初夏の訪れを告げる、小さくも鮮やかな紫色の宝石「桑の実(マルベリー)」。その甘酸っぱい味わいは、どこか懐かしい記憶を呼び起こします。かつて養蚕業を支えた桑の木は、今や健康と美容をサポートするスーパーフードとして再注目されています。アントシアニンをはじめとする豊富な栄養価に加え、ジャムやスムージーなど様々なアレンジが楽しめるのも魅力です。この記事では、知られざる桑の実のパワーを徹底解剖。魅惑的なレシピとともに、その魅力に迫ります。
マルベリー(桑)とは?古くから親しまれてきた万能植物
「マルベリー」という名前で知られる桑は、落葉性の高木または低木で、葉・枝・根・実と、ほぼすべての部位がさまざまな用途に活かされてきた植物です。
その歴史は非常に古く、約2000年前の中国最古の薬物書『神農本草経』には、桑の根の皮=「桑白皮(そうはくひ)」についての記述が見られます。当時の人々が、桑の力に注目していたことがうかがえます。現在でも、桑白皮は伝統的な漢方薬として用いられ、またそのエキスは化粧品などにも配合されることがあります。
日本でも『日本書紀』に桑の栽培に関する記録があり、すでに古代から養蚕や農業と深く関わっていたことがわかります。
桑の各部位は、それぞれに異なる特長をもち、日々の健康を意識した食生活に役立つ素材としても注目されています。
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葉:乾燥させてお茶として親しまれており、粉末タイプなどで栄養を手軽に取り入れる商品も見られます。ミネラルをはじめ、桑特有の成分も含まれています。
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実(桑の実):やさしい甘みと酸味があり、ジャムやスムージーなどにも使われる人気の果実。ビタミン類やポリフェノールの一種であるアントシアニンを含み、彩りや風味も楽しめます。
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根の皮(桑白皮):古くから漢方素材のひとつとして用いられてきました。伝統的な処方の中でも利用されることがあり、長い間受け継がれてきた知恵が今も活かされています。
このように、マルベリーは昔から人々の生活に寄り添い、食品・飲料・美容・伝統医療など幅広い分野で用いられてきた植物。自然由来の素材を取り入れたライフスタイルに関心がある方にとって、日々の暮らしにプラスする選択肢の一つとなるかもしれません。

桑の実(マルベリー)がスーパーフードと呼ばれる理由と栄養の特徴
桑の実は、クワ科クワ属に属する果実です。ラズベリーやブラックベリー(いずれもバラ科)、ブルーベリー(ツツジ科)などとは分類が異なりますが、見た目や食感の親しみやすさから「ベリー類」として紹介されることもあります。
完熟した桑の実は、ラズベリーなどに見られる強い酸味は少なく、どちらかというとナツメやプルーンに似た、コクのあるやさしい甘みが感じられるのが特長です。赤黒く色づき、完熟すると黒に近い深い紫色になり、甘みが際立ちます。
ただし、生の桑の実は鮮度が落ちやすく日持ちしにくいため、市場で見かける機会はあまり多くありません。現在は、冷凍品、ジャム、ジュース、ドライフルーツなど、加工された形で楽しむのが一般的です。もし生の状態を味わいたい場合は、6月頃の旬の時期に産地を訪れるのもおすすめです。
栄養面では、ビタミンA・C・Eが含まれており、一般的なベリー類と同様に、食生活をサポートする成分がバランスよく含まれています。中でも鉄分やカルシウムの含有量が比較的多い点は、桑の実ならではのポイントです。
また、桑の実には植物由来のポリフェノール「アントシアニン」が豊富に含まれています。この成分は、果皮の深い紫色に含まれており、食事の彩りとしても楽しめます。アントシアニンは、植物が紫外線や外敵から自らを守るために作り出す「ファイトケミカル」の一種として知られており、近年では植物の力を活かしたライフスタイル「フィトテラピー(植物療法)」などの中でも注目されることがあります。
桑の実は、その味わいと栄養バランスの良さから、日々の健康を意識する方に人気が高まりつつある自然素材のひとつです。ジュースやスムージー、ヨーグルトのトッピングなど、毎日の食事に取り入れて楽しむことができます。
桑の実のおすすめの食べ方とアレンジレシピ
桑の実は冷凍や乾燥、ジャムなどの加工品として販売されており、自宅でもさまざまなアレンジで楽しむことができます。手作りする際は、まず桑の実のヘタを取り除きましょう。特に緑色の硬いヘタは口当たりを損ねるため、ハサミで切るか、手で丁寧に引き抜いてください。果汁にはアントシアニンが多く含まれ、濃い紫色が衣類や手指に移りやすいため、調理時には注意が必要です。
完熟の桑の実は甘みが強く、生のままでもおいしく食べられますが、甘さや酸味のバランスを見ながら、ジャムやシロップ、焼き菓子などに加工するのもおすすめです。以下に、日常でも楽しめるアレンジレシピをいくつかご紹介します。
桑の実ジャム
材料(作りやすい分量)
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冷凍桑の実:300g
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砂糖(白砂糖やきび砂糖など):150〜200g
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レモン汁:大さじ1(完熟果が多い場合におすすめ)
作り方
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桑の実は解凍して軽く水洗いし、水気を拭き取る。ヘタがあれば取り除く。
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鍋に桑の実と砂糖を入れ、10分ほどおいてなじませる。
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中火にかけ、アクを取りながら10〜15分煮詰める。
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とろみがついたらレモン汁を加えてひと煮立ちさせ、火を止める。
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煮沸消毒した瓶に詰めて冷蔵庫で保存する。
※砂糖の量はお好みで調整を。赤い実が多いと酸味が出やすいため、砂糖を多めにするとバランスが整います。
桑の実シロップ
材料
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冷凍または生の桑の実:300g
