オリーブとは：歴史、文化、そして恵み

地中海沿岸で生まれたオリーブは、数千年の時を超え、私たちの食卓に欠かせない存在となりました。その歴史は古く、古代文明の繁栄を支え、希望や平和の象徴として文化に深く根ざしています。この記事では、オリーブの歴史、文化的な意義、そして私たちの生活にもたらす恵みを紐解き、その多面的な魅力に迫ります。オリーブオイル、食用オリーブ、そしてその栽培方法まで、オリーブの全てをご案内します。

オリーブ（学名：Olea europaea）は、モクセイ科オリーブ属に分類される常緑性の高木です。果実はオリーブオイルの原料となるほか、食用としても広く利用されており、世界中で栽培されています。オリーブの果実は豊富な油分を含んでおり、オリーブオイルは重要な植物油の一つとして位置づけられています。その価値は古くから認識されており、新石器時代から利用され始め、紀元前3000年以上前から食料、薬、油の採取を目的とした体系的な栽培が行われてきました。オリーブは西洋文明が興った地中海沿岸地域が原産とされ、その文化的側面も深く根付いています。旧約聖書『創世記』8章11節には、ノアの箱舟による大洪水の後、ノアが放った鳩がオリーブの若葉をくわえて帰還し、水が引いたことを知るという記述があります。このエピソードから、オリーブは希望や再生のシンボルとして認識され、多くの文化的な背景において重要な役割を果たしています。オリーブは、葉が小さく硬い性質を持ち、乾燥に強いため、地中海沿岸のイタリアやギリシャなどの乾燥地域での栽培に適しています。古代ギリシアでは、紀元前8世紀頃からオリーブ栽培によって国力を増強し、経済的な繁栄を享受しました。当時のオリーブは非常に貴重であり、歴史家のヘロドトスは紀元前5世紀頃、「ギリシア以外にはオリーブの木は存在しない」と記しています。ギリシアが地中海各地に植民地を拡大するにつれて、オリーブの木も移植され、栽培が広がりました。紀元前370年頃にはイタリア半島に伝わり、イタリアもオリーブの主要な生産地となりました。このように、オリーブは単なる農作物としてだけでなく、文明の発展、経済、文化、宗教など、人類の歴史と深く関わってきた植物です。

日本では、一般的に英語やフランス語の発音を基にした「オリーブ」という名称が広く用いられています。かつて聖書の古い翻訳では、オリーブに「橄欖（かんらん）」という漢字が当てられていましたが、後の研究で誤りであることが判明し、現代の翻訳では「オリーブ」に修正されています。「橄欖」は本来、オリーブとは異なる中国原産のカンラン科の常緑高木を指し、植物学的な関連性はありません。この混同が生じた背景には、いくつかの説が存在します。その一つとして、オリーブに似た緑色の鉱物であるオリビン（Olivine）を翻訳する際に、異なる樹木である橄欖の文字を誤って使用し、「橄欖石（かんらんせき）」と名付けたことが、植物の名称にも影響を与えたという説があります。ただし、この説には異論もあります。初期の聖書翻訳に「カンラン科の木」という記述があり、当時オリーブが用法や外見の似た「かんらん」と混同されていたか、同一視されていた可能性も指摘されています。別の説では、カンランの果実を塩漬けにしたものが英語で “Chinese olive” と呼ばれていたことに由来するとも言われています。オリーブの名称の語源は、古代ギリシア語に遡ります。ギリシア語では、オリーブの木や実を指す言葉として「ἐλαία (エライアー)」があり、オリーブオイルを指す言葉としては「ἔλαιον (エライオン)」が用いられていました。特に「ἐλαία」の古い形である「ἐλαίϝα（エライワー）」がラテン語に取り入れられ、「ŏlīva（オリーワ）」という形になりました。現代のイタリア語の “oliva”、フランス語の “olive”、英語の “olive” は、いずれもこのラテン語の “oliva” が語源です。また、オリーブオイルを指すギリシア語の「ἔλαιον」は、ラテン語に借用されて “oleum” となり、イタリア語の “olio（オーリオ）”、フランス語の “huile（ユイル）”、英語の “oil（オイル）”など、多くの言語で「油」を意味する言葉の語源となりました。つまり、「オイル」という言葉自体が、オリーブという植物と深く結びついているのです。さらに、ヘブライ語の “zayit（ザイト）”やアラビア語の “zeytoun（サイトゥーン）”といった名称も、互いに類似しており、「明るさ」や「輝き」といった意味を持つ共通の語源に由来すると考えられています。これらの言葉の歴史は、オリーブが古くから広範な文化圏において重要視されてきたことを示しています。

