さくらんぼは日本の夏を代表するフルーツとして、多くの人々に親しまれています。しかし、その名前や栽培条件には意外な事実が隠されています。さくらんぼの呼び名の由来や、桜との関係、さくらんぼの木の特性など、さくらんぼにまつわる知識を深めることで、この果実の魅力をより一層理解することができます。
さくらんぼとは
さくらんぼは、バラ科サクラ属の一種で、落葉する中高木の植物です。ここから実る果実は、さくらんぼまたは桜桃とも呼ばれます。私たちがよく目にする丸くて赤い実の他にも、黄色や黒紫色の品種も存在しています。
さくらんぼは、非常に古くから日本の風土に馴染む果物であり、その栽培歴は約1000年以上にまで遡ります。当初から極めて人気の高い果物として、国内各地で栽培が行われてきましたが、その中心地であったのが山形県です。山形県で初めて商業的にさくらんぼの栽培が行われるようになったのは大正17年で、それ以来、この美味しい果実は全国的に知られるようになりました。
さくらんぼの主たる品種である甘果おうとうは、日本で収穫される生食用のさくらんぼのほとんどを占めています。甘果おうとうの実はその名の通り、甘さが特徴的です。一方で、酸味が強い酸果おうとうも栽培されており、こちらは主に調理用途に使われます。
興味深いことに、さくらんぼは自家不和合性という性質を持っています。つまり、それぞれの品種が自身とは異なる品種と授精しなければ果実をつけることができないのです。このため、さくらんぼの栽培には、互いの相性が良い異なる品種を混植することが必要となります。
さくらんぼの名前の由来
「さくらんぼ」という名前は、もともと「桜の坊」という表現が変化したものとされていますが、実際には「桃桜」が正式な呼び名です。日本では「桜桃(おうとう)」と呼ばれることが多く、これは古代に果物全般を「桃」と呼んでいた名残で、「桜に実る果物」という意味で「桜桃」となったという説が広く知られています。
さくらんぼの木は桜じゃない?
「さくらんぼ」を実らせる木は観賞用の桜とは異なります。日本でよく見られるソメイヨシノなどの桜は主に観賞用で、実がつかないことが多いのですが、さくらんぼの木は食用の品種で、代表的なのは「セイヨウミザクラ」という真っ白な花が特徴の桜です。観賞用と食用という違いはありますが、いずれも桜の仲間です。
さくらんぼと桜の違い
春という言葉は、ソメイヨシノや八重桜を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、実は桜と美味しい果物であるさくらんぼの間には、見た目や目的、時期の面で数多くの違いが存在します。
まず、桜の花はその色が多種多様で、白からピンク、淡い黄色、花びらに緑の筋が入る種類まで様々です。また花びらの数も品種によって異なり、お花見全盛期である4月上旬に多く見られるソメイヨシノと異なり、5月上旬に開花する桜もあります。桜は、これらの美しい花を見て楽しむことを目的として育てられているわけです。
一方、さくらんぼの花は白く、蕾がまとまって咲き小ぶりな花束のように見えます。この特徴は、山形などでゴールデンウイーク期間に主に開花するさくらんぼの特徴であり、これに続いて美味しい果実が作られます。
なお、一部の桜は花が散った後、条件次第で実をつけ一般的には「桜桃」と呼ばれます。ただし、この実は丸く1㎝程度とさくらんぼとは異なり、黒紫色で苦く、そこに甘味はあまり感じられないため通常は食用にはされません。
一見すると、名前が似ており、花が咲くという共通点があるため混同しやすい桜とさくらんぼ。しかし、その様々な違いを理解すれば、春の季節をより一層深く堪能することができます。そうして、新緑の季節が訪れるのを桜が告げ、初夏をさくらんぼが教えてくれるという自然のリズムをより感じることができるでしょう。
