芳醇な香りととろけるような食感が魅力的なラ・フランス。しかし、この美味しい洋梨が、世界の中でほとんど日本でのみ商業栽培されているという事実は、あまり知られていません。かつてヨーロッパ各地で栽培されていたラ・フランスが、なぜ日本でのみ生き残り、愛され続けているのでしょうか?その背景には、数奇な運命と深い歴史が隠されています。この記事では、ラ・フランスが歩んできた約100年の軌跡を解き明かし、原産地フランスでの絶滅寸前の状況から、日本での栽培成功の理由、そして山形県が生産量日本一を誇る理由、多様な品種の紹介、最適な食べ頃の見分け方まで、その知られざる真相を徹底的に解説します。この記事を通して、ラ・フランスの奥深い世界と、その魅力を存分に楽しむための知識を深めていきましょう。
ラ・フランスの謎:なぜ日本でだけ愛されるのか
「洋梨の女王」とも呼ばれるラ・フランスですが、その華やかなイメージとは対照的に、世界で唯一、商業的な栽培に成功しているのは日本だけです。一体なぜ、ラ・フランスはその生まれ故郷であるフランスを含む海外で姿を消し、遠く離れた日本でのみ特別な存在として愛され続けているのでしょうか?その裏には、ラ・フランスの繊細な性質と、日本の気候風土、そして関係者の絶え間ない努力が深く関係しています。
原産地フランスでの誕生と消滅の経緯
ラ・フランスは、1864年にクロード・ブランシュという人物によってフランスで偶然発見されました。その格別な美味しさと上品な風味から、「我が国を代表するにふさわしい果物だ」と称賛され、「フランスの宝」を意味する「ラ・フランス」と名付けられたと言われています。しかし、その誕生秘話とは裏腹に、ラ・フランスは非常に繊細な性質を持っていました。他の洋梨に比べて、実がなってから収穫するまでの期間が約1ヶ月と長く、その間に長雨や強風などの悪天候、さらには病害にも弱いという特徴があったのです。原産地であるフランスの気候や自然環境は、これらの厳しい栽培条件を満たせなかったため、安定した収穫が非常に困難でした。結果として、フランスでのラ・フランスの商業的な栽培は徐々に衰退し、20世紀初頭にはほとんど行われなくなったと考えられています。まさに、祖国フランスでは「絶滅危惧種」とも言える状況に陥っていたのです。
絶滅寸前からの日本への伝来と苦難の歴史
フランスでラ・フランスが絶滅の危機に瀕していた1903年(明治36年)、偶然にもその苗木は海を渡り、遠く離れた日本へと持ち込まれました。当時、日本では明治時代初期の1875年頃から西洋梨の導入が本格化しており、ラ・フランスもその流れで伝わったとされています。しかし、当時の日本では、昔から親しまれてきた和梨の栽培方法や食習慣が深く根付いており、西洋梨の栽培には多くの困難がありました。特に、ラ・フランスを含む西洋梨の多くは、収穫後に一定期間置いて熟成させる「追熟」が必要であり、その最適なタイミングを見極めることは容易ではありませんでした。さらに、ラ・フランスの独特な外観、つまりゴツゴツとした不揃いな形が、当時の美意識に合わず、山形県では「みだぐなす(見栄えが悪い、不恰好)」という方言で呼ばれ、食用として避けられる傾向にありました。このような状況から、当初は西洋梨全般、そしてラ・フランスの普及はなかなか進みませんでした。
しかし、状況は好転します。1909年(明治42年)頃から、西洋梨の一種である「バートレット」の缶詰生産が日本で盛んになり始めました。このバートレットは、加熱しても形が崩れにくい特性から加工品として広く利用されましたが、受粉樹が必要でした。ここでラ・フランスがバートレットの受粉樹として非常に適していることが分かり、バートレット畑の片隅で細々と栽培され続けることで、その命脈を繋ぐことになったのです。この初期の役割がなければ、ラ・フランスは日本でも姿を消していたかもしれません。その後、ラ・フランスが日本の家庭で広く食されるようになったのは、苗が日本に渡ってからおよそ100年後の昭和60年代(1980年代後半)のことです。昭和40年代(1960年代後半)から始まった、生の果物をそのまま味わう「生食」文化の広がりが、ラ・フランスの滑らかな舌触りと豊かな香りに注目を集めました。こうして、かつては「みだぐなす」と呼ばれたラ・フランスは、日本の食卓に欠かせない秋の味覚として、揺るぎない地位を築いていったのです。
