カカオ実

カカオ実

チョコレートの甘美な香りの源、それはカカオの実です。普段何気なく口にしているチョコレートですが、その原料となるカカオについて、あなたはどれだけご存知でしょうか?熱帯地方で育つカカオの木に実るカカオポッドは、まるで宝石箱のように貴重なカカオ豆を包み込んでいます。さあ、カカオの世界へ足を踏み入れてみましょう。

カカオの基本:チョコレートの源泉を紐解く

日頃からチョコレートやココアとして親しんでいるカカオですが、植物としての特性、栽培方法、種類など、意外と詳しく知らない側面が多いのではないでしょうか。カカオは、「テオブロマ・カカオ・リンネ(Theobroma cacao Linne)」という学名を持つアオイ科の植物です。この木に実るカカオの実、別名カカオポッド(英語:Cacao pod、フランス語:カボス Cabosse de cacao)の中にあるカカオ豆が、チョコレートやココアの原料となります。

カカオの木:生育環境とその特性

カカオの木は、私たちが普段口にするチョコレートからは想像しにくい姿をしています。高さは6~7m程度まで成長し、苗から育てた場合、通常3~4年ほどで実をつけるようになります。カカオポッドはラグビーボールのような形状で、一つあたり約250gから1kgもの重さになることもあります。一本の木には年間で約10~40個のカカオポッドが実り、幹の太い部分に直接実をつけるのが特徴的です。このカカオポッドの中に含まれるカカオ豆こそが、チョコレートやココアの原料となるのです。カカオの木は強い日差しを避け、日陰で栽培されることが一般的であり、その繊細さが伺えます。

カカオの栽培地:カカオベルトとは何か

カカオの木は、高温多湿な熱帯地域でのみ栽培が可能です。具体的には、北緯20度から南緯20度にかけての地域がカカオ栽培に適しており、このエリアは「カカオベルト」と呼ばれています。カカオベルト内でも、標高30~300m、年間平均気温が約27度で気温の変化が少ないこと、そして年間降雨量が最低1000mm以上であることなど、生育のための条件は非常に限られています。これらの条件を満たす地域は、主に中南米、西アフリカ、東南アジアなどに分布しており、世界全体では約50ヶ国でカカオが生産されています。

カカオの生産量:主要な生産国と日本の輸入量

世界の年間カカオ生産量は約502万トンにも及びます。その中でもアフリカが最も多く、世界全体の約77%を占めています。主な生産国としては、コートジボワール、ガーナ、エクアドル、カメルーン、ナイジェリア、インドネシア、ブラジルなどが挙げられ、これらの7カ国で世界全体の約89%を生産しています。日本の輸入量は約4万8533トンであり、世界全体のおよそ1%に過ぎません。この数字からも、私たちが普段何気なく口にしているチョコレートの原料が、特定の地域に大きく依存している実態がわかります。

カカオの品種:主要な3つの種類

チョコレートの風味を決定づけるカカオ豆には、様々な品種が存在します。それぞれの品種は独自の個性を持っており、チョコレート製造者は目指す製品に合わせて最適な豆を選びます。特に重要な品種として、クリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種の3つが挙げられます。

クリオロ種:希少価値の高い高級品種

クリオロ種は、ベネズエラやメキシコといった特定の地域でのみ栽培される、非常に希少な品種です。病気への抵抗力が弱く栽培が難しいため、カカオ豆全体の生産量に占める割合はごくわずか、約0.5%程度です。その特徴は、何と言っても独特のナッツのような風味。そのため、高級チョコレートの原料として非常に重宝されています。

フォラステロ種:世界の生産量を支える主要品種

フォラステロ種は、ブラジル、西アフリカ、東南アジアなど、広範な地域で栽培されており、世界のカカオ生産量の80~90%を占める主要な品種です。クリオロ種に比べて栽培が容易で、大量生産に適しているため、チョコレートのベースとして広く利用されています。一般的に、渋みと苦味が強いのが特徴です。

トリニタリオ種:二つの個性を併せ持つ交配種

トリニタリオ種は、クリオロ種とフォラステロ種が自然交配して生まれたとされる品種です。両方の品種の良いところを受け継いでおり、栽培のしやすさとカカオ豆の品質の高さが特徴です。トリニダード・トバゴで生まれたことが名前の由来となっており、生産量は全体の10~15%程度です。トリニタリオ種のカカオ豆は、フルーティーな酸味を持つものが多い傾向にあります。

