やすことを推奨します。これにより、マイクロ波が均一に分散され、局所的なプラズマ発生のリスクを低減できます。

ニンジンを使った料理例と伝統料理

ニンジンは、その鮮やかな色合いと栄養価の高さから、様々な料理に用いられ、地域の食文化を彩る存在でもあります。例えば、お正月のおせち料理やお雑煮には、彩りを添える食材として欠かせません。また、「おやき」のように、地域を越えて親しまれている郷土料理にも、具材の一つとしてニンジンが加えられることがあります。地域で採れた野菜を工夫して食べる知恵から生まれた、彩り豊かで風味豊かなお漬物もその一つです。
岩手県胆沢地方には、お祝い事や弔事などの特別な日に作られ、寒い時期に体を温める料理として愛されてきた「くずのすまし汁」という郷土料理があります。名前の由来は、くず粉を使ったすまし汁であることから。昔は食糧が乏しかったため、規格外の野菜も無駄にせず、悪い部分を取り除いて使っていたそうです。食材を細かく刻み、とろみをつけて保温効果を高めるのが特徴です。このように、ニンジンは単なる食材としてだけでなく、地域の歴史や文化に根ざした料理にも活用されています。

ニンジンの薬用効果と健康への応用

ニンジンの薬用部位として利用されるのは主に根の部分で、古くから「人参(にんじん)」と呼ばれてきました。伝統的に、消化不良、下痢、咳などの症状を緩和する効果があるとされ、生で1日に30グラム程度を煮て食べたり、生食やジュースとして摂取する方法が用いられてきました。体質を選ばず誰でも利用しやすいとされ、特に慢性的な下痢や、少量食べただけでお腹が張りやすい人に良いとされています。
ニンジンに豊富に含まれるβ-カロテンは、体内でビタミンAに変換され、免疫力を強化し、活性酸素を抑制する抗酸化作用を発揮します。これにより、がん、心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防に役立つと考えられています。また、粘膜を正常に保つ働きがあり、皮膚、口、目、消化管などの健康維持に貢献します。金時ニンジンなどに含まれるリコピンも、強力な抗酸化作用を持つ成分です。さらに、ビタミンAが不足すると視力低下や夜盲症のリスクが高まることが研究で示されており、β-カロテンが豊富なニンジンは、目の健康をサポートする食品としても注目されています。
喉の痛み、口内炎、扁桃腺炎などの炎症を和らげるには、生の茎葉を細かく刻み、1日量30グラムを水600ミリリットルで半量になるまで煮詰めた煮汁でうがいをすると効果があると言われています。また、冷え性対策には、生の茎葉または乾燥させた茎葉を布袋に入れてお風呂に入れると、葉に含まれる精油成分が体を温める効果を発揮するとされています。
一部には、ニンジンはグリセミック・インデックス(GI)が高いので糖尿病の人は避けるべきという意見もありますが、これは大量のニンジンを摂取しない限り血糖値に大きな影響はないため、誤解に基づいた情報と言えます。実際には、ニンジンの豊富な栄養素を摂取することの方が、生活習慣病の改善に繋がり、健康上のメリットが大きいと考えられています。

ニンジンと馬の関係:文化的な側面と誤解

日本では、ニンジンはしばしば「馬の大好物」として認識され、動物園などで行われる餌やりイベントでは定番のアイテムとなっています。この一般的なイメージから、「馬の目の前にニンジンをぶら下げて走らせる」という情景が想像され、それが転じて、人に意欲を起こさせるための「誘因」や「アメ」の比喩として「ニンジン」という言葉が使われるようになりました。
馬に限らず、動物は一般的に甘い味を好むため、トレーニングの際などに報酬として甘いものが与えられることがあります。馬の場合、ヨーロッパでは角砂糖やリンゴ、砂糖大根などが用いられますが、日本では比較的入手しやすいニンジンが使われることが多かったのです。そのため、日本で育った馬はニンジンを好む傾向が見られますが、海外で育ちニンジンを食べる習慣がない馬は、ニンジンを口にしなかったり、嫌がったりすることもあるという興味深い現象があります。これは、食生活が動物の好みに大きく影響を与えることを示唆しています。

まとめ

ニンジンは、アフガニスタンを原産地とするセリ科の植物であり、その肥大した根は食用として世界中で広く利用されています。かつては「胡蘿蔔(ころうぼく)」と呼ばれており、日本の「人参」は本来、オタネニンジンを指していました。ニンジンの特徴として、東洋系と西洋系の二つの主要な系統に分けられ、それぞれ細長い形状と強い香り、あるいは太く短い形状と穏やかな香りが特徴です。根の色もオレンジ色、赤色、黄色、紫色など様々で、特にβ-カロテンの含有量が非常に高く、体内でビタミンAに変換されるため、ビタミンAの供給源として非常に重要です。加熱に強く、油と一緒に摂取することで吸収率が大幅に向上するため、多様な調理方法でその栄養を効果的に摂取することができます。また、根だけでなく葉にも豊富な栄養が含まれており、伝統的に薬用としても活用されてきました。栽培には適切な土壌、日当たり、温度管理、そして丁寧な間引きや除草作業が不可欠です。日本国内では千葉県が最大の産地であり、JAファーマーズマーケットやJAタウンなどの流通経路を通じて、年間を通じて安定的に供給されています。ニンジンは、その豊富な栄養価と多様な利用方法によって、私たちの食生活に欠かせない重要な野菜と言えるでしょう。

質問:ニンジンと高麗人参は同じ植物ですか?

回答:いいえ、ニンジンと高麗人参(オタネニンジンとも呼ばれる)は異なる植物です。食用として一般的に知られているニンジンは、セリ科に属するDaucus carota subsp. sativusという種であるのに対し、高麗人参はウコギ科に属し、主に薬用として用いられます。日本語の「人参」という言葉は、元来は高麗人参を指すものでした。

質問:ニンジンのβ-カロテンを効率的に摂取する方法はありますか?

回答:ニンジンのβ-カロテンは脂溶性ビタミンであるため、油と一緒に摂取することで吸収率が飛躍的に向上します。生のまま食べる場合の吸収率は低いですが、炒め物、揚げ物、油を使った煮物など、加熱調理と油を組み合わせることで、生で食べるよりも約10倍効率的に体内に吸収されると考えられています。また、すりおろしてジュースにする場合でも、少量の油分や乳製品を加えることをお勧めします。油を使用する際は、200℃以上の高温は避け、短時間で調理する方が、カロテンの消化・吸収が促進されると言われています。

質問:東洋ニンジンと西洋ニンジンの違いは何ですか?

回答:東洋ニンジンは、中国を経由して日本に伝わった種類で、その特徴は細長い形状と、引き締まった肉質、そして独特の強い香りです。代表的な品種としては、金時ニンジンが挙げられます。対照的に、西洋ニンジンはヨーロッパで品種改良が進められ、太くて短い形をしており、一般的にはオレンジ色をしています。甘みが強く、β-カロテンが豊富に含まれており、東洋ニンジンに比べて香りが穏やかです。現在の日本で主に流通しているのは、西洋ニンジンの系統です。
にんじん人参