日本での成功を紐解く:気候、技術、情熱の結晶
ラ・フランスが日本、特に山形県で目覚ましい成功を収めた背景には、複雑に絡み合った要因が存在します。まず特筆すべきは、ラ・フランスの育成に理想的な日本の地理的・気象条件です。中でも山形県は、周囲を山々に囲まれた盆地という独特な地形を有しており、昼夜の気温差が大きいことで知られています。この寒暖差こそが、ラ・フランスをはじめとする西洋梨を大きく、そして甘く成熟させる上で重要な役割を担っています。さらに、盆地の地形は梅雨時期の降水量を抑制し、台風の強風を山々が遮るため、雨風に弱いラ・フランスにとって自然の障壁として機能します。冬に降り積もる雪が春にゆっくりと融け出し、清らかな水となって土壌を潤すことも、山形県でラ・フランス栽培が発展した要因の一つです。水はけの良い肥沃な土壌と適切な湿度は、ラ・フランスの生育を支える上で不可欠であり、山形県の豊かな自然環境が、高品質なラ・フランスの安定生産を可能にしていると言えるでしょう。西洋梨は冷涼で降水量の少ない土地での栽培に適しており、山形県内陸部の環境が合致したため、100年以上も前から栽培が続けられています。
次に、日本の農家が長年の経験で培ってきた高度な栽培技術と、絶え間ない研究努力が、成功の大きな原動力となっています。ラ・フランスは栽培が容易な品種ではなく、その特性を熟知し、最高の品質で育成するには、熟練の技術と深い知識が求められます。昭和時代以降、ラ・フランスの栽培に関する研究は飛躍的に進歩し、栽培に適した気候条件や、複雑な追熟のメカニズムが科学的に解明されました。その結果、これまで困難であった安定供給が可能となり、生産量も増加しました。山形県とJA(農業協同組合)が密接に連携し、その年の気候やラ・フランスの糖度を綿密に調査した上で、最適な収穫時期を示す「収穫解禁日」を定めることが、品質維持に大きく貢献しています。この制度によって、ラ・フランスが最高の状態で収穫・出荷されることが保証され、常に高品質な果実を消費者に届けようとする生産者の熱意が伝わってきます。
そして、消費者にラ・フランスの価値を伝え、新たな市場を創造するための情熱と、地道な努力も忘れてはなりません。かつて、特大サイズのラ・フランスは、『味が大味なのでは?』という先入観から、市場では『規格外』として扱われ、消費者の手に取られることは稀でした。しかし、その農家の方々は『この大玉こそ美味しいラ・フランスだと知ってほしい』という強い信念を持ち続け、地元の販売店や生産者たちの努力により試行錯誤を繰り返しました。その結果、生産者の愛情と、規格外とされたラ・フランスの潜在的な美味しさを信じる努力が実を結び、「大玉ラ・フランス」は多くの人々に愛される人気商品となったのです。このように、恵まれた自然環境に加え、明治時代から受け継がれてきた農家の熟練した技術、品種改良や追熟技術の研究、そして市場開拓への情熱が、山形県をラ・フランス栽培の聖地へと押し上げ、世界に誇る高品質なラ・フランスの安定供給を支えているのです。
ラ・フランスの国内生産No.1!山形県が誇る栽培の歴史と実績
日本は世界で唯一、ラ・フランスの商業栽培に成功している国ですが、中でも山形県はその生産量において他を圧倒し、日本のラ・フランス栽培を牽引しています。山形県は、まさにラ・フランスの一大産地としての地位を確立していると言えるでしょう。農林水産省が発表した令和4年度の「西洋梨の都道府県別収穫量」調査によると、山形県は全国の西洋梨収穫量の約7割を占め、2位以下を大きく引き離してトップの座に君臨しています。特に、山形県内の西洋梨栽培面積の約65%がラ・フランスで占められており、まさにラ・フランス栽培の中心地となっています。この圧倒的な実績は、山形県がラ・フランス栽培に最適な地理的・気候的条件を備え、長年にわたる高度な栽培技術を培ってきたことの証左と言えるでしょう。