オリーブは小アジアが原産とされ、古くから地中海沿岸地域で広く栽培されてきました。乾燥した気候を好み、高温や干ばつに対する耐性が強いことが特徴です。寿命が非常に長く、1000年を超える古木も存在し、その生命力の強さを物語っています。植物学的には、オリーブは常緑広葉樹の高木に分類され、成長すると高さ15メートルに達することもあります。幹の樹皮は灰色を帯びており、大きな枝を四方に広げます。葉は対生で、細長く、厚みのある革のような質感を持っています。葉の表面は濃い緑色で、裏面は銀色を帯びており、細かい毛で覆われています。この銀色の裏面は、高温や強風による水分の蒸発を抑えるための適応であり、具体的には微細な鱗片が葉の裏面全体を覆っています。この構造が、オリーブが乾燥地帯で生き抜くための重要な要素となっています。花は白色で、小さく可愛らしいものが房状に多数咲き、開花時にはほのかな香りを放ちます。開花後には、油分を豊富に含む楕円形の果実が実ります。この果実が、食用やオリーブオイルの原料として利用されます。オリーブの生産が盛んな地域は、スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコ、モロッコ、シリア、チュニジアなどの地中海沿岸諸国であり、世界のオリーブ生産量の大部分がこの地域に集中しています。特にヨーロッパ州が全体の3分の2を占めています。これらの地域は、温暖で乾燥し、日照時間が長い地中海性気候が広がっており、オリーブの栽培に最適な環境です。オリーブの木が多く見られる地域は、まさに地中海文明圏と重なると言えるでしょう。このように、オリーブはその植物学的特徴と生育環境が密接に結びついており、特定の気候条件下で最適な生育を遂げ、人類に貴重な恵みをもたらしています。

オリーブの果実は、その大部分が油を搾るために利用されますが、食用としても広く消費されています。オリーブの実は、果実の中でも特にエネルギー含有量が高く、古代から現代に至るまで食品やオイルランプの燃料として重用されてきました。生のままでは強い苦味があるため、食用にする際には塩漬け、水漬け、発酵などの加工を施し、苦味を和らげて独特の風味を引き出します。ピクルスや缶詰の材料として利用されたり、種を取り除いて料理のトッピングとして使用されたりします。また、果実から油を搾った後の種子からも「オリーブ核油」と呼ばれる油が抽出されますが、通常のオリーブオイルに比べて品質は劣るとされています。イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャなどの地中海沿岸諸国では、オリーブオイルが食文化の中心に深く根付いており、その利用方法は多岐にわたります。料理の調理油として使用されるのはもちろんのこと、食卓にはオリーブオイルにハーブや唐辛子を加えた瓶や小皿が常備されており、各自が好みで料理にかけたり、パンに浸して食べたりする光景が見られます。パスタにたっぷりとかけたり、焼きたてのパンに染み込ませて味わう人も少なくありません。日本国内の産地である香川県では、オリーブを養殖業に活用する取り組みが行われています。例えば、「オリーブハマチ」は、葉の粉末を混ぜた餌を与えられたハマチで、通常のハマチよりもさっぱりとした味わいが特徴です。また、搾油後の果実は、食用だけでなく、家畜の飼料や堆肥として有効活用され、循環型農業に貢献しています。オリーブの木材もまた、その特性から珍重されています。非常に硬く、重く、緻密な木質を持ち、油分が豊富であるため耐久性に優れています。そのため、装飾品や道具類、特に皿、スプーン、調理用ヘラなどの台所用品の製造によく用いられます。これらの木製品は、加工の難しさや希少性から高価で取引されます。日本では印鑑の材料として使用されることもあります。木材の色合いは、辺材が黄白色、心材は黄褐色で、褐色の墨流しのような不規則な縞模様が特徴的で、美しい木目を持っています。オリーブ材の加工はフランスやイタリアなどで盛んですが、ヨーロッパ産のオリーブは幹が細いものが多いため、加工に適した大径材は中東や北アフリカなどの産地から供給されることが多いです。日本でも小豆島でわずかにオリーブ材が生産されており、地元の工芸品などに利用されています。このように、オリーブはその果実、油、木材に至るまで、人類の生活に多角的に貢献している貴重な植物です。