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氷砂糖:300g
作り方
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桑の実は洗ってヘタを取り、水気をしっかり切る。
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清潔な保存瓶に、桑の実と氷砂糖を交互に重ねて入れる。
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涼しい場所に1〜2週間置き、砂糖が溶けきったら完成。
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シロップは炭酸水や水で割ってドリンクにしたり、かき氷のシロップとしても活用できます。
桑の実のマフィン
材料(6個分)
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薄力粉:120g
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ベーキングパウダー:小さじ1
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卵:1個
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砂糖:50g
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牛乳:80ml
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バター(または植物油):50g
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冷凍または生の桑の実:50〜70g
作り方
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オーブンを180℃に予熱する。桑の実はヘタを取り、水気をふき取っておく。
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ボウルに卵、砂糖、牛乳、溶かしバターを順に加えて混ぜる。
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薄力粉とベーキングパウダーをふるって加え、さっくり混ぜる。
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最後に桑の実を加え、生地を型に流し入れる。
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180℃のオーブンで20〜25分焼く。
※桑の実の甘酸っぱさがマフィン生地の甘さを引き立て、しっとりした仕上がりになります。
桑の実ヨーグルトボウル
材料(1人分)
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プレーンヨーグルト:150g
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桑の実ジャム:大さじ2
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グラノーラ:30g
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フルーツ(バナナやキウイなど):適量
作り方
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器にヨーグルトを入れ、桑の実ジャムをトッピングする。
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グラノーラとフルーツを添え、全体を軽く混ぜて完成。
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アサイーボウルのような見た目と色合いが楽しめます。
季節限定で出回る桑の実は、冷凍や加工品を上手に取り入れることで、一年中楽しむことができます。シンプルなレシピで手軽に取り入れられるので、日々の食卓にもぜひ活用してみてください。
安心・安全なくわの実の産地:福島県の事例
福島県二本松市の東和地区は、かつて日本有数の繭の産地として知られた養蚕の盛んな地域。桑の栽培も盛んで、今でも地域の特産品として「くわの実」や「桑茶」が大切に受け継がれています。
この地域の桑は、かつて蚕の餌として使われていたことから、農薬や化学肥料を使わない栽培が徹底されてきました。蚕はとても繊細な生き物で、農薬が残留している桑の葉では健康に育たないため、周辺の畑を含め、農薬を避けた管理が行われてきたのです。この習慣は、養蚕の規模が縮小した現在も自然と引き継がれ、安心・安全なくわの実の栽培に生かされています。
東和地区では現在も複数の農家がくわの実の栽培を行っており、毎年6月の限られた時期に完熟した実を収穫。その後すぐに急速冷凍することで、みずみずしい風味と栄養を損なうことなく保存されています。
冷凍されたくわの実には、軸が付いた状態で提供されることもあります。軸まで紫色に熟していてやわらかいため、そのまま食べても気にならないという声もありますが、食感をより楽しみたい方は取り除いてから食べるのがおすすめです。特にジャムなどに加工する際は、軸を除くことで口当たりよく仕上がります。
安全な栽培と丁寧な管理のもとで育てられたくわの実。自然の恵みを安心して味わえる、東和地区ならではの魅力です。

まとめ
くわの実(マルベリー)は、古くから養蚕を支える重要な植物として、また薬草としても親しまれてきました。現代では、ビタミンやミネラル、アントシアニンなどを豊富に含むことから、栄養価の高いスーパーフードとして注目されています。生の果実は流通量が少なく希少ですが、冷凍品やジャム、シロップ、ドライフルーツなど、手軽に取り入れられる形で販売されており、日々の食生活にも取り入れやすくなっています。なかでも、農薬や化学肥料を使わずに丁寧に育てられた産地のものは、安全性や品質の面で特に安心です。日々の暮らしに自然の恵みを取り入れたい方は、くわの実を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。身体にやさしい果実で、美容と健康をサポートしてみましょう。
くわの実(マルベリー)はどんな植物で、どこで育つのでしょうか?
