ブラムリーアップル:酸味と風味を活かす万能調理りんごの魅力
鮮やかな緑色が目を引くブラムリーアップル。生でかじると、その強烈な酸味に思わず顔をしかめてしまうかもしれません。しかし、その酸味こそが、このりんごが持つ最大の魅力なのです。加熱することで酸味がまろやかになり、りんご本来の芳醇な香りが際立ちます。ジャムやパイ、お菓子作りはもちろん、肉料理のソースにも使える万能さが魅力。今回は、ブラムリーアップルの知られざる魅力と、その風味を最大限に活かすレシピをご紹介します。

ブラムリーアップルとは?基本情報と惹かれる理由

ブラムリーアップルという名前を聞いたことはありますか? 特有の酸味が際立つ、この調理用青りんごは、生のままでは想像以上に酸っぱいものの、りんご本来の豊かな風味を確かに感じさせてくれます。この性質から、ジャム、ゼリー、ジュース、シードル、アップルパイ、焼き菓子、さらには肉料理のソースなど、実に多岐にわたる料理でその力を発揮する、非常に使い勝手の良い品種です。ブラムリーファンクラブのブログによれば、このりんごには際立った4つの特徴があるとのこと。まず「際立つ酸味と控えめな甘さ」。この酸味こそが、加熱調理時に他の素材と調和し、絶妙なバランスを生み出す鍵となります。次に「加熱すると、滑らかに溶けるように煮崩れる」点。この特性により、例えばアップルパイのフィリングを作る際、皮を剥くだけで手軽に理想的なとろみと食感を得られます。3つ目は「加熱後も、香りが損なわれない」こと。形が崩れても、りんごの芳醇な香りは失われず、料理全体に風味豊かなアクセントを添えてくれます。そして最後に「ビタミンCが豊富」であること。美味しさだけでなく、栄養面でも優れており、健康的な食生活をサポートします。これらの要素が組み合わさることで、ブラムリーアップルは他の調理用りんごにはない独特の魅力を放ち、多くの料理好きから愛されています。

ブラムリーアップルの歴史と世界、そして日本での広がり

日本ではまだ馴染みが薄いブラムリーアップルですが、実はイギリスではりんご生産量の4割以上を占めるほど、非常に一般的な品種として広く知られています。育てやすく、長期保存も可能なため、戦時中には国策として各家庭の庭に植えることが推奨された歴史があり、その普及ぶりは「どの家にも植えられている」という点で、日本の柿の木のような存在と言えるでしょう。日本での生産はまだ限られていますが、長野県の小布施町や飯綱町などで栽培が試みられています。「栗の町」として知られる小布施町は、約20年前から新たな特産品としてりんごに着目し、英国王立園芸協会から取り寄せた苗木を使ってブラムリーの栽培を始めました。調理用りんごであるため、一般的な生食用りんごとは異なり、収穫時に傷があったり、大きさが不揃いだったりすることもありますが、もちろん品質に問題はありません。むしろ、それこそが調理用としての個性とも言えます。さらに、ブラムリーには心温まるエピソードがあります。19世紀初頭にイギリスで、ある少女が庭に蒔いたりんごの種から偶然生まれたのが始まりだと言われています。それ以来、各家庭の庭で育ち、家族の歴史を見守ってきたという物語は、ブラムリーが単なる食材としてだけでなく、人々の生活に寄り添い、深く愛される理由の一つとなっています。

ブラムリーアップルの調理特性とバラエティ豊かな活用方法

ブラムリーアップルは、その独特な調理特性を理解することで、実に様々な料理に応用できます。加熱するとすぐに煮崩れてしまうため、アップルパイや煮込み料理には最適です。生のままでは強い酸味があるため、加熱しても甘みが増すわけではありませんが、そこに「たっぷりの」砂糖を加えることで、酸味と甘みのバランスがとれた、風味豊かなピューレが完成します。このピューレは、そのままパンに塗ったり、ヨーグルトに混ぜたりして楽しむことができるだけでなく、様々な料理のベースとしても活用でき、もちろん濃厚なスープの材料としても最適です。具体的なレシピとしては、「ブラムリーのポタージュ」があります。これは、ブラムリーのポタージュに、蒸し鶏とブラムリーをオリーブオイルと塩で和えたマリネをトッピングすることで、異なる食感と風味が楽しめる一品です。また、「アボカドのポタージュ」に甘いブラムリーのピューレを添えると、アボカドのクリーミーさとブラムリーの爽やかな甘酸っぱさが絶妙に調和し、ちょっとおしゃれで洗練された味わいになります。さらに、ブラムリーのピューレでマリネしてからオーブンで焼き上げたチキンは、肉汁を煮詰めたソースをかけることで酸味が和らぎ、ほんのりとりんごの香りがするローストチキンへと変わります。意外な組み合わせとしては、生のブラムリーとチョコレートの組み合わせも試されています。生では食べにくいブラムリーの強い酸味がチョコレートによって中和され、そのしっかりとした風味がチョコレートにも負けない相性の良さを見せるのです。実際にスープラボでカットしたブラムリーを初めて口にした参加者の方々は、その独特の風味に驚き、強い興味を示していました。「上品な味わい」という感想や、「香りがルバーブに似ている」という具体的な表現も聞かれ、ブラムリーが持つ奥深い魅力が参加者に深く印象付けられました。

