イギリス お菓子伝統

イギリス お菓子伝統

午後のティータイムに欠かせない、イギリス伝統菓子。その魅力は、単なるお菓子の域を超え、歴史と文化が織りなす奥深い味わいにあります。ヴィクトリア女王の時代から愛されるお菓子、地方色豊かな焼き菓子など、それぞれのルーツを辿れば、イギリスの歴史や風土が見えてくるでしょう。本記事では、そんなイギリス伝統菓子の背景にある物語と、ティータイムを豊かに彩る魅力をご紹介します。

イギリス菓子の魅力:歴史と文化が育む豊かな味わい

イギリスのお菓子は、ティータイムとともに発展し、お茶請けとして重要な役割を果たしてきました。その背景には、歴史的な出来事や文化的な側面が深く関わっており、伝統的な製法が世代を超えて大切に受け継がれています。この記事では、イギリスを代表する伝統的なお菓子から、現代の人気スイーツまで幅広くご紹介し、その奥深い魅力を探求していきます。

スコーン:アフタヌーンティーの主役、多彩な食感と楽しみ方

スコーンは、1800年代後半にスコットランドで生まれた焼き菓子とされています。一般的には丸い形をしており、特徴的なサクサクとした食感が楽しめます。中央の割れ目にジャムやクロテッドクリームを添えて、アフタヌーンティーの定番として親しまれています。スコーンの食べ方には、ジャムを先に塗ってからクロテッドクリームを重ねるコーンウォール流と、クロテッドクリームを先に塗ってからジャムを重ねるデヴォン流の2種類があります。語源については様々な説があり、「上質な白いパン」を意味するオランダ語の「schoonbroot」やドイツ語の「sconbrot」が変化したという説、またはスコットランドのスコーン村で王の戴冠式に使われた椅子の台座に由来するという説などが存在します。基本的なスコーンに加え、紅茶の茶葉を練り込んだ香り高いスコーンなど、多種多様なレシピが存在します。

ショートブレッド:シンプルながらも深い味わい、バターの香りが際立つ伝統菓子

ショートブレッドは、12世紀から作られている由緒あるお菓子で、16世紀に現在の形になったとされています。かつては貴重な存在であり、結婚式などの特別な日に食されていました。"short"はサクサク、ホロホロとした食感を意味し、"bread"はパンを意味しますが、この2つが組み合わさるとバターをふんだんに使った厚焼きクッキーを指します。クッキーとの違いは材料と製法にあり、ショートブレッドは小麦粉、バター、砂糖、塩の4種類のみを使用し、小麦粉にバターを細かく混ぜて砂糖を加えるという独特の製法で作られます。例えば、スコットランドのウォーカー社(Walkers)の製品などが世界的に有名です。アーモンドプードルを加えて風味を豊かにしたり、米粉や黒糖を使用するなど、様々なアレンジレシピも存在します。

トライフル:見た目も華やか、層が生み出す豊かな味わいのデザート

トライフルは、カスタード、スポンジ、フルーツ、ゼリー、生クリームを器の中で層状に重ねたデザートです。語源は「たわいもないおしゃべり」や、残り物やありあわせの材料で作られたデザートであることから「ささいなもの」といった意味合いがあります。1596年にトーマス・ドーソンが著書「The Good Housewife's Jewel (良き主婦の宝石)」で紹介したレシピが、トライフルという名称の最初の記録とされています。その後、レシピは進化を遂げ、卵を加えたり、アルコールに浸したスポンジケーキの上にカスタードを乗せるようになりました。ホットケーキやいちごを使った手軽なレシピや、クリームチーズとヨーグルトを使った爽やかなレシピなど、様々なバリエーションが楽しめます。

