エリスリトールとラカント
糖類ゼロ・カロリーゼロをうたう甘味料として人気の「ラカント(代表的にはサラヤ株式会社の『ラカントS』)」は、砂糖の置き換えに便利な一方で、「長期的に見て本当に大丈夫?」「最近話題のWHOの勧告や、エリスリトール研究は関係あるの?」と不安になる方もいます。
この記事では、一次情報(WHOのガイドライン、学術論文)に沿って、現時点で分かっていること/分かっていないことを切り分け、日常での現実的な使い方を整理します。
ラカントとは?原材料と“ゼロ表示”の意味
一般に「ラカント」と呼ばれる製品(例:ラカントS)は、主にエリスリトール(糖アルコールの一種)と、羅漢果(らかんか)由来の高甘味成分を組み合わせた甘味料です。砂糖の代わりに料理や飲み物へ使いやすい設計になっています。
エリスリトールは糖アルコール(ポリオール)で、摂取後に体内で大きくエネルギーとして利用されにくい性質が知られています。こうした特性が、製品の「カロリーゼロ」「糖類ゼロ」といった表示の背景になります(表示は製品設計・制度に基づきます)。
羅漢果の特徴とエリスリトールの位置づけ
ラカントの甘さは、エリスリトールの甘味に、羅漢果由来の高甘味成分を組み合わせることで、砂糖に近い甘味設計を目指したものです。エリスリトール自体は糖アルコールに分類され、国際的には食品添加物として評価・規格化されています(例:JECFAの評価、欧州でのE968としての再評価など)。
ラカントSの安全性は?専門機関の評価
エリスリトールについては、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)がADI(一日摂取許容量)を「特定せず(Not specified)」と評価しています。これは、通常の用途・摂取範囲で毒性学的な懸念が低い場合に用いられる整理です。
また、欧州食品安全機関(EFSA)は2023年に食品添加物としてのエリスリトール(E968)について再評価を行っています。
サラヤ株式会社の公式ウェブサイトによると、主原料である羅漢果の高純度エキスとエリスリトールはいずれも天然素材から作られており、厳格な品質管理と安全性試験が実施されているとのことです。
多量摂取で起こりやすいこと:消化器症状(お腹がゆるい等)
糖アルコールは、体質や摂り方によってお腹が張る、ゴロゴロする、便がゆるくなるなどの消化器症状が出ることがあります。これは「毒性」というより、消化吸収・浸透圧の影響など、体の反応として起こり得るものです。
対策としては、初回は少量から、一度にまとめて摂らない、体調が不安定な日は控える、などの現実的な運用が有効です。
【最新動向】WHO勧告とラカント(糖アルコール)の立ち位置
近年、世界保健機関(WHO)は、非糖質甘味料(NSS)の利用に関して極めて重要な勧告を行っています。具体的には、2023年5月の発表で、アセスルファムK、アスパルテーム、スクラロースといったNSSを砂糖の代わりに用いても、長期的には体重のコントロールに寄与しないばかりか、むしろ健康に好ましくない影響をもたらす可能性が示唆されました。
WHOのこの提言によれば、NSSを長期的に摂取することは、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスク、さらには成人における死亡率の上昇と関連している可能性があるとされています。この勧告の対象となるのは、アセスルファムK、アスパルテーム、アドバンテーム、シクラメート、ネオテーム、サッカリン、スクラロースといった広く用いられているNSS全般です。しかし、歯磨き粉やスキンクリーム、医薬品など、NSSを含むパーソナルケア用品や衛生用品には適用されません。さらに、砂糖由来の低カロリー糖類や糖アルコール類(ラカントの主成分であるエリスリトールもこの範疇に含まれます)も、この勧告の適用範囲外と明記されています。
加えて、2023年7月には、WHOの国際がん研究機関(IARC)が、一部のNSSである「アスパルテーム」について、「発がん性の可能性(特に肝臓がん)」が存在すると発表しました。しかし、この見解は現時点では科学界で完全に一致したものではなく、アスパルテームの使用が直ちに禁止されたわけではありません。例えば、体重が70kgの人が1日に12缶を超えるダイエットソフトドリンクを摂取した場合に、発がんリスクが高まる可能性があるといった、具体的な摂取量の目安も提示されています。ラカントの主成分であるエリスリトールは、このアスパルテームとは異なる種類の甘味料であり、WHOの勧告においても糖アルコールとして明確に区別されています。NSS全体に対するこうした警鐘は、甘味料を選ぶ際に、多角的な情報を考慮する重要性を示唆していると言えるでしょう。
エリスリトールに関する最新の研究:心血管イベントリスクへの示唆
