アケビ

秋の山野を彩るアケビ。鮮やかな紫色の果実が熟すと、パカッと割れて顔を出す白い果肉は、自然からの贈り物です。その甘くどこか懐かしい風味は、秋の味覚として古くから親しまれてきました。アケビは、果実だけでなく、若芽や皮も食用になる万能な山菜。この記事では、アケビの魅力に迫り、その特徴や美味しい食べ方、栽培方法までを詳しくご紹介します。アケビを味わい、里山の恵みを存分に楽しんでみませんか?

アケビとは?基本情報と特徴

アケビ(学名:Akebia quinata)は、アケビ科アケビ属に分類されるつる性植物の総称です。日本各地の山野で見られ、他の樹木に絡みつきながら成長します。秋には特徴的な楕円形の果実を実らせ、熟すと果実が縦に裂け、中から甘い果肉と黒い種が現れます。この果実が割れる様子から「開け実」と呼ばれるようになったと言われています。かつてはアケビの甘い果実が食用とされていましたが、現在では果皮や若芽を山菜として利用するのが一般的です。庭の垣根などに2品種を2株植えておくと、観賞用としても楽しめ、春には若芽、秋には果実を味わうことができます。

アケビの多様な名称:地方名と由来

アケビは地域によって様々な呼び名があります。例えば、アケビカズラ、アケビヅル、アクビ、アクミ、アケツビ、イシアケビ、キノメなどです。興味深いことに、地方名の中には女性器を連想させる「ツビ」という言葉が含まれており、別名のヤマヒメ(山姫)やサンジョ(山女)も、果実が「開け実」であることに由来すると考えられています。中国植物名としては木通(もくつう)という名前で知られています。アケビの新芽は山菜として重宝され、新潟県ではキノメやコノメ、山形県ではモエ、モイ、ヤマヒメなどと呼ばれています。

アケビの分布と生育環境

アケビは、北海道を除く本州、四国、九州に広く分布しており、日本国外では、朝鮮半島や中国にも分布しています。平地から山地にかけての日当たりの良い場所に自生し、河原、道端、やや日陰の多い藪地などで他の樹木に巻き付いて生息しています。

アケビの形態と生態:つる性植物の特性

アケビはつる性の落葉性木本であり、その茎はつる状になって、上から見て左巻き(Z巻き)に他の樹木に巻き付いて長く伸び、時間が経つにつれて木質化します。樹皮は暗灰褐色で、表面には細かいひび割れが見られます。枝は短枝を出しやすく、短枝には葉痕が重なるようにつきます。葉は短い柄を持つ5枚の小葉が集まった掌状複葉で、長い葉柄によって蔓(茎)につくか、2年目以降の枝から出た短枝の先に束生します。小葉は長さ3 - 6cm程度の狭長楕円形で、先端がわずかにへこんでいます。葉の縁には鋸歯はなく、全縁です。比較的、葉は冬でも残ることがあります。

アケビの花:独特な雌雄異花と受粉戦略

アケビは春、具体的には4月から5月にかけて花を咲かせます。特徴的なのは雌雄異花である点で、葉が展開した後に、短く伸びた枝の付け根から花序が垂れ下がり、薄紫色の花を咲かせます。花序の根元部分には、薄紫色でやや大きめの雌花が数個つき、その先端には、薄紫色で小さめの雄花が多数つきます。生育初期の株では、雄花をつけずに雌花のみの花序となることもよくあります。雌花の中央部には、甘い粘液が付着しており、昆虫がこの粘液に触れることで受粉が行われます。雌雄異花でありながら、その受粉のメカニズムにはまだ解明されていない部分が多く残されています。一説には、雌花が雄花に擬態することで、雄花の花粉を求めてやってくる小さな昆虫を誘い込み、受粉を成功させているのではないかと考えられています。昆虫が甘い粘液を摂取する際に、花粉が運ばれると考えられています。