ジンジャーブレッド:スパイスの香りが広がる、多彩な形と味わい

ジンジャーブレッドは、生姜を風味付けに使った焼き菓子の総称で、クッキーやケーキなど、様々なバリエーションがあります。その歴史は古く、ローマ時代にアフリカから生姜が伝わった際に、共に伝わったとも言われています。イギリス北部、ヨークシャー地方のパーキンは、オーツ麦を加えた、ケーキのような独特の食感を持つジンジャーブレッドです。また、糖蜜をたっぷり使用した、しっとりとした食感が特徴のモイストトリークルジンジャーブレッドも人気があります。クッキータイプのジンジャーブレッドとしては、愛らしいジンジャーブレッドマンや、香ばしいジンジャーナッツなどが知られ、地域によって独自の進化を遂げています。シナモンをはじめとするスパイスを加え、より豊かな風味にしたり、アイシングで華やかに飾り付けたりと、様々なアレンジが可能です。

プディング:イギリスの食文化を代表する、多様な調理法で作られるデザート

プディングは、5世紀頃からイギリスで親しまれてきた伝統的な家庭料理です。卵、牛乳、小麦粉にスパイスなどを加え、蒸して固めた料理の総称であり、日本のプリンとはその概念が異なります。特に、洋酒にじっくり漬け込んだドライフルーツをふんだんに使用したクリスマスプディングは、イギリスのクリスマスには欠かせない存在です。プディングの語源は、古英語の「puduc(腫れ物)」に由来するとされ、中英語ではソーセージの一種を「poding」と呼ぶようになり、そこから今日のような多様な蒸し料理を指す「pudding」へと変化しました。ライスプディングのように米を用いたものや、チョコレートプディングなど、バラエティ豊かなレシピが存在します。

ジャムローリーポーリー:どこか懐かしい、ロールケーキ風の温かいプディング

ジャムローリーポーリーは、イギリスの伝統的なプディングの一種で、スエット(牛や羊の腎臓周りの脂肪)を練り込んだ生地を薄く伸ばし、ジャムを塗ってロールケーキのように巻き上げ、蒸すかオーブンで焼き上げます。温かいうちにカスタードソースをたっぷりかけていただくのが一般的です。19世紀初頭に誕生したと考えられており、イギリスでは学校給食の定番メニューとして親しまれ、多くのイギリス人にとって子供時代の思い出を呼び起こす懐かしい味となっています。一般的にはラズベリージャムが用いられますが、糖蜜やマーマレードを使うこともあります。スエットの代わりにバターを使用するレシピもあります。

トリークルタルト:ハリー・ポッターにも登場する、濃厚な甘さが魅力のタルト

トリークルタルトは、タルト生地にたっぷりの糖蜜、ブラウンシュガー、レモン汁、数種類のスパイス、ジンジャー、パン粉などを混ぜ合わせたフィリングを流し込んで焼き上げた、非常に甘いタルトです。温かいままでも、冷やしても美味しく、クロテッドクリームやアイスクリーム、カスタード、ホイップクリームなどを添えて、その濃厚な甘さを堪能します。人気小説ハリー・ポッターにも登場することでも知られています。トリークルタルトという名前は、ロンドンの労働者階級のスラングで「恋人」を意味する言葉に由来するとも言われています。現存する最も古いレシピは、19世紀末にメアリ・ジュウリーが著した料理本に記載されています。近年では、トリークルタルトの風味を再現したラテも販売されています。

カタンケーキ:聖キャサリンの日に食される、古くからの伝統菓子

カタンケーキは、11月25日の聖カタリナの日(セント・キャサリンズ・デー)に、かつてイングランドで親しまれていた特別な焼き菓子です。中世からヴィクトリア時代中期にかけて、繊細なレースは非常に価値のあるものであり、レース職人たちは聖カタリナを守護聖人として崇めていました。現代ではあまり一般的ではありませんが、昔ながらの製法で作られたものが、一部のカフェで提供されています。

ミンスパイ:クリスマスの風物詩、ドライフルーツとスパイスが織りなすパイ

ミンスパイは、中世の時代からクリスマスに欠かせない伝統的なお菓子です。ドライフルーツ、各種スパイス、そしてスエット(牛脂)などを混ぜ合わせたミンスミートを、パイ生地で包んで焼き上げます。中世のミンスパイは、幼子イエス・キリストのゆりかごを象徴する楕円形をしており、現代のものよりもかなり大きなサイズでした。当時のパイ生地は、小麦粉とラードに熱湯を加えて作る、硬くて丈夫なもので、しばしば生地の部分は食べ残されることもありました。時代と共にドライフルーツの比率が高まり、今日ではスエットの代わりに植物性オイルを使用した、ベジタリアン向けのレシピも存在します。クリスマスの12日間に12個のミンスパイを食べると、幸運な一年になると言い伝えられています。

