甘美な果肉と爽やかな香りが特徴のびわは、初夏の味覚として親しまれています。その一方で、名前の由来や栽培方法、歴史、安全性など、意外と知られていない一面も持ち合わせています。この記事では、日本各地のびわの産地をはじめ、おいしいびわを育てるための条件、興味深い歴史、食用や薬用としての利用法、種に含まれる成分に関する安全性まで、びわに関するあらゆる情報を網羅的に解説します。この記事を通して、びわの魅力を深く理解し、より安心しておいしく味わうためのヒントを見つけていただければ幸いです。
びわとは?特徴、名前の由来、分類について
びわは、中国原産のバラ科ビワ属に属する常緑高木、およびその実を指します。名前は、果実の形が楽器の琵琶に似ていることに由来し、中国語でも「枇杷」(pípá)と書きます。別名「蘆橘」(lú jú)とも呼ばれ、英語名の「loquat」はこれに由来します。葉は濃い緑色で大きく、表面はつやつやとしていますが、裏面には産毛があります。初夏には、葉陰に一口サイズの甘い実をたくさんつけ、熟すと黄橙色になります。日本には古くに伝わり、主に太平洋側の関東・東海地方沿岸部、日本海側の石川県以西、四国、九州北部に自生しています。環境省のレッドリストでは「準絶滅危惧」に指定されています。びわの皮は薄いため、剥いて食べるのが一般的ですが、皮ごと食べることもでき、栄養豊富であると言われています。
びわの学名と分類に関する最新情報
これまでびわの学名としては「Eriobotrya japonica」(1821年発表)が広く用いられてきましたが、2020年に植物研究所の研究者らがゲノム分析などを行った結果、シャリンバイ属(Rhaphiolepis)がビワ属を含む単系統群であることが判明しました。形態的・地理的要素も考慮し、両属を統合するべきとの提唱がなされ、結果として、より早く発表されたシャリンバイ属が優先されることとなり、ビワ属の種はシャリンバイ属へ移行しました。研究チームの劉彬彬氏とJ. Wen氏が命名を担当し、ビワは既存のRhaphiolepis japonicaが既に別種に使用されていたため、英語名「loquat」にちなんだ「Rhaphiolepis loquata B.B.Liu & J.Wen」と命名されました。しかし、論文内で基幹異名として1790年の「Crataegus bibas」も挙げていたにも関わらず、種小名「bibas」が使用されなかったという問題がありました。この問題は、発表から3ヶ月後、米国国立自然史博物館のR. L. H. D. D. van der Meijden氏とC. Kalkman氏が「Rhaphiolepis bibas」を発表したことで解決されました。一方で、その後の研究では異なる分子系統解析の結果も出ており、ビワ属とシャリンバイ属を統合すべきではないという見解も存在し、分類については議論が続いています。
国内のびわ主要産地と生産量、旬の時期
びわは温暖な気候を好むため、日本では特に温暖な地域で栽培が盛んです。農林水産省の令和3年データによると、生産量1位は長崎県(876t)、2位は千葉県(444t)、3位は鹿児島県(229t)となっています。これらの地域は、びわの生育に適した「温暖な気候」「水はけの良い土壌」「豊富な栄養」という条件を満たしています。びわの旬は産地や栽培方法によって異なりますが、一般的には3月から6月頃に出荷が始まり、5月から6月が最盛期です。ハウス栽培のものは2月末頃から出回ることもありますが、露地栽培のものは5月頃から出荷のピークを迎えるため、びわは初夏の訪れを告げる果物と言えるでしょう。
長崎県:日本有数のびわ産地とその歴史的背景
長崎県は、日本におけるびわ生産量の約4割を占めるトップクラスの産地であり、長崎県を代表する特産品の一つです。長崎県で栽培されるびわの大きな特徴は、年間を通じて比較的温暖な気候であり、気温の変動が少ないことです。この温暖な気候がびわの生育に理想的な条件をもたらし、全国でも有数の生産量を誇る理由となっています。長崎県では基本的に露地栽培が行われていますが、寒さ対策としてハウス栽培も積極的に導入されています。長崎びわには、「茂木」や「長崎早生」など、様々な品種が存在し、これらをまとめて「長崎びわ」と呼んでいます。歴史を紐解くと、日本でのびわ栽培は江戸時代末期、およそ170年前の天保・弘化の頃に、長崎で奉公していた女性、三浦シオが長崎出島から唐びわの種を持ち帰り、故郷(現在の長崎市北浦町)に蒔いたことが始まりとされています。このびわが後に「茂木種」となり、長崎県でびわ栽培が広がるきっかけとなりました。長崎県産のびわは、ハウス栽培のものが2月から4月頃、露地栽培のものが5月から6月頃に旬を迎えます。