桑は英語でマルベリー(mulberry)と呼ばれる落葉樹で、葉、枝、根、実のすべてが利用できる植物です。日本ではかつて養蚕のために全国の農村で広く栽培されていましたが、現在では健康茶やスーパーフードとして注目され、特定の地域で栽培が続けられています。中国では2000年以上前から薬草として利用されてきた歴史があり、日本でも縄文時代から自生していたと考えられています。
くわの実にはどのような栄養成分が含まれているのでしょうか?
くわの実には、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEが豊富に含まれているほか、他のベリー類と比べて鉄分とカルシウムも多く含まれています。さらに、強い抗酸化作用が期待されるアントシアニンや、植物が自身を守るために生成する特別な成分であるファイトケミカルもたっぷりと含まれており、これらの成分が健康維持に役立つと期待されています。
桑の実、どう食べたら最高? 生でいけるの?
熟した桑の実は、甘酸っぱさが絶妙。例えるなら、なつめやプルーンのような、深みのある甘さが魅力です。生の実は傷みやすいから、お店ではなかなか見かけないかも。ジャムやジュース、ドライフルーツといった加工品で味わうのが一般的ですね。もし旬の6月頃に産地で手に入ったら、生で食べるのもアリ! ただ、軸の処理とか、果汁の色移りには気をつけて。ジャムとかシロップ、果実酒、それに焼き菓子なんかにもアレンジできますよ。
桑の実の加工品ってどんなのがあるの?
桑の実の加工品で人気なのは、やっぱり手軽なジャム、ジュース、ドライフルーツ。お家で手作りするなら、シロップや果実酒、それからマフィンとかフィナンシェみたいな焼き菓子に使うのもおすすめです。冷凍の桑の実も売ってるから、それを使って色々試してみるのも楽しいかも!
桑の実を食べる時の注意点って何かある?
桑の実、特に生のまま食べる時とか、自分で加工する時には、ちょっと注意したいことがあります。まず、緑色の硬い軸は、口当たりが良くないし、口の中を傷つけちゃうかもしれないから、ハサミで切るか、引っ張って取り除きましょう。あと、桑の実にはアントシアニンっていうのがたっぷり入ってるから、果汁が服につくと落ちにくいし、手とか口が紫色になっちゃうことがあるんです。作業する時は、十分気を付けてくださいね。
桑の葉っぱとか根っこ(桑白皮)も体にいいって聞いたけど、どんな効果があるの?
そうなんです! 桑って、葉っぱも枝も根っこも実も、全部使えるすごい植物なんです。桑の葉は乾燥させてお茶にするのが一般的で、カルシウムとか鉄分みたいなミネラルが豊富。特にデオキシノジリマイシンっていう成分が注目されてるんですよ。桑の根っこの皮は「桑白皮(そうはくひ)」って呼ばれてて、昔の中国の本にも書いてあるくらい、解熱とか咳止め、痰を切る効果がある生薬として使われてきました。今でも漢方薬とか、化粧品の成分(ソウハクヒエキス)として使われてるんですよ。
無農薬で育てられたマルベリーを選べますか?
はい、選ぶことができます。たとえば、福島県二本松市東和地域は、過去に養蚕業が活発だったことから、「蚕に悪い影響を与えないように」という考えのもと、農薬や化学肥料を使わない栽培方法が古くから受け継がれてきました。現在もこの地域にあるいくつかの農園では、農薬や化学肥料を一切使わずにマルベリーが栽培されており、安心して手に入れることができる産地として有名です。購入する際には、信頼できる生産地や生産者の情報を調べてみることを推奨します。













