「マリトッツォ」は、ふんわりとしたブリオッシュ生地にたっぷりの生クリームを挟み込んだ、イタリア・ローマが誇る伝統的なデザートパンです。その心惹かれる見た目と、誰もが親しめる味わいから、2021年には日本で大きな話題を呼び、一大ブームとなりました。本記事では、マリトッツォが持つ長い歴史、そのロマンチックな名前の物語、地域ごとに異なる多様なバリエーション、そして美味しさを支えるシンプルながらも伝統的な素材と製法について詳しく掘り下げます。また、一般的なクリームパンとの違いや、ご自宅で手軽に作れるレシピもご紹介。マリトッツォの奥深い世界を一緒に巡り、そのすべての魅力を解き明かしましょう。
マリトッツォとは?ローマ生まれの伝統的なお菓子とその特徴
マリトッツォは、イタリアの首都ローマを含むラツィオ州が発祥とされる伝統的な甘いパンです。イタリア語では「Maritozzo」(複数形はMarittozzi)と記され、バターと卵を贅沢に使った柔らかいブリオッシュ生地を二つに切り、その間に溢れんばかりの生クリームを挟み込んだ、世界中で愛される贅沢なドルチェとして知られています。その印象的なビジュアルは、一度見たら忘れられないほどの魅力を放っています。
この菓子の起源は、実は古代ローマ時代まで遡ると言われています。当時のマリトッツォは、現代の軽やかなものとは異なり、小麦粉、卵、蜂蜜、バター、塩を混ぜ合わせた、より重厚感のあるパンの一種でした。時を経てその形は変化し、現代では、軽い食感のブリオッシュ生地に、爽やかなアクセントとなるオレンジピールが練り込まれたり、繊細な香りをまとわせた生クリームがたっぷりと挟み込まれるスタイルが主流です。生地にはシンプルなものに加え、オレンジピールやレーズンといったドライフルーツ、さらには松の実などのナッツが混ぜ込まれることもあります。クリーム自体にもこれらの具材を加えるなど、様々なアレンジが存在します。
見た目からはクリームの量に圧倒され、「食べ切れるだろうか?」と心配になるかもしれませんが、マリトッツォのブリオッシュ生地は驚くほど軽やかで、多くの店舗では生クリームも甘さ控えめに工夫されているか、独自の製法で軽やかに仕上げられているため、意外にもあっさりと楽しめます。この絶妙なバランスこそが、多くの人々を惹きつけ続ける理由です。
「マリトッツォ」という名称に秘められたロマンティックな物語
「マリトッツォ」という名前の由来には諸説ありますが、イタリア語で「夫」を意味する「Marito(マリート)」の愛称から来ているという説が最も有力であり、心温まるロマンティックな物語が伝えられています。かつて、男性が婚約者や恋人にこのお菓子を贈る習慣があり、その際、お菓子を受け取った女性たちは、贈り主である愛する男性を親しみを込めて「マリトッツォ」と呼んでいたと言われています。まるで甘い愛の告白の象徴として、このパンが使われていたのですね。
さらに、古代ローマ時代には、このパンの中に指輪や小さな宝石を隠し、プロポーズの際に使われたという、何とも素敵なエピソードも残されています。現代のサプライズプロポーズのような演出が、はるか昔から行われていたと考えると、マリトッツォが持つ歴史の深さと、そこに込められた人々の愛情の温かさを感じずにはいられません。このようなロマンチックな背景を知ることで、マリトッツォを味わう喜びは一層特別なものになるでしょう。
マリトッツォの豊かな歴史とその文化的発展
マリトッツォのルーツは、古代ローマ帝国時代にまで遡ります。発祥の地は、イタリアの首都ローマを中心とするラツィオ州とされており、当初は蜂蜜で甘みをつけたパンにレーズンなどのドライフルーツを加えて食されていました。この菓子は、単なる甘味としてだけでなく、人々の日常生活や文化と深く結びつきながら発展を遂げてきたのです。
古代ローマ時代のマリトッツォ:愛の告白と断食期間の食べ物
古代ローマ時代にまで遡ると、[イタリア お菓子]の一つであるマリトッツォは、単なる食べ物以上の意味合いを持っていました。当時のマリトッツォは現在のものよりもかなり大きく、ずっしりとしたパンで、愛の告白の象徴として使われることもあったと伝えられています。しばしば、その甘い生地の中に指輪や小さな宝石が忍ばされ、意中の相手に贈られました。これは、現代のプロポーズにも通じる、心温まるロマンティックな風習として語り継がれています。