ナシオナル種:エクアドル原産の貴重なカカオ

エクアドルのみで栽培される特別なカカオ、それが「ナシオナル種(アリバ種)」です。フォラステロ種から生まれたこの品種は、ジャスミンやバラを思わせる、優雅な花の香りを特徴とします。ナシオナル種から作られるチョコレートは、口にした瞬間に広がる芳醇な香りと、その後に訪れる心地よい苦みが魅力です。

カカオポッド:カカオ豆を育む母体

カカオが「果物」と呼ばれる理由は、カカオ豆がカカオポッドという果実の中に存在するためです。カカオポッドは、厚さ約1cmの硬い殻で覆われており、収穫後、木の棒や鉈を使って割り、中のカカオ豆を取り出します。ポッドの中には、ヌルヌルとした白い果肉、カカオパルプに包まれた30~40粒のカカオ豆が詰まっています。カカオ農園では、次々とカカオポッドを割り、パルプごとカカオ豆を取り出し、発酵の工程へと進めます。

カカオパルプ:発酵を支える知られざる果実

カカオ豆を優しく包む、白いヌルヌルとした果肉がカカオパルプです。ライチやパイナップルを連想させる、フルーティーな香りと爽やかな酸味を持ち、まるで南国の果実のような味わいです。かつては、動物たちが熟したカカオポッドを割り、カカオパルプを食し、カカオ豆を広めていたと言われています。現在も、カカオ農園では、発酵の過程で生まれるカカオパルプをジュースとして飲んだり、煮詰めてジャムにしたり、お酒の原料にするなど、果物のように活用されています。カカオパルプは、カカオ豆の発酵において、非常に重要な役割を担っています。

チョコレートは発酵食品?:カカオ豆の発酵過程

収穫されたカカオポッドから、カカオパルプに包まれたカカオ豆を取り出し、産地によって異なりますが、木箱に入れたり、バナナの葉で覆ったりして発酵させます。中南米では、階段状の木箱にカカオパルプが付いたカカオ豆を入れ、上から下へと順に移していく方法が一般的です。発酵には微生物の働きが欠かせませんが、そのために必要なのがカカオパルプです。カカオパルプは水分と糖分を豊富に含んでいるため、微生物にとって格好の栄養源となり、カカオ豆の発酵に最適な環境を提供します。

カカオ豆の発酵における微生物の働き

カカオ豆が発酵する初期段階(1~2日)では、酵母が優勢となり、エタノールを作り出します。また、カカオパルプの粘性のある成分であるペクチンを分解する酵素を放出します。その後、乳酸菌や酢酸菌が現れ、非常に複雑な微生物の勢力図が展開されます。この微生物の活動によって、カカオ豆に糖類やアミノ酸が生成されます。これらの糖類やアミノ酸が、後のチョコレート工場での焙煎工程において、チョコレート特有の香りを生み出す源となります。つまり、カカオ豆の発酵は、チョコレートの香りを決定づける非常に重要なプロセスであり、「チョコレートは発酵食品の一種である」と言えるでしょう。

カカオ豆の色:発酵による変化

ミルクチョコレートやダークチョコレートは茶色い色合いをしていますが、実はカカオ豆の内部は最初から茶色ではありません。収穫直後の生のカカオ豆は一般的に、中が紫色をしています。これはカカオ豆に含まれるポリフェノールによるものです。発酵の過程を経ることで、タンパク質やアミノ酸がポリフェノールと反応し、カカオ豆が茶色く変色し、チョコレートの色に近づきます。カカオ豆の中には、生豆の状態で白いものも存在します。これは「ホワイトカカオ」と呼ばれる珍しい品種で、世界的に見ても収穫量が非常に少ないです。白いカカオ豆も発酵によって茶色に変化し、チョコレートの色合いへと変わっていきます。このことからも、発酵がチョコレート製造において不可欠な工程であることが理解できます。

乾燥:カカオ豆の品質維持に欠かせない工程

発酵後のカカオ豆は水分を多く含んでいるため、そのまま保管したり輸送したりするとカビが発生するリスクがあります。そのため、カビの繁殖を抑えるために、水分量を7%以下までカカオ豆を乾燥させる必要があります。カカオ豆の乾燥方法としては、主に太陽光を利用した天日乾燥と、機械による人工的な乾燥があります。通常は、カカオ豆を屋外に広げて天日乾燥を行うことが多いですが、雨が続くなど湿度が高い場合には、機械を使用して乾燥させることもあります。農園によって乾燥方法や設備は異なり、移動式の乾燥台にカカオ豆を広げ、天候の良い日には外に出し、雨天時には屋根の下に移動させるなど、設備が整っている農園もあります。適切に乾燥されたカカオ豆は、品質検査を経て主に麻袋に詰められ、チョコレートを製造する国々へ船で輸出されます。