山形県が洋梨栽培の中心地である理由
山形県がこれほどまでにラ・フランス栽培で成功を収め、生産量日本一を誇る背景には、豊かな自然環境と、品質を維持するための独自の取り組みがあります。山形県は盆地の地形のため、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴です。この温度差が、ラ・フランスの果実を大きく、そして糖度が高く甘いものに育てる上で重要な役割を果たします。また、山形盆地は周囲を山々に囲まれているため、外部からの気象の影響を緩和する自然のバリアとして機能します。具体的には、梅雨時期の降水量が比較的少なく、台風の強風も山々が遮るため、雨や風に弱いラ・フランスにとって理想的な環境が保たれています。さらに、冬に降り積もった雪が春にゆっくりと融け出し、清らかな水となって土壌を潤すことも、山形県でラ・フランス栽培が発展した理由の一つです。水はけの良い土壌と適切な湿度は、ラ・フランスの繊細な生育を支える重要な要素であり、山形県の豊かな自然環境が、高品質なラ・フランスの安定生産を可能にしていると言えるでしょう。このような盆地特有の気候は、寒冷で降水量が少ない地域を好む洋梨の栽培に適しており、100年以上前から洋梨栽培が盛んに行われてきました。
さらに、山形県ではラ・フランスの生産量と品質を安定させるため、シーズンごとに最適な収穫時期を示す「収穫解禁日」を定めています。この解禁日は、山形県とJA(農業協同組合)が密接に連携し、その年の気候やラ・フランスの糖度などを詳細に調査した上で決定されます。これにより、最高の品質でラ・フランスが収穫・出荷されることが保証されているのです。解禁日は通常、10月上旬から中旬に設定されますが、例えば令和5年度は、例年よりも遅い10月27日(金)に決定されました。収穫直後のラ・フランスはまだ熟しておらず、冷蔵庫での追熟やエチレン処理が必要となるため、収穫から処置が完了し、最も美味しい状態で市場に出荷されるまでの期間を考慮して、この販売基準日が決められています。このように、最適なタイミングを見極めることで、常に最高のラ・フランスを消費者に届けようとする生産者の努力がうかがえます。山形県では、この収穫解禁日制度に加え、ラ・フランスの消費拡大とブランド力強化に向けた様々な取り組みを県全体で推進しています。高品質なラ・フランスの安定生産はもちろんのこと、国内外でのPR活動にも力を入れ、山形県産ラ・フランスの価値を広く発信し続けています。
日本で育つラ・フランス以外の洋梨:品種ごとの個性を探る
日本国内では、およそ20種類もの洋梨が栽培されていると言われています。「洋梨といえばラ・フランス」というイメージが強いのは、国内の洋梨栽培面積の実に56.8%をラ・フランスが占めているためです。(出典: 農林水産省特産果樹生産動態等調査) しかし、日本にはラ・フランス以外にも、独自の風味や食感、歴史を持つ個性豊かな洋梨が数多く存在します。ここでは、ラ・フランスの圧倒的な存在感を改めて認識しつつ、それに次いで国内で広く栽培されている主要な品種を中心に、日本の洋梨の多様性と、それぞれの奥深い魅力について詳しくご紹介します。
西洋梨の女王「ラ・フランス」の魅力と日本のシェア
「ラ・フランス」は、1864年にフランスで生まれた品種であり、日本で栽培されている西洋梨の中で非常に高いシェアを占めています。国内の栽培面積の半分以上がラ・フランスで、まさに「洋梨の女王」と呼ぶにふさわしい人気を誇ります。外見は果皮がややゴツゴツとしていますが、その見た目からは想像できないほどの美味しさが特徴です。果肉は非常に滑らかでとろけるような食感であり、濃厚な甘さと気品あふれる香りが楽しめます。追熟することで甘さと香りが一層際立ち、完熟した果肉はまるでデザートのように贅沢な味わいです。特に山形県が最大の産地であり、全国シェアの7割近くを占めています。旬は10月から11月頃で、お歳暮や贈答品としても大変人気があります。生で食べるのはもちろん、タルトやコンポート、ジャムなど、様々な加工品としても利用され、日本の西洋梨文化を代表する存在となっています。