千葉県:首都圏に近いびわの名産地「房州びわ」
千葉県はびわの生産量で全国第2位であり、特に南房総地域を中心にびわの栽培が盛んです。首都圏からのアクセスが良いことから、多くの観光客が訪れる果樹園が多く、びわ狩りなどの体験も人気があります。千葉県で栽培されているびわの特徴は、サイズが大きく、みずみずしいことで知られる「房州びわ」というブランドです。主な品種としては、「大房」「富房」「瑞穂」「田中」などがあります。千葉県産のびわは、ハウス栽培のものが4月下旬から5月下旬頃、露地栽培のものが5月下旬から6月下旬頃に旬を迎えます。房州びわは、その優れた品質から贈答品としても高い人気を誇っています。
鹿児島県・香川県:温暖な気候が育む美味しいびわ
鹿児島県はびわの生産量で全国3位に位置しており、その特徴は温暖な気候と豊かな土壌です。これらの恵まれた環境が、甘みと酸味のバランスが取れた美味しいびわを育てています。鹿児島県産のびわは、びわの生育に適した気象条件が整っているため、質の高い実が収穫できます。香川県もびわの主要な産地のひとつで、びわの旬は5月から6月にかけての約1ヶ月間と比較的短いことが特徴です。香川県はびわの他にも、キウイフルーツやシャインマスカットなど、様々な種類の果物の栽培が盛んな地域として知られています。
美味しいびわが育つための栽培条件と環境
美味しいびわを栽培するためには、特定の環境条件と丁寧な栽培技術が欠かせません。びわは寒さに弱い性質を持つため、冬の気温が温暖で、冷気がこもりにくい南向きの斜面など、限られた地域での露地栽培が適しています。急激な気温の低下は収穫量に大きく影響するため、温暖で気温が安定し、大きな変動がない環境が理想的です。近年では、このような寒さによる被害から実を守るため、ハウス栽培も積極的に導入され、安定した生産に貢献しています。
太陽の恵みを最大限に活かす
びわの生育において、日光は非常に重要な役割を果たします。十分な太陽光を浴びることで、びわの木は健全に成長し、甘くて風味豊かな実を結実させます。そのため、日当たりの良い場所での栽培が不可欠です。もし周囲の樹木や障害物によって日陰ができる場合は、枝打ちなどを行い、びわの木全体に均等に太陽光が当たるように調整することが大切です。十分な日照は、果実の色付きや糖度を高める上で重要な要素となります。
最適な土壌と水管理
美味しいびわを栽培するためには、適切な水やりが不可欠です。太陽光を十分に浴びる栽培環境では、土壌の乾燥が早まる傾向にあるため、丁寧な水やりが重要になります。ただし、同時に水はけの良い土壌であることも大切です。排水性が低い土壌では、水分が過剰に滞留し、根腐れを引き起こす可能性があります。根が傷むと、びわの木全体の生育が停滞し、良質な実を収穫することが難しくなります。そのため、水やり後は土壌の乾燥具合をこまめに確認し、過湿状態にならないように注意深く管理することが重要です。特に砂壌土は、びわの栽培に適しているとされています。
繊細な栽培技術:摘果と袋掛け
びわは、晩秋から冬にかけて(11月~2月頃)開花するという珍しい特徴を持っています。開花期間が長く、豊富な蜜と甘い香りで昆虫や鳥を誘い、受粉を促します。しかし、びわの果実は非常にデリケートで傷つきやすい性質があります。そのため、春先(3月下旬~4月上旬頃)には、一つ一つの果実に丁寧に袋をかけ、収穫まで大切に育てます。この袋掛けは、病害虫や鳥獣による被害を防ぎ、果実の品質を均一に保つために行われます。また、びわは多くの花を咲かせ、受粉率も高いため、摘蕾や摘房を行わないと、実が過剰に付きすぎて、一つ一つの果実が小さくなってしまいます。食用として大きく甘い果実を育てるためには、摘果という作業が欠かせません。これは、まだ小さいうちに余分な実を摘み取ることで、残された実に栄養を集中させ、大きく糖度の高いびわを育てるための重要な工程です。この摘果作業によって収穫量は制限されるため、びわが高価な果物として扱われる理由の一つとなっています。
