「畑の肉」とも呼ばれる大豆は、栄養価が高く、私たちの食生活に欠かせない食材です。食物アレルギーに関する全国調査(2017年、2020年)では、食物アレルギー全体の有病率が増加している可能性が示唆されているが、個別のアレルゲン(大豆など)ごとの有病率推移については明確な増加データは示されていません。2017年から2020年にかけて、初発例の比率は57.8%から64.2%に増加しているが、これは食物アレルギー全体の傾向であり、大豆アレルギー単独の増加を示すものではありません。 (出典: 消費者庁『食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書 令和4年度』, URL: https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf, 2022-06-01) 大豆アレルギーがあると、豆腐などの大豆製品を避ける必要があるのでしょうか?特に豆腐は、離乳食にも使われるほど身近な食品であり、気になる方も多いはず。この記事では、大豆アレルギーの人が豆腐を食べる際の注意点や、専門家が教える代替食品について詳しく解説します。この記事で解説したポイントを踏まえ、ご自身の体質や医師のアドバイスに基づき、大豆製品との付き合い方を見つけていきましょう。
食物アレルギーの基本
食物アレルギーとは、特定の食品に含まれるタンパク質に対し、体が有害なものだと認識し、過剰な免疫反応を起こしてしまう状態を指します。この過剰な反応は、皮膚、消化器官、呼吸器など、全身に様々な症状として現れることがあります。食物アレルギーは、その発症メカニズムの違いから、「クラス1食物アレルギー」と「クラス2食物アレルギー」という二つのタイプに分けられます。
クラス1とクラス2の違い
クラス1食物アレルギーは、摂取した食物が消化管から吸収された後にアレルギー反応を引き起こす、一般的な食物アレルギーを指します。代表的な原因食物としては、卵、牛乳、小麦、そば、そして大豆などが挙げられます。一方、クラス2食物アレルギーは、花粉やラテックスなどに含まれるアレルゲンに事前に感作された(免疫系がアレルゲンを記憶した)人が、それらと構造が類似したタンパク質を含む果物や野菜を摂取した際に、主に口腔粘膜でアレルギー症状が現れるものです。これは「口腔アレルギー症候群(OAS)」と呼ばれ、交差反応によって症状が引き起こされます。
豆乳とアレルギーの関係性
豆乳は大豆を主な原料とする加工食品であるため、大豆アレルギーを持つ方は摂取を避けるべきです。しかし、豆乳によるアレルギーは、大豆アレルギーを持つ方だけでなく、これまで問題なく豆乳を飲んでいた方が、突然発症するケースも報告されています。これは、特にカバノキ科(シラカンバ、ハンノキなど)の花粉症の方に多く見られる「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)」が原因となっている場合があります。
花粉-食物アレルギー症候群と豆乳
花粉症の方が豆乳を摂取した際にアレルギー症状を起こす原因の一つとして、カバノキ科花粉に含まれるアレルゲンタンパク質である「Pathogenesis-related protein 10(PR-10)」と構造が似たアレルゲンが、大豆にも含まれていることが挙げられます。(Bet v 1はシラカンバ花粉の主要アレルゲンであり,PR-10に属する。PR-10ファミリーは,カバノキ科に属する花粉とバラ科食物やマメ科食物を中心とした種々の食物に含まれている。(出典: 加藤 幸宣:花粉-食物アレルギー症候群(J-Stage), URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiaio/4/3/4_131/_pdf/-char/ja, 2015-07-31))大豆に含まれるPR-10に類似したアレルゲンタンパク質は「Gly m 4」と呼ばれており、加熱や発酵などの加工処理によってその活性が失われやすい性質を持っています。そのため、味噌や納豆といった加工食品に比べ、加工の程度が低い豆乳では、アレルギー症状が起こりやすくなる場合があります。また、豆乳が液体であることも、アレルギー症状の発症に影響を与えている可能性が指摘されています。
豆乳アレルギーの症状
豆乳アレルギーの症状は、人によって現れ方が異なりますが、一般的には皮膚のかゆみ、発疹、赤み、腫れ、じんましん、咳などが挙げられます。重症の場合、アナフィラキシーと呼ばれる、血圧低下や意識障害を伴うショック症状を引き起こす可能性があり、生命に関わることもあります。特に、既存のアレルギー疾患(食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎など)を持つ方は、食物アレルギーを発症しやすい傾向にあります。
豆乳アレルギーで知っておきたいポイント
豆乳アレルギーについて、特に重要なポイントは以下の通りです。
- 重症例では他の大豆製品(もやし、枝豆、豆腐など)でも症状誘発の可能性があり、注意が必要です。発酵でも低アレルゲン化され、大豆アレルギーでもしょうゆ、味噌、納豆は食べられる場合もあります。(出典: よくわかる 食物アレルギーの基礎知識(厚生労働科学研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業), URL: https://www.nada-kuri.com/wp-content/uploads/2015/04/02450a5bc4ab11086fe42e6b86b15d53.pdf, 2008)
- 血液検査における大豆特異的IgE抗体価検査が陰性となるケースもあります。正確な診断には、豆乳などアレルギー症状を引き起こした大豆製品を用いた皮膚プリックテストで陽性を確認することが重要です。
- 多くの場合、血液検査でシラカンバやハンノキなどの花粉に対する陽性反応が見られます。これらの検査結果は、豆乳アレルギーの診断において参考となります。
