近年、健康的な食品として人気のアーモンドですが、その一方でアーモンドアレルギーに悩む人も少なくありません。口のかゆみやじんましんといった軽度な症状から、呼吸困難やアナフィラキシーショックといった重篤な症状まで、その現れ方は様々です。本記事では、アーモンドアレルギーの症状や原因を詳しく解説し、日々の食生活で注意すべき食品についてご紹介します。
アーモンドアレルギーとは?
アーモンドアレルギーは、バラ科植物に分類されるアーモンドの摂取が原因で起こる食物アレルギーの一種です。症状は多岐にわたり、口内の痒み、腫れ、不快感、ふらつき、嘔吐、腹部の痛み、蕁麻疹などが代表的です。深刻な場合には、呼吸困難やアナフィラキシーといった生命に関わる事態を引き起こす可能性もあります。
健康意識の高まりから、近年ナッツ類の消費が増加しており、それに伴いアーモンドアレルギーを発症する方も増えています。アーモンドは、お菓子、飲み物、調味料など、様々な加工食品に利用されているため、アレルギー体質の方は製品ラベルの原材料表示をしっかり確認することが重要です。
アーモンドアレルギーの原因とリスク
アーモンドアレルギーは、身体の免疫システムがアーモンドに含まれる特定のタンパク質を敵とみなし、過剰に反応することで起こります。この免疫反応が、体の様々な箇所に影響を与え、様々な症状を引き起こすことがあります。
ナッツアレルギーの主な原因は、9種類のナッツ(クルミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、ピーカンナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、ブラジルナッツ、松の実)です。アジア原産のアーモンドは、豊富な脂肪分とタンパク質を含み、少量ながら鉄分、カルシウム、リン、ビタミンA、B群、Eなどの栄養素も含む種実です。アーモンドには苦味種と甘味種があり、苦味種は主に油の抽出に利用され、甘味種はそのままスナックとして食べたり、焼き菓子の材料、ミルクやバターの原料として用いられます。
アーモンドアレルギーの症状:軽度から重度まで
アーモンドアレルギーの症状は、摂取した量や個々人の感受性によって異なり、軽いものから重いものまで様々です。多くの場合、アーモンドを摂取してから数分以内に症状が出始め、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器など、体の色々な部位に影響を及ぼします。
皮膚症状
最もよく見られる症状の一つが、かゆみや蕁麻疹です。これらの症状は、皮膚の一部だけに現れることもあれば、全身に広がることもあります。また、湿疹や皮膚の赤みなども起こることがあります。
粘膜の症状
口内、鼻腔、咽喉などの粘膜に異変が生じるケースも見られます。具体的には、口腔内のかゆみや膨張感、鼻水の分泌、喉の違和感などが代表的です。これらの症状は、不快感をもたらし、普段の生活に悪影響を及ぼすことがあります。
呼吸器の症状
重篤なケースでは、呼吸器系に症状が現れることがあります。喉の腫れや呼吸困難は、呼吸を阻害し、生命を脅かす事態に発展するおそれがあります。喘鳴(呼吸時にヒューヒュー、ゼーゼーという音が発生する状態)も呼吸器症状の一つです。
消化器の症状
腹部の痛み、むかつき、嘔吐、下痢といった消化器系の症状も、アーモンドアレルギーにおいてよく見られる症状です。これらの症状は、消化器官の炎症や過剰な反応が原因となり、食欲減退や脱水症状を引き起こすこともあります。
アナフィラキシー(重度のアレルギー反応)
最も深刻な症状として、アナフィラキシーショックが挙げられます。これは、全身に及ぶ重度のアレルギー反応であり、呼吸が困難になったり、血圧が低下したり、意識を失ったりする可能性があります。アナフィラキシーショックは、迅速な処置が不可欠であり、手遅れになると生命に関わる危険な状態に陥ります。
アーモンドアレルギーと口腔アレルギー症候群(OAS)
アーモンドに対するアレルギーを持つ方の中には、口腔アレルギー症候群(OAS)を発症するケースが見られます。OASとは、花粉症などのアレルギー体質の方が、特定のフルーツ、野菜、木の実などを口にした際に、口内や喉にかゆみ、腫れ、いがらっぽさといった症状が現れるアレルギー反応の一種です。これは、食物と花粉に含まれるタンパク質の構造が似ているために生じる、交差反応と呼ばれる現象が原因です。