ル・レクチェ(国内シェア約8.5%)
新潟県を中心に栽培されている「ル・レクチェ」も、ラ・フランスと同様にフランス原産の西洋梨です。明治時代に日本へ伝わりましたが、栽培が難しかったため、長い間地元での消費にとどまっていました。しかし、近年、栽培技術が向上したことで生産量が増加し、スーパーなどでも見かける機会が増えています。ラ・フランスよりもやや大きく、熟すと果皮が黄緑色から美しい黄色へと変化し、豊かな香りが特徴です。市場に出回るル・レクチェの8割以上が新潟県産であり、その上品な味わいととろけるような甘さで多くの人々を魅了しています。ラ・フランスとの食べ比べセットも人気で、贈り物としても喜ばれることが多いです。
バートレット(国内シェア約5.2%)
イギリス生まれの「バートレット」は、国内の栽培面積では第3位ですが、世界的に見ると最も広く栽培されている西洋梨の一つです。甘さは控えめで、程よい酸味が特徴です。また、果肉が比較的硬めなので、加熱調理をしても形が崩れにくいという利点があります。そのため、缶詰やジュースなどの加工品によく用いられています。日本では、北海道や青森県で栽培が盛んです。かつては日本の西洋梨生産の中心的な存在であり、ラ・フランスの受粉樹としても重要な役割を果たしていました。独特の風味が、加工品を通して多くの人に親しまれています。
オーロラ(国内シェア約3.3%)
「オーロラ」は、マルゲリット・マリーラとバートレットを交配させてアメリカのニューヨークで生まれた品種です。1980年代に日本に導入されて以来、濃厚な甘さと、しっとりとした滑らかな食感で人気を集めています。9月上旬頃に旬を迎える早生品種であることも魅力の一つです。国内では山形県が生産量でトップであり、全国シェアの6割以上を占めています。果皮の色が緑色から鮮やかな黄色に変わるため、初めて西洋梨を食べる人でも食べ頃を判断しやすいのが特徴です。収穫後すぐに味わえる早生種として、秋の訪れを感じさせる果物として親しまれています。
ゼネラル・レクラーク(国内シェア2.6%)
1950年代にフランスで発見されたゼネラル・レクラークは、その大きさが特徴です。一般的な洋梨が250g程度であるのに対し、この品種は400~600gにもなります。果汁をたっぷりと含んでおり、ジューシーで食べ応えのある食感が楽しめます。日本には1977年に青森県に導入され、現在では青森県が生産量日本一を誇りますが、山形県も主要な産地です。甘さと酸味のバランスがとれており、その奥深い風味は洋梨愛好家にとって特別な存在と言えるでしょう。
マルゲリット・マリーラ(国内シェア2.6%)
フランス原産のマルゲリット・マリーラは、1913年にベルギーから日本に導入された品種で、大きめの果実が特徴です。その名前は発見者に由来し、マリゲット・マリラとも呼ばれます。オーロラの親品種としても知られ、9月から10月にかけて旬を迎える、シーズン初期を代表する品種です。国内の栽培面積の約半分を山形県が占めており、果汁が豊富で、とろけるような食感が魅力です。比較的早い時期に洋梨の風味を味わえるため、秋の訪れを感じさせる味覚として親しまれています。
メロウリッチ(国内シェア1.7%)
洋梨というとヨーロッパを思い浮かべるかもしれませんが、メロウリッチは日本で生まれた珍しい品種です。山形県で誕生し、2009年に品種登録されたばかりで、主に山形県でのみ栽培されているため、他の地域では入手困難な希少な西洋梨と言えます。メロウリッチの最大の特徴は、その際立った甘さです。洋梨の中でもトップクラスの糖度を誇り、16~17度にも達します。ラ・フランスの糖度が12~13度程度であることからも、メロウリッチの甘さが際立っていることがわかります。日本国内、特に山形県でのみ栽培されている特別な西洋梨として、その希少性と極上の甘さが多くの人々を魅了しています。
シルバーベル(国内シェア1.6%)