アップルクランブル:英国を代表する味、りんごの甘酸っぱさが際立つデザート

アップルクランブルは、スコーンと並び、イギリスで愛されている代表的なデザートの一つで、家庭でも手軽に作ることができます。りんごはイギリスを象徴する果物であり、そのりんごを最大限に活かしたスイーツがアップルクランブルです。レストランのデザートメニューにはもちろん、スーパーマーケットでもカップ入りのものが販売されています。一般的には、酸味が強く果肉が硬いブラムリー種が使われ、加熱するとすぐに柔らかくなります。生食用りんごは煮込むのに時間がかかりますが、ブラムリー種は短時間でとろけるような食感になります。酸味が強いため、たっぷりの砂糖を加えますが、それが絶妙な「甘酸っぱさ」を生み出します。上に散りばめられたクッキーのような粒状のものは、小麦粉とバターを指先で混ぜ合わせたもので、サクサクとした食感がアクセントになっています。

イートンメス:初夏の訪れを感じる、メレンゲ、いちご、クリームのハーモニー

イートンメスは、サクサクのメレンゲ、濃厚な生クリーム、そして新鮮ないちごを組み合わせた、イギリスの初夏を彩るデザートです。その名前は、イギリスの名門パブリックスクールであるイートン校に由来し、"メス"は英語のmess(散らかっている状態、混乱)を意味します。イートン校の生徒が、母親が用意してくれたおやつを鞄に入れたまま走り回った結果、中身がぐちゃぐちゃになってしまったのが始まり、という逸話があります。イギリスの伝統的なデザートとして、イギリス料理やお菓子の専門書には頻繁に登場します。いちご本来のフレッシュな香りを最大限に引き出すため、加熱を最小限に抑えたいちごソースを使うのがおすすめです。

キャロットケーキ:戦時下の工夫から生まれた、滋味深い味わいのケーキ

キャロットケーキは、すりおろしたニンジンをたっぷり使用した、英国伝統の焼き菓子です。第二次世界大戦中、食料が不足していた時代に、砂糖の代替品としてニンジンの自然な甘さを活用したことがきっかけで広く親しまれるようになりました。シナモンなどのスパイスが優雅に香りを添え、しっとりとした生地が特徴です。英国のお菓子の中では比較的ヘルシーな部類に入るでしょう。

スティッキートフィープディング:濃厚な甘さと上品さ、忘れられない味わい

スティッキートフィープディングは、甘い生地にさらに甘いソースをかけた、非常に濃厚なデザートです。初めて口にした人は、その強烈な甘さに驚くかもしれませんが、ただ甘いだけでなく、奥深いコクと上品さを兼ね備えており、不思議と後を引く魅力があります。プディングの生地には、たっぷりのドライデーツが練り込まれており、その上から、バター、砂糖、クリームを煮詰めた自家製トフィーソースがふんだんにかけられています。温かいプディングに冷たいバニラアイスクリームを添えていただくのもおすすめです。

バノフィーパイ:サクサク生地、バナナ、トフィーのハーモニー

バノフィーパイは、サクサクとした食感のショートクラスト生地に、バナナと自家製トフィーを重ねたパイです。トフィーは家庭でも手軽に作ることができ、キャラメルのような優しい甘さと、バナナの爽やかな風味が絶妙に調和します。コーヒー風味の甘さ控えめなホイップクリームとの相性も抜群です。

フラップジャック:オートミールとドライフルーツの、食感が楽しい焼き菓子

フラップジャックは、オートミール、ナッツ、ドライフルーツなどを混ぜて焼き上げた、ザクザクとした食感が特徴的な、英国の伝統的なお菓子です。午後のティータイムにぴったりで、本場ではゴールデンシロップを使用しますが、蜂蜜で代用することも可能です。