多くの場合、OASの症状は比較的軽いものですが、ごくまれに重篤化する可能性もあるため、注意が必要です。アーモンドアレルギーがあり、生の果物や野菜、ナッツ類を摂取した際に口や喉に不快感を覚える場合は、OASの可能性を考慮し、専門医に相談することを推奨します。
アーモンドアレルギーと交差反応:注意が必要な食品
アーモンドアレルギーを持つ方は、アーモンドと類似した構造のタンパク質を含む食品に対してもアレルギー反応を引き起こすリスクがあります。この現象を交差反応と呼び、特にバラ科の果実やナッツ類において発生しやすいことが知られています。
アーモンドと交差反応を起こしやすい食品の例としては、リンゴ、桃、梨、さくらんぼ、イチゴといったバラ科の果物や、クルミ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツなどのナッツ類が挙げられます。これらの食品を摂取する際は、少量から試すなど、慎重な対応が求められます。
また、ラテックスアレルギーをお持ちの方は、特定の果物や野菜との間で交差反応が起こることが知られています。アーモンドとラテックスの間には直接的な関連性はありませんが、複数のアレルギーを持つ方は、より広範囲の食品に対して注意を払うことが大切です。
アーモンドアレルギーの診断方法:アレルギー検査の種類
アーモンドアレルギーが疑われる場合、正確な診断を受けるために、医療機関を受診することが非常に重要です。診断を行う際には、問診、皮膚テスト、血液検査などが実施されます。
問診
医師はまず、患者さんの症状、過去の病歴、家族歴などを詳細にヒアリングします。症状がいつ、どのような状況で現れたのか、どのような食品を摂取したのかなど、詳細な情報が診断における重要な手がかりとなります。
皮膚テスト
アレルギー検査としての皮膚テストには、主にプリックテストと皮内テストがあります。プリックテストでは、微量のアレルゲン抽出液を皮膚に垂らし、小さな針で皮膚表面を軽く刺激して反応を見ます。皮内テストでは、さらに少量を皮膚内に注射して反応を観察します。これらのテストで陽性反応が認められた場合、アーモンドに対するアレルギーの疑いが強まります。
血液検査
血液検査では、血中の特異的IgE抗体の量を調べます。IgE抗体はアレルギー反応を引き起こす物質で、アーモンドに対するIgE抗体の数値が高いと、アーモンドアレルギーの可能性が高いと判断されます。血液検査は、皮膚テストが適さない場合や、皮膚テストの結果をより確実にするために実施されることがあります。
アーモンドアレルギーの治療と対策:症状緩和と緊急時の対応
現時点では、アーモンドアレルギーを根本的に治癒させる治療法はありません。したがって、主な対策としては、アーモンドを摂取しないように徹底することと、症状が出た際の対症療法が中心となります。
アーモンドの除去
最も重要な対策は、食事からアーモンドを完全に排除することです。加工食品を購入する際は、原材料表示を細かくチェックし、アーモンドそのものだけでなく、アーモンドオイルやアーモンドパウダーなどの派生成分が含まれていないかを確認することが不可欠です。レストランなどで食事をする際も、アーモンドが料理に使用されていないか、店員に必ず確認するようにしましょう。
症状を和らげるための医薬品
軽度な症状、例えば発疹やかゆみなどが見られる場合、抗ヒスタミン剤やステロイド外用薬が有効です。これらの医薬品は、アレルギー反応を抑制し、不快な症状を鎮める効果が期待できます。
アナフィラキシーへの対処法
アナフィラキシーは、生命を脅かす深刻な状態です。万が一、アナフィラキシーショックが発生した際は、速やかにアドレナリン自己注射薬(エピペン)を投与し、緊急車両を手配してください。エピペンは、医師の診断に基づき事前に処方されるもので、アーモンドアレルギーをお持ちの方は常時携帯することが推奨されます。
アーモンドアレルギーの方が気を付けるべき食品と表示について
アーモンドは、多くの食品に利用されているため、アーモンドアレルギー体質の方は、製品の原材料表示を細心の注意を払って確認することが大切です。特に、お菓子、パン、チョコレート、アイスクリーム、シリアル、飲み物、ソースなどには、アーモンドそのものや、アーモンドオイル、アーモンドパウダーなどが含まれている可能性を考慮する必要があります。
また、アーモンドは食品表示法で「特定原材料に準ずるもの」としてアレルギー表示が推奨されていますが、必ずしも表示が義務付けられているわけではありません。そのため、表示がない場合でも、アーモンドが使用されている可能性を念頭に置くことが重要です。