ブラムリーアップルで作る「アップルジェリー」の魅力とこだわりのレシピ

ブラムリーアップルの魅力を最大限に引き出すものの一つが、その強い酸味と豊富なペクチンを活かした「アップルジェリー」です。毎年9月上旬頃にスープ作家の有賀薫さんが作られるアップルジェリーは、「美しく、儚く、まるで天使の食べ物」と評され、多くの人々を魅了してきました。このジェリーは、りんごに含まれる天然のペクチンとクエン酸に糖分を加えて反応させることで、りんごのエキスをジェリー状に凝固させたもので、ゼラチンで果汁を固めたゼリーよりも、さらに甘く、ジャムのような深い味わいが特徴です。美しい茜色の透明感はまさに芸術的で、口に含むと儚く溶けていくその食感と、一度食べたら忘れられない美味しさは、格別です。りんごのペクチンは特に皮と実の間、そして種と芯の周りに多く含まれているため、アップルジェリーを作るには小ぶりのブラムリーが適しているという仮説があります。小ぶりの方が、重量に対する皮の表面積の割合が高くなり、より多くのペクチンを抽出できる可能性があるからです(ただし、この点についてはさらなる検証が必要です)。シンプルな材料ながらも奥深いこのレシピは、作る過程もまた魅力的で、仕上がりの状態を見極めるポイントが数多く存在するため、毎年作りたくなるほどの魅力があります。

1、ブラムリーを丁寧に洗う

アップルジェリー作りの最初のステップは、ブラムリーを丁寧に洗うことです。皮やヘタもそのまま煮るので、ブラシなどを使って、ヘタの周りや窪みの奥の汚れまでしっかり落としましょう。

2、水からじっくり煮込む

洗ったブラムリーを大きめの鍋に入れ、水を加えます。水の量は、ブラムリーが浸る程度で調整してください。最初はブラムリーが水面から出ていても、加熱するうちに柔らかくなるので心配ありません。沸騰後、しばらくするとブラムリーの色が変わり始め、さらに煮込むと皮が破れて果肉が崩れてきます。均等に加熱されるように、時々混ぜながら、全体がドロドロになるまで煮込みます。焦げ付かないように注意しながら、煮詰めていきます。煮詰めることで、より濃厚なエキスが得られます。水分が足りなくなってきたら、途中で水を足しても構いません。ただし、水の量を増やしすぎると風味が薄くなるので、注意が必要です。

3、布袋でじっくりエキスを濾す(絞らないことが鍵)