- 豆乳アレルギーと関連する花粉は、カバノキ科(シラカンバ、ハンノキなど)の花粉です。スギ花粉が原因で大豆アレルギーになることはありません。カバノキ科花粉は春に飛散し、スギ花粉の飛散時期と重なるため、症状だけではどちらのアレルギーか判断できません。医療機関での検査が必要です。
- 豆乳などを大量に摂取することでアレルギーになりやすくなるわけではありません。現在、問題なく大豆製品を摂取できている人が、今後も摂取し続けることは基本的に問題ありません。ただし、カバノキ科花粉症や果物アレルギーのある方は、現時点で豆乳アレルギーがなくても、将来的に発症するリスクがやや高いと考えられています。
豆乳アレルギーの検査と診断
豆乳アレルギーの診断では、まず問診で症状や食事内容を詳しく確認します。血液検査で大豆に対するIgE抗体を調べますが、陰性となることもあるため、皮膚テスト(プリックテスト)や食物経口負荷試験を行うことがあります。特に、花粉-食物アレルギー症候群が疑われる場合は、カバノキ科花粉に対するIgE抗体の検査が有効です。
豆乳アレルギーの治療と対策
豆乳アレルギーと診断された場合の一般的な対処法としては、原因となる豆乳の摂取を避けることが基本です。医師の指示に基づき、症状が出た場合には抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬などが処方されることがあります。アナフィラキシーショックが起きた場合には、処方されているアドレナリン自己注射薬(エピペン)を使用し、直ちに医療機関を受診する必要があります。これらの対応は必ず医師の診断と指示に従ってください。
アレルギーを引き起こしやすい食品を初めて食べる際は、万が一、急な症状が現れた場合にすぐ受診できるよう、医療機関が開いている時間帯(平日の午前中や午後早めなど)に試すのがおすすめです。最初はごく少量から試し、問題なければ、数日後に同じ量を試して症状が出ないか確認し、徐々に量を増やしていくとより安全です。
大豆アレルギーでも摂取できる可能性のある大豆加工品
大豆アレルギーを持つ方でも、大豆油や醤油、味噌といった製品は、アレルギー反応を起こさずに摂取できる場合があります。納豆は、発酵の過程でアレルゲン性が低下することが期待されています。しかし、ご自身で判断してこれらの食品を摂取することはリスクを伴うため、注意が必要です。
製品ラベルのチェック
加工食品を購入する際には、必ず原材料の表示を確認し、大豆や豆乳が使用されていないかを確かめることが大切です。食品表示法に基づき、アレルギーを引き起こす可能性のある物質を含む食品には、その旨を表示することが義務付けられています。特に、外食をする際には、お店の方にアレルギー物質について尋ねるようにしましょう。最近では、卵や牛乳を使用していないケーキも多くありますが、代わりに豆乳を使用しているものもあります。豆乳などにアレルギーをお持ちの方は、口にする前に原材料を確かめることを推奨します。
偏りのない食事
特定の食品を避けるだけでなく、栄養バランスの整った食生活を送ることも重要です。「体に良い」とされる食品でも、種類と量のバランスが大切です。例えば、豆腐は低脂質でカルシウムの供給源として優れていますが、豆腐ばかりを食べる食事では、動物性タンパク質や鉄分などの栄養素が不足しがちです。肉や魚、卵などと一緒に、大豆製品も適量を摂取することが大切です。
医療機関との協力
食物アレルギーの疑いがある場合は、自己判断せずに、必ず医療機関を受診し、適切な診断とアドバイスを受けてください。特に、アレルギー専門医は、食物アレルギーに関する深い知識と経験を持っており、患者さん一人ひとりに最適なアドバイスを提供してくれます。不安な場合はアレルギー専門医に相談し、検査の必要性を含めて、アレルギーの原因となりやすい食品の摂取方法について相談しましょう。
アレルギー体質の方は特に注意が必要です
アレルギーをお持ちの方は、特定の大豆製品に限らず、様々な物質に対して敏感な傾向があります。特に、カバノキ科の花粉症や特定の果物アレルギーがある方は、現時点で豆乳などによるアレルギー反応がなくても、将来的に新たに豆乳アレルギーを発症するリスクが高いと考えられています。リンゴや桃を食べた際に喉の痒みなどのアレルギー症状が出る方は、豆乳などの摂取によって口腔アレルギーを発症する可能性があるため、注意が必要です。万が一、摂取後にアレルギーに似た症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
まとめ
豆乳アレルギーは、大豆アレルギーの方だけでなく、花粉症の方にも起こりうる、決して他人事ではないアレルギーです。正しい知識を身につけ、適切な対策を講じることで、安心して豆乳を食生活に取り入れることができます。少しでも不安を感じたら、専門医に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
豆乳アレルギーはなぜ起こるのでしょうか?
豆乳アレルギーは、大豆に含まれる特定のタンパク質に対し、免疫システムが過剰に反応することで引き起こされます。大豆アレルギーを持つ方に加え、カバノキ科花粉症の方が、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)の一環として豆乳アレルギーを発症するケースも確認されています。
豆乳アレルギーにはどのような症状がありますか?
豆乳アレルギーの症状は人によって異なりますが、皮膚や粘膜のかゆみ、発赤、腫れ、じんましん、咳などがよく見られます。重篤な場合には、アナフィラキシーショックと呼ばれる、急激な血圧低下や意識障害などを伴う重篤な症状を引き起こす可能性もあります。
豆乳アレルギーと診断された際の適切な対応
豆乳アレルギーと診断された場合、最も重要なのは原因となる豆乳を摂取しないことです。もし症状が現れた際には、抗ヒスタミン剤やステロイド外用薬などを使用して、症状の軽減を図ります。重篤なアナフィラキシーショックが発生した場合は、アドレナリン自己注射薬(エピペン)を投与し、直ちに医療機関で診察を受けてください。