お寿司やお蕎麦の薬味として、独特の風味で料理を引き立てるわさび。あのツンとした辛さがたまらない!という方も多いのではないでしょうか。しかし、美味しいわさびを食べた後に、皮膚のかゆみやじんましん、鼻水やくしゃみといった不快な症状が現れることはありませんか?もしかしたら、それはわさびアレルギーかもしれません。本記事では、意外と知られていないわさびアレルギーについて、その症状や原因、そして日常生活で気をつけるべき対策について詳しく解説します。わさび好きさんも、そうでない方も、ぜひ一度チェックしてみてください。

わさびが引き起こすアレルギー反応:口腔アレルギー症候群(OAS)とは
食物アレルギーというと、牛乳や卵、小麦などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、わさびも「口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome: OAS)」というアレルギー反応を引き起こすことがあるのです。口腔アレルギー症候群とは、特定の果物や野菜を食べた際に、口や喉の痒み、腫れ、鼻水などの症状が現れるアレルギーです。特に、花粉症の方に多く見られることが知られています。
花粉症と食べ物には関連がないように思えますが、口腔アレルギー症候群の原因となる果物や野菜に含まれるタンパク質と、花粉に含まれるタンパク質の構造が似ているため、体が誤って反応してしまうのです。わさびの他にも、リンゴ、キウイ、セロリなどが原因となることがあります。近年、花粉症患者の増加に伴い、口腔アレルギー症候群も増加傾向にあり、花粉症患者の約1割が口腔アレルギー症候群を合併しているとも言われています。一般的な食物アレルギーは子供に多く、成長と共に改善することが多いですが、口腔アレルギー症候群は大人になってから発症することもあります。中には、長年、生の果物はもちろん、加熱した果物すら食べられないという方もおり、症状の深刻さが見て取れます。
わさびアレルギーを疑うべき具体的な症状とメカニズム
もし、わさびを摂取してから比較的早い時間(数分~1時間以内)に何らかの異変を感じた場合、わさびアレルギー、つまり口腔アレルギー症候群の可能性を考慮する必要があります。ここでは、わさびアレルギーの代表的な症状と、そのメカニズムについて詳しく解説します。

のどや唇のかゆみ
わさびアレルギーの典型的な症状の一つが、のどや唇の痒みです。これは、わさびに含まれるアレルゲンが、口の中の粘膜に触れることで起こります。アレルゲンが体内に入ると、免疫システムがそれを異物と認識し、IgE抗体というものが作られます。次に同じアレルゲンが体内に入ってくると、IgE抗体がアレルゲンと結合し、ヒスタミンなどの化学物質が放出されます。これらの物質が神経や血管を刺激することで、痒みが生じるのです。わさびを食べた後、すぐにのどや唇に痒みを感じた場合は、わさびアレルギーの初期症状かもしれません。
鼻水・鼻づまり
わさびアレルギーの症状としてよく見られるのが、鼻水や鼻づまりです。これは花粉症の症状とよく似ています。鼻水は、体に入ってきた異物を洗い流そうとする防御反応として分泌されます。風邪の時のように黄色く粘り気のある鼻水とは異なり、アレルギーによる鼻水は水のように透明で、さらさらとしていて、止まらずに出続けるのが特徴です。一方、鼻づまりは、鼻の粘膜が炎症を起こして腫れることで、鼻から喉への空気の通り道が狭くなるために起こります。この粘膜の腫れは、粘膜内の細胞から放出されるヒスタミンなどの物質によって引き起こされます。
せき・くしゃみ
せきやくしゃみも、花粉症と同様によく見られるアレルギー反応です。これらの症状は、体がわさびを異物と判断し、体外へ排出しようとする防御機能によって起こります。わさびの辛味成分であるアリルイソチオシアネートは揮発性が高く、鼻の奥がツーンとする感覚やくしゃみを引き起こすことがあります。しかし、この一時的な反応だけでなく、わさびを食べた後に何度もくしゃみが出たり、せきが止まらない、または他のアレルギー症状(のどや唇のかゆみ、頭痛、じんましんなど)が見られる場合は、わさびアレルギーを疑う必要があります。アレルギーによるせきやのどのイガイガ感は、わさびのアレルゲンが粘膜に触れることで起こります。また、鼻づまりがひどくなると口呼吸が増え、のどが乾燥しやすくなり、せきが出やすくなることも考えられます。
頭痛