アケビの果実:秋の恵みと種子散布の役割

アケビが実をつけるのは9月から10月にかけてです。受粉に成功した雌しべは成長して果実となり、一つの果柄に2~3個まとまって実ります。果実は細長い楕円形で、最大で6cmほどまで大きくなり、熟すと薄い灰紫色や黄褐色に変化します。「バナナアケビ」と呼ばれる品種は、果皮が淡い黄色になるのが特徴です。熟した果実は、雌しべが結合した線に沿って縦に裂け、中から乳白色で半透明な柔らかい胎座と、その中に埋もれた多数の黒い種子が現れます。種子は黒色で、直径5~6mm程度の偏平な楕円形をしており、果肉に覆われています。この胎座部分は甘みがあり食用可能で、鳥や獣に食べられることで、種子散布に貢献しています。

アケビの芽:冬を越すための工夫

アケビの冬芽は、枝に互い違いに生え、卵のような形をしており、長さは3~4mm程度です。茶褐色の芽鱗が12~16枚重なって芽を覆っています。葉が落ちた跡である葉痕は、楕円形から腎臓のような形をしており、少し盛り上がっています。維管束痕と呼ばれる組織の跡が6~8個見られます。

アケビを食草とする昆虫:生態系における役割

アケビは、アケビコノハの幼虫など、特定の昆虫にとって重要な食草となっています。アケビコノハの幼虫はアケビの葉を食べて成長しますが、静止している時や外敵から刺激を受けた際に、体を丸めて胸部にある目のような模様を誇示するという、独特の防御姿勢をとることが知られています。一方で、カメムシの仲間は、硬い口吻をアケビやブドウなどの果実に突き刺して果汁を吸うため、果樹園においては重要な害虫として認識されています。

アケビの栽培:庭での育て方と鉢植えのコツ

アケビは、種から育てることも、挿し木で増やすことも可能です。庭に植える場合は、棚を作ってアーチ状に仕立てたり、鉢植えで育てることもできます。品質の良いアケビを栽培するため、商業的にはミツバアケビ由来の品種がよく使われます。実を安定してつけるためには、人の手による受粉を行うこともあります。アケビは一本だけでは実がなりにくい性質(自家不結実性)を持つため、異なる品種を一緒に植えるなどの工夫が必要です。アケビとミツバアケビは自然に交雑しやすいので、ミツバアケビの品種にアケビを授粉樹として利用することもあります。また、3葉のアケビと5葉のアケビでは、実が熟す時期が2週間から4週間ほど異なります。

アケビと人間生活:食用、薬用、工芸への活用

アケビは、その蔓、葉、根、そして果実が、古くから薬草として利用されてきました。葉や果実、若芽は食用として親しまれ、観賞用としては盆栽や生け垣として楽しまれています。十分に成長した蔓は、籠を編むなど、様々な工芸品の材料として活用されています。

アケビを食す:果実、果皮、若芽を使った料理

アケビは秋、具体的には9月から10月頃に実が熟します。この時期に、果皮と、黒い種子を包んでいる白い果肉(胎座)を食べることができます。昔から、秋に実が割れたアケビは、山で遊ぶ子供たちにとって最高のおやつでした。食べ方としては、白いゼリー状の果肉をそのまま口に入れ、甘みを味わった後、中の種を吐き出します。半透明の果肉は、とろりとした食感でさっぱりとした甘さがありますが、種は苦いため取り除きます。また、種子ごと果肉を焼酎に漬け込み、アケビ酒(健康酒)として楽しむこともできます。

肉厚な果皮は独特のほろ苦さがあります。鶏ひき肉やシイタケなどの具材を細かく刻んで果皮に詰め、蒸し焼きや油で揚げる料理や、ひき肉の味噌炒めを詰めて焼く、あるいは刻んで味噌炒めにするなど、様々な調理法で食べられています。アケビの皮に詰め物をする際は、あらかじめ茹でこぼしてアクを抜いておくことで、苦味が和らぎます。アクを抜くために、一晩酢に漬けて梅酢漬けにしたり、塩漬けにした後、塩抜きをしてから調理する方法もあります。詰め物以外にも、果皮を細く切って和え物にするのもおすすめです。