ドロドロになったブラムリーを、布袋をセットしたザルにあけ、煮汁ごと全て入れます。熱いので火傷には十分注意してください。エキスが自然に滴り落ちるのを待ちます。この時、絶対に絞ってはいけません。絞ると果肉が混ざり、ジェリーが濁ってしまいます。一晩かけてゆっくりと濾すことで、透明度の高い美しいジェリーを作ることができます。布袋を吊るす場所がない場合は、ボウルなどにザルを置いて、冷蔵庫に入れて濾過することも可能です。時間が経つにつれて、透明なエキスが溜まっていく様子は、まさに忍耐の賜物です。
4、砂糖を加えてエキスを計量
丁寧に濾過されたエキスは、まだ少し濁りのあるリンゴジュースのような外観です。しかし、加熱することでこの濁りは消え、透明になるのでご安心ください。砂糖の量を正確に決めるために、まずボウルにエキスを移し、その重量を測定します。私の経験では、ブラムリー2kgと水2Lを使用した場合、約1366gのエキスが得られました。これは、料理研究家の有賀薫さんの過去のレシピで毎回1800g程度だったという量よりもやや少ない結果です。この差は、使用したブラムリーのサイズ(私のものは比較的小ぶりでした)や、芯や皮などの固形分が濾し袋に多く残ったことが原因として考えられます。一般的に、エキスの重量の約80%の砂糖を加えるのが目安とされています。この場合、約1092gとなりますが、私は使いやすさを考慮してグラニュー糖1000gを使用しました。この段階で正確に計量し、砂糖の量を決定することが、最終的なジェリーの風味を左右する重要なポイントです。
5、煮詰めて適切な濃度にする
いよいよ、エキスと砂糖を煮詰める重要な工程です。有賀薫さんが参考にされた辰巳芳子さんのレシピでは、エキスを先に煮詰めてから砂糖を加える方法が紹介されていますが、砂糖が溶けにくいという理由から、有賀薫さんのレシピではグラニュー糖を最初に全量投入し、火にかけて溶かします。ここでグラニュー糖を選ぶ理由は、その純度の高さにあります。ミネラルなどの不純物が少ないため、時間をかけて丁寧に濾過したエキスの美しい透明感を損なうことがありません。きび砂糖などを使用すると、色が濃くなり、このジェリーの魅力である、透き通った美しい茜色が失われてしまいます。砂糖が完全に溶けて沸騰すると、不思議なことに、少し濁っていたエキスが見る見るうちに透明に変化します。煮詰まり具合を確認するには、ステンレス製のプレートや小皿に少量を取り、冷やして固まるかどうかを確認します。この時点でまだ緩いようであれば、さらに煮詰める必要があります。エキスを煮詰めている間、並行して保存用の瓶を煮沸消毒しておきましょう。熱い状態の瓶を安全に扱うためには、哺乳瓶用のトングのような道具があると非常に便利です。
6、滅菌した瓶に詰めて保存性を高める
エキスが程よく煮詰まり、冷やし固めてみて理想的な固さになったら、火を止め、煮沸消毒済みの清潔な瓶に丁寧に詰めていきます。この際、写真の左上に白っぽく見えるアクと一緒に固まったペクチンの固形分が混入しないように、細心の注意を払うことが大切です。有賀薫さんは、瓶に詰める際に目の細かいザルを重ねて濾していましたが、適切なサイズのザルがない場合は、じょうごに茶こしを重ねたり、固形分を避けながらレードルで静かに注ぎ入れるなどの工夫が必要です。ただし、茶こしの目が細かすぎると詰まってしまう可能性があるので注意が必要です。瓶に詰め終わったら、しっかりと蓋を閉め、瓶ごと再度煮沸消毒することで、保存期間が格段に長くなります。長期保存を目的とする場合は、この一手間を惜しまないことが重要です。私の経験では、ブラムリーエキス1366gにグラニュー糖1000gを使用した結果、100~130ml程度の小さめの瓶で10本強のジェリーが出来上がりました。使用した材料の量から考えると、まずまず妥当な量と言えるでしょう。

アップルジェリー作りのポイントと今後の課題

初めてのアップルジェリー作りとしては、概ね満足のいく出来栄えでした。しかし、さらに完璧な仕上がりを目指す上で、いくつかの改善点も見つかりました。例えば、透明感が若干不足している点や、微細な固形分が混入したような影が見られる点などです。これらの課題は、次回の挑戦に向けて改善できる部分です。長年憧れていたアップルジェリー作りは、実際に体験してみると、予想通り手間と時間がかかるものでしたが、それ以上に、仕上がりの状態を見極めるための重要なポイントが数多く存在し、非常に奥深いものでした。この達成感と奥深さこそが、多くの人が毎年このジェリーを作りたくなる理由なのだと実感しました。来年、再び新鮮なブラムリーが手に入る時期には、今回の貴重な経験を活かして、さらに高品質なアップルジェリー作りに挑戦したいと思います。

ブラムリーアップルを余すことなく!自家製アップルバターのレシピ

自家製アップルジェリーを作る際、どうしても出てしまうのが、煮詰めた後のリンゴの繊維質。捨てるのはもったいないと感じつつも、使い道に困ってしまう方もいるのではないでしょうか。以前、大量のリンゴペーストを持て余してしまった経験を持つ方も、この方法なら安心です。そこで、今回はこのリンゴの繊維質を、風味豊かな「アップルバター」として生まれ変わらせるアイデアをご紹介します。ここでご紹介するアップルバターは、バターを混ぜたジャムとは一線を画し、リンゴそのものの美味しさを凝縮した、濃厚なスプレッドです。まるでピーナッツバターにピーナッツが含まれていないように、リンゴのピュレと砂糖のみをじっくり煮詰めて作ります。ブラムリーアップルの個性を最大限に引き出し、無駄なく美味しく味わえる、とっておきの活用術です。