びわ栽培のポイント:年間管理の秘訣
びわの栽培は、その繊細な性質と結実までの期間の長さから、きめ細やかな管理が求められます。しかし、適切な知識と手入れを行うことで、家庭の庭木としても、また美味しい果実を収穫する楽しみも得られます。びわは比較的日陰にも耐える性質を持っていますが、良質な果実を収穫するためには、日当たりの良い温暖な場所が最適です。土壌は水はけの良い砂壌土が適しており、根は深く広がるため、十分なスペースを確保することが重要です。
庭木としての魅力と植栽・剪定の適期
びわは常緑樹であり、一年を通して緑豊かな葉を楽しむことができるため、庭の景観樹としても人気があります。生垣としてプライバシーを守ったり、工夫次第でエキゾチックな雰囲気を演出することも可能です。ただし、果実を目的として栽培する場合は、実がなるまでに7~8年かかることを考慮する必要があります。びわは一本でも実をつける性質があるため、異なる品種を一緒に植える必要はありません。増やし方としては、種から育てる実生や接ぎ木が一般的ですが、挿し木も可能です。植え付けに適した時期は、3月下旬、6月~7月上旬、9月中旬~10月中旬で、新しい苗木を植えるのは比較的容易ですが、大きく育ったびわの木を別の場所に移すのは難しいとされています。剪定は3月下旬から4月、および9月に行うことで、樹の形を整え、風通しを良くし、果実の品質を高める効果が期待できます。
露地栽培における年間作業と病害虫対策
露地でびわを栽培する場合、一年を通して行うべき作業がいくつか存在します。10月頃、花のつぼみができ始めたら、花や蕾の数を調整する「摘房・摘蕾」を行います。これは、すべての花を咲かせようとすると養分が分散し、果実一つひとつが小さくなってしまうのを防ぐためです。開花時期は11月から2月頃で、この間に受粉が行われます。そして、実が大きくなり始める3月下旬から4月上旬にかけて、さらに「摘果」を行い、実の数を絞り込みます。摘果と並行して、果実を保護する「袋かけ」も行います。袋かけは、びわの実に直射日光が当たるのを防ぎ、病害虫や鳥からの被害を防ぐだけでなく、美しい色合いを引き出し、きめ細やかな果実を育てるために重要な作業です。びわはモモチョッキリなどの害虫による被害を受けやすいため、適切な病害虫対策も必要となります。
寒さ対策と生産量の変動
びわは寒さに弱い性質があり、特に幼い果実が低温にさらされると枯れてしまうことがあるため、栽培に適した地域は限られています。主に、九州、四国、淡路島、和歌山、房総半島などで栽培が盛んです。しかし、近年は地球温暖化や異常気象の影響で、温暖な地域でも予想外の寒波に見舞われることがあります。このような寒波はびわの収穫量に大きな影響を与え、2012年や2016年には全国的に不作となるなど、収穫量が大きく変動するリスクがあります。生産者は、ハウス栽培の導入や防寒対策を講じるなど、様々な工夫を凝らして安定的な生産を目指しています。
びわの多様な利用方法:食用、薬用、木材としての価値
びわは、甘くて美味しい果実として親しまれているだけでなく、葉や種、木材も様々な用途に活用されてきました。古くから私たちの生活に深く関わり、多くの恵みを与えてきたびわの、様々な側面から見た価値について詳しくご紹介します。
食用としてのびわ
びわが最も美味しい時期は、一般的に5月から6月にかけてと言われています。この時期に出回るびわは格別です。新鮮で美味しいびわを見分けるには、まず果皮をチェックしましょう。ハリがあり、表面に細かな産毛と白いブルームが付いているものが新鮮な証拠です。果肉は美しい橙黄色で、果汁が豊富。糖度は12~13度程度で、すっきりとした上品な甘さが楽しめます。そのまま生で食べるのが一番ですが、缶詰やジャム、シロップ漬け、ゼリーといった加工品、さらにはお菓子や果実酒など、様々な用途で利用されています。
びわの皮の剥き方、可食部について、保存方法