わさびアレルギーの症状として、頭痛が現れることがあります。頭痛に加えて、かゆみやじんましんなどの症状が見られる場合は、アレルギーの可能性が高いと考えられます。アレルギー性の頭痛は、市販の鎮痛薬では効果がないことがあります。頭痛のみの症状であれば、わさびの辛味成分による一時的なものかもしれませんが、鎮痛薬が効かない場合や、他のアレルギー症状を伴う場合は、わさびアレルギーの可能性が高いと判断し、医療機関を受診することをすすめます。
じんましん
じんましんは、皮膚の一部が赤く盛り上がった状態が突然現れ、体の広範囲に広がる症状です。わさびアレルギーの場合、皮膚や喉、唇にかゆみとして現れることが多いです。多くの場合、強いかゆみを伴いますが、チクチクとした痛みや、皮膚が焼けるような感覚を感じることもあります。じんましんはアレルギー症状としてよく見られ、食物アレルギーによる症状の大部分を占めるとも言われています。これは、体がわさびに過剰に反応し、アレルギーに関わる物質が放出されることで、皮膚の血管が拡張し、むくみやかゆみが引き起こされるために起こります。じんましんは通常、短時間で自然に消えますが、数時間から半日程度続くこともあります。症状が重い場合には、次々と新しい膨疹が現れることもあります。じんましんが出た場合は、アレルギーの可能性があるので、早めに医療機関を受診しましょう。
消化器症状(下痢・腹痛)
口腔アレルギー症候群は、主に口の中の粘膜にアレルギー反応が現れるものですが、人によっては消化器系にも影響を及ぼし、腹痛、吐き気、下痢などを引き起こすことがあります。特に下痢は、わさびアレルギーの症状の一つとして知られており、わさび特有の辛味成分である「アリルイソチオシアネート」が原因となることがあります。この成分は、適量であれば体に良い影響を与えることもありますが、刺激が強いため、過剰に摂取すると胃腸に負担をかける可能性があります。消化器症状を避けるためには、わさびの摂取量に注意することが大切です。症状が現れた場合は、アレルギーの可能性を考慮し、専門医に相談しましょう。
その他の重篤な全身症状(ショック症状)
わさびアレルギーは、口腔内のかゆみ、鼻炎、皮膚症状、消化器症状の他に、呼吸器症状(喘息のような呼吸困難)、粘膜症状(目の充血や腫れ)、全身に影響を及ぼすショック症状を引き起こすことがあります。これらの重い症状は全ての人に起こるわけではありませんが、アレルギー反応が強く出た場合にみられることがあります。特にショック症状は、血圧低下や意識障害、呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックに発展し、命にかかわることもあります。もし、くしゃみや軽いかゆみ、頭痛などの局所的な症状だけでなく、全身性の重篤な症状が見られた場合は、アレルギーが重症化している可能性があるため、すぐに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが重要です。
わさびアレルギーと辛味アレルギーの違い
わさびアレルギーと混同されやすいものに「辛味アレルギー」があります。症状が似ている場合もありますが、それぞれ異なるものとして理解することが大切です。ここでは、わさびアレルギーと一般的な辛味アレルギーを比較し、それぞれの特徴を詳しく解説します。
わさびアレルギーの特徴
わさびアレルギーは、わさびに含まれる特定のタンパク質に対して免疫システムが過剰に反応する疾患で、多くの場合、口腔アレルギー症候群として発症します。主な症状としては、喉や唇のかゆみ、鼻水、くしゃみ、じんましん、頭痛、下痢などが挙げられます。わさびアレルギーは、自然に治ることは期待できず、適切な対処や治療をしなければ症状が悪化するリスクがあります。アレルギー反応が疑われる症状が出た場合は、自己判断せずに、速やかに医療機関を受診してください。
辛味アレルギーの特性
辛味アレルギーとは、わさびに限らず、唐辛子、生姜、からしなど、様々な辛味成分を含む食品にアレルギー反応を起こす状態を指します。わさびアレルギーと同様に、かゆみ、くしゃみ、頭痛、蕁麻疹といった症状が現れることがあります。もし、わさび以外の辛い食品を摂取した際にも同じようなアレルギー症状が出る場合は、辛味アレルギーの可能性を考慮し、原因となる辛味成分を特定するための検査を受けることをおすすめします。個々のアレルゲンを正しく理解することが、適切な対策と快適な食生活につながります。
わさびアレルギー発症時の注意点と対応