さらに、キリスト教の慣習である「クアレージマ」(四旬節)の期間、つまり復活祭前の40日間の断食期間中には、マリトッツォは広く食卓に並びました。この期間は肉食が禁じられ、食事が制限されるため、甘みがあり、少量の栄養も摂れるマリトッツォは、庶民にとっての貴重なご褒美であり、厳しい期間を乗り越えるための活力源となりました。この素朴ながらも人々に愛された[イタリア お菓子]は、やがてイタリア全土へとその存在を広めていきました。
現代への進化:伝統を受け継ぎながら変化するマリトッツォ
マリトッツォは、その長い歴史の中で古代の伝統を受け継ぎつつも、現代の食文化や味覚に合わせてその姿を変化させてきました。元々はドライフルーツなどを混ぜ込んだ甘いパンが主流でしたが、時が経つにつれて、ふんわりとしたパンにたっぷりのフレッシュな生[クリーム]を挟む現在のスタイルが誕生しました。この進化の過程で、挟む[クリーム]の種類も多様化し、イタリアの食文化の豊かな変遷を物語っています。
現在のイタリアでは、マリトッツォは朝食の定番として深く根付いており、淹れたてのカプチーノやエスプレッソと共に楽しむ光景が日常的です。特に朝のカフェでは、コーヒーの香りと共に、この甘い[イタリア お菓子]を味わう人々で賑わいます。マリトッツォの歴史や背景を知ることで、単に美味しいスイーツとしてだけでなく、イタリアの奥深い文化と伝統を感じられる特別な体験となるでしょう。
なぜ日本でマリトッツォがブームになったの?その魅力と背景
この魅力的な[イタリア お菓子]であるマリトッツォが、なぜ日本でこれほどまでに大きなブームを巻き起こし、多くの人々を魅了したのでしょうか。その背景には、いくつかの複合的な要因が存在します。
SNS映えするかわいらしい見た目と拡散力
マリトッツォが日本で人気を集めた最大の理由の一つは、その抗いがたいほどかわいらしいビジュアルにあります。丸みを帯びたふわふわのパンに、まるで白い雲のように惜しみなく詰め込まれた生[クリーム]は、見る者を惹きつけ、瞬時に心を奪います。このフォトジェニックな見た目は、特にInstagramなどのSNSで瞬く間に拡散され、「映えるスイーツ」としてブームの火付け役となりました。多くのユーザーがその美しい写真を共有することで、マリトッツォの魅力は視覚的に広がり、現代のSNS主導のトレンド形成における強力な原動力となりました。
日本の食文化との親和性と新たな展開
マリトッツォが日本で一大ブームを巻き起こした理由の一つに、日本人の食に対する深い理解と受容性があったことが挙げられます。日本では長らく菓子パンが日常に溶け込んでおり、クリームパンやメロンパンといった、パンと甘いクリームを組み合わせたお菓子が世代を超えて愛されています。この背景から、マリトッツォも日本人にとって違和感なく受け入れられ、瞬く間に生活の一部として定着しました。このイタリア生まれのクリーム菓子は、日本の食卓に新たな彩りをもたらしたのです。
ブームの火付け役としては、福岡のベーカリー「アマムダコタン」の名が挙がることが多いですが、実は大阪の「トルクーヘン」では2014年から提供されていたという先行事例もあります。これらの店舗からソーシャルメディアを通じて評判が拡散し、全国規模の現象へと発展しました。大手コンビニエンスストアでの展開により、さらに多くの人々がこのイタリアのお菓子を手軽に味わう機会を得ました。一時的な熱狂は落ち着いたかもしれませんが、今なお多くの愛好者に支持され続けています。
日本での人気を受けて、朝食やおやつとしてだけでなく、旬のフルーツを加えたり、チョコレートクリームや和の素材であるあんこを用いたりと、多彩なアレンジが生まれました。抹茶や季節の果物を取り入れるなど、日本の豊かな食材や好みに合わせた独創的なマリトッツォが次々と登場し、その多様性が日本の消費者を飽きさせない要因となり、イタリアの伝統菓子が日本の食文化に深く根ざすきっかけとなりました。
マリトッツォと普通のクリームパンとの違いを徹底比較

