お茶会のお菓子

お茶会は、日常を少し離れて、心ゆくまでくつろぎの時間を楽しむ特別なひととき。そんな素敵な時間をさらに彩るのが、見た目も味わいも心ときめくお菓子たちです。繊細なデザインの和菓子、それぞれが持つ物語を感じながら、お茶の香りと共にゆっくりと味わう贅沢。この記事では、お茶会をより一層豊かなものにする、選りすぐりのお菓子たちをご紹介します。優雅なティータイムを、お菓子と共に心ゆくまでお楽しみください。

茶道(茶の湯)と和菓子

茶席で供される和菓子には、大きく分けて二つの種類があります。それは「干菓子」と「主菓子」です。これらは、お茶の種類によって使い分けられ、通常、薄茶には干菓子が、濃茶には主菓子が選ばれます。薄茶の場合、まれに両方が供されることもありますが、基本的には薄茶には干菓子、濃茶には主菓子という組み合わせが一般的です。

主菓子(おもがし)とは

茶道に馴染みのない方や、始めたばかりの方にとって、「主菓子」という言葉は耳慣れないかもしれません。それは、「主菓子」が茶道において濃茶とともに供される菓子のことを指す、専門用語だからです。「主菓子」という言葉を知らなくても、「生菓子」という言葉ならご存知の方も多いでしょう。実は、主菓子とは、饅頭のような朝生菓子や、練り切りなどの上生菓子のことなのです。茶道で使われる和菓子として、これらの菓子を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。※朝生菓子とは、その日のうちに食される生菓子のことです。

主菓子と干菓子の味わい方、楽しみ方の違い

濃茶とともに供される主菓子は、菓子鉢に添えられた箸を用いて懐紙に取り分け、黒文字でいただきます。一方、薄茶の際にいただく干菓子は、一般的にイメージされるものとは少し異なります。落雁や煎餅、有平糖といった乾いた菓子の他に、州浜や寒氷などの半生菓子も含まれます。これは茶道において、菓子の水分量による厳密な区別がないためです。干菓子は、漆器や木地、金属製の器に、客の人数より多めに盛られて出され、客はそれを手で懐紙に取り分けます。

茶道(茶の湯)で使われる干菓子の種類

茶道において、薄茶と共に供される干菓子について詳しく見ていきましょう。干菓子は地域によって分類や呼び方が異なる場合がありますが、ここでは代表的なものを例を挙げながらご紹介します。

・打ち物

寒梅粉やはったい粉に砂糖を加えて型に入れ、打ち出して作る干菓子を「打ち物」と呼びます。型は職人が手彫りした桜の木型などが用いられ、様々な種類があります。代表的なものとして、落雁があります。

落雁

落雁は、寒梅粉やみじん粉、はったい粉に砂糖と、しとりと呼ばれる水飴などを混ぜて型に入れ、打ち出した干菓子です。初期はシンプルな形でしたが、江戸時代後期には鶴亀や鯛などの縁起の良い形や華やかな色使いのものが慶事や仏事の引出物として用いられました。現在では、四季を表す干菓子として茶席で使われます。特に、和三盆糖を使った落雁は「和三盆」とも呼ばれ、その口どけの良さと上品な香りが特徴です。和三盆糖は、徳島県や香川県で伝統的な製法で作られる、きめ細やかな砂糖です。

雲平

雲平は、寒梅粉と砂糖、蜜を練って薄く伸ばし、型抜きして乾燥させた干菓子です。関東では「雲平」、関西では「生砂糖」と呼ばれます。紅葉や銀杏などの季節のモチーフがよく使われ、パリッとした食感やしっとりした食感を楽しめます。茶席の他、節句などの行事にも用いられます。

・押し物

押し物は、打ち物と同様に型に入れて押し固めた後、包丁で切って成形する干菓子です。打ち物よりも水分が多く、口溶けが良いのが特徴です。

村雨

村雨は、餡と砂糖、寒梅粉などを混ぜて木枠に入れ、押し固めて切り分けた干菓子です。蒸して作ることもあり、蒸したものは時雨羹とも呼ばれます。関西では、餡を濾してそぼろ状にしたものを蒸し固めた生地を村雨と呼ぶこともあります。