上記のような症状に心当たりがある方は、わさびアレルギーの可能性があります。ここでは、わさびアレルギーの方が、日々の生活でどのような点に注意し、どのように対応すれば良いのかを解説します。

ごく少量でもアレルギー反応が起こる可能性
わさびアレルギーへの最も有効な対策は、原因となるわさびを含む食品を避けることです。症状が出ているにも関わらずわさびを摂取し続けると、アレルギー反応が悪化するリスクがあります。口腔アレルギー症候群は、生の果物や野菜で起こることが多いですが、これは加熱によってアレルゲンとなるタンパク質の構造が変わり、アレルギー反応を起こしにくくなるためです。そのため、加熱・加工されたわさび製品は、生のわさびに比べて摂取できることが多いとされています。
しかし、アレルギー症状には個人差が大きく、体質やその日の体調によっては、わさび味の菓子や、わさびドレッシングといった加工食品でも症状が現れる可能性は否定できません。特に重篤な場合には、血圧低下、意識障害、呼吸困難などを伴うアナフィラキシーショックを引き起こし、最悪の場合、命に関わることもあります。わさびアレルギーの症状がある方は、自己判断で摂取を続けず、できる限りわさびの摂取を控えるようにしましょう。アレルギー症状は命に危険を及ぼす場合もあるため、少しでも異常を感じたら注意が必要です。
アレルギー症状が治まるまでの時間と対応
食物アレルギーの症状が治まるまでの時間は、通常、遅くとも1日程度が目安です。食物アレルギーには、「即時型」と「遅延型」があります。即時型アレルギーは、原因となる食品を摂取して比較的すぐに症状が現れるタイプで、食後1時間程度で症状が出始めることが多いです。一方、遅延型アレルギーは、食品を摂取してから半日後など、時間を置いてから症状が現れるタイプです。いずれの場合も、アレルギー症状が1日以上続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と対応を受けることが大切です。症状の経過を正確に把握し、専門家のアドバイスに従うことで、より安全にアレルギーと向き合うことができます。
重症化する前に医療機関での診断と治療を
わさび摂取後に喉や鼻、口などに不快感を覚えた場合や、前述したアレルギー症状に覚えがある場合は、自己判断せずに、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。アレルギーは症状が明確であればある程度自己判断できますが、複数の食品を摂取していたり、症状が曖昧な場合には、判断が難しくなります。そのため、少しでも異変を感じたら、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。
口腔アレルギー症候群の主な治療は、原因食品の除去と、症状を和らげるための抗ヒスタミン薬の服用が中心です。自身がどのようなアレルギーを持っているかを正確に知るためには、アレルギー検査が有効です。具体的な検査としては、皮膚に試薬を滴下する「プリックテスト」や、血液中のアレルギー物質を調べる「血液検査」があります。これらの検査によって、わさびに対するアレルギーの有無や程度、他の食品や花粉との関連性を特定できます。アレルギー検査が可能な医療機関は、アレルギー科、内科、耳鼻咽喉科などですが、事前に電話などで検査の可否を確認することをお勧めします。また、口腔アレルギー症候群は花粉症と深く関連しているため、花粉症の治療が、わさびアレルギーの症状緩和に繋がることもあります。
まとめ
わさびは口腔アレルギー症候群の原因となり得る。
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症状は喉や唇の痒み、鼻水、蕁麻疹、消化器症状など様々。
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症状が出たら摂取を控え、医療機関を受診し検査・治療を。
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花粉症との関連も深いため、合わせて専門医に相談を。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスを提供するものではありません。アレルギー症状に関する具体的な診断や治療については、必ず医師にご相談ください。
わさびでアレルギーは本当に起こるのですか?