クリームとパンを組み合わせた食べ物はマリトッツォだけにとどまらず、日本には古くから親しまれている菓子パン「クリームパン」が存在します。ここでは、魅力的なイタリアのお菓子であるローマ発祥の「マリトッツォ」と、日本で育まれた「クリームパン」の主な違いについて、詳細に比較検討してみましょう。
見た目の違い:クリームのプレゼンテーション
両者の最も明白な違いは、その視覚的な表現にあります。マリトッツォは、ふっくらとしたパンに深く切れ込みを入れ、そこからこぼれ落ちるほどの大胆な量の生クリームを挟み込みます。この白いクリームがパンの隙間からたっぷりと顔を出す様子は、そのダイナミックなビジュアルが最大の特徴です。横から見ると、まるで白い雲がパンに優しく抱かれているかのような印象を与え、SNS映えする愛らしい姿をしています。この贅沢なクリームの量が、イタリアのお菓子ならではの魅力を際立たせます。
対照的に、クリームパンは通常、パン生地の中にカスタードクリームが慎重に閉じ込められており、外からはクリームの姿がほとんど見えません。パンの表面に焼き色やクリームの焦げ目がつくことはありますが、マリトッツォのようにクリームが「溢れ出す」ことはありません。このクリームの見せ方の違いは、両者が持つ個性を明確に示しています。
生地の違い:風味と食感のコントラスト
マリトッツォの土台となるのは、バターと卵を贅沢に使ったブリオッシュ風の生地です。この生地は、フランスのブリオッシュに似た豊かさがありますが、イタリアの伝統に則りオレンジピールが練り込まれることも多く、柑橘系の爽やかな香りがアクセントを加えます。リッチなコクと、驚くほどふわふわとした軽い口当たりが特徴で、たっぷりのクリームとの一体感を高めます。まさに、この生地がイタリアのお菓子としての品格を物語っています。
一方、クリームパンは一般的に、バターや卵の配合が控えめな、軽やかでシンプルなパン生地で作られることが多いです。そのため、パン自体の風味は穏やかで、中に詰められたカスタードクリームの甘みや風味を最大限に引き立てる役割を担っています。マリトッツォの生地が持つ豊かな風味と個性は、クリームパンの生地とは一線を画す、イタリアのお菓子ならではの特質と言えるでしょう。
クリームの種類:生クリームとカスタードの選択
マリトッツォのクリームには、一般的に新鮮な生クリームが用いられます。その上品な甘さの中に豊かな風味が感じられ、ブリオッシュ生地との調和は格別です。この生クリームは、乳脂肪分35〜40%前後のものが選ばれる傾向にあり、適量の砂糖と共に、八分立てほどの柔らかさにホイップされます。クリームを硬くしすぎると、パンにサンドした際に期待される「とろける」ような舌触りが損なわれ、口当たりが重くなってしまいます。そのため、口に含んだ瞬間に溶けるような、軽快さの中にも深みのある理想的な泡立て加減を見極めることが、マリトッツォの真髄と言えるでしょう。
一方、日本の一般的なクリームパンでは、多くの場合、カスタードクリームが主役となります。卵黄、砂糖、牛乳、小麦粉などを煮詰めて作られるカスタードは、その濃厚さと際立つ甘さが魅力です。近年では、マリトッツォのクリームにも抹茶やチョコレート、ピスタチオといった素材を練り込んだ多様なフレーバーが登場し、旬のフルーツを用いた季節限定のアレンジも注目を集めています。それでも、カスタードクリームを用いたマリトッツォは稀であり、このクリーム選びこそが両者を明確に区別する点となっています。
職人技が光るマリトッツォの造形美
マリトッツォの心を捉えるその愛らしい姿の裏側には、熟練の職人が持つ高度な技術が息づいています。単にクリームを挟み込むだけでは再現できません。クリームの最適な硬さ、パンへの切り込みの深さ、そして盛り付けるクリームの分量。これら全ての要素が緻密に計算されているからこそ、あの唯一無二の美しいフォルムが完成するのです。惜しみなくクリームを使いながらも、それを芸術的に盛り付ける手腕は、まさに熟練の職人だからこそ成せる技と言えます。「あふれ出す」と「崩れ落ちる」の微妙な境界線を的確に見極める繊細な感覚こそが、マリトッツォの魅力をさらに際立たせています。
イタリア各地に広がる個性豊かなマリトッツォの種類