塩釜

塩釜は、みじん粉と砂糖、塩、塩漬けのしその葉を混ぜて枠に入れ、押し固めた干菓子です。宮城県塩釜港付近で売り出されたことが名前の由来です。甘い干菓子が多い中で、ほんのりとした塩味が上品で、お茶の味を引き立ててくれます。

・掛け物

掛け物は、砂糖液やすり蜜などをかけて作る干菓子です。

金平糖

金平糖は、ポルトガルから伝わった砂糖菓子で、独特の星形をしています。回転する釜の中で芥子の実に砂糖蜜を何度もかけながら作られます。カラフルで愛らしい見た目が特徴です。

砂糖漬

砂糖漬は、砂糖液で煮詰めた果物や野菜に砂糖をまぶした和菓子です。かつては南蛮漬とも呼ばれていましたが、現在の南蛮漬けとは異なります。クルミ、金柑、生姜などが使われます。

・飴菓子

飴は、古くは麦芽糖を原料としていましたが、江戸時代から種類が増えました。茶道では、有平糖や翁飴がよく用いられます。

有平糖

有平糖は、16世紀にポルトガルから伝わった干菓子です。砂糖と水あめを煮詰めて作られ、光沢があり細かな成型が可能なため、飾り菓子としても使われます。千代結びや貝、小花など様々な形があります。

翁飴

翁飴は、水あめや砂糖に寒天を加えて固め、表面にみじん粉をまぶした干菓子です。ゼリー状で平たい四角形をしており、薄い布で覆われたような上品な見た目が特徴です。

・種物

種物は、餅粉などを水で溶いた生地や餅を薄く焼いた干菓子です。代表的なものに最中の皮がありますが、茶道では麩焼煎餅が用いられます。

麩焼煎餅

麩焼煎餅は、餅粉を水で溶いて丸く焼いた白い煎餅です。麩のような軽さからこの名前がつきました。厚さによって種類があり、そのまま食べる厚種と、餡を挟む薄種があります。素朴な味わいが特徴で、季節や行事に合わせた焼印が押されたり、砂糖蜜を塗られたりしたものもあります。

そぎ種

そぎ種は、麩焼煎餅の薄種を半分にそいだもので、へぎ種とも呼ばれます。そいだ生地で味噌餡や梅肉などを挟み、中の餡が透けて見えるのが特徴です。焼き印が押されたものが茶席でよく用いられます。

半生菓子

茶道で用いられる干菓子は、水分量による明確な区分がなく、一部の半生菓子もその範疇に含まれます。例えば、州浜は炒った大豆を挽いた州浜粉に、砂糖や水飴を加えて練ったお菓子です。本来はきな粉の色である薄茶色ですが、近年では青えんどう豆を使った緑色のものも見られます。その名は、浜辺の景色を模した州浜紋に由来しますが、現在では団子状のものも存在します。茶席では松葉や蕨の形が用いられることが多いです。干琥珀は、錦玉羹を薄く切って乾燥させた半生菓子で、その愛らしい見た目から「艶干錦玉」とも呼ばれます。元々は、クチナシで琥珀色に染めた錦玉羹を「琥珀羹」と呼び、それを乾燥させたものが干琥珀となりました。表面のカリッとした食感と、中のゼリー状の柔らかさが特徴です。寒氷は、煮溶かした寒天に砂糖を加えて煮詰め、乳白色にしてから着色・型抜きした半生菓子で、「すり琥珀」とも呼ばれます。外側のシャリッとした食感と、練りのあるしっかりとした食感、そして強い甘さが特徴です。クッキーのように型抜きできるため、四季折々の風物を模したものが作られます。

おわりに

茶の湯において、干菓子は季節の移ろいを映し出す美術品です。木型や焼印によって、その時々の情景を繊細に表現し、茶席に趣を添えます。和菓子は地方ごとに異なる呼び名や別名を持ちますが、その背景にある物語を知ることで、お茶会はより豊かな体験となるでしょう。干菓子の奥深さを理解することで、薄茶との調和を楽しみ、茶道の新たな魅力を発見できるはずです。

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