びわの皮は比較的薄く、ちょっとしたコツで綺麗に剥けます。そのコツとは、びわのお尻の部分に浅く十字の切り込みを入れること。この切り込みから、やさしく皮を剥いていきましょう。果実の中には比較的大きな種が入っているので、先に半分に割って種を取り除くのがおすすめです。びわは種が大きい分、可食部が少ないと思われがちで、廃棄率が30%を超えると言われることもあります。しかし、実際に生で食べる際の可食率は65%~70%程度と、桃とほぼ同程度なのです。「食べられる部分が少ない」という声に応え、「種なしびわ」も開発されています。びわは鮮度が非常に重要で、メロンやバナナのように収穫後に甘くなる、いわゆる追熟はしません。購入後はなるべく早く食べるようにしましょう。保存方法としては、常温で風通しの良い場所が適しています。冷蔵庫に長く入れてしまうと果肉が硬くなることがあるので、冷やして食べたい場合は、食べる2~3時間前に冷蔵庫に入れるのがおすすめです。カットしたびわを保存する場合は、水に浸しておくと変色を防ぐことができます。
びわの果実酒と栄養成分
びわの果実酒は、びわとホワイトリカーだけでも作ることができます。ただし、びわは酸味が少ないため、風味を豊かにするためには、皮を剥いた輪切りの梅を加えて漬け込むのがおすすめです。また、果肉を使わず、びわの種子のみを漬け込んだ「びわ種酒」は、杏仁のような独特の香りが特徴で、愛好家の間で人気があります。びわの果肉には、体内でビタミンAに変換されるβ-クリプトキサンチンや、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸といった栄養成分が豊富に含まれています。
薬用としてのびわ:歴史と現代の知見
びわは古くからその薬効が認められ、「大薬王樹」とも呼ばれてきました。葉は「枇杷葉(びわよう)」、種子は「枇杷核(びわかく)」として、咳止めや様々な症状に対する民間療法に用いられてきました。
漢方・民間療法としての利用
ビワの葉は、古くからその薬効が注目され、民間療法に取り入れられてきました。タンニンによる収れん作用や、サポニンによる鎮咳作用などが期待され、乾燥させてビワ茶として飲用されたり、生の葉を患部に直接貼るなどの方法で利用されてきました。中でも、ビワの葉の上にお灸を据える温圧療法は、アミグダリンの鎮痛効果によって神経痛の緩和に役立つとされてきました。ビワ葉は、一般的に9月上旬頃に採取され、丁寧に裏側の毛をブラシで取り除き、天日で乾燥させて作られます。乾燥させたビワ葉5〜20グラムを約600ミリリットルの水で煮出し、その煮汁を1日に3回に分けてお茶のように飲むことで、咳や胃の不調、喉の渇き、嘔吐、下痢などの症状を和らげると言われてきました。また、あせもや湿疹に対しては、ビワ葉の煎じ汁を冷まして患部を洗ったり、お風呂に入れるなどの利用法も伝えられています。江戸時代には、夏の暑気あたりを防ぐための「枇杷葉湯」が親しまれ、葉に含まれるアミグダリンが分解される際に生じる青酸による清涼感も、人気の理由の一つだったようです。果実自体も、胃腸の不調や喉の渇きを癒す効果があると考えられ、ビワ酒は食欲増進や疲労回復に良いとされてきました。種子に関しては、5個程度を砕いて400ミリリットルの水で煎じて服用することで、咳や吐血、鼻血に効果があるとされていましたが、後に詳しく述べるように、その毒性には十分な注意が必要です。
医学的知見と安全性に関する重要な注意喚起
ビワの種子に含まれるアミグダリンは、かつて「ビタミンB17」と呼ばれ、サプリメントに配合され、「がんに効く」などと宣伝されることもありました。しかし、信頼性の高い研究によって、アミグダリンががんの治療や改善、延命に対して効果がないことが示され、むしろ青酸中毒を引き起こす危険性があることが指摘されています。アミグダリンは人体に必須の栄養素ではないため、現在ではビタミンB17としての主張は否定されています。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、アミグダリンを含む製品を「癌治療に全く効果を示さない、極めて毒性の高い製品であり、適切な医療を拒否したり、治療開始を遅らせたりすることで命を危険にさらす」と警告し、アメリカ国内での販売を禁止しています。