イタリアの各地域には独自の食文化と伝統が根付いているため、マリトッツォもまた、実に多様なバリエーションを展開しています。それぞれの地方の気候風土や人々の好みを色濃く反映した、個性豊かなマリトッツォの世界をご案内します。
本家ローマの「マリトッツォ・ロマーノ」
まずご紹介するのは、マリトッツォが誕生したローマとその周辺で長年愛されている「マリトッツォ・ロマーノ」、すなわちローマ風マリトッツォです。これは、私たちがマリトッツォと聞いて真っ先に思い浮かべる、最も伝統的で基本的なスタイルと言えるでしょう。丸みを帯びたパニーノ(パン)に似た形状が特徴的です。ふんわりとしたブリオッシュ生地には、甘さを抑えた生クリームが惜しみなくサンドされ、多くの場合、生地自体にオレンジピールが練り込まれており、その爽やかな香りが上品なアクセントを添えています。
マルケ地方の「マリトッツォ・マルキジャーノ」
イタリア中部、アドリア海に面したマルケ地方には、「マリトッツォ・マルキジャーノ」と呼ばれる地域独自のスタイルが存在します。このパン菓子は、両端が細く尖った特徴的な細長フォルムをしており、まるでパニーノのような外見が目を引きます。同じマリトッツォという名前でありながらも、その形状一つで大きく表情を変える様は実におもしろいものです。その土地の風土が、この焼き菓子の姿にも色濃く反映されていると言えるでしょう。
南イタリアの伝統:「マリトッツォ・プリエーゼ・エ・シチリアーノ」
イタリア南部、プーリア州とシチリア州では、「マリトッツォ・プリエーゼ・エ・シチリアーノ」という、一層個性的な姿のマリトッツォに出会えます。こちらは、三つ編みに編み込まれたパンの表面にたっぷりの砂糖をまぶしたスタイルが特徴です。牛乳とバターを贅沢に用い、ローマ(ラツィオ州)のそれよりも一層しっとりとして、リッチなブリオッシュに近い風味を持っています。松の実やレーズンといったドライフルーツなど余計なものを加えないシンプルな配合が、パン生地そのものの素朴で奥深い味わいを際立たせています。南イタリアの陽気で飾らない魅力を凝縮した、心温まるデザートです。
進化系マリトッツォ:「マリトッツォ・サラート」(塩味)
現代のイタリアでは、伝統的な食文化を守りつつも、革新的な試みも生まれています。その代表例の一つが「マリトッツォ・サラート」(塩味のマリトッツォ)です。これは、従来の甘いクリームたっぷりなマリトッツォとは一線を画し、砂糖の配合を控えめにすることで、様々な塩味の具材と組み合わせることを可能にした、まさに進化を遂げた一品。プロシュット(生ハム)、チーズ、新鮮な野菜などをサンドすることで、軽食としてだけでなく、ワインのお供にも最適な、新しい楽しみ方を提供しています。伝統を重んじながらも、常に食の新たな可能性を探求するイタリア人の自由な発想が息づいています。
シンプルだからこそ奥深い、マリトッツォを構成する主要な素材
マリトッツォのそのとろけるような美味しさや魅力は、選び抜かれたシンプルな素材から生まれています。核となるのは、芳醇な香りのブリオッシュ生地のパン、ふんわりとろけるような口当たりの生クリーム、そしてかすかな苦味がイタリアらしいアクセントとなるオレンジピールの、わずか3つの要素。これら一つ一つの素材が持つ個性が、マリトッツォならではの独特な風味と絶妙な食感を生み出すのです。
贅沢な口当たりの「ブリオッシュ生地」
イタリアの伝統菓子マリトッツォの土台となるのは、特別に仕立てられたブリオッシュ生地です。強力粉を主成分とし、たっぷりの卵、上質なバター、砂糖、少量の塩、そしてイーストが絶妙なバランスで配合されています。特に、豊富なバターと卵の配合がこの生地に豊かなコクと深い風味を与え、焼き上がりには美しい黄金色に輝きます。この贅沢な材料使いが、驚くほどふんわりとした軽い口当たりと、上品な甘さを生み出します。一口食べれば、口いっぱいに広がる芳醇なバターの香りと、しっとりとしてとろけるような柔らかさが、マリトッツォの魅力を際立たせる基盤となっています。
とろけるような「生クリーム」
