鉄分不足は、特に女性の健康において大きな影響を与える問題です。月経に伴い毎月鉄分が失われるため、鉄欠乏性貧血は女性に特有の症状とされています。しかし、ヘモグロビンの値が正常であっても、体内の鉄分が不足している「かくれ貧血」はより広く見られ、見逃されがちです。鉄分が不足すると、心身の不調が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。このような鉄分不足を解消するために、鉄を効率的に摂取する方法や食事の工夫が必要不可欠です。本記事では、女性に特に重要な鉄分の摂取方法と、鉄分が豊富な食品、吸収率を高めるための食事のポイントについて詳しく解説します。
鉄分不足と女性の健康
一般的に女性特有の症状というイメージがある「貧血」。実際も、日本人女性のうち、月経のある女性の5人に1人は貧血と言われています。なかでも女性に特に多いのが、鉄分不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」です。主な原因は月経で、生理のたびに毎月約30mgもの鉄分が失われます。また、貧血の診断基準である「ヘモグロビン値」は正常範囲でも、体内の貯蔵鉄「フェリチン」が不足している「かくれ貧血(潜在性鉄欠乏症)」は、さらに多いとされています。平成18年の国民健康・栄養調査によると、20~49歳までの閉経前の女性では、69.5%もの人がフェリチン30ng/ml未満でしたが、これは重度のかくれ貧血に当たります。このうち、約30%は10ng/ml未満という枯渇状態でした。貧血の一歩手前の段階であるかくれ貧血は、一般的な検査では見逃されやすく、心身の不調を感じていても放置してしまいがちです。鉄分が不足しているにもかかわらず、何の対策も取らずに不調から抜け出せない女性は増えており、鉄分を意識的に摂る必要性が指摘されています。特に、初潮が始まる成長期や、妊娠・出産、授乳期は体の中の鉄分を大量に失います。子宮筋腫など婦人科系の疾患がある場合は、毎月さらに約40~50㎎の鉄分を失うため、治療はもちろん、食事から効率よく鉄分を摂るなど、日頃の食生活を見直すことが大切です。
鉄の推奨摂取量
鉄は幅広い食品に含まれていますが、食事バランスが偏っていると、不足する可能性がある栄養素です。カラダに必要な鉄を摂取するには、3回の食事をバランス良く食べることが基本です。鉄の1日の推奨量は、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に記載されている数値を参考にしてください。鉄の推奨量は、年齢や性別により異なります。成長期の10~17歳では、ほかの年代に比べて男女ともに推奨量が高く、月経のある女性も、鉄の推奨量が高くなります。厚生労働省が推奨する1日の鉄分の摂取量は、月経のある成人女性で10.5~11.0mg。妊娠初期・授乳期は+2.5mg、妊娠中期・後期は+9.5mgと言われています(日本人の食事摂取基準2020年版)。しかし、理想的な食事をしている人でも1日約10mg(吸収量は約1mg)の鉄分しか摂れていません。
ヘム鉄と非ヘム鉄の違いとは?
食品に含まれる鉄分には、肉や魚の赤身に多く含まれる「ヘム鉄」と、野菜や穀類、豆腐、海藻類などに多く含まれる「非ヘム鉄」の2種類があります。動物性のヘム鉄は、人体への吸収率が10~30%と高いことが特徴です。また、ヘム鉄は「ヘム」というたんぱく質に包まれた状態の鉄で、他の食品と一緒に摂っても吸収を妨げられないという利点があります。一方の非ヘム鉄は、胃で吸収しにくい三価鉄から二価鉄に還元されたのち、小腸で吸収されます。ヘム鉄に比べると、吸収率は5%以下と低いですが、食べ方によって吸収率を上げることができます。また、一緒に摂ると吸収率が下がる食品もありますので、正しい知識と食事の工夫が必要です。体内の吸収率は、ヘム鉄の方が非ヘム鉄よりも高いですが、非ヘム鉄は、同時に摂取する栄養素によっては吸収率が高まります。動物性食品や植物性食品をバランス良く摂取し、幅広い食品から鉄を補給することがおすすめです。非ヘム鉄よりヘム鉄の吸収率が高いからといって、動物性のヘム鉄だけを摂ればいいわけではありません。2種類の鉄分をバランスよく摂るように心がけましょう。

鉄の吸収率をアップするための食事のポイント
食事からの鉄分吸収効率は、同時に摂取する食品の成分に左右されます。つまり、食材の組み合わせや食べ合わせを工夫することで、鉄の吸収率を改善することが可能です。
非ヘム鉄が多く含まれる食品にはレンズ豆、小豆、枝豆などの豆類や、納豆などの大豆加工品、小松菜やほうれん草などの野菜、ひじきなどの海藻類などがあります。体内に吸収されにくい非ヘム鉄も、ブロッコリーや大根といった野菜や果物などに多く含まれるビタミンC、クエン酸、たんぱく質などと一緒に摂れば吸収率が上がります。例えば、酢を使った小松菜のスープや、豚肉とひじきを一緒に煮るなど、調理で組み合わせるのも良い食べ方です。ひじきについては、鉄鍋で煮ることで鉄分が豊富となるものの、ステンレス鍋では、0.3mg(100g当たり)と1/9になってしまうことがわかっています。鉄鍋を活用しましょう。他にも、牛乳などに含まれるたんぱく質であるカゼインがすい臓で分泌されて生じる「CPP(カゼインホスホペプチド)」と一緒に摂取すると、鉄分の吸収を促進させることができます。