日本国内でビワの薬効を期待して利用する場合は、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談し、自己判断での摂取は避けることが重要です。特に、ビワの種子、樹皮、葉は、医薬品医療機器等法(薬機法)における「医薬品」に該当する可能性があり、医薬品としての効果効能を謳うことはできません。ただし、「明らか食品」(医薬品に該当しないと明確に認識されている食品)であれば薬機法に抵触しませんが、「癌が治る」「血糖値が下がる」「血液を浄化する」といった誇大な効果効能を表示した場合(店頭での口頭説明も含む)、景品表示法や健康増進法による規制の対象となります。現在、ビワを主成分とした医薬品は存在しませんが、ビワ葉のエキスを機能性関与成分としたビワ葉入り茶は、消費者庁に機能性表示食品として届けられています。これは、国が審査を行う制度ではなく、事業者が自らの責任において機能性を表示するものです。
びわの種子に含まれるアミグダリンの毒性と摂取リスク
ビワ、アンズ、ウメ、モモ、スモモなどの植物の種子の中にある仁には、アミグダリンというシアン化合物配糖体が豊富に含まれています。これは種子を保護するための自然な防御機構であり、未熟な果実や葉、樹皮にも微量ながら存在します。アミグダリン自体は無毒ですが、摂取すると、植物自体に含まれる酵素や、人間の腸内細菌が持つ酵素によって分解され、猛毒のシアン化水素(青酸)を生成します。ごく微量の青酸であれば体内で安全に分解・排出されますが、一定量を超えると、嘔吐、顔面紅潮、下痢、頭痛などの中毒症状を引き起こし、大量に摂取した場合には意識障害や昏睡状態に陥り、最悪の場合には死に至る可能性があります。シアン化水素の最小致死量は体重1kgあたり50mgとされており、過去にはアミグダリン摂取による死亡例も報告されています(3グラムのサプリメント摂取による例)。
熟した果肉と加工品の安全性、および種子の高濃度リスク
幸いなことに、成熟したビワの果肉や、適切に加工されたビワ製品を通常の量で摂取する限り、安全に食べることができます。果実が熟すにつれて、植物内の酵素の働きによりアミグダリンは分解され、ベンズアルデヒド(アーモンドや杏仁、ビワ酒などに共通する香り成分)、ブドウ糖、そして青酸へと変化し、最終的には揮散や分解によって青酸も消失します。さらに、加熱などの加工処理もアミグダリンの分解を促進します。しかしながら、種子に含まれるアミグダリンの濃度は果肉に比べて非常に高く、成熟や加工による分解も果肉ほど速やかではありません。種子がアミグダリンを持つのは、自身を保護するための防御機能と考えられており、外部からの衝撃を受けて傷ついた種子には、1000から2000ppmという高濃度のアミグダリンが含まれている場合もあります。生の種子を粉末にした健康食品の中には、小さじ1杯程度の摂取量で、安全に摂取できる青酸の量を大幅に超えるものも存在するため、非常に危険です。2017年には、高濃度のアミグダリンを含むビワの種子の粉末が発見されたことを受け、厚生労働省は、天然にシアン化合物を含有する食品および加工品について、10ppmを超えたものを薬機法第6条違反とすることを通知しました。欧州食品安全機関(EFSA)は、青酸の急性参照用量(ARfD:毎日摂取しても健康に悪影響を示さない量)を体重1kgあたり20マイクログラムと定めており、この量を超える摂取は推奨されていません。2018年には、ビワの葉と種子を原材料とした4種類の健康茶について青酸濃度が測定され、種子を原材料とした3種類から、1パックあたり160から660ppmのアミグダリンが検出されました。これらの商品を規定の方法で浸出した場合、青酸濃度は1.7から7.3ppmとなり、健康に悪影響を及ぼす量ではありませんでしたが、飲用量や抽出方法によっては10ppmを超える可能性があるとされました。この結果を受け、厚生労働省は事業者に対して品質管理の徹底を、行政機関に対して指導の徹底を要請しています。また、消費者に対しては、ビワの種子などを原材料とした健康食品を利用する際には、その必要性を慎重に検討し、利用する場合には、製造業者等が原材料や製品、摂取する状態での青酸濃度を調査しているかを確認し、一度に大量に摂取しないよう注意を促しています。さらに、厚生労働省は、ビワやアンズなどの種子を利用したレシピの掲載についても注意喚起を行っています。家庭で生のビワやアンズの仁から杏仁豆腐を作る場合、調理実験の結果、数分程度の煮込みではシアン化物が完全に除去されないことが判明しています。場合によっては、1〜2食分の杏仁豆腐でシアン化物の急性参照用量(ARfD)を超える可能性があるため、家庭での生の種子を使った調理は避けるべきです。