ウェルシュケーキ:手軽に作る伝統的な英国菓子

ウェルシュケーキは、スコーンに似た、ドライフルーツ入りの英国伝統菓子です。ホットケーキミックスを使えば、ご家庭でも簡単に作ることができ、午後の紅茶やコーヒーのお供に最適です。

英国菓子のレシピ:ご自宅で本格的な味を

英国のお菓子には、家庭で手軽に作れるものが豊富にあります。スコーン、ショートブレッド、アップルクランブルなど、シンプルな材料と手順で、本場の風味を堪能できます。レシピサイトや動画を参考に、ぜひご自宅で英国菓子作りに挑戦してみましょう。
※食物アレルギーをお持ちの方は、材料をよくご確認の上、調理・喫食してください。\n※レシピは一般的なものであり、調理結果や味覚には個人差があります。

英国菓子を味わう:ティータイムから特別な日まで

英国のお菓子は、いつものティータイムはもちろん、特別な ocasiónにもぴったりです。スコーンやショートブレッドは、紅茶やコーヒーと共に気軽に楽しめ、トライフルやバノフィーパイは、見た目も華やかで、パーティーなどのおもてなしにも最適です。

英国菓子と日本の菓子:文化が育む味の違い

一般的に、英国のお菓子はバターや砂糖を多く使い、濃厚でしっかりとした甘さを持つものが多い傾向にあります。これは気候や歴史的背景も影響していると言われます。対照的に、日本の伝統的な菓子には、素材の風味や季節感を大切にし、繊細な甘さや見た目の美しさを特徴とするものが多く見られます。もちろん、これらはあくまで一般的な傾向であり、多様な味わいが存在します。これらの違いは、それぞれの国の文化や価値観を反映しており、お菓子を通して異文化理解を深める良い機会となるでしょう。

英国旅行で出会う至福:伝統菓子の探求

英国を旅するなら、ぜひ本場の英国菓子を堪能してください。歴史あるティールームやカフェでは、昔ながらのスコーンやケーキを味わえますし、スーパーでは、多彩な種類のショートブレッドやプディングを手軽に入手できます。英国の街並みを歩きながら、お好みの英国菓子を見つけ、旅の思い出を彩りましょう。

まとめ

英国の伝統菓子には、その歴史や文化、そして作り手の情熱が凝縮されており、奥深い魅力があります。今回ご紹介したお菓子の他にも、数多くの種類が存在し、それぞれ独自の物語と味わいを持っています。ぜひ、英国菓子を通じて、英国の文化や歴史に触れ、豊かな味覚体験を満喫してください。

よくある質問

質問1:英国のスコーンには、なぜジャムとクロテッドクリームが添えられるのでしょうか?

スコーンは、もともとシンプルな味わいの焼き菓子であるため、ジャムの甘さとクロテッドクリームのコクを加えることで、より美味しく味わえるように工夫されました。また、アフタヌーンティーの習慣とともに、スコーン、ジャム、クロテッドクリームの組み合わせが定番となりました。

質問2:英国のクリスマスプディングは、どのようにして食されるのでしょうか?

クリスマスプディングは、ブランデーをかけ、フランベして温かい状態でいただくのが一般的です。また、ブランデーバターやカスタードソースを添えて味わうこともあります。クリスマスプディングには、幸運をもたらすとされるコインなどの小さなアイテムが隠されていることがあり、切り分けた際にそれらを見つけた人は、その一年が良い年になると言われています。

質問3:イギリスの伝統的なお菓子は、どうして甘みが強いのでしょうか?

その背景には、いくつかの理由があります。まず、イギリスの気候は比較的寒いため、体を温めるために高カロリーな食品が求められてきました。甘いお菓子は、手軽にエネルギーを補給できる手段として重宝されたのです。さらに、歴史的に砂糖は貴重な存在であり、ふんだんに砂糖を使用したお菓子は、富の象徴とみなされていました。そのため、甘いお菓子は特別な機会に楽しまれることが多かったのです。
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