健康への良い影響が広く知られるようになり、身近な店舗でも手軽に購入できるようになったオリーブオイルですが、市場には、オリーブの果実を搾ったままのバージンオリーブオイルの他に、風味や酸度を調整するために化学的な処理を経た精製オリーブオイルをブレンドした製品も流通しています。本当に価値のあるオリーブオイルとは、正式な認証を受けたエクストラバージンオリーブオイルを指します。これは、天然のオリーブの実から、化学薬品や高温処理を一切使用せず、物理的な方法のみで抽出されたオイルであり、その品質と鮮度が厳格に管理されています。酸度が低く、オリーブ本来の風味や健康成分が損なわれることなく保たれている点が大きな特徴です。特に、国際的に高い評価を受けているエクストラバージンオリーブオイルの一つが「カラマタ産オリーブオイル」です。「カラマタ」はギリシャ南部のメッシニア県にある都市の名前で、この地域で収穫される黒オリーブは非常に有名であり、ギリシャ産のあらゆるオリーブの中でも特に高価で取引されています。その実は大きく、一つ食べるだけで満足できるほどの美味しさが特徴です。カラマタ地方産のオリーブの実は、ヨーロッパでは「世界で最も高品質なオリーブ」として広く認識されています。多くの「カラマタオリーブ」は、昔ながらの農薬を使用しない栽培方法で大切に育てられています。

カラマタ産オリーブが「世界最高品質」として認められている背景には、EUによって制定された原産地名称保護制度（PDO: Protected Designation of Origin）が大きく関係しています。この制度は、特定の地域で生産され、その地域の特性を反映した優れた品質を持つ農産物に対して与えられるもので、オリーブの分野ではギリシャのカラマタが認定を受けています。これは、日本の「神戸牛」や「松阪牛」のように、その土地ならではの特性と品質が保証されたブランド品と同等の価値を持つことを意味します。さらに、カラマタ産のオリーブから作られるオリーブオイルの多くは、オリーブオイルの国際基準であるIOC（国際オリーブ理事会）の認証を取得しているものが多く見られます。ギリシャ産のオリーブオイルは、生産量こそスペイン、イタリアに次いで世界第3位ですが、最高品質である「エクストラバージンオリーブオイル」の生産量においては世界第1位を誇ります。その大部分を占めるのが、このカラマタオリーブであると言えるでしょう。酸度が非常に低いことに加え、抗酸化作用を持つオレイン酸やポリフェノールなどの健康成分を豊富に含んでいるため、「健康に良いオリーブオイル」として広く知られています。その優れた品質と風味は、「オリーブのジュース」と称されるほどです。

世界最高品質を誇るカラマタ産のオリーブを使用していることに加え、「どのように搾油されているか」も、エクストラバージンオリーブオイルとしての評価を決定する上で非常に重要です。カラマタオリーブの持つポテンシャルを最大限に引き出すための搾油方法が、まさに「コールドプレス製法」なのです。コールドプレス製法は、古くから伝わる伝統的な搾油方法であり、かつては石臼を使用して、時間をかけてゆっくりと、熱を加えないように丁寧に搾油していました。現在では、石臼の代わりに専用の機械が使用されていますが、基本的な原理は変わらず、熱を加えることなく時間をかけて圧力を加えることでオイルを抽出します。この製法を用いることで、オリーブ本来の品質や栄養成分が損なわれることなく、健康に悪影響を及ぼす可能性のあるトランス脂肪酸の発生も抑えることができます。このように、手間と時間をかけて丁寧に製造することで、最高品質のオリーブオイルならではの風味が引き出されると考えられています。丁寧な作業が求められるため、生産量は限られ、製造コストも高くなります。しかし、それこそがこの製造方法が、オリーブ本来の味わいと健康効果を最大限に引き出す、「カラマタオリーブ」に最適なオリーブオイルの製造方法である理由です。