「Nature Medicine」誌に発表された研究(Hazen et al., 2023)では、アンターゲットメタボロミクス研究において、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE(主要有害心血管イベント)発生リスクが高く(調整ハザード比[aHR]:2.95、95%信頼区間[CI]:1.70~5.12、p<0.001)、米国および欧州のコホート研究においても、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高いことが示されました(aHR[95%CI]はそれぞれ1.80[1.18~2.77]、2.21[1.20~4.07])。この発見は、エリスリトールと心血管イベントリスクの間に潜在的なつながりがあることを強く示唆しており、特に既往症を持つ高リスクの個人にとって、エリスリトールの摂取が健康に及ぼす影響をより慎重に評価する必要があることを浮き彫りにしています。
ただし、この研究だけで「エリスリトールが心血管イベントを増やす」と断定はできません。観察研究では、元々の健康状態・食習慣などの差(交絡)を完全に取り切れない可能性があります。米FDAの科学者によるレビューでも、重要な示唆である一方で未解決点や注意点が整理されています。
エリスリトールが血液へ及ぼす影響(研究の機序探索)
この研究は、エリスリトールが脳卒中や心臓発作の発生にどのように関与しているかを深く探るため、血液サンプルにエリスリトールを添加した場合の反応を実験的に検証しました。その結果、エリスリトールを加えることで、血液を構成する要素の一つである「血小板」が固まりやすくなる(凝集性が高まる)ことが確認されました。
血小板は、出血時に血液を凝固させ、「止血」という生命維持に不可欠な役割を果たす細胞成分です。しかし、血小板の粘着性(粘り気)が過剰に高まると、血管内で「血栓」、すなわち血液の小さな塊が形成されやすくなります。このような血栓が血管を閉塞させると、脳梗塞や心筋梗塞のような深刻な心血管系疾患を引き起こす危険性があるのです。
ラカントと糖尿病:血糖値への影響と適切な利用法
前述の心血管リスクに関する最新の研究報告がある一方で、血糖値管理という観点ではラカントは依然として有用な選択肢です。「ラカントが糖尿病のリスクを高める可能性がある」という一部の懸念を聞き、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ラカントは体内に摂取されても血糖値やインスリンの分泌にほとんど影響を与えないことが広く知られています。この特長から、血糖値の管理を気にされる方々にとっても、ラカントのような血糖値に影響を与えない甘味料は、甘味を楽しむための有用な選択肢となり得ます。
ただし、甘い味に慣れることで「甘いものを欲しやすい食習慣」が固定される可能性もあるため、ラカントはあくまで砂糖の代用品として位置づけ、食生活全体の栄養バランスを優先することが重要です。
ラカントの上手な取り入れ方
1)使う場面を決める(おすすめの使い分け)
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飲み物:毎回入れるより「今日は砂糖の代わりに少量」など、頻度をコントロール。
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料理:照り・コクが必要な煮物などは、全量置換より“部分置換”が味も安定。
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お菓子:砂糖の役割(保水・焼色など)を踏まえ、レシピ側で置換前提の設計にする。
2)心血管リスクが高い人・腎機能に不安がある人は慎重に
Nature Medicine(2023)は、心血管リスク評価中の患者群を含む集団での関連を報告しています。該当する方(既往やリスク因子が多い方)は、ゼロ甘味料に寄せすぎず、摂取頻度・量を控えめにし、必要なら医療者へ相談するのが安全側です。
よくある質問
ラカントはWHOの勧告の対象ですか?
WHOが2023年に示した勧告は「非糖質甘味料(NSS)」を対象としており、糖アルコール(ポリオール)は対象外と明記されています。エリスリトールは糖アルコールなので、勧告の“直接の対象”ではありません。
心血管リスクが上がるって断定できますか?
Nature Medicine(2023)では関連が示唆され、機序探索も報告されていますが、観察研究の限界もあり、因果を断定する段階ではありません。注意喚起として受け止め、特にリスクが高い方は控えめ運用が無難です。
お腹がゆるくなるのが心配です。
体質差が大きいので、少量から始め、分割して摂るのが基本です。体調が不安定なときは無理に使わないのも大切です。