レストランなどで食事をする際には、アーモンドが使用されているかどうかを店員に確認することが不可欠です。特に、洋菓子やエスニック料理には、アーモンドが頻繁に使用される傾向があるため、注意が必要です。
2019年9月19日付けで消費者庁から出された通知により、アーモンドは「特定原材料に準ずるもの」としてアレルギー表示の推奨品目に追加されました。この追加により、推奨品目は21品目となり、表示が義務付けられている7品目と合わせて、「特定原材料等」は合計28品目となりました。
<特定原材料等>
表示が義務付けられている7品目(特定原材料)
えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生
表示が推奨される21品目(特定原材料に準ずるもの)
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
ただし、アーモンドは推奨表示であるため、表示するかどうかの判断は各事業者に委ねられています。そのため、現在でも27品目のみを対象とした表示ラベルが存在することに注意が必要です。
「28品目対象」と記載された表示にはアーモンドが含まれていますが、「27品目対象」の表示や、対象品目が明記されていない表示には注意が必要です。
アーモンドアレルギーにおける緊急時の対応:エピペンの使い方
アナフィラキシーショックは、命に関わる危険な状態です。アナフィラキシーショックが発生した場合は、迷わずアドレナリン自己注射薬(エピペン)を投与し、救急車を要請してください。
エピペンの使用手順は以下の通りです。
- エピペンを利き手でしっかりと握り、保護キャップを取り外します。
- 太ももの外側にエピペンの先端を垂直に、力強く押し当ててください(衣服の上からでも問題ありません)。
- 「カチッ」という音がするまで押し付けた状態を保ち、そのまま10秒間静止します。
- エピペンを引き抜き、注射部位を軽くマッサージします。
- 速やかに救急車を呼び、医療機関へ搬送してください。
エピペンは、あくまでも一時的な応急処置として使用するものであり、必ず専門医の診察を受ける必要があります。また、エピペンの使用期限を定期的に確認し、期限切れのものは使用しないよう注意してください。
ナッツアレルギー研究の最前線と未来への期待
近年、ナッツアレルギーの研究は活発化しており、革新的な治療法や予防策の創出が期待されています。経口免疫療法(OIT)は、アレルゲンをごく少量ずつ摂取し、身体を慣らすことでアレルギー反応を抑制する治療法であり、ナッツアレルギーへの効果が注目されています。さらに、遺伝子工学を駆使した低アレルゲン食品の開発も進められています。
今後の展望としては、より安全で有効な治療法の確立、アレルギー発症リスクの早期特定、そしてアレルギーを持つ人々が安心して暮らせる社会の実現が挙げられます。これらの目標達成のためには、研究者、医療関係者、食品製造業者、政府機関などが協力し、包括的な対策を推進していくことが不可欠です。
まとめ
アーモンドアレルギーは、日常生活に大きな制約をもたらす可能性のあるアレルギーです。しかし、正しい知識を身につけ、適切な対策を講じることで、症状を管理し、安心して生活を送ることができます。この記事が、アーモンドアレルギーを持つ方々、そして周囲の方々にとって、少しでも助けになれば幸いです。
質問:アーモンドアレルギーは大人になってからでも発症しますか?
回答:はい、食物アレルギーは、生まれつきだけでなく、後天的に発症する可能性もあります。大人になってからでも、突然ナッツアレルギーを発症するケースがあるため、注意が必要です。以前は問題なく食べられていたとしても、大人になってから急にアレルギー症状が現れることもあります。
質問:アーモンドアレルギーの人がピーナッツにも注意が必要なのはなぜですか?
回答:ピーナッツは名前こそ「ナッツ」とついていますが、実際には豆類に分類されます。しかし、ナッツアレルギーを持つ人が、ピーナッツに対してもアレルギー反応を起こすことがあるため、注意が必要です。アメリカでは、ピーナッツは主要なアレルゲンの一つとして認識されています。
質問:アーモンドアレルギーの症状が現れたら、すぐに病院に行くべきでしょうか?
回答:はい、ナッツ類のアレルギー症状が出た場合は、適切な対応が必要となることがあります。特に、呼吸が苦しくなったり、アナフィラキシーショックのような重い症状が出た場合は、生命の危険もあるため、直ちに救急車を呼ぶなどの処置が必要です。アレルギーの可能性がある場合も、医療機関を受診してアレルギー検査を受けることを推奨します。