高品質なエクストラバージンオリーブオイルは、IOC（国際オリーブ理事会）の認証をはじめとする国際的な基準を満たしていることが、その信頼性を証明する上で不可欠です。高品質なエクストラバージンオリーブオイルを選ぶ際には、IOC（国際オリーブ理事会）の認証をはじめとする国際的な基準を満たしているかを確認することが重要です。

オリーブ栽培においては、害虫による被害は避けて通れない課題です。特に日本国内では、固有種による被害が顕著であり、適切な対策が不可欠となります。一般的に、4月頃から新芽や若葉の先端がハマキムシの幼虫によって食害されるケースが多く見られます。ハマキムシは葉を綴り合わせ、その中で食害を進めるため、早期発見と対策が重要です。食害を防ぐ手段として、スミチオンなどの乳剤を希釈したものを幹に塗布する「樹幹散布」が効果的とされます。これは、薬剤の広範囲な散布を避け、幹を通じて薬剤を植物体内に吸収させる、環境に配慮した手法です。一方、日本におけるオリーブ栽培で最も深刻な害虫の一つに「オリーブアナアキゾウムシ」が挙げられます。このゾウムシは日本の固有種であり、本来はオリーブと同じモクセイ科のイボタノキなどを食害していました。しかし、オリーブ栽培の拡大に伴い、オリーブも新たな食樹として認識し、被害が拡大しています。成虫は約15mmの体長、約6mmの体幅で黒褐色をしており、幹の樹皮を食害します。より深刻なのは幼虫による被害で、孵化した幼虫は幹内部に深く穴を開けながら木質部を食べ進み、最終的に木を枯らすこともあります。オリーブアナアキゾウムシの成虫はオリーブの根元で越冬する習性があるため、落ち葉や雑草が多いほど越冬場所が増え、翌春の発生数が増加する傾向があります。そのため、冬季の株元周辺の清掃や雑草管理が重要な防除策となります。また、被害の初期段階で幹に見られる小さな穴や、木くずの排出といった兆候を見逃さず、早期に駆除を行うことが被害拡大を防ぐ上で重要です。具体的には、穴に薬剤を注入したり、針金などで幼虫を物理的に除去する対策が有効です。オリーブ栽培を成功させるには、これらの害虫の生態を把握し、適切な時期に予防的、あるいは発見後の迅速な対策を講じることが不可欠です。特に新規にオリーブ栽培を始める際は、地域の害虫情報や専門家の意見を参考に、計画的な防虫対策を立てることが推奨されます。

世界のオリーブ生産は地中海地域が中心であり、スペインが圧倒的な生産量を誇り、次いでイタリア、ギリシャ、チュニジアなどが主要な生産国として挙げられます。これらの国々では、伝統的な栽培方法が受け継がれ、オリーブオイルは食文化に深く根付いています。近年では、北アフリカや中東、アメリカ、オーストラリアなどでもオリーブ栽培が拡大しており、世界のオリーブオイル市場は多様化しています。一方、日本のオリーブ生産は、香川県を中心に小規模ながらも高品質なオリーブオイル生産が行われています。気候条件や土壌の制約から、生産量は世界全体から見るとごくわずかですが、独自の栽培技術や品種改良によって、風味豊かな国産オリーブオイルが生み出されています。国内でのオリーブオイル消費量の増加に伴い、国産オリーブオイルへの関心も高まっており、地域活性化にも貢献しています。

都市近郊の横浜においても「横浜オリーブ」プロジェクトが活発に進められており、地域の風土を感じさせる「オール横浜産エキストラバージンオリーブオイル」が生まれています。このプロジェクトは、オリーブとは縁遠い土地であった横浜で、希少な国産オリーブを育て、実の収穫から搾油までを一貫して行うことを目標としています。その畑は、みなとみらいの街並みとベイブリッジを望む高台に位置し、かつて耕作放棄地となっていた場所を開墾し、土壌をゼロから作り上げ、苗木を植えて大切に育てています。毎年秋には、多くの人が集まりオリーブの収穫が行われます。オリーブの実は一つ一つ丁寧に手摘みされ、選別されます。収穫から24時間以内に実が傷み始める特性を考慮し、新鮮なうちに搾油するため、畑から30分以内の場所に横浜市で唯一となる「横浜オリーブ搾油工場」が建設されました。この工場では、製造過程の温度を27℃以下に保つコールドプレス製法を採用しており、栄養価が高く、オリーブ本来の美味しさを最大限に引き出したオイルが抽出されます。具体的には、酸度0.1％という極めて低い数値が示すように高い品質を誇り、りんごやバナナのような甘い香りとまろやかさ、若草のような爽やかな香りに加え、喉の奥にピリッとした辛味を感じる風味が特徴です。製品は透明な角瓶に入れられ、食卓で黄金色の光を楽しむことができるだけでなく、オイルの劣化を防ぐためのオリジナルパッケージも工夫され、内容量100mlで販売されています。横浜オリーブプロジェクトは、食卓に新鮮な香りのオリーブオイルを届けるだけでなく、美容にも優しい潤いを提供するなど、オリーブの多岐にわたる活用を目指し、横浜の新たな特産品として歩み始めています。