マリトッツォの魂とも言えるのが、中央にたっぷりと挟まれたなめらかな生クリームです。イタリアンスイーツの醍醐味であるこのクリームは、乳脂肪分が35〜40%程度の新鮮なものを選ぶことが肝要。少量のグラニュー糖を加え、絶妙な八分立てに泡立てるのが美味しさの秘訣です。硬すぎると口の中で重く感じられ、せっかくのふわふわのパンとの一体感が損なわれてしまいます。そのため、口に含んだ瞬間に溶け出すような軽やかさと、乳製品本来の豊かなコクを両立させる、職人の技が光る泡立て具合が、このお菓子の満足度を決定づけます。
香りのアクセント「オレンジピール」
このイタリア菓子に独特の個性を与えるのが、爽やかなオレンジピールです。細かく刻まれたオレンジの皮は、ブリオッシュ生地に練り込まれたり、あるいは生クリームに混ぜ込まれたりすることで、その存在感を発揮します。柑橘特有の清々しい香りと、ほのかな苦みが絶妙なアクセントとなり、全体のリッチな味わいを引き締めます。このオレンジピールが加わることで、後味が驚くほどさっぱりとし、次に手が伸びる軽やかさを生み出すのです。シンプルな構成の中に秘められた、このような香りの魔法が、マリトッツォを単なるクリームパンではない、洗練されたスイーツへと昇華させています。
近年では、ピスタチオクリームや濃厚なチョコレートクリーム、または旬のフルーツをあしらった様々なアレンジのマリトッツォが登場し、それぞれが人気を博しています。しかし、やはりシンプルながらも奥深い生クリームとオレンジピールの組み合わせこそが、マリトッツォ本来の魅力、すなわち素材が持つ純粋な美味しさを最も直接的に伝えてくれると、多くの美食家たちは評価しています。
伝統と現代が織りなすマリトッツォの製法
このイタリア菓子、マリトッツォの製造過程には、一見素朴ながらも、長年の経験と熟練の技が息づく伝統的な製法が脈々と受け継がれています。この製法こそが、他にはないマリトッツォ独特の風味と、忘れがたい口当たりを生み出す上で、決して欠かすことのできない要素となっているのです。
ブリオッシュ生地の熟成発酵
本場のマリトッツォの美味しさを左右する鍵は、ブリオッシュ生地の熟成発酵にあります。厳選された小麦粉、卵、バターなどを丁寧に練り上げた生地は、一晩じっくりと低温で発酵させます。この熟成期間が、生地に奥深い香りと、他にないふんわりとした口当たりを生み出します。時間を惜しまず待つことで、酵母が最大限にその力を発揮し、生地本来の旨味と魅力を引き出すのです。
焼き上がりのパンへの繊細な切り込み
ふっくらと焼き上がったパンは、粗熱が取れた後、慎重に横方向へ切り込みを入れます。この切り込みの深さ加減こそが、職人の熟練した技と感覚が光る重要な工程です。深すぎればパンの形が崩れ、浅すぎればたっぷりのクリームを美しく挟むことができません。経験豊かな職人は、一つ一つのパンの個性を見極め、最適な深さで切り込みを入れることで、クリームを完璧に抱え込み、見た目も美しく、そして食べやすいマリトッツォを完成させます。
クリームの仕上げと盛り付けの芸術
主役である生クリームは、マリトッツォ本来の美味しさを届けるため、注文が入ってから泡立てるのが最良とされています。作り置きのクリームは、時間の経過とともに水分が分離し、せっかくの滑らかな舌触りが失われてしまうからです。泡立てたばかりのクリームは、パレットナイフなどを使い、惜しみなく、そして丁寧にパンの切り込みへと挟み込まれます。単に量を詰めるだけでなく、クリームをいかに美しく見せるかが、ここで問われる技術です。クリームが「こぼれ落ちる一歩手前の豊かさ」と「計算された愛らしさ」の絶妙なバランスを見極め、視覚的にも魅了するフォルムを作り出すこと。これこそが、マリトッツォ作りにおける職人の真骨頂と言えるでしょう。
お家で楽しむ!簡単マリトッツォレシピ
本場イタリアの味わい、マリトッツォの奥深さに触れたところで、ここからは、ご家庭でも気軽に挑戦できるマリトッツォのレシピをご紹介しましょう。市販のパンを活用した簡単レシピから、生地作りから楽しむ本格的なレシピまで、幅広く取り上げました。ぜひ、お好みのスタイルで、あなただけの絶品マリトッツォ作りにチャレンジしてみてください。
基本のマリトッツォ:ふっくら生地と上品な甘さのクリーム