逆に、コーヒーや紅茶、煎茶などに含まれるタンニンや、玄米などに含まれるフィチン酸、芋類やゴボウ、キノコ類など非水溶性の食物繊維などを一緒に摂ると、吸収率が下がる可能性があるされていますが、通常の食事に含まれる程度の量であり、過剰摂取でなければ気にする必要はないとされています。また、あさり(缶詰水煮:可食部100g当たり30.0mg)、しじみ(水煮:可食部100g当たり15.0mg)などの貝類は、ヘム鉄と非ヘム鉄が両方含まれた鉄分の多い食品です。1食分の量で考えると、植物性食品から摂取できる鉄の量は意外に多いと感じるのではないでしょうか。葉物野菜はゆでたり炒めたりしてカサを減らせますので、調理方法でとり入れやすくなると思います。
ただし、ビタミンCは熱や光に弱い性質があり、調理中に失われやすい点に注意が必要です。電子レンジを活用して加熱時間を短縮したり、サラダなど生で食べられる野菜を積極的に取り入れたりするなど、調理方法を工夫することで、より効率的にビタミンCを摂取できます。
胃酸の分泌促進
鉄分の吸収を促進するには、胃酸の適切な分泌が重要です。食事の際、食べ物が胃に到達すると胃酸が分泌され、消化をサポートします。胃酸の分泌を促すための重要なポイントは二つあります。一つは、食べ物を丁寧に時間をかけてよく噛むこと。もう一つは、レモンやグレープフルーツなどの柑橘類、お酢、梅干しといった酸味のある食品を摂取することです。日々の食事において、意識して咀嚼回数を増やし、柑橘系の果物を積極的に取り入れてみましょう。
鉄を多く含む食品の種類
鉄分の吸収を効率的に行う食生活のヒントをお伝えしましたが、具体的にどんな食品にどれくらいの鉄分が含まれているのか知りたい方もいることでしょう。ここでは、鉄分を豊富に含む食品をご紹介します。
ヘム鉄を多く含む食品
ヘム鉄を効率的に摂取するには、食品選びが重要です。レバー(豚、鶏、牛)をはじめ、牛肉の赤身(特にモモ肉)、カツオやマグロといった赤身魚、そして赤貝などが、ヘム鉄を豊富に含んでいます。魚の血合いもヘム鉄の宝庫ですが、メチル水銀の含有量も考慮する必要があるため、妊娠を考えている女性は摂取を控えた方が良いでしょう。ヘム鉄は、非ヘム鉄に比べて吸収率が非常に高く、約2~3倍以上も効率的に吸収されます。また、他の食品との組み合わせを気にする必要がないのも利点です。食事から積極的に摂取したい栄養素ですが、これらの食品を毎日継続して摂るのは難しいと感じる方もいるかもしれません。例えば、ヘム鉄の代表的な食品であるレバーが苦手な方も少なくありませんし、好物だとしても毎日食べるのは現実的ではないでしょう。ですから、赤身の肉や魚介類なども献立に取り入れ、バランス良くヘム鉄を摂取することを心がけましょう。
非ヘム鉄を多く含む食品
鉄分が豊富な食品として、レンズ豆、小豆、枝豆といった豆類、納豆などの大豆製品、小松菜やほうれん草などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻類が挙げられます。これらの食品に含まれるのは非ヘム鉄ですが、ビタミンCやクエン酸、たんぱく質と一緒に摂取することで、吸収率を高めることが可能です。例えば、小松菜スープに酢を加えたり、ひじきと豚肉を煮物にするなどの工夫が効果的です。ひじきを調理する際は、鉄鍋を使用すると鉄分含有量が大幅に増加しますが、ステンレス鍋では鉄分量が1/9に減少するという報告もあります。また、牛乳由来のカゼインホスホペプチド(CPP)も鉄分の吸収を助ける効果が期待できます。一方で、コーヒーや紅茶に含まれるタンニン、玄米に含まれるフィチン酸、食物繊維などは鉄分の吸収を阻害する可能性がありますが、通常の食事量であれば過度に気にする必要はないでしょう。あさりやしじみなどの貝類は、ヘム鉄と非ヘム鉄の両方を含むため、効率的な鉄分補給に役立ちます。植物性食品でも工夫次第で十分な鉄分を摂取できるため、日々の食生活に取り入れてみましょう。葉物野菜は、茹でたり炒めたりして量を減らすことで、より食べやすくなります。
鉄分補給をサポートする食品と調理器具
日々の食事から鉄分を十分に摂取するのは難しいもの。そんな時、鉄鍋が強い味方になります。いつもの調理器具を鉄鍋に変えるだけで、効率的に鉄分を補給できます。酢を利かせた酸辣湯や、トマト煮込みなど酸味の強い料理は、鉄の溶出を促し、より効果的です。鉄鍋に抵抗がある場合は、鉄製の調理補助アイテムも便利です。栄養は食事から摂るのが理想ですが、多忙な毎日では難しいこともあります。夏場の食欲不振や、偏った食事になりがちな時こそ、鉄分入りサプリメントを賢く利用しましょう。ただし、サプリメントでの過剰摂取には注意が必要です。厚生労働省が定める耐容上限量を参考に、食事からの摂取量も考慮しながら、適切な量を摂取するように心がけましょう。
まとめ
鉄分は多様な食品に含まれていますが、その種類によっては吸収されにくい場合があります。効果的な吸収を促す工夫を取り入れることが大切です。鉄分不足は、年齢に関わらず不調の原因となり得るため、食事に加えてサプリメントや調理器具なども活用し、積極的に摂取しましょう。特に忙しい時は食事が偏りがちになるため、栄養補助食品も選択肢に入れることを検討してみてはいかがでしょうか。