シルバーベルも、メロウリッチと同様に山形県で生まれた西洋梨です。ラ・フランスの枝変わり、つまり突然変異によってラ・フランス畑から偶然発見されました。ラ・フランスと比較すると、その大きさは際立っており、1個がラ・フランスの約2倍になることもあります。見た目の大きさに反して、味わいは繊細で、甘みと酸味の調和がとれています。洋梨のシーズン終盤、クリスマスシーズンに楽しめる洋梨として山形県内で人気が高く、その存在感と上品な風味で多くの洋梨ファンを魅了しています。
レッドバートレット(国内シェア約1%)
「レッドバートレット」は、アメリカ・ワシントン州で生まれた、バートレットの突然変異種です。大きさ、形、そして果肉の質は、通常のバートレットとほぼ変わりませんが、一番の特徴は、何と言ってもその目を引く果皮の色です。名前の通り、果皮全体が鮮やかな赤色に染まり、その美しい見た目は人々を魅了します。栽培面積が限られているため、市場に出回る量は比較的少なめです。日本では秋田県が主な産地であり、国内生産量の多くを占めています。その希少価値から、贈答品としても人気があります。
バラード(国内シェア約1%)
1999年に品種登録された「バラード」は、バートレットとラ・フランスをかけ合わせた、山形県生まれの洋梨です。現在、日本国内で栽培されている西洋梨の中でも、トップクラスの糖度を誇り、その数値は16~18度にもなります。酸味が穏やかで、果汁が非常に多いため、より一層甘さが引き立つ濃厚な味わいが特徴です。「バラード」という名前は、その親品種であるバートレットの「バ」とラ・フランスの「ラ」を組み合わせて付けられました。食べ頃になると皮の色が黄色っぽく変化するため、最適なタイミングを見極めやすく、贈り物にも喜ばれます。その格別な甘さは、きっと洋梨の新たな魅力を発見させてくれるでしょう。
ご紹介した洋梨以外にも、日本国内では「ドワイエネ・デュ・コミス(国内栽培面積第15位・国内シェア0.2%程度)」や「カリフォルニア(同第17位・国内シェア0.1%程度)」などがわずかに栽培されています。また、市場にはあまり出回らない「ゴールドラ・フランス」のような、非常に珍しい洋梨も存在します。様々な品種が栽培されている一方で、ラ・フランスを除くと、どの品種も国内シェアは低く、生産量が少ない希少な品種であることがわかります。
ラ・フランスを最高に美味しく味わう:食べ頃の見分け方
洋梨、特にラ・フランスのように収穫後に熟成が必要な品種は、いつが一番美味しい状態なのか判断が難しいと感じる方もいるかもしれません。収穫直後のラ・フランスはまだ熟しておらず、常温で追熟させる必要があります。しかし、ラ・フランスは完熟しても見た目に大きな変化がないため、見極めには少しコツが必要です。いくつかのポイントを知っておけば、とろけるような最高の状態のラ・フランスを味わうことができます。長年、青果に携わってきた経験から申し上げますと、食べ頃を見極める上で特に重要なのは、「軸の周りの状態」、「全体の柔らかさ」、そして「香り」です。
軸の付け根のしわ
食べ頃を見極める最初のポイントは、ラ・フランスの軸の付け根にシワが寄っているかどうかを確認することです。これは果実から少しずつ水分が抜け、熟成が進んでいるサインです。完熟に近づくと、皮にシワができ、全体的に少し柔らかい感触になってきます。この状態は、内部の果肉が柔らかく、甘みと香りが凝縮されている証拠です。
果肉の柔らかさをチェック
完熟のサインとして、ラ・フランスの皮をそっと押してみてください。わずかに指の跡が残るくらいの柔らかさが目安です。特に、軸の周りとお尻の部分を優しく触って、柔らかく感じられる場合は、食べ頃が近い証拠です。指で軽く触れた際に、弾力がありつつも少しだけ凹むような感触であれば、最高の状態と言えるでしょう。この柔らかさが、ラ・フランスならではの、とろけるような食感を生み出す鍵となります。
香りや色の変化も参考に