木材としてのびわ
びわの木は、乾燥させると非常に堅牢になり、同時にしなやかさを兼ね備えるという特徴があります。そのため、古くから武術で使用する木刀の材料として珍重されてきました。現代においても、その薬効にあやかり、乾燥させて丁寧に磨き上げたものが、縁起物として「長寿杖」と呼ばれ、贈り物としても利用されています。激しい衝撃にも耐えうるその強靭さから、伝統武道や剣術の鍛錬に用いられる高品質な杖や木刀の材料として、現在も高く評価されています。
まとめ
びわは、中国を原産とするバラ科の植物で、楽器の琵琶に形が似た果実を実らせます。日本国内における主な産地は、長崎県、千葉県、鹿児島県などで、温暖な気候、十分な日照時間、そして水捌けの良い土壌が、美味しいびわを育てるための重要な要素です。特に長崎県は、江戸時代から続く「茂木びわ」発祥の地として知られ、日本一の生産量を誇っています。びわの収穫時期は初夏であり、ハウス栽培されたものは2月頃から、露地栽培のものは5月から6月にかけてが最も美味しい時期です。大ぶりで甘い果実を育てるためには、摘果や袋掛けといった細やかな作業が欠かせず、手間暇を惜しまない栽培方法が、びわが「高級フルーツ」として扱われる理由の一つとなっています。 一般的には生で食べることが多いですが、缶詰やジャム、果実酒など、様々な加工食品としても楽しまれています。果肉には、β-クリプトキサンチンやクロロゲン酸といった栄養成分が豊富に含まれています。また、びわの葉は「枇杷葉」、種子は「枇杷種子」として、古くから漢方薬や民間療法に用いられてきました。しかし、びわの種子にはアミグダリンというシアン化合物が含まれており、摂取すると体内で有害なシアン化水素を生成する可能性があります。そのため、生のまま食べたり、不適切な方法で加工されたものを摂取したりすることには、十分な注意が必要です。厚生労働省や各国の食品安全機関は、びわの種子を原料とする健康食品や、家庭での利用について、その安全性に関して注意喚起を行っています。びわは、夏の風物詩として文学作品にも登場し、「三年で芽が出て八年で実り、枇杷は十三年」という栽培に関する格言や、「温和」という花言葉を持つなど、日本の文化に深く根ざしています。びわがもたらす恵みと、その背景にある注意すべき側面を理解することで、私たちはこの魅力的な果物をより安全に、そして深く味わうことができるでしょう。
質問:びわの主な産地はどこですか?
回答:日本におけるびわの主要産地は、農林水産省が発表した令和3年のデータによると、長崎県(876トン)、千葉県(444トン)、鹿児島県(229トン)となっています。これらの地域は、温暖な気候、水はけのよい土壌、そして豊富な日照時間という、びわの栽培に最適な条件を備えています。また、香川県もびわの重要な産地のひとつとして知られています。
質問:びわの旬はいつですか?
回答:びわの旬は、栽培地域や栽培方法によって多少異なりますが、一般的には3月頃から市場に出回り始め、5月から6月にかけてが最も美味しい時期とされています。ハウス栽培のびわは2月下旬頃から、露地栽培のびわは5月頃から本格的に収穫が始まり、初夏の訪れを告げる果物として親しまれています。
質問:びわ栽培に最適な環境とは?
回答:美味しく実ったびわを育てるために重要な条件は、大きく分けて3つあります。一つ目は、十分に日光が当たること。二つ目は、水はけの良い土壌であること。そして三つ目は、年間を通して温暖で、急激な温度変化が少ないことです。びわは特に寒さに弱い性質を持つため、冬場の気候が安定している地域での栽培が適しています。また、寒さによる被害を防ぐ目的で、ハウス栽培も広く行われています。