春に芽吹く若芽も食用として楽しめます。採取の時期は、暖かい地域では3月から4月頃、寒い地域では4月から5月頃が適しています。東北地方などでは、春に20cmから30cmほどに伸び始めた蔓や、4月頃の若い葉を山菜として採取し、塩を少し加えたお湯で軽く茹でて水にさらし、おひたしや汁物の具、天ぷらなどにして食べます。若芽も果皮と同様にアクが強いため、茹でて冷水にさらしますが、アケビならではのほろ苦さと食感を残すため、さらしすぎには注意が必要です。その他、葉を乾燥させてアケビ茶として飲むこともあります。栄養面では、果肉にビタミンCが、果皮にはポリフェノールが豊富に含まれています。

アケビの種子油:希少な食用油

かつて秋田県の一部の地域では、アケビの種子を絞って食用油として利用していました。アケビの種子は油分を多く含んでおり、20リットルの種子から約3リットルの油を採ることができました。その昔は「食用油の王様」と呼ばれるほどの高級品でしたが、昭和初期に安価な食用油が普及したことで、次第に衰退していきました。しかし、2017年から旧阿仁町(現在の北秋田市)を中心に復活の試みが始まり、道の駅あににて再び商品として販売されるようになりました。

アケビの仲間たち:ミツバアケビ、ゴヨウアケビ、ムベ

アケビ属には、日本国内にいくつかの近縁種が存在します。これらの種類も、新芽や果実を食用とすることができます。代表的なものとしては、アケビ(Akebia quinata)、ミツバアケビ(A. trifoliata)、ゴヨウアケビ(A. xpentaphylla)などが挙げられます。アケビの仲間は自家不和合性を持つため、実をたくさんつけるためには、異なる品種を一緒に植えることが推奨されます。最も手軽な方法としては、アケビとミツバアケビを隣接して植えるのが効果的です。

また、アケビ属以外にも、アケビ科の植物としてムベ(ムベ属)が日本に自生しており、「トキワアケビ」という別名も持っています。ムベは、小葉の数が5~7枚と多く、葉が常緑で厚みがある点が特徴です。花はアケビとよく似ていますが、淡黄白色で半開し、内側に淡い紅紫色の筋が入ります。果実は熟しても裂開しないため、これらの特徴からアケビと容易に見分けることができます。

アケビの文化的側面:花言葉と地名

アケビの花言葉は、「才能」や「唯一の恋」とされています。

「山女(あけび)」という地名は、渓流に生息する魚の「ヤマメ」とは異なり、「アケビ」と読みます。古くからこの地域にはアケビが多く自生し、そのつるを利用して篭や魚籠などが盛んに作られていたことが、地名の由来になったという説があります。また、富山県にも宇奈月町明日と書いて「アケビ」と読ませる地名が存在します。

アケビの園芸:品種選びと栽培のポイント

アケビは、その独特な風味と美しい見た目から、家庭菜園でも注目を集めています。自生しているものを採取するだけでなく、品種改良された栽培種も流通しており、より手軽にアケビを楽しめるようになりました。実りの秋を迎えるためには、病害虫、特にうどんこ病への対策が重要となります。

まとめ

アケビは、その観賞価値、食用としての魅力、そして様々な活用方法を通じて、私たちの生活に潤いを与えてくれる植物です。この記事が、アケビの知られざる魅力を発見し、より親しみを感じるきっかけとなれば幸いです。庭での栽培に挑戦したり、自然の中で旬の味覚を堪能したり、あるいは薬草としての利用を検討したりと、アケビとの様々な関わり方を楽しんでみてください。

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