ラ・フランスは、熟成が進むにつれて香りが強くなる傾向がありますが、品種によっては香りの変化が分かりにくい場合があります。そのため、香りで判断するのは難しいこともあります。ただし、購入時よりも甘く豊かな香りが強くなっていれば、完熟している可能性が高いでしょう。また、色の変化も目安の一つですが、これも品種によって異なります。「オーロラ」は緑色から鮮やかな黄色に変わりますが、「ゼネラル・レクラーク」や「バラード」、「ドワイエネ・デュ・コミス」、「カリフォルニア」などは、緑色から黄緑色へと変化します。これらの品種は「さび」と呼ばれる茶色い斑点が出やすいため、色だけで判断するのは難しいかもしれません。特に「ゼネラル・レクラーク」はさびが多いことで知られています。したがって、軸の付け根の状態や果肉の柔らかさなど、触感によるサインを重視することが、美味しいラ・フランスを選ぶための重要なポイントです。山形県は、日本における洋梨の主要な産地であり、全国の生産量の約7割を占めています。これらの情報を参考に、ご家庭で最高のラ・フランスを味わってみてください。
世界に広がる日本のラ・フランス
ラ・フランスは、栽培が難しく、市場への流通にも細心の注意が必要な果物です。しかし、生産者の絶え間ない努力と情熱によって、日本のフルーツ市場で確固たる地位を築き、近年では海外でもその品質と独特の風味が評価され、注目を集めています。特に台湾、香港、シンガポールなどアジア地域への輸出が盛んで、その人気はますます高まっています。洋梨の女王とも呼ばれるラ・フランスは、なめらかな舌触りと、口の中に広がる豊かな果汁が特徴です。その優雅で上品な香りは、日本人の繊細な味覚に響き、忘れられない印象を与えます。ラ・フランスは、皮むきの手間や追熟が必要なため、手軽さという点では他の果物に劣るかもしれません。しかし、そうした手間をかけることで得られる、とろけるような食感と奥深い味わいが、日本のフルーツ市場、そして世界市場で高く評価される理由となっています。
さらに、ラ・フランスの原産国であるフランスで、20世紀初頭に栽培が途絶えてしまったラ・フランスの苗木を、日本が贈呈するという素晴らしいプロジェクトが行われています。明治時代に日本に伝わり、その後フランスでは姿を消してしまったラ・フランスですが、日本の高度な栽培技術によって育てられた苗木が、再び原産地であるフランスで実を結ぶ可能性を秘めています。これは、日本が長年にわたり培ってきた栽培技術と、ラ・フランスへの深い愛情が、国際貢献へと繋がった象徴的な事例であり、ラ・フランスの歴史に新たな一章が刻まれることを意味します。このように、日本のラ・フランスは、高品質な果実として国内外で愛されるだけでなく、国際的な交流の架け橋としても重要な役割を果たしています。
まとめ
「バターペア」とも呼ばれるラ・フランスは、19世紀中頃にフランスで発見され、「フランスの宝」と称えられました。しかし、他の洋梨に比べて栽培期間が長く、長雨や強風、病害に弱いなど、栽培が非常に難しいため、原産国のフランスでは20世紀初頭にはほとんど栽培されなくなりました。現在、商業的な栽培に成功し、世界で最も多く生産しているのは日本、特に山形県です。ラ・フランスは日本国内で栽培されている洋梨の総栽培面積の過半数を占める、最も重要な品種となっています。
その独特ななめらかな舌触り、芳醇な香り、上品な甘さは、手間をかけても味わいたい唯一無二の魅力として、多くの人々を魅了し続けています。近年では、日本産の高品質なラ・フランスが台湾や香港、シンガポールなどアジア地域に輸出されるだけでなく、そのルーツであるフランスに苗木を寄贈する国際的なプロジェクトも進められており、ラ・フランスが再び故郷で実を結ぶ日が来るかもしれません。日本国内では、ラ・フランスの他にも「ル・レクチェ」「バートレット」「オーロラ」「ゼネラル・レクラーク」「メロウリッチ」「シルバーベル」など、約20種類の多様な洋梨が栽培されており、それぞれが異なる特徴と魅力を持っています。洋梨を最高の状態で味わうためには、軸の付け根の様子や果肉の柔らかさから食べ頃を見極めることが重要です。このように、数々の困難を乗り越え、生産者のたゆまぬ努力と情熱によって守り育てられてきたラ・フランス、そして多様な洋梨の品種たちは、まさに日本の宝として世界へ羽ばたこうとしています。
ラ・フランスはどこで生まれたの?
