『八朔』と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? ある人は古くからの節句を、またある人は爽やかな酸味の柑橘を思い浮かべるかもしれません。この記事では、まず八朔という言葉の背景にある節句の文化に触れ、その後、ご家庭で柑橘の八朔を育てるための栽培方法を詳しく解説します。太陽の光を浴びて、たわわに実る八朔。その鮮やかなオレンジ色は、秋の訪れを告げる喜びの象徴です。自分で育てた八朔を収穫する感動は、格別なもの。庭先で、ベランダで、八朔の木を育ててみませんか? 初心者の方でも安心して始められるよう、苗木の選び方、土作りと植え付け、水やりと肥料、剪定の時期と方法、病害虫対策、収穫と追熟まで、丁寧にガイドいたします。さあ、あなたも八朔栽培の世界へ足を踏み入れ、豊かな収穫の喜びを味わいましょう。
八朔とは:古来の節句と現代における意義
八朔(はっさく)とは、かつて旧暦8月1日を指す節句であり、現代では9月1日を中心に行われる地域も見られます。この日は、間近に迫った稲の収穫を祝い、豊作を祈願する重要な日であり、日頃からお世話になっている人々へ感謝の気持ちを込めて贈り物を交換する習慣がありました。特に西日本において色濃く残る風習で、「八朔盆」としてお盆の締めくくりとする地域も存在します。起源は、収穫前の青い稲穂を神前に供え、「田の実の節供」または「頼みの節供」として、北九州地方では家の主が田畑で豊穣を祈る儀式に遡ります。また、日頃お世話になっている方への贈答も各地で行われてきました。

八朔の地域色:多様な風習と食の営み
八朔の祝い方は地域ごとに特色豊かです。例えば、四国の高松市では、男の子の健やかな成長を願って、米粉で作られた裸馬の形をした「シンコマ」が贈られます。三重県紀北町の養海院では、盆踊りに似た「八朔踊り」が奉納されます。また、一部地域では、八朔に搗かれる餅を「苦餅」と呼びますが、これは収穫時期を前に、人々が昼間の休息を惜しみ、夜を徹して作業に励む様子を表しています。熊本県では、ナスに足を取り付けた「花馬」を作り、田の神様がそれに乗って帰ると伝えられ、海や川へ流すというユニークな風習が残っています。
八朔の歴史:武家社会と贈答文化の深まり
八朔の贈答文化は、室町時代に隆盛した武家社会における「たのみ」「たのも」といった進物のやり取りに起源を持つと考えられています。農村を基盤とする武士たちが、農作業を互いに助け合う中で、神様への捧げ物として初穂などを贈り合ったことがその始まりではないかと言われています。毎年8月1日、江戸城では八朔の儀式が行われました。この日は天正18年(1590)に初めて徳川家康が江戸に入府した日とされ、幕府にとって重要な日でした。五つ時(午前7~8時頃)には大名諸侯が白帷子(しろかたびら)に長袴で将軍を待ちます。将軍も、同じく白帷子に長袴姿で諸大名や旗本たちに御目見します。つまり白帷子は「八朔」のシンボルでした。 (出典: 東京都立図書館『江戸新吉原八朔白無垢の図』解説, URL: https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/portals/0/edo/tokyo_library/modal/index.html?d=5432, 1822-1823(図の刊行年)/現代解説)

