甘くて美味しいバナナ、そのイメージからは想像しにくいかもしれませんが、かつてのバナナには硬い種がありました。私たちが普段口にするバナナは、品種改良によって種なしとなったもの。しかし、よく観察すると、果肉の中に小さな黒い点々が見つかります。それは、種があった頃の名残。この記事では、バナナの種の痕跡を辿りながら、品種改良の秘密に迫ります。
バナナの種はどこに? 種なしバナナの秘密
私たちが普段口にしているバナナには、種らしいものが見当たりません。それは、現在広く流通しているバナナの品種が、種なし品種だからです。しかし、バナナの中心部分を注意深く観察すると、小さな黒い粒々が多数存在することに気づくでしょう。これらは、かつて種であった痕跡です。食用として栽培されているバナナは種なし品種ですが、その果実の中には、ごくわずかな種の痕跡が残っています。
野生種と栽培種:バナナの進化の過程
バナナは、マレー半島やフィリピンなどの熱帯アジア地域が原産とされる果物です。野生種のバナナには、小豆ほどの大きさの種子がたくさん詰まっています。私たちが食べている種なしバナナは、長い年月をかけて人類が栽培と品種改良を重ねて作り出したもので、その歴史は紀元前5000年頃まで遡ると考えられています。野生のバナナを採取して栽培する過程で、受粉しなくても大きな実をつける株が発見され、さらに花粉を作らない株を選抜することで、種がなく、大きく、食べやすく、美味しいバナナの品種が誕生したと考えられています。M.×paradisiacaには数百種類もの栽培品種が存在し、それぞれに多様な特徴がありますが、おおむね祖先種の中間的な性質を受け継いでいます。これらの品種は、成熟すると高さ2~9m程度に成長します。地上に見える部分は「偽茎」と呼ばれ、葉とそれらが重なり合ってできたものです。一つの偽茎からは、一度だけ花を咲かせる茎が伸びます。結実後、偽茎は枯れますが、植物の根元から新しい芽が出て、成長を続けます。M.×paradisiacaの栽培品種は、ほとんどが不稔性で、種子を作ることも、受粉能力のある花粉を作ることもありません。
種なしバナナの増やし方:挿し木と株分け
種がないバナナは、どのようにして増やせるのでしょうか? 実は、リンゴやナシなどの果樹でも、品種改良を目的とする場合を除き、種から増やすことは一般的ではありません。それぞれの植物に適した方法で増やしますが、挿し木や株分けなど、親株の一部を使って新たな個体を育てます。バナナの場合、通常は株元から生えてくる「吸芽」と呼ばれる子株を切り離し、それを次の苗として育てます。
バナナの学名と分類:Musa paradisiaca
バナナの学名はMusa×paradisiacaです。これは、Musa acuminata(マレーヤマバショウ)とMusa balbisiana(リュウキュウバショウ)の交雑種に対する総称として用いられます。現在栽培されているバナナの品種の多くは、この交雑種、またはマレーヤマバショウが起源であり、そのゲノム構成を受け継いでいます。リンネは当初、プランテン(調理用バナナ)に対してのみM. paradisiacaという学名を適用しましたが、現在では、調理用とデザート用の両方に用いられる交雑栽培品種を指す名称として使われています。リンネが命名したMusa sapientumは、現在ではMusa×paradisiacaのシノニム(同義語)として扱われています。Musa paradisiacaは、ラテン語で「楽園から来た」という意味を持ち、バナナが楽園の果実であると信じられていたことを示唆しています。
品種改良の歩み:美味と栽培の容易さを求めて
栽培バナナが自生のあった琉球列島から北西方向に伝播する過程で、異なる2種が交配し、そこから多様な品種群へと進化を遂げました。かつて植物学者は、バナナやプランテンの膨大な品種を整理するため、多くの学名を付与しました(例えば、雄牛の角のような大きな果実をつけるプランテンにはM. corniculata Lour.という名が与えられました)。しかし現在では、これらは全てM.×paradisiacaの同義語として扱われています。現在では、品種名が与えられ、群や亜群に分類されています。例として、M.×paradisiaca 'Horn' はAABゲノム群のプランテン亜群に属します。
まとめ
日頃、私たちが当たり前のように食しているバナナですが、その背景には、長い年月を費やした品種改良の歴史と、生産者のたゆまぬ努力があります。種無しバナナの秘密を知ることで、バナナという果物の魅力をより深く感じていただければ幸いです。
質問:なぜ、店頭で売られているバナナには種がないのでしょうか?
回答:私たちが普段口にしているバナナの多くは、品種改良によって種がなくなったものです。野生種のバナナには種が存在しますが、栽培種は人の手によって種なしのものが選択され、増やされてきました。
質問:種なしバナナはどのようにして増やしているのですか?
回答:種なしバナナは、種子を使って繁殖させることができません。一般的には、親株の根元から出てくる「吸芽(きゅうが)」と呼ばれるものを切り分け、それを植え付けることで増やしていきます。
質問:バナナの中にある黒い点の正体は?
回答:バナナの果肉に見られる黒い小さな粒は、過去に種として存在していたものの痕跡です。現在流通している種なしバナナも、完全に種が消失したわけではありません。