横浜オリーブは、単なるオリーブ生産に留まらず、「農」と「食」を結びつける持続可能な取り組みを推進しています。特に「循環型農業」を目標に掲げ、土壌の潜在能力を最大限に引き出す土づくりに取り組んでいます。具体的には、公園緑地や街路樹などの剪定枝や刈草を原料とした有機堆肥による土壌改良を進めることで、生産性の向上だけでなく、資源の有効活用と環境負荷の低減に貢献しています。横浜は首都圏に隣接する大都市でありながら、郊外に広大な農地を有していますが、近年は農家の高齢化や後継者不足により耕作放棄地が増加の一途を辿っています。横浜オリーブプロジェクトは、これらの耕作放棄地に焦点を当て、各地でオリーブ農園として再生させる活動を展開しています。この「みどりオリーブリビングラボ」プロジェクトは、荒廃した土地を再生させることで地域の景観を改善し、新たな農業雇用を創出し、都市農業の可能性を広げる革新的な取り組みとして注目されています。このように、横浜オリーブは持続可能な開発目標（SDGs）の理念を深く事業に組み込み、「サステナブル」な考え方を実践しています。次世代が美しい地球で平和に豊かに生活し続けられる社会を目指し、オリーブの価値を追求するあらゆる過程で、資源の無駄をなくすことを意識しています。例えば、自社のオリーブ農園では、肥料として剪定枝を材料にした土と混ぜたものを使用するなど、商品製造だけでなく、その過程全体で持続可能性を追求する姿勢を貫いています。

地域社会との連携を重視する横浜オリーブプロジェクトでは、「オリーブ栽培体験農園」を運営しています。この農園では、オリーブ栽培に関心を持つ方々や地域住民が、植え付けから始まり、支柱の設置、下草管理、施肥、剪定、そして農薬や害虫の防除といった、年間を通して必要な作業を実践的に学ぶことができます。年間で12回の講習プログラムが用意されており、参加者は専門家から直接指導を受けながら、オリーブ栽培に関する知識と技術を段階的に習得できます。この取り組みは、都市農業への関心を喚起し、新たな農業従事者の育成に貢献するとともに、地域コミュニティの活性化を促します。さらに、教育的な活動を通じて、オリーブが持つ多面的な価値や、持続可能な農業の重要性を広く伝え、「農」と「食」への関心を深める機会を提供しています。

オリーブは、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教といった宗教において、「光」「糧」「浄化」といった意味合いを持ち、古くから尊重されてきました。特にオリーブオイルは、聖油や塗油として宗教的な儀式で用いられ、「神聖な油」として重要な役割を果たしています。キリスト教における「油を注ぐ」という行為は、オリーブオイルを用いることを意味し、カトリック教会では洗礼、堅信、病者の塗油、叙階など、様々な儀式において聖別されたオリーブオイルを使用することが定められています。聖書には、『マタイ福音書』25章に登場する、花婿を迎える乙女たちが灯すランプの油としてもオリーブオイルが描かれています。また、イエス・キリストがエルサレム東方のオリーブ山の麓にあるゲッセマネの園（「オリーブの搾油所」の意味）で祈ることを好み、十字架にかけられる前の苦難の時にもそこで最後の祈りを捧げたという記述があります。新約聖書『ヨハネ黙示録』11章4節には、「地の支配者の前に立つ二本のオリーブの木、二つの燭台」という記述があり、この二本のオリーブの木は太陽と金星を象徴すると解釈されることもあります。エルサレムのオリーブ山にあるゲッセマネの園には、イエスが祈りを捧げたとされる場所に、古いオリーブの木々が残っていますが、樹齢を考慮すると、現存する木が当時のものと直接同じであるとは断言できず、多くは後から植えられたものと考えられています。しかし、この場所のオリーブは今もなお、深い宗教的な意味を持ち続けています。