八朔の異名:田実の節供と豊かな稔りへの祈り
八朔は、「田実(たのみ)の節供」とも呼ばれ、稲の収穫を間近に控え、豊かな実りを祈願する様々な行事が行われてきました。西日本各地では、「タホメ」や「サクダノミ」といった名で、田んぼに出て稲の出来具合を褒め称える予祝儀礼や、収穫されたばかりの初穂を神様に捧げる穂掛けの儀式を行う地域があります。香川県をはじめとする瀬戸内地方では、「馬節供」として、新粉細工や張り子の馬を男の子が生まれた家に贈る風習があり、関東地方には、「生姜節供」として、嫁が里帰りする際に生姜を持たせるという習慣も存在します。
現代における八朔:柑橘としての魅力
八朔は、日本を代表する柑橘類の一つとして親しまれています。広島県を発祥とし、和歌山県、広島県、愛媛県、徳島県などで広く栽培されています。その特徴は、丸みを帯びた形で、甘味と酸味のバランスが取れた味わいです。八朔も温州ミカン同様,日本原産であり,瀬戸内海に浮かぶ因島(広島県因島市)で発見された.嘉永年間(1840年代),因島には数十種類の柑橘があり,中でもハッサクは田熊村にあった浄土寺の小江恵徳上人の生家の一隅に家人が食べ捨てた柑果の種子から発芽したと思われる2本が生育したものに起源を発するといわれている.江戸時代の万延年間(1860年代),上人が発見した頃の八朔は無名で「ジャガダ」といわれている.明治19 年,この「ジャガダ」が旧暦8 月1 日(八朔)に食べられるということで「八朔」と命名された. (出典: 青い柑橘類果実でアンチエイジング ~抗アレルギー作用を併せ持つ八朔の機能性~(日本生物工学会誌), URL: https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/8806_daigakuhatsu.pdf, 2010-06)農林水産省の『特別栽培農産物に係るガイドライン』によると、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」は表示禁止とされています。以前は「無農薬」「減農薬」などと表記された野菜が販売されていましたが、これらの表現は生産者によって定義が異なり、消費者に誤解を与えやすいという理由で、平成16年に禁止されました。(出典: 農林水産省『特別栽培農産物に係るガイドライン』の解説(KAGOME公式サイト), URL: https://www.kagome.co.jp/vegeday/store/201702/6292/, 2024-03-28)生産者は、愛情を込めて八朔を育て、消費者の意見を取り入れながら、より美味しい八朔を提供できるよう日々努力を重ねています。
八朔の多様な商品:旬の味覚を楽しむ
現在、市場には様々な種類の八朔が流通しており、消費者は自分の好みに合わせて選ぶことができます。例えば、「木成り八朔」のように、樹上で十分に熟成させたものや、農薬不使用で栽培されたものなど、こだわりの八朔が人気を集めています。これらの八朔は、それぞれの生産者が独自の栽培方法を用いており、他では味わえない個性的な風味を楽しむことができます。オンラインストアでは、これらの八朔を気軽に購入でき、自宅で手軽に旬の味覚を堪能することができます。

八朔農家の想い:愛情を込めた栽培と消費者の声
八朔を栽培する農家の方々は、一年を通して愛情を込めて八朔の木を育てています。花が咲き、小さな実がつき始め、徐々に大きく育っていく様子は、まるで自分の子供や作品を見ているような気持ちになるそうです。そのため、農家の方々は「美味しく食べてもらえただろうか?」「喜んでもらえただろうか?」と、消費者の声が非常に気になるものです。消費者の「美味しかったよ」という一言が、農家にとって一年間の努力が報われる瞬間であり、次への活力となります。消費者の声は、翌シーズンの農園や店舗運営の参考となり、より良い八朔作りに繋がります。
おわりに
八朔は、古くから日本の食文化に根ざし、現代においてもその美味しい柑橘としての魅力を放ち続けている特別な存在です。節句との関わり、地域ごとの風習、そして農家の愛情が詰まった八朔を、これからも大切にしていきたいものです。ぜひ、旬の八朔を味わい、その美味しさを体験してみてください。
八朔とは?
八朔という言葉には二つの意味があります。一つは、かつての暦、旧暦の8月1日を指す言葉。もう一つは、広島県を発祥とする柑橘類の名前です。節句としての八朔は、実り豊かな収穫を願う行事や、贈り物をする習慣として残っています。一方、柑橘としての八朔は、ほどよい甘さと酸味が織りなす、独特の風味が魅力です。
八朔の節句はいつ?
現代においては、9月1日に行われることが多いようです。これは、旧暦の8月1日を現在の暦に置き換えると、毎年日付が変動してしまうため、固定して9月1日を八朔の日としてお祝いするようになったためです。
八朔(柑橘)の旬な時期は?
八朔の収穫時期は、一般的に12月から翌年の1月にかけて。そして、市場に出回るのは1月から5月頃です。名前の由来は、旧暦の8月1日頃に食べ頃を迎えると考えられていたことにありますが、実際にはその時期にはまだ実が小さく、食用には適していません。