はい、わさびでもアレルギー反応は起こりえます。特に「口腔アレルギー症候群(OAS)」という形で、わさびに含まれる特定のタンパク質が原因となり、アレルギー反応を引き起こすことがあります。
口腔アレルギー症候群(OAS)とはどのようなアレルギーですか?
口腔アレルギー症候群とは、特定の果物や野菜を食べた後に、主に口の周り、喉、唇などに痒みや腫れ、イガイガするような違和感が生じるアレルギーのことです。花粉症の方によく見られ、原因となる食品中のタンパク質が、花粉のタンパク質と構造が似ているため、体が誤って異物と認識することで発症します。
わさびアレルギーの主な症状とは?
わさびアレルギーを発症した場合、喉や唇の痒み、鼻水やくしゃみ、鼻詰まり、頭痛、蕁麻疹、腹痛や下痢といった消化器系の不調などが代表的な症状として挙げられます。これらの症状は、わさびを摂取してからおよそ15分から1時間以内に現れることが多いとされています。ただし、稀ではあるものの、全身に及ぶ症状や、重篤な場合はアナフィラキシーショックを引き起こす可能性も否定できません。
わさびの辛みによる反応とアレルギー症状の違いは?
わさび特有の辛味成分である「アリルイソチオシアネート」は、鼻にツンとくる刺激やくしゃみを誘発しますが、これらは刺激に対する一時的な生理現象です。これに対し、わさびアレルギーは、わさびに含まれる特定物質に対する免疫系の過剰反応であり、喉や唇の痒み、蕁麻疹、頭痛、消化器系の不調など、広範囲にわたり、かつ持続的な症状が現れる点が特徴です。他のアレルギー症状を伴う場合は、アレルギーを疑ってみる必要があるでしょう。
わさびアレルギーと、辛味全般に対するアレルギーは同じ?
いいえ、わさびアレルギーと辛味アレルギーは区別されます。わさびアレルギーは、わさびに特有のタンパク質に体が反応する、特定の食物アレルギーの一種(口腔アレルギー症候群)です。それに対し、辛味アレルギーは、わさびだけでなく、唐辛子や生姜など、様々な辛味成分を含む食品に対してアレルギー反応を示す状態を指します。
わさびアレルギーによって頭痛が引き起こされることはありますか?
はい、わさびアレルギーの症状の一つとして、頭痛が現れることがあります。アレルギーによる頭痛の場合、市販の鎮痛剤があまり効果を発揮しないという特徴が見られることがあります。もし頭痛に加えて、痒みや蕁麻疹といった他のアレルギー症状も認められるようであれば、わさびアレルギーの可能性が高いと考えられます。
わさびアレルギーが疑われる場合の対処法は?
もしわさび摂取後にアレルギーと思われる症状が現れた際は、直ちにわさびを食べるのをやめ、自己判断せずに医療機関(アレルギー科、内科、耳鼻咽喉科など)を受診してください。医療機関では、アレルギーの原因と考えられる食品の特定や、抗ヒスタミン薬の処方、プリックテストや血液検査などのアレルギー検査を行い、適切な診断と治療を行います。
加熱されたわさびならアレルギー反応は起こらない?
生のわさびと比較して、加熱処理されたり加工されたわさび製品は、アレルギーを引き起こす可能性のあるタンパク質の構造が変化しているため、アレルギー反応が出にくいことがあります。しかし、アレルギー症状は人それぞれ異なり、体調などによって加工品でもアレルギー反応を起こす可能性は否定できませんので、注意が必要です。
食物アレルギーの症状は、どのくらいで改善しますか?
食物アレルギーの症状が現れるタイミングは、即時型の場合は食後1時間以内、遅延型の場合は半日後など、比較的早期に症状が出ることが一般的です。多くの場合、アレルギー症状は通常1日程度で治まるとされていますが、症状が1日以上続く場合や、重い症状が見られる場合は、すぐに医療機関を受診し、専門医による診察を受けてください。