オリーブの枝は、国際連合の旗や多くの国の国章に描かれているように、ハトと共に希望や平和の象徴として世界中で広く知られています。この象徴的な意味合いは、旧約聖書『創世記』のノアの方舟の物語に由来します。物語では、神が起こした大洪水の後に、ノアが陸地を探すために放ったハトが、オリーブの若葉をくわえて戻ってきたと記されています（『創世記』8章8-12節）。これを見たノアは、洪水が引き始め、大地に再び生命が息づき、平和が訪れる兆しを感じたとされています。この出来事から、オリーブの枝は「平和」「安寧」「英知」「勝利」といった意味を持つようになりました。国際連合のシンボルマークにオリーブの枝が用いられていることから、国連とその活動は「オリーブ会」と呼ばれることもあります。この普遍的な平和へのメッセージは、文化や宗教の枠を超えて多くの人々に受け入れられています。

パレスチナ人にとって、オリーブは古来より生活に欠かせない存在であり、経済、文化、精神的な基盤となっています。しかし近年、政治的・社会的な要因により、パレスチナ人のオリーブ農園の木が、国家や入植者によって大量に伐採される事態が頻発しています。この行為は、彼らの生活を脅かすだけでなく、土地との歴史的なつながりやアイデンティティそのものを侵害するものです。それにも関わらず、パレスチナの人々は、奪われた土地に再びオリーブの木を植え、生命の再生と抵抗の意志を示し続けています。この行動は、オリーブを単なる農作物として捉えるのではなく、民族の誇り、土地への愛着、そして困難に立ち向かう「抵抗のシンボル」として位置づけています。オリーブは彼らにとって希望の象徴であると同時に、厳しい現実の中でアイデンティティを支える根源となっているのです。

オリーブの枝は、その普遍的なシンボルとしての価値から、国際連合の旗（一部では月桂樹の葉とされることもあります）をはじめ、多くの国の紋章、硬貨、紙幣のデザインに採用されています。例えば、アメリカ合衆国の1ドル紙幣に描かれている国章の白頭鷲は、右足にオリーブの枝を、左足には矢を掴んでおり、これは平和への希求と防衛への備えという、国家の二面性を表しています。また、日本の著名なデザイナー、レイモンド・ローウィがデザインした、日本の代表的なタバコブランドのパッケージにも、オリーブの枝が用いられました。このように、オリーブの枝は、国家や企業のアイデンティティ、価値観、そして伝えたいメッセージを視覚的に表現する上で、非常に重要な役割を果たし、多様なデザインに組み込まれています。

古代ギリシアにおいて、オリーブは人々の生活に深く根ざしていました。「エイレシオネ」という風習では、子供たちが羊毛、果物、お菓子、油壺などをオリーブの小枝に飾り付け、それを持って家々を訪問し、贈り物をもらって歩きました。このエイレシオネは家の入口に飾られ、家庭に富と繁栄をもたらすと信じられていました。また、古代オリンピックなどの四大競技会では、勝利者にオリーブの葉で作られた冠が贈られました。古代の四大競技会は「神聖競技会」として特別な地位にあり、賞金や貴重な品が与えられる「賞金競技会」とは区別されていました。オリーブの葉冠は古代オリンピックで授与され、デルポイで開催されたピュティア大祭では月桂冠が贈られました。オリーブの木の幹で作られた冠に、月桂樹の小枝を添えたものもありました。近代オリンピックにおいても、1896年の第1回大会、そして2004年のアテネオリンピックでは、古代の伝統に倣い、勝者にオリーブの冠が贈られました。ギリシャ神話においても、オリーブは重要な役割を果たしています。特に、アテネの都市名の由来となった神話は有名です。女神アテナと海神ポセイドンがアッティカ地方の支配権を争い、どちらが市民にとって有益な贈り物をするかを競いました。ポセイドンは塩水の湧き出る泉、あるいは戦で役立つ馬を創造しましたが、アテナは食用の実とオリーブオイルを産み出すオリーブの木（またはオリーブの森）を作り出しました。神々の投票の結果、オリーブが選ばれ、アテナがアッティカの守護女神となり、その中心都市はアテナの名から「アテナイ」と呼ばれるようになりました。また、英雄ヘラクレスが、世界の最北端にある理想郷からオリーブをギリシアに持ち帰ったという伝説も存在します。オリーブは、フクロウと共に、女神アテナを象徴する主要なシンボルの一つです。アテネで発行された4ドラクマ銀貨には、表面に女神アテナ、裏面にフクロウとオリーブの枝が刻まれていました。さらに、ギリシャ神話では、オリーブの木の下で生まれることは神聖な血統の証とされ、アポロンやアルテミスといった神々の子もオリーブの木の下で誕生したと伝えられています。