カカオパルプを味わう:トロピカルフルーツを思わせる風味

カカオパルプは、通常カカオ豆を発酵させる際に取り除かれるため、単体で市場に出回ることはほとんどありません。しかし、近年ではそのフルーティーな風味が注目を集め、ジュースやスムージーなどに加工される事例が増えています。カカオパルプは、ライチ、パイナップル、マンゴーなど、さまざまなトロピカルフルーツを組み合わせたような独特の風味を持ち、爽やかな酸味が特徴です。

カカオ栽培における児童労働問題

特に主要生産国であるガーナやコートジボワールなどでは、児童労働や人身売買といった深刻な問題が潜んでいます。家族経営の小規模農家では、経済的な事情から子どもたちに十分な教育を受けさせることが難しい状況です。親世代も教育を受けていない場合が多く、子どもたちは幼い頃からカカオ栽培の貴重な労働力として従事せざるを得ません。教育の機会を奪われた子どもたちは、新しい知識や農園経営のスキルを学ぶことができず、農園の経営は改善されないまま、子どもたちの労働力に頼るという悪循環から抜け出せません。さらに、貧困にあえぐ北部地域から、カカオ農園が集中する中部地域へ人々が売買されるという、悲惨な人身売買の問題も存在します。私たちが普段口にするチョコレートの裏側にある、目を背けることのできない現実です。

フェアトレード:児童労働問題への具体的な取り組み

ガーナにおける児童労働問題の解決を目指し、様々な支援団体が活動を続けています。CRADAの特徴的な活動として、カカオ生産地域での児童労働撤廃と就学支援、都市でのストリートチルドレンの救済、エイズ予防などによる子どもの権利と教育の促進、調査研究・政策提言などが挙げられている。

カカオの未来:持続可能な生産を目指して

カカオ産業が抱える問題は、児童労働だけではありません。気候変動の影響や、カカオ農家の貧困など、解決すべき課題は山積しています。持続可能なカカオ生産を実現するためには、私たち消費者一人ひとりがフェアトレードチョコレートを選ぶなど、倫理的な消費を意識することが大切です。さらに、カカオ農家への直接的な支援や、環境に優しい栽培方法の普及など、多角的な取り組みが求められます。カカオの未来は、私たち消費者の選択と行動によって大きく左右されると言えるでしょう。

まとめ

私たちに美味しいチョコレートを届けてくれるカカオ。しかし、その栽培や生産の背景には、目を背けることのできない問題が存在します。カカオの魅力を深く理解することで、チョコレートをより美味しく、そして責任を持って味わうことができるはずです。今日からチョコレートを選ぶ際には、その背景にある物語に、少しだけ思いを馳せてみてください。

よくある質問

質問1:カカオが育つ地域「カカオベルト」とは何ですか?

カカオベルトとは、北緯20度から南緯20度の間に位置する高温多湿な熱帯地域のことで、カカオの栽培に適したエリアを指します。この地域では、年間平均気温が約27度、降雨量が最低1000mm以上など、カカオの生育に必要な条件が整っています。主なカカオ生産地域には、中南米、西アフリカ、東南アジアなどがあり、世界の約50か国がカカオを生産しています。

質問2:チョコレートは発酵食品と呼べるのはなぜですか?

チョコレートの原料であるカカオ豆は、収穫後にカカオパルプに包まれた状態で発酵させられます。この発酵過程で酵母、乳酸菌、酢酸菌などの微生物が働き、カカオ豆に含まれる糖やアミノ酸が生成されます。これらが焙煎時にチョコレートの香りや風味の元となるため、発酵は不可欠な工程です。この理由から、チョコレートは「発酵食品の一種」と言えます。

質問3:カカオの生産にはどのような社会問題が関わっていますか?

特にアフリカの主要生産国であるガーナやコートジボワールでは、児童労働や人身売買といった深刻な問題が存在しています。貧困や教育機会の不足が背景にあり、子どもたちはカカオ農園で働かざるを得ない状況にあります。これに対処するために、児童労働撤廃や教育支援を行う団体が活動しており、フェアトレード製品の選択など、消費者の倫理的な行動が求められています。
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