ふっくらとしたブリオッシュ生地に、口どけの良い上品な甘さの生クリームを惜しみなく挟んだ、定番のマリトッツォです。このレシピでは、市販の丸いパン(ブリオッシュタイプが最適)を利用することで、さらに手軽に本場のイタリアの味を楽しむことができます。クリームだけでも十分な美味しさですが、爽やかな酸味の苺を加えれば、見た目も華やかになり、一層フレッシュな味わいに仕上がります。お好みの季節のフルーツを加えて、あなただけのオリジナルマリトッツォを創造してみましょう。
濃厚な味わい:チョコレートクリームのマリトッツォ
ココア香る豊かなチョコレートクリームを用いたマリトッツォの作り方をご紹介します。今回はミルクチョコレートを使用しましたが、より大人な味わいを求めるなら、ビターチョコレートを選ぶのも良いでしょう。チョコレートが持つ奥深い香りとほろ苦さが、甘美な生クリームとふっくらとしたブリオッシュ生地に完璧に溶け合い、チョコレート愛好家にはたまらない逸品となるはずです。砕いたナッツや上質なココアパウダーをトッピングすることで、さらに贅沢なイタリアのクリーム菓子に仕立てることができます。
和風テイスト:抹茶クリームのマリトッツォ
クリームに香り高い抹茶パウダーを練り込み、独創的な和の趣を持つマリトッツォを試してみませんか。抹茶特有の渋みと、まろやかな生クリーム、そしてブリオッシュ生地の香ばしさが織りなす繊細な調和が堪能できます。抹茶の鮮やかな緑が、純白のクリームの中で際立ち、目にも美しい仕上がりとなります。さらに、つぶあんや風味豊かな黒豆を加えることで、和の要素をより一層深めるアレンジもおすすめです。季節の移ろいに合わせて、様々なフレーバーの探索を楽しむのも良いでしょう。
まとめ
今回は、古都ローマを起源とするイタリアの伝統的なお菓子、マリトッツォについて、その深い歴史から心温まる名前の由来、地域ごとの個性豊かなバリエーション、そして美味しさを支える素材と製法、さらにはご家庭で簡単に再現できるレシピまで、多角的な視点から掘り下げてご紹介しました。
マリトッツォは、古代ローマ時代から人々に愛され、愛の告白の象徴や四旬節の喜びとして、人々の日常に深く根付いてきました。時代を超えてその姿を変えながらも、常に人々に幸福と安らぎをもたらし続けている特別なドルチェです。その柔らかなブリオッシュ生地と、たっぷりの甘い生クリーム、そしてオレンジピールの爽やかな香りが生み出すハーモニーは、一度口にすれば忘れられない至福の味わいです。
日本での一大ブームを経験し、今ではコンビニエンスストアの棚にも並ぶほど身近な存在となったマリトッツォ。次にこの愛らしいイタリアのクリーム菓子を見かける機会があれば、ぜひその背後にある物語や、イタリア各地に息づく多様な姿を思い出してみてください。市販の丸パンなどを活用すれば、ご自宅で手軽に作れるため、普段のおやつとしてはもちろん、特別な日のおもてなしスイーツとしても最適です。古代ローマの恋人たちの想いに馳せながら、現代へと受け継がれたこの素晴らしい伝統菓子を、心ゆくまでご堪能ください。
マリトッツォはどこの国のお菓子ですか?
マリトッツォは、たっぷりの生クリームを挟んだふんわりとしたブリオッシュ生地が特徴のイタリアの伝統的な菓子です。そのルーツは、イタリアの首都ローマを中心とするラツィオ州にあります。
マリトッツォの名前の由来は何ですか?
マリトッツォという愛らしい響きの名前は、イタリア語で「夫」を意味する「Marito(マリート)」の親しい呼び方、あるいは俗称に由来します。かつて若い男性が意中の女性や婚約者へ、このクリームたっぷりの甘いパンを贈り、女性たちは贈ってくれた男性を愛情を込めて「マリトッツォ」と呼んでいたという、心温まるロマンチックな物語が伝わっています。
マリトッツォはなぜ日本で流行したのですか?
日本におけるマリトッツォの大流行は、その愛らしい見た目と、写真映えするたっぷりのクリームがSNSとの相性抜群だったことが大きな要因です。また、菓子パンを日常的に楽しむ日本の食文化に馴染みやすく、受け入れられやすかったことも挙げられます。特に福岡の有名パン店「アマムダコタン」が火付け役となり、瞬く間にSNSを通じて全国的なブームへと発展しました。実は、このブームよりも前の2014年から、大阪の「トルクーヘン」でも既にこのイタリアのクリームパンが提供されていました。