ラ・フランスは、その名の通りフランスが原産国です。1864年、フランスの地でクロード・ブランシュ氏によって偶然発見されました。その風味の豊かさから、「フランスの宝」を意味する「ラ・フランス」という名が与えられました。
フランスでラ・フランスの栽培が減ったのはなぜ?
ラ・フランスは非常に繊細な性質を持つ果物で、長雨や強風といった気象条件の変化に弱く、病害虫の影響も受けやすいという特徴があります。さらに、他の洋梨と比べて成熟期間が長く、栽培には高度な技術が求められます。原産地であるフランスの気候条件が、これらの栽培の難しさを克服できなかったため、20世紀初頭には商業的な栽培が衰退し、ほとんど見られなくなったと考えられています。
日本、特に山形県でラ・フランス栽培が成功した理由
ラ・フランスの栽培において、日本、中でも山形県が目覚ましい成功を収めている背景には、他に例を見ないほど適した自然環境が深く関わっています。盆地特有の一日の寒暖差が大きい気候が、ラ・フランスの甘みと果実の大きさを最大限に引き出す一方で、周囲を囲む山々が、梅雨時期の過剰な降雨や台風の強風からデリケートな果実を守ります。加えて、雪解け水がもたらす栄養豊富な土壌も、ラ・フランスの生育を支える重要な要素です。また、明治時代から受け継がれてきた日本の農家の卓越した栽培技術と、品種改良や追熟方法に関する絶え間ない研究が、高品質なラ・フランスの安定供給を可能にしました。加えて、日本における生食文化の浸透や、市場開拓に向けた努力も、ラ・フランスの普及に大きく貢献しました。
「ラ・フランス」と「洋梨」の違い
「洋梨」とは、ヨーロッパを原産とするバラ科ナシ属の果物の総称であり、世界には約4000もの多様な品種が存在するとされています。一方、「ラ・フランス」は、数ある洋梨の品種の中の一つであり、特に日本国内で広く栽培されている特定の品種を指す名称です。つまり、ラ・フランスは洋梨という大きな分類の中に含まれる、より具体的な品種名であると言えます。
日本で栽培されているその他の洋梨の種類は?
国内ではラ・フランス以外にも、様々な洋梨が栽培されています。例えば、特産地として知られる新潟県産の「ル・レクチェ」、世界中で栽培され、加工品にも利用される「バートレット」、山形県で多く栽培されている「オーロラ」、果汁が豊富で大玉の「ゼネラル・レクラーク」などがあります。また、日本で生まれた品種として、非常に甘い「メロウリッチ」や「バラード」、「シルバーベル」なども栽培されています。
ラ・フランスの「収穫解禁日」とはどのようなものですか?
収穫解禁日は、山形県とJAが共同で、その年の気候やラ・フランスの糖度などを詳細に分析した上で決定されます。これは、最高の状態のラ・フランスを収穫し、消費者に届けるための特別な日です。この制度により、常に品質の高いラ・フランスが提供されています。収穫後には追熟期間が必要となるため、その期間も考慮して解禁日が決定されます。
西洋梨の美味しい食べ頃を見分ける方法は?
美味しい西洋梨を選ぶには、いくつかのポイントがあります。まず、「軸の周りのしわ」を確認しましょう。これは熟成のサインです。次に、「果肉全体の柔らかさ」を確かめます。果皮を軽く押してみて、少しへこむくらいの柔らかさがあれば、食べ頃です。特に軸の近くやお尻の部分が柔らかいかを確認しましょう。最後に、香りが強くなっていることも、完熟のサインです。品種によっては色の変化も参考になりますが、ラ・フランスは見た目の変化が少ないため、触感と香りを重視しましょう。
日本のラ・フランスは海外でも人気ですか?
はい、近年の傾向として、日本のラ・フランスは海外で非常に良い評判を得ており、特に台湾、香港、シンガポールといったアジア圏への輸出が活発です。興味深いことに、ラ・フランス発祥の地であるフランスへ、日本から苗木が寄贈されるといった国際的なやり取りも行われており、日本の高品質なラ・フランスが世界に向けて広がろうとしています。