簡単アップルバター:材料、作り方、アレンジレシピ

アップルバターの材料はシンプル。アップルジェリーを作った際に残ったブラムリーアップルの果肉(ピュレ)と、お好みの砂糖だけです。まずは、濾した後のリンゴの繊維を、裏ごし器などで丁寧に濾し、滑らかなピュレ状にしましょう。まるで栗きんとんのような見た目になります。次に、鍋にピュレを移し、砂糖を加えてじっくりと煮詰めます。砂糖の量はお好みで調整し、味を見ながら加えていくのがおすすめです。煮詰めるにつれて、ピュレの色は徐々に濃くなり、最終的にはキャラメルのような美しい色合いに変化します。水分が蒸発し、バターのような固さになれば完成です。完成したアップルバターは、煮沸消毒した清潔な瓶に入れ、しっかりと蓋をして保存しましょう。水分をしっかり飛ばしてあるので、長期保存も可能です。パンやスコーンに塗るのはもちろん、パイ生地に練り込んだり、生クリームと混ぜてお肉料理のソースにしたり、フレッシュチーズと合わせてデザートにするのもおすすめです。ブラムリーアップルでアップルジェリーを作った際には、ぜひアップルバターも作ってみて、ブラムリーの魅力を存分にお楽しみください。

日本におけるブラムリーアップルの可能性と未来への展望

調理用リンゴとして知られるブラムリーアップルは、日本国内でも徐々にその名が知られるようになってきました。業務用としての需要も着実に増加しており、近い将来、一般のスーパーマーケットでも気軽に購入できるようになるかもしれません。先日開催されたスープラボでは、紅玉リンゴを使ったスープと共に、ブラムリーアップルの魅力や、調理用フルーツの可能性について語り合われました。ブラムリーファンクラブ会員の方のお話は、参加者に新たな発見をもたらし、ブラムリーへの関心をさらに深めるきっかけとなりました。来年の開花時期には、長野県小布施町や飯綱町のリンゴ園を訪れて、実際にブラムリーの花を観賞したいという声も上がっています。ブラムリーに関する詳しい情報は、ブラムリーファンクラブのブログでチェックできます。

まとめ

ブラムリーアップルは、イギリス生まれの伝統的な調理用リンゴです。その特徴は、強い酸味と加熱後の風味の良さ。様々な料理に活用できる万能さが魅力です。日本では、長野県の小布施町や飯綱町を中心に栽培されており、徐々にそのファンを増やしています。特に、酸味と豊富なペクチンを活かした透明感のある「アップルジェリー」は格別。そして、ジェリーを作る際に残った果肉を活用した「アップルバター」も、ブラムリーの美味しさを余すところなく味わえる素晴らしい方法です。アップルパイ、お肉料理のソース、スープなど、ブラムリーの可能性は無限大。あなたの食卓に、きっと新たな驚きと感動を与えてくれるでしょう。今後、より多くの場所でブラムリーアップルが手に入るようになることを願っています。

質問:ブラムリーアップルとはどのような種類のリンゴですか?

答え:ブラムリーアップルは、イギリス生まれのクッキングアップルとして知られています。生のままでは強い酸味が際立ちますが、加熱することで果肉がほどけるように柔らかくなり、リンゴ本来の風味と芳醇な香りが際立ちます。ジャムやゼリー、アップルパイなどのスイーツから、肉料理のソースまで、幅広い用途で活躍します。際立った酸味、加熱後も失われない香り、そして豊富なビタミンC含有量が、その特徴です。

質問:ブラムリーアップルは日本でも育てられていますか?

答え:はい、日本国内でも栽培されています。中でも長野県小布施町は、約20年前に英国王立園芸協会から苗木を導入し、栽培を始めたパイオニアとして知られています。近年では飯綱町などでも栽培が広がり、日本における認知度と取扱量は着実に増加しています。

質問:ブラムリーアップルのおすすめの調理方法は?

答え:ブラムリーアップルは、加熱調理との相性が抜群です。定番のアップルパイやアップルゼリーはもちろん、煮崩れしやすい性質を利用して、甘酸っぱいピューレにしてジャムやスープのベースとして活用したり、鶏肉のローストなどの肉料理に、マリネ液やソースとして添えるのもおすすめです。酸味を活かしたポタージュも人気です。生食する場合は、チョコレートなどと組み合わせることで酸味が和らぎ、独特の風味を楽しむことができます。
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