さくらんぼの木が美味しい実をつける条件
美味しい実をつけるさくらんぼの木には、土壌の肥沃さといった確保すべきプレ条件があります。肥沃で深く排水性が良い土壌が第一の条件であり、また開花から実の収穫までの間には適度な潅水が不可欠です。
さらに、十分な日光が果実の成熟にとって非常に重要です。満足に日当たりがないと果実が成熟せず、病害虫の侵入も招く可能性があります。成熟したさくらんぼの木は1日に最低でも約6時間の直射日光が必要とされます。
加えて、特筆すべきはさくらんぼの木は冬の寒冷期もまた必要とするという点です。寒さに晒される期間があれば開花しやすいが、開花後の霜が実に害を与えるため、保護措置も必須となります。
剪定が適切に行われたことも欠かせません。これは光を適切に取り込むためと風通しを確保するためです。これらが満たされた状態で生育が進むと、健康で美味しい実が育つのです。
なお、佐藤錦やナポレオンといった異なる品種同士の相性も重要です。さくらんぼの木は「他家不結実性」を持ち、一種類のみだと実をつけることが難しいため、少なくとも2品種以上の相性の良い品種を選ぶべきです。
着実な受粉を行う品種として「暖地桜桃」や「紅きらり」もあります。美味しいさくらんぼを収穫するためにはこれらの条件が整っていることが必要で、それだけにその味わいは一層深いものがあります。これらを踏まえ、さくらんぼ育成における試行錯誤を楽しみつつ、最良の結果を目指しましょう。
さくらんぼの品種は1,000種以上!
世界には1,000種類以上のさくらんぼが存在すると言われていますが、日本で栽培されているのは約30種類です。代表的な品種には、知名度と人気が高い「佐藤錦」、アメリカ原産の「高砂」、ヨーロッパで広く栽培される「ナポレオン」、交雑種の「紅秀峰」、珍しい黄色い実をつける「月山錦」などがあります。桜には300種以上が存在するとも言われています。
さくらんぼと桜の花言葉
桜の花言葉は品種によって異なりますが、例えば「ソメイヨシノ」は「優れた美人」、「シダレザクラ」は「優美・ごまかし」、「カンザクラ」は「気まぐれ」といった意味があります。一方、さくらんぼは「善良な教育」、「上品」、「幼い心」、「あなたに真実の心を捧げる」という花言葉があり、その可愛らしい実を象徴しています。
さくらんぼの原産地
さくらんぼの原産地はトルコのギレスン市で、この街は黒海沿岸に位置し、穏やかな気候が魅力的です。ギレスン市から日本へと伝わり、今では山形県で栽培されるさくらんぼが有名です。
さくらんぼが英語でチェリー(Cherry)と呼ばれる理由
ギレスン市の古代名「CERASUSU」が、ヨーロッパで「CERISE(さくらんぼ色)」と呼ばれ、イングランドに渡って「CHERY(シェリー)」となり、最終的に英語の「CHERRY」の語源となりました。クランベリーと同じく、歴史的な背景が名前に反映されています。
日本のさくらんぼのルーツはトルコ
日本のさくらんぼの名産地として知られる山形県の「佐藤錦」は、実はトルコのギレスン市が原産地です。明治時代から山形で栽培が始まり、長い年月をかけて美味しいさくらんぼが生まれました。面白いことに、ギレスン市と山形県寒河江市はほぼ同じ緯度に位置しており、地理的な共通点もあります。
まとめ
さくらんぼはその愛らしい外観と豊かな味わいだけでなく、名前の由来や栽培の条件、そして歴史的背景にも興味深い側面を持つ果実です。「桜桃」と呼ばれることからも分かるように、さくらんぼと桜には深い関係がありますが、実際には異なる品種であり、さくらんぼは特有の栽培条件を必要とします。また、そのルーツがトルコにあることや、英語で「チェリー」と呼ばれる由来も含め、さくらんぼの歴史と文化は非常に興味深いものです。これらの知識を通じて、さくらんぼをより深く楽しむことができるでしょう。