さくらんぼ?おうとう?知っておきたい旬の味、その違いと選び方
初夏の訪れを告げる、宝石のように輝く赤い実。さくらんぼとも、おうとうとも呼ばれるこれらの果物は、見た目も味もそっくりで、どちらが正しいのか迷ってしまう方もいるかもしれません。実はこれら、どちらも同じバラ科サクラ属の果実を指す言葉なのです。この記事では、意外と知られていないさくらんぼとおうとうの違い、そしてより美味しいものを選ぶためのポイントを、プロの視点からわかりやすく解説します。旬の味覚を存分に楽しむために、ぜひ参考にしてください。

サクランボとは

サクランボ(桜桃)は、バラ科サクラ属のミザクラ亜属に属する、ミザクラ類の木になる果物です。旬は初夏の6月から7月で、甘さと程よい酸味が楽しめます。一般的にサクランボとして広く知られているのは、セイヨウミザクラ(西洋実桜)という品種の果実です。

サクランボの名前の由来と呼び方

サクランボは、生産者の間では「桜桃(おうとう)」と呼ばれることが多く、店頭に並ぶ際には「サクランボ」という名前で販売されることが一般的です。「サクランボ」という名前の由来は、桜の愛らしい実を意味する「桜の坊」という言葉が変化したものとされています。山形県の生産者の中には、サクランボを「オウトウ」や「オット」と呼ぶ人もいます。

サクランボの種類:甘果桜桃と酸果桜桃

サクランボの木には、大きく分けて甘果桜桃と酸果桜桃の2つの種類があります。私たちが普段、生のまま食べるのは甘果桜桃の果実です。酸果桜桃は強い酸味が特徴で、主にジャムや果実酒など、加工用として利用されます。

サクランボの植物学的な特徴

サクランボの果実は、一般的に丸みを帯びた赤い実で、中に種が一つ入っています。果肉の色は品種によって異なり、乳白色、クリーム色、黄色、赤色など様々です。また、果皮の色も品種によって異なり、黄白色や鮮やかな赤色、紫がかった色などがあります。

サクランボの受粉:自家不和合性について

多くの甘果桜桃は、自家不和合性という性質を持っています。これは、自分の花粉では受粉できないため、別の品種の花粉が必要となる性質です。つまり、受粉を行うためには、異なるS遺伝子型を持つ品種を選ぶ必要があります。ただし、極めて稀ですが、自家結実性を持つ品種も存在します。一方、酸果桜桃は、全ての品種が自家和合性を持っています。

サクランボの栄養価と効能

サクランボは、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、様々な栄養素をバランス良く含んでいます。特に、カリウム、葉酸、ビタミンCが豊富に含まれています。カリウムは健康維持に役立つミネラルの一つで、バランスの取れた食生活において高血圧のリスク管理に寄与する可能性が示唆されています。葉酸は赤血球の形成を助ける栄養素として知られています。サクランボにはアントシアニンが含まれており、『紅さやか'(サクランボ)ポリフェノールの生理機能と加工利用』(http://jglobal.jst.go.jp/public/200902292428164272, 2007)の研究では、アントシアニンの生理機能が検討されています。ソルビトールは、虫歯の予防や便秘の改善に役立つと言われている天然の甘味料です。

サクランボの歴史:世界と日本

サクランボは、古くから人々に食されてきました。甘果桜桃は、北部からヨーロッパ西部にかけて自然に生育していました。一方、酸果桜桃は、アジア西部が原産地とされています。古代ローマ時代には、執政官ルクッルスが、現在のトルコ北部のケラソス(Giresun)近郊でサクランボの木を発見し、ローマに持ち帰ったという記録が残っています。サクラ属の学名であるCerasusは、このケラソスのラテン語表記に由来しています。その後、サクランボはヨーロッパ各地に広がり、特にイギリス、フランス、ドイツで広く栽培されるようになりました。英語のcherryという名前は、フランス語のceriseが語源となっています。
日本には、中国原産のシナミザクラが古くから伝わっていましたが、現在よく見られるセイヨウミザクラが導入されたのは明治時代の初期です。ドイツ人ガルトネルが北海道に植えたのが最初でしたが、日本の気候に合わず、栽培は継続できませんでした。その後、明治8年に北海道開拓使がアメリカから苗木を輸入し、全国に配布しましたが、東北地方や北海道を除いて、うまく実をつけませんでした。しかし、山形県では気候や風土が適していたため、サクランボ栽培が根付き、やがて日本一の産地へと発展しました。現在栽培されている品種の多くは、この時に輸入された苗木が起源となっています。