オリーブは、モクセイ科の常緑樹であり、紀元前3000年以上も前から地中海沿岸地域で栽培され、その果実から採取されるオリーブオイルは、世界中で重要な植物油として利用されています。その歴史は古く、新石器時代から食料、医薬品、燃料など、多岐にわたる用途で活用され、特に古代ギリシア文明の発展に大きく貢献しました。名称の「オリーブ」は、ギリシア語やラテン語に起源を持ち、多くの言語で「油」を意味する言葉の語源となるほど、その影響は広範囲に及んでいます。植物学的な特徴としては、乾燥に強い生命力、銀色の葉の裏側、房状に咲く白い花、そして油分を豊富に含む果実が挙げられます。これらの特性から、地中海性気候の地域で特に栽培が盛んです。果実は食用、オリーブオイルの原料、種子からの核油、さらには家畜の飼料や肥料としても利用され、その木材は硬くて丈夫なため、食器や工芸品の材料として重宝されています。特にオリーブオイルに関しては、市場に化学的に処理された精製油が多く出回る中で、天然の果実から機械的に抽出された「エクストラバージンオリーブオイル」こそが、真の「本物」として定義され、その品質が重視されます。ギリシャのカラマタ産オリーブオイルはその代表的な例であり、EUの原産地名称保護制度やIOC認証によって品質が保証され、健康成分が豊富であることでも知られています。その生産には、オリーブ本来の風味と栄養価を最大限に引き出す「コールドプレス製法」が不可欠とされています。栽培においては、ハマキムシや日本固有種のオリーブアナアキゾウムシといった害虫対策が重要となります。世界の生産量は地中海沿岸の国々に集中しており、スペインが最大の生産国です。日本への伝来は明治時代に本格化し、特に香川県の小豆島が主要な産地として発展しました。小豆島の気候が地中海性気候と類似していることが、成功の大きな要因です。近年では、全国各地への栽培拡大や、耕作放棄地の活用を通じた取り組みも進められており、中でも横浜では「横浜オリーブ」プロジェクトとして、耕作放棄地の再生、循環型農業の実践、そして栽培体験を通じた地域貢献といった多角的な取り組みが行われ、高品質な国産オリーブオイルの生産に成功しています。また、オリーブは単なる農産物としてだけでなく、深い象徴的な意味を持っています。聖書に登場するノアの箱舟の物語から「平和」の象徴とされ、国連旗にもその枝が描かれています。宗教的な儀式における聖油としての利用や、古代ギリシアの神話やオリンピックにおける勝利の冠としての役割、さらにはパレスチナにおける「抵抗」の象徴としての意味合いまで、その多面的な象徴性は人類の文化と歴史に深く刻まれています。このように、オリーブは古代から現代に至るまで、その多様な利用価値と豊かな象徴性を通じて、人々の生活と精神に多大な影響を与え続けている、まさに「生命の木」と呼ぶにふさわしい存在です。

オリーブの木の原産地は、主に小アジア（現在のトルコ共和国のアナトリア半島西部）であると考えられており、非常に古い時代から地中海沿岸地域で広く栽培されてきました。温暖で乾燥しており、日照時間が長い地中海性気候が、その生育に最も適しています。

オリーブの実は、主にオリーブオイルの原料として用いられます。その他、塩水や水に漬けて加工した食用オリーブとして、前菜、料理の材料、おつまみなど、様々な用途で親しまれています。また、オイルを搾った後の果肉は、家畜の餌や肥料として再利用されます。硬く質の良いオリーブの木材は、食器やアクセサリー、家具といった工芸品の材料にも使われます。日本においては、オリーブの葉などを混ぜた飼料で育てた「オリーブハマチ」のように、地域ブランドを確立する事例も見られます。

オリーブが平和の象徴として広く認識されているのは、旧約聖書のノアの方舟のエピソードが大きく影響しています。大洪水の後、ノアが放ったハトが、水が引き、大地に新たな生命が芽生えた証としてオリーブの若葉をくわえて戻ってきたことから、オリーブの枝は「平和」「希望」「再生」「慰め」などを表す象徴となりました。このイメージは、国際連合の旗をはじめとする、多くの国際的なシンボルマークにも採用されています。

日本でオリーブの木が初めて持ち込まれたのは、1862年と1867年で、医師の林洞海がフランスから苗木を持ち帰り、横須賀に植えたのが始まりとされています。商業的な栽培は、明治政府が1878年に神戸に「神戸阿利襪園（こうべオリーブ園）」を開園したのが最初です。その後、農商務省による試験栽培を経て、1908年からは香川県の小豆島で本格的な栽培が始まり、現在では小豆島が日本を代表するオリーブの産地として知られています。近年では、日本各地で栽培が試みられ、品種改良も積極的に行われています。

オリーブは、降水量が少なく乾燥した気候を好み、強い日差しや乾燥に耐える性質を持っています。特に、地中海性気候が栽培に最適とされています。オリーブの木は非常に長寿命であり、適切な環境下では1000年以上の樹齢を重ねる古木も存在します。その驚くべき生命力が特徴です。日本の税法上では、オリーブの木の耐用年数は25年と定められていますが、実際の寿命はそれを遥かに超える場合があります。

オリーブの木は様々な種類の害虫に悩まされることがありますが、特に注意すべきは日本においては「ハマキムシ」と「オリーブアナアキゾウムシ」です。ハマキムシは若い芽や葉を食害し、オリーブアナアキゾウムシは、その幼虫が幹の中を食い進むことで、最悪の場合、木を枯らしてしまうこともあります。これらの害虫から木を守るためには、適切な薬剤の散布、物理的な除去、そして株元の清潔さを保つといった管理が不可欠です。

エクストラバージンオリーブオイルは、オリーブの果実そのものが持つ自然な恵みを、最大限に活かした最高級のオリーブオイルです。化学的な溶剤の使用や、高温での処理を一切行わず、機械的な方法のみで丁寧に抽出されます。酸度が非常に低く抑えられており、オリーブ本来の豊かな風味や、健康に良いとされる成分が豊富に含まれています。一方、「オリーブオイル」や「ピュアオリーブオイル」と表記されている製品は、精製されたオリーブオイルに、バージンオリーブオイルを少量ブレンドしていることが多く、風味や栄養価の面でエクストラバージンオリーブオイルに劣る場合があります。

ギリシャのカラマタ地方で生産されるオリーブオイルは、EUの原産地名称保護制度（PDO）によって、その品質が保証されています。カラマタ地方特有の気候と伝統的な栽培方法が、他では味わえない大粒で風味豊かなオリーブを育て上げます。また、多くのカラマタ産のオリーブは、農薬を使用しない伝統的な農法で栽培され、国際オリーブ理事会（IOC）の認証を受けています。酸度が低く、オレイン酸やポリフェノールを豊富に含む、健康志向な方にもおすすめできる「エクストラバージンオリーブオイル」の代表的な存在です。

コールドプレス製法（低温圧搾法）とは、オリーブオイルを抽出する際に、熱を加えない伝統的な製法のことです。具体的には、製造過程における温度を27℃以下に管理することで、オリーブが本来持つ繊細な風味や、ポリフェノールなどの栄養成分、そして健康に良いとされるオレイン酸が損なわれるのを防ぎます。この製法は時間と手間がかかり、一度に採取できるオイルの量も少ないため、製造コストは高くなりますが、高品質なオイルを求める上で非常に重要な製法です。また、トランス脂肪酸の発生を抑制する効果もあるため、真のエクストラバージンオリーブオイルを生産する上で欠かせない技術と言えるでしょう。