サクランボの品種:豊富な種類と特徴

世界全体では1,300品種以上のさくらんぼが栽培されていると言われています。日本ではそのうちの25品種ほどが栽培されており、そのほとんどが山形県でも栽培されています。 (出典: 山形県公式サイト『さくらんぼの話のタネ』, URL: https://www.pref.yamagata.jp/140032/sangyo/nourinsuisangyou/nogyo/nousambutsu/sakurambo/tane.html, 2024-08-16)果肉の色、甘さ、酸味、大きさなど、品種によって様々な特徴があります。日本で栽培されているサクランボは、ほとんどが白肉種で、甘さと酸味のバランスがとれた爽やかな味わいが特徴です。アメリカ産のサクランボは赤肉種が多く、酸味が少なく甘味が強い傾向があります。アメリカ産のサクランボは「アメリカンチェリー」として販売されており、「ビング」や「レーニア」といった品種がよく知られています。

代表的なさくらんぼの種類

さくらんぼは、その生育地や特性に応じて様々な品種が存在します。ここでは、日本で特に親しまれている代表的な品種をいくつかご紹介します。

佐藤錦

「佐藤錦」は、多くの人に愛されている代表的な品種の一つです。「ナポレオン」と「黄玉」を掛け合わせ、山形県の佐藤栄助氏が開発し、1928年にその名が付けられました。果肉は白く、甘さと酸味のバランスがとれているのが特徴です。旬は6月中旬から7月初旬にかけて。高い糖度を誇り、甘さと酸味のバランスがとれています。鮮やかな赤色に染まった果実は甘みが凝縮されており、弾けるような食感が特徴です。大粒であるほど果肉は厚く、果汁も豊富で、甘さの中に程よい酸味が加わったジューシーな味わいが楽しめます。

紅秀峰

「紅秀峰」は、「佐藤錦」と「天香錦」を交配して生まれた品種で、1991年に品種登録されました。果皮は鮮やかな紅色を帯びており、果肉はクリーム色をしています。酸味が少なく糖度が高いため、非常に美味しく、7月上旬頃から市場に出回ります。比較的果実が硬く、日持ちが良い点も特徴です。

高砂

「高砂」は、アメリカ原産のさくらんぼで、1872年に日本へ伝わりました。果肉は乳白色で、果汁をたっぷり含んでいます。甘味と酸味のバランスが取れており、濃厚な風味を堪能できます。6月中旬頃から出荷が始まります。

ナポレオン

「ナポレオン」は、やや大きめの粒で愛らしいハート型が特徴のサクランボです。ヨーロッパで長い歴史を持ち、明治初期にアメリカ経由で日本へやってきました。果肉は淡いクリーム色で、しっかりとした歯ごたえがあり、ジューシー。甘さと酸味の調和がとれており、奥深い味わいが堪能できます。収穫時期は6月下旬頃です。

その他の品種

「北光(水門)」、「紅さやか」、「南陽」、「香夏錦」、「正光錦」、「紅てまり」、「大将錦」、「ジャボレー」、「月山錦」、「豊錦」、「アメリカンチェリー」など、多種多様な品種が存在します。品種ごとに、味、食感、旬の時期が異なるため、いろいろな種類を味わってみるのも面白いでしょう。

サクランボの産地:山形県がトップ

サクランボの生産地といえば、山形県が国内収穫量の約7割を占める、名実ともに日本一の産地です。続いて、北海道、青森県、山梨県などが主要な産地として挙げられます。これらの上位県で全国の9割以上を生産していますが、秋田県、福島県、群馬県、長野県など、20以上の都道府県で栽培されています。

サクランボの選び方と保存方法

おいしいサクランボを見分けるポイントは以下の通りです。 * 果皮につやがあり、色が濃く鮮やかなもの * 軸がしっかりとしていて、緑色をしているもの * 傷やへこみがないもの サクランボはデリケートな果物なので、購入後は冷蔵庫で保管し、できるだけ早く食べるのがおすすめです。冷凍保存もできますが、食感や風味が多少変化する点をご了承ください。

さくらんぼの楽しみ方:フレッシュな味わいから加工品まで

さくらんぼは、そのまま口にするのが一番ポピュラーな食べ方ですが、様々な形に姿を変えて私たちの食卓を彩ります。例えば、甘酸っぱいジャムやコンポート、香り豊かな果実酒、そして見た目も可愛らしいお菓子など、その用途は多岐にわたります。さらに、さくらんぼをベースにしたジュースや、爽やかなサイダー、ちょっぴり大人なリキュールも人気を集めています。
お菓子作りには欠かせないドレンチェリーは、さくらんぼを加工したもので、ケーキやクッキーなどのデコレーションによく使われます。また、シロップに漬けられたさくらんぼは、デザートのアクセントとして、またはお弁当の彩りとしても重宝されています。

さくらんぼと観賞用桜の違い

さくらんぼは、確かに桜の木から収穫される果実ですが、私たちが花見で愛でる桜(例えばソメイヨシノ)とは、基本的に品種が異なります。観賞用の桜にも実はなりますが、その実は小さく、食用には向いていません。さくらんぼとして収穫されるのは、主にセイヨウミザクラという品種のものです。

ソメイヨシノの受粉とさくらんぼの関係

ソメイヨシノは、その性質上、挿し木や接ぎ木といった方法でしか増やすことができません。そのため、遺伝的にはほぼ同一のクローンと言えます。ソメイヨシノには自家不和合性という性質があり、同じソメイヨシノ同士では受粉しても実を結びません。もし実を見つけたとしても、それは近くにある別の種類の桜の花粉によって受粉した可能性が高いでしょう。また、ソメイヨシノにできた実は、小さく、苦みや酸味が強いため、食用には適していません。

結び

桜桃は、その可愛らしい外観と甘さと酸味が調和した風味で、幅広い世代に親しまれている果実です。多種多様な品種が存在し、それぞれ異なる特徴を持っています。味わい方は様々で、楽しみ方も無限大です。旬の季節には、ぜひ様々な桜桃を堪能してみてください。桜桃狩りに出かけたり、桜桃を贅沢に使ったデザート作りに挑戦するのも良いでしょう。桜桃を通じて、季節の移ろいを肌で感じてみるのはいかがでしょうか。

質問1

桜桃を長持ちさせるための保存方法はありますか?

回答1

桜桃はデリケートな果物であるため、冷蔵保存が基本です。購入後はできるだけ早くお召し上がりください。保存する際は、直接冷蔵庫に入れるのではなく、柔らかい紙(新聞紙やキッチンペーパーなど)で優しく包み、その上からポリ袋に入れて冷蔵庫で保管すると、鮮度をより長く保つことができます。

質問2

桜桃の種には有害な成分が含まれているというのは本当でしょうか?

回答2

さくらんぼの種の中には、アミグダリンという成分が含まれています。これは体内で分解される過程で、ごくわずかな青酸を生成する可能性があります。しかし、誤って種を飲み込んでしまったり、少量かじってしまった程度であれば、ほとんどの場合、健康への影響は心配ありません。大量に摂取することは避けるべきですが、通常、過度に神経質になる必要はないでしょう。

質問3

さくらんぼが最も美味しく食べられる時期はいつ頃でしょうか?

回答3

さくらんぼの旬は、種類や産地によって多少前後しますが、おおむね6月から7月にかけてと言えるでしょう。早いものでは5月下旬頃から店頭に並び始め、遅いものでは7月下旬頃